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第七章:新しい魔術士とそのパートナーの歓迎会
87 僕はスタイズさんが挨拶する姿を格好良いと思う
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挨拶の言葉を言い終えた僕は、ワートさんに促されて拡声器を返した。
『セルテ様、ありがとうございました! それでは続いてパートナーのスタイズ様に挨拶をしていただきましょう』
そうしてワートさんは、スタイズさんに拡声器を渡した。
するとスタイズさんは神妙な面持ちで拡声器を握り、一瞬目を閉じた後、参加者の方を向いて話し始めたんだ。
『皆様、初めまして。ご紹介に預かりました、スタイズ・スージーです。本日は魔術士セルテ様と私のために、このような盛大な歓迎会を開いていただき、誠にありがとうございます。
私はこれまでアータイン王国軍に所属し、遊撃小隊の隊長として、大型害獣の討伐や凶悪犯罪組織の拠点の殲滅、災害時の人民救助など、様々な任務に携わってきました。厳しい訓練と実戦経験を通じて、信じ合う仲間と困難を乗り越えることの大切さを痛感しております』
……心地よい澄んだ低音が会場に響き渡る。
僕とは違い、堂々とした様子で力強く滑らかに話す姿……やっぱりスタイズさんは格好良いなぁ。
『そして先日、魔術士のエイシア様と魔術研究所所長のファリウス様から、魔術研究所に転籍して魔術士のパートナーになってほしいというお話を受けました。
初めは、何故、魔術士に関係の無い私が選ばれたのだろうかという、戸惑いの気持ちが強かったのは事実です。エイシア様から選ばれた理由を教えていただくことは叶いませんでしたが、実際にセルテ様とお会いしたことで、この方を支えたいと思いが生まれまして、このお誘いを受けることにいたしました』
……既にエイシア様が言ったけれど、偉い人に選ばれたって主張するのは大事だよね。
『私は数日前に外部から魔術研究所に来たばかりですので、内部のことはほとんど分かりません。おそらく数日前まで医療棟で待機されていたセルテ様も同様でしょう。何かの際には、研究所のことを熟知されている皆様のお知恵をお貸し頂けると幸いです。
まだまだ未熟者ですが、これまで培った経験や持ち前の行動力で、セルテ様を支えられるよう、そしてこの方と共に成長できるよう、日々努力していく所存です。皆様、どうぞよろしくお願いいたします!』
そうして挨拶の言葉を言い終わったスタイズさんが深くお辞儀をすると、会場はまた盛大な拍手に包まれた。
その中にもライナートさんの「スタイズ様ァァァー!!!」という叫び声が混じっているようだ。
……僕の中では彼は「穏やかな人」って印象だったから、ちょっと意外だな……
しばらくすると会場全体が明るくなり、流れる音楽が落ち着いたものに変わった。
そしてメイドさんたちが各テーブルに食事を運びだした。
僕たちは舞台の上で、横長のテーブルの席に並んで座ることになる。
凄く目立つけれど、うーん、まぁ……僕たちの歓迎会だし、仕方ないか……
椅子に座って一息つくと、スタイズさんが僕の肩を力強く叩いた。
「セルテ君、よく頑張ったな。エイシア様が現れた時はどうなるかと思ったが、苦手に思う状況で挨拶をこなして立派だったぞ!」
「あ、ありがとうございます。皆のおかげですよ。スタイズさん、凄く格好良かったです。えへへ……」
僕の心の中は、大仕事をやり切った満足感と、格好良いスタイズさんの姿を見ることができた幸福感でいっぱいだ。
ついつい顔が緩んでしまう。
大勢の前で注目されながら僕が何かをするということは、もう無いはずだ。
そのおかげで心は軽いのだけど、重たいものを食べる気分ではないので、僕はサラダやローストビーフなどのあっさりとしたものばかりを口にしていた。
スタイズさんは普通にステーキを食べて、ワインまで飲んでいる余裕っぷり。
ナイフとフォークを扱う姿やグラスを手にする姿も様になっていて、やっぱり貴族の生まれなんだなと思ってしまった。
しばらくして会場にワートさんの声が響いた。
『それではこれより、セルテ様とスタイズ様が各テーブルを回ります。皆様の元に来られた際には、ぜひお二方に温かいお言葉をおかけください!』
……うう、自己紹介の次に疲れそうなやつがきた……!!
ワートさんと一緒に各テーブルを回り、挨拶をしながら僕が小さな花をテーブルに置いて行く。
各テーブルは大体同じ部署の人たちで固められていて、最初は研究所の偉い人、続いて魔術士、魔術士のパートナー、その他の職員の順に回ることになっているそうで。
……結局、全てのテーブルを回るのに一時間くらいかかってしまった。
短時間のうちに、大量の人の顔と名前が頭の中に入ってきて、頭が爆発しそうだ。
頑張って笑顔は保っていたんだけれど、最後の方はヘロヘロになってしまい、何を話したのかはよく覚えていない……
挨拶回りを終えた後は、スタイズさんに支えられながら自分の席に戻った。
「スタイズさん、疲れましたね……」
「ああ、そうだな」
肉体的にしんどいことはしていないはずなのに、物凄く疲れてしまった。
とりあえず椅子に座っているけれど、もう二度と立ち上がりたくない気分だ。
「セルテ君、控室で少し休むか?」
スタイズさんの心配そうな声が聞こえてくる。
「えっ、でも、僕は今日の主役ですし、ここにいた方が良くないですか?」
せっかく皆が僕たちのために歓迎会を計画してくれて、多くの人がこの会場に来てくれたんだし、この場からいなくなるのはどうかと思う。
それに突然僕がいなくなったら、何かあったのかと心配されそうだ。
『セルテ様、ありがとうございました! それでは続いてパートナーのスタイズ様に挨拶をしていただきましょう』
そうしてワートさんは、スタイズさんに拡声器を渡した。
するとスタイズさんは神妙な面持ちで拡声器を握り、一瞬目を閉じた後、参加者の方を向いて話し始めたんだ。
『皆様、初めまして。ご紹介に預かりました、スタイズ・スージーです。本日は魔術士セルテ様と私のために、このような盛大な歓迎会を開いていただき、誠にありがとうございます。
私はこれまでアータイン王国軍に所属し、遊撃小隊の隊長として、大型害獣の討伐や凶悪犯罪組織の拠点の殲滅、災害時の人民救助など、様々な任務に携わってきました。厳しい訓練と実戦経験を通じて、信じ合う仲間と困難を乗り越えることの大切さを痛感しております』
……心地よい澄んだ低音が会場に響き渡る。
僕とは違い、堂々とした様子で力強く滑らかに話す姿……やっぱりスタイズさんは格好良いなぁ。
『そして先日、魔術士のエイシア様と魔術研究所所長のファリウス様から、魔術研究所に転籍して魔術士のパートナーになってほしいというお話を受けました。
初めは、何故、魔術士に関係の無い私が選ばれたのだろうかという、戸惑いの気持ちが強かったのは事実です。エイシア様から選ばれた理由を教えていただくことは叶いませんでしたが、実際にセルテ様とお会いしたことで、この方を支えたいと思いが生まれまして、このお誘いを受けることにいたしました』
……既にエイシア様が言ったけれど、偉い人に選ばれたって主張するのは大事だよね。
『私は数日前に外部から魔術研究所に来たばかりですので、内部のことはほとんど分かりません。おそらく数日前まで医療棟で待機されていたセルテ様も同様でしょう。何かの際には、研究所のことを熟知されている皆様のお知恵をお貸し頂けると幸いです。
まだまだ未熟者ですが、これまで培った経験や持ち前の行動力で、セルテ様を支えられるよう、そしてこの方と共に成長できるよう、日々努力していく所存です。皆様、どうぞよろしくお願いいたします!』
そうして挨拶の言葉を言い終わったスタイズさんが深くお辞儀をすると、会場はまた盛大な拍手に包まれた。
その中にもライナートさんの「スタイズ様ァァァー!!!」という叫び声が混じっているようだ。
……僕の中では彼は「穏やかな人」って印象だったから、ちょっと意外だな……
しばらくすると会場全体が明るくなり、流れる音楽が落ち着いたものに変わった。
そしてメイドさんたちが各テーブルに食事を運びだした。
僕たちは舞台の上で、横長のテーブルの席に並んで座ることになる。
凄く目立つけれど、うーん、まぁ……僕たちの歓迎会だし、仕方ないか……
椅子に座って一息つくと、スタイズさんが僕の肩を力強く叩いた。
「セルテ君、よく頑張ったな。エイシア様が現れた時はどうなるかと思ったが、苦手に思う状況で挨拶をこなして立派だったぞ!」
「あ、ありがとうございます。皆のおかげですよ。スタイズさん、凄く格好良かったです。えへへ……」
僕の心の中は、大仕事をやり切った満足感と、格好良いスタイズさんの姿を見ることができた幸福感でいっぱいだ。
ついつい顔が緩んでしまう。
大勢の前で注目されながら僕が何かをするということは、もう無いはずだ。
そのおかげで心は軽いのだけど、重たいものを食べる気分ではないので、僕はサラダやローストビーフなどのあっさりとしたものばかりを口にしていた。
スタイズさんは普通にステーキを食べて、ワインまで飲んでいる余裕っぷり。
ナイフとフォークを扱う姿やグラスを手にする姿も様になっていて、やっぱり貴族の生まれなんだなと思ってしまった。
しばらくして会場にワートさんの声が響いた。
『それではこれより、セルテ様とスタイズ様が各テーブルを回ります。皆様の元に来られた際には、ぜひお二方に温かいお言葉をおかけください!』
……うう、自己紹介の次に疲れそうなやつがきた……!!
ワートさんと一緒に各テーブルを回り、挨拶をしながら僕が小さな花をテーブルに置いて行く。
各テーブルは大体同じ部署の人たちで固められていて、最初は研究所の偉い人、続いて魔術士、魔術士のパートナー、その他の職員の順に回ることになっているそうで。
……結局、全てのテーブルを回るのに一時間くらいかかってしまった。
短時間のうちに、大量の人の顔と名前が頭の中に入ってきて、頭が爆発しそうだ。
頑張って笑顔は保っていたんだけれど、最後の方はヘロヘロになってしまい、何を話したのかはよく覚えていない……
挨拶回りを終えた後は、スタイズさんに支えられながら自分の席に戻った。
「スタイズさん、疲れましたね……」
「ああ、そうだな」
肉体的にしんどいことはしていないはずなのに、物凄く疲れてしまった。
とりあえず椅子に座っているけれど、もう二度と立ち上がりたくない気分だ。
「セルテ君、控室で少し休むか?」
スタイズさんの心配そうな声が聞こえてくる。
「えっ、でも、僕は今日の主役ですし、ここにいた方が良くないですか?」
せっかく皆が僕たちのために歓迎会を計画してくれて、多くの人がこの会場に来てくれたんだし、この場からいなくなるのはどうかと思う。
それに突然僕がいなくなったら、何かあったのかと心配されそうだ。
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