上 下
145 / 158
2度目の夏至祭

168

しおりを挟む


涙を流す巫女頭、その周りで許しを乞う巫女達。
一見するととってもカオス。



「巫女達、立ちなさい」

「コーネリア様!お許しください、この子達は」

「レオノーラ、口を閉じていなさい」



さて、お仕置きが必要なのはこの子達。
いかにレオノーラさんを『聖女』にしたくとも、周りに迷惑をかけてまでなる『聖女』に何の価値があるというのか。

巫女達は青ざめた顔をしながら、震える体に鞭打って私の前に並ぶ。虐めてるみたいだなこりゃ・・・



「巫女とは何か」

「えっ?・・・あ、あの、神殿に属し、人々の幸せを祈り、女神にお仕えする者でございます」

「よく理解していますね。ですが、今日貴方達がした事は、巫女の務めとして許される事ですか?」

「えっ、あの」
「何を」

「女神に仕え、人々の幸せを祈る巫女が、人々の幸せに水を差す行為をした。その事に対して悔いる気持ちはありますか?」

「っ!」
「それは、そのっ!」
「レオノーラ様の事を考えると夢中で!」

「貴方達の主はレオノーラですか?

「「「っ!!!」」」



悲鳴のような声が上がった。
敬愛する巫女頭の為に。その想いで彼女達はこのような行為に及んだのだろう。だがそれは…巫女としては最低の行為。

巫女達は皆、涙を流し、膝をついて必死に祈りを捧げていた。その呟きは誰に対するというよりも、女神に対して許しを乞うていた。
ていうかその前にアリシアさんに謝れ、五体投地で。



「・・・レオノーラ。今回の事に関係した巫女達への処遇は貴方に一任します」

「よ、宜しいのですか?」

「それをもって、貴方への罰とします。これ以上事を大きくする事を私は望みません。神殿内部の1日でも早い改善を期待します。
は常に貴方達を見ていますよ。励んでください」

「あ、ありがとうございます!」



お咎めなし、というわけにもいかない。巫女達はあるまじき行いをした。それは許されない事だ。それに気付かなかった…いや、気付こうとしなかったレオノーラさんも同じ。
彼女に巫女達の処遇を一任した事で、生半可な対処では済まされない、という事を理解したはずだ。この先は私が関与する事ではなくて、彼女達神殿の人間がここをどう良く替えていくかを見させて貰おうと思う。監視するのは『影』なんですけどね。



「さて、ヨハン・グリッシーニ。貴方には追って沙汰があるでしょう」

「・・・私には『タロットワーク』の裁可は下されないので?」

「貴方に関しては、私の一存で決めていい事ではありません。今回の事は然るべき機関にお任せすることにします」



そう言うと、ヨハン大司祭は笑い出す。
その声に危機感を感じたのか、ディーナとケリーが私の前に立った。後ろにキャズが来て、私の腕を引いて下がらせる。



「ヨハン・グリッシーニ。それ以上姫に近寄るならばこちらにも考えがあるぞ」

「考え!考えとは何かな!?・・・王国騎士の下っ端風情がこの私に向かって偉そうに!そこの姫も同じだ!何がタロットワークだ!この神殿では何の役にも立ちはしない!黙って聞いていてやれば偉そうに、小娘が!」

「不敬だぞ、グリッシーニ!」
「コズエ、下がれ」

「だ、大司祭様!?」
「おやめ下さい、なんという事を!」

「黙れ、黙れ黙れ黙れ!私に向かって口出しするな!
僧兵!曲者だぞ!捕らえろ!」



最初からそのつもりだったのだろうか。私を上手く言いくるめられなかったら、実力行使に出るつもりだったのか。
もーやだ、これってあるあるじゃないのよ!ケリー引っ張りこんでおいて正解よね!



「おいどーすんだよコレ」

「いやー、ケリー巻き込んでよかったわ」

「あのな、最初からこんな事予想して俺の腕掴んだのか?コズエ」

「まあ最悪そうなるかなって。パターンから予想してたにも程があるんですけど」

「もう終わったな俺の騎士人生・・・」

「何言ってんの、蹴散らしちゃっても誰も責めないわよ?」

「そうもいかねえだろ・・・」
「コズエ、騎士団と神殿僧兵団には不文律があるんだ」



ディーナも囲まれるのを苦々しく見ながら、前方に視線を向けている。ケリーと共に私を背に庇いながら、部屋の隅に移動。キャズも私の後ろに回りつつも警戒している。

ディーナ曰く、騎士団と僧兵団には相互不可侵の規約があるらしい。神殿内で揉め事があった場合、僧兵達に生殺与奪…と行かない迄も、解決する権利がある。ただし、神殿敷地外においてはその限りではない。
つまり、何があったとしても、王国騎士団並びに近衛騎士団も踏み込む事はできない。

─────ただし、その規律には抜け道が存在する。
その事を知っているのは、王位継承権を持つ人間だけ。

目の前には、総勢20名に及ぼうかという僧兵達。
どいつもこいつも私達を『敵』と認識している。狂信者ですか?
止めようとしているレオノーラさん達、巫女達は神官達によって奥に押し込められていた。



「全く、残念ですなコーネリア姫。もう少し素直な方だと思っておりましたよ」

「あら、期待にお応えできなくて申し訳ございませんわ」

「ふっ、その減らず口を今すぐ閉じて差し上げましょう。
わかっているでしょうが、騎士共!規律がある事を忘れるなよ!手出しすればお前達の未来などないのだからな!」

「なんでアイツ鬼の首取った感じなのよ」

「そりゃそーだろ、この数の差はよお」
「ケリー、負けるつもりなのか?」

「あのなディーナ、さすがに無茶するのは」
「私はここでコズエに・・・コーネリア姫に危害を加えられるのを黙って見ているのならば、騎士団を除名されようとも戦う」

「おい、ディーナ」
「そうね、ここでいい様にされるなんて女が廃るわよね。
思いっきり派手にやってやろうじゃない。ギルドに迷惑かけるのは気が引けるけど、ここで負けるのはもっと腹が立つわ」



女性陣2人はあっさりと腹を括った。なんて頼もしいのかしら。さすがはキャズとディーナ!しかしケリーが気が乗らないのだとすると、迷惑はかけられないよなあ。



「ケリー、これ以上迷惑かけられないから、下がっていてくれていいわよ」

「コズエ、おい」

「2人がやってくれる、って言うのなら・・・私も頑張っちゃう」

「やってくれる・・・っていうかもうここまで来たら仕方ないじゃない、選択肢ないわよ、仕方なくよ」
「はは、キャズも素直になったらどうだ?コズエを守りたいっていう気持ちは一緒だろ?」

「~~~、もう!そりゃ当たり前でしょ!コーネリア姫だろうがなんだろうが、私の大切な友達なのよ!私にとっては親友なの!守りたいに決まってるでしょ!何のために強くなりたいと思ったと思ってるのよ!自分の大切な人を自分の手で守る力が欲しいからに決まってるじゃない!」



キャズは、昔、盗賊に襲われて死ぬ目にあった。
その時運良く『獅子王』に救われたから今がある。だからこそ力が欲しい、大切なものを守るための力を手に入れたい、その気持ちでキャズは『冒険者』となることを選んだのだ。
騎士となる道もあった。でも、彼女は何よりも『国を守る』事よりも、『自分の大切なものを守る』為に力が欲しかったのだ。だからこそ選んだのは、自分の力で上を目指すことの出来る、自由な『冒険者』を選んだ。

ディーナやケリーも同じだろう。誰かを、何かを守るための力を手に入れる為に強くなった。それよりもキャズは自分寄りの望みのために強さを願った。

ケリーはそのまま頭を抱え、天を仰ぎ、諦めたようにため息をひとつ。ブルブルっと頭を振り、目の前に集まる僧兵達を睨み、構えた。



「あ~もう、仕方ねえ!こうなったら俺も乗ってやる!」

「いいのか?ケリー。私達は腹を括ってしまっているが・・・」

「女2人にそこまで言わせといて、ここで下がったらそれこそ男じゃねえだろ!いいか、お前等はコズエ・・・コーネリア姫を守る事を第一にしろ。アイツらの相手は俺が引き付ける」

「わかった、任せる」
「OK、了解」



気合いの入った3人。ニヤニヤと笑う大司祭。
さて、私も腹括らないとな…引っくり返す案はあると言えばある。が、それをするには私も覚悟が必要になる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!

幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23  女性向けホットランキング1位 2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位  ありがとうございます。 「うわ~ 私を捨てないでー!」 声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・ でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので 「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」 くらいにしか聞こえていないのね? と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~ 誰か拾って~ 私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。 将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。 塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。 私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・  ↑ここ冒頭 けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・ そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。 「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。 だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。 この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。 果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか? さあ! 物語が始まります。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...