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第七章:新しい魔術士とそのパートナーの歓迎会
85 僕は開会直後のトラブルに震えてしまう
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スタイズさんと話をしながら一緒に本を見ていると、ドアがノックされた後に一人の男性が部屋に入って来た。
短い黒髪を後ろに流して、灰色を基調とした服には控えめな刺繍が施されている。
えーと、この人は……
「セルテ様、スタイズ様。お元気そうで何よりです」
この聞き覚えのある落ち着いた声は……あっ!!
「ライナートさん、こんにちは。おかげさまで元気です」
看護士の白い制服を着た姿しか見たことがなかったし、髪型がいつものと少し違うので、一瞬誰か分からなかったのは秘密だ。
そしてライナートさんは僕たちの方に近付いて床に片膝をつき、右手を胸に当てて目を閉じた。
「太陽のように輝くセルテ様と、月のように静かに光るスタイズ様……本当にお美しいです。お二方のご立派なお姿、そして寄り添う温かいお姿は、見る者に大きな感動と希望を与えることでしょう」
「そ、そう……ですか?」
相変わらずの仰々しい言葉に、思わず苦笑してしまう。
僕としては、明るくて力強いスタイズさんの方が「太陽」って感じなんだけど、きっと衣装のせいだろう。
ライナートさんが懐から小包をだして、テーブルの上で包装を解いた。
中に入っていたのは一つの小瓶だ。
「セルテ様、気持ちを落ち着かせるお薬を、お持ちいたしました」
「ありがとうございます」
「もうすぐ開始時間になりますが、セルテ様なら大丈夫ですよ」
「ああ。セルテ君、一緒に歓迎会を楽しもう!」
「はいっ!」
そうして僕は、ライナートさんとスタイズさんに励まされながら薬を飲んだ。
……よし、これで大丈夫だ!
皆が助けてくれるし、絶対に上手く行く!!
僕は胸の前で両手を握りしめて、気合を入れる。
ライナートさんは僕の様子を見て安心したのか、穏やかな笑顔で頷いた後、急いだ様子で部屋を出ていってしまった。
少ししてからワートさんに呼ばれて、僕とスタイズさんは舞台の袖に移動した。
会場には落ち着いた雰囲気の音楽が流れていて、席に着いている参加者と思われる人たちの騒めきが聞こえてくる。
舞台の袖では催事企画部の人たちが魔道具を操作していたり、進行表を見ながら話をしていたりと、忙しない感じで動いている。
スタイズさんが進行表を持っている人に声をかけて見せてもらったのだけど、催事企画部で見た動画とほぼ同じ流れだ。
音楽が止まって会場が静かになり、今度は盛大な音楽が流れ出した。
そしてワートさんが舞台の中央に移動して、客席に向かって深くお辞儀をする。
『皆さま、お疲れ様です! 本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます! 司会を務めさせていただきます、ワート・エクシャルです!』
催事企画部の人曰く、魔道具で声を大きくしているそうで、彼の声が広い会場に響き渡る。
『本日は、魔術研究所の一員に魔術士セルテ様とそのパートナーのスタイズ様が加わりましたことを祝い、この盛大な歓迎会を催す運びとなりました。この会が皆様の笑顔が溢れる素晴らしいものになりますよう、心より願っております!』
……ついに歓迎会が始まるんだ……!!
確かこの後は研究所の偉い人が挨拶をして、その後に僕たちが舞台に上がることになっている。
『まず初めにご挨拶を賜りますのは、副所長の……うおあっ!!??』
突然、轟音と共に舞台の中央が光った。
光が収まり、そこに立っているのは長い白髪で緑色のローブを着ている女性。
……って、エイシア様!???
催事企画部で見せて貰った動画には出てこなかったし、さっき見せて貰った進行表にも書いていなかったのに、何でここにいるんだよ!??
エイシア様はただ立っているだけで何もしていないのに、あの方から発せられた恐ろしい雰囲気が辺りに漂い、僕の全身は震え上がってしまう。
おめでたい場なんだし、そういうのは押さえて欲しいんだけど……
エイシア様を見ると、どうしても懲罰魔法で全身を焼かれたことを思い出してしまう。
そのせいで手が震えて、息が苦しくなってきた。
もうすぐ僕たちの出番なのに、こんなことになるなんて。
エイシア様が来たせいで、歓迎会が予定通り進まなくなるのでは?
どうなるか分からないけれど、とりあえず落ち着かないと。
目を閉じて胸に手を当てて深呼吸を繰り返していると、スタイズさんが僕の肩を優しく抱いてくれた。
「セルテ君、大丈夫か?」
「は、はい……」
エイシア様がゆっくりと話し始めた。
「世界魔術士協会に所属し、この国の魔術士に魔術面の指導をしているエイシアだ。この後に登場するセルテとスタイズは、通常とは違う流れで決定した魔術士とパートナーだが、決定には私が絡んでいる。職員の皆には、今後も変わりなく魔術士を支えてくれることを願う。以上だ」
そして閃光と共に姿が消えてしまった。
……もしかして、平民のスタイズさんが魔術士のパートナーに選ばれたことに文句を言う人が出てこないよう、牽制する意味で来てくれたんだろうか?
悪い人ではないんだろうけど、やっぱり怖い人だ……
短い黒髪を後ろに流して、灰色を基調とした服には控えめな刺繍が施されている。
えーと、この人は……
「セルテ様、スタイズ様。お元気そうで何よりです」
この聞き覚えのある落ち着いた声は……あっ!!
「ライナートさん、こんにちは。おかげさまで元気です」
看護士の白い制服を着た姿しか見たことがなかったし、髪型がいつものと少し違うので、一瞬誰か分からなかったのは秘密だ。
そしてライナートさんは僕たちの方に近付いて床に片膝をつき、右手を胸に当てて目を閉じた。
「太陽のように輝くセルテ様と、月のように静かに光るスタイズ様……本当にお美しいです。お二方のご立派なお姿、そして寄り添う温かいお姿は、見る者に大きな感動と希望を与えることでしょう」
「そ、そう……ですか?」
相変わらずの仰々しい言葉に、思わず苦笑してしまう。
僕としては、明るくて力強いスタイズさんの方が「太陽」って感じなんだけど、きっと衣装のせいだろう。
ライナートさんが懐から小包をだして、テーブルの上で包装を解いた。
中に入っていたのは一つの小瓶だ。
「セルテ様、気持ちを落ち着かせるお薬を、お持ちいたしました」
「ありがとうございます」
「もうすぐ開始時間になりますが、セルテ様なら大丈夫ですよ」
「ああ。セルテ君、一緒に歓迎会を楽しもう!」
「はいっ!」
そうして僕は、ライナートさんとスタイズさんに励まされながら薬を飲んだ。
……よし、これで大丈夫だ!
皆が助けてくれるし、絶対に上手く行く!!
僕は胸の前で両手を握りしめて、気合を入れる。
ライナートさんは僕の様子を見て安心したのか、穏やかな笑顔で頷いた後、急いだ様子で部屋を出ていってしまった。
少ししてからワートさんに呼ばれて、僕とスタイズさんは舞台の袖に移動した。
会場には落ち着いた雰囲気の音楽が流れていて、席に着いている参加者と思われる人たちの騒めきが聞こえてくる。
舞台の袖では催事企画部の人たちが魔道具を操作していたり、進行表を見ながら話をしていたりと、忙しない感じで動いている。
スタイズさんが進行表を持っている人に声をかけて見せてもらったのだけど、催事企画部で見た動画とほぼ同じ流れだ。
音楽が止まって会場が静かになり、今度は盛大な音楽が流れ出した。
そしてワートさんが舞台の中央に移動して、客席に向かって深くお辞儀をする。
『皆さま、お疲れ様です! 本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます! 司会を務めさせていただきます、ワート・エクシャルです!』
催事企画部の人曰く、魔道具で声を大きくしているそうで、彼の声が広い会場に響き渡る。
『本日は、魔術研究所の一員に魔術士セルテ様とそのパートナーのスタイズ様が加わりましたことを祝い、この盛大な歓迎会を催す運びとなりました。この会が皆様の笑顔が溢れる素晴らしいものになりますよう、心より願っております!』
……ついに歓迎会が始まるんだ……!!
確かこの後は研究所の偉い人が挨拶をして、その後に僕たちが舞台に上がることになっている。
『まず初めにご挨拶を賜りますのは、副所長の……うおあっ!!??』
突然、轟音と共に舞台の中央が光った。
光が収まり、そこに立っているのは長い白髪で緑色のローブを着ている女性。
……って、エイシア様!???
催事企画部で見せて貰った動画には出てこなかったし、さっき見せて貰った進行表にも書いていなかったのに、何でここにいるんだよ!??
エイシア様はただ立っているだけで何もしていないのに、あの方から発せられた恐ろしい雰囲気が辺りに漂い、僕の全身は震え上がってしまう。
おめでたい場なんだし、そういうのは押さえて欲しいんだけど……
エイシア様を見ると、どうしても懲罰魔法で全身を焼かれたことを思い出してしまう。
そのせいで手が震えて、息が苦しくなってきた。
もうすぐ僕たちの出番なのに、こんなことになるなんて。
エイシア様が来たせいで、歓迎会が予定通り進まなくなるのでは?
どうなるか分からないけれど、とりあえず落ち着かないと。
目を閉じて胸に手を当てて深呼吸を繰り返していると、スタイズさんが僕の肩を優しく抱いてくれた。
「セルテ君、大丈夫か?」
「は、はい……」
エイシア様がゆっくりと話し始めた。
「世界魔術士協会に所属し、この国の魔術士に魔術面の指導をしているエイシアだ。この後に登場するセルテとスタイズは、通常とは違う流れで決定した魔術士とパートナーだが、決定には私が絡んでいる。職員の皆には、今後も変わりなく魔術士を支えてくれることを願う。以上だ」
そして閃光と共に姿が消えてしまった。
……もしかして、平民のスタイズさんが魔術士のパートナーに選ばれたことに文句を言う人が出てこないよう、牽制する意味で来てくれたんだろうか?
悪い人ではないんだろうけど、やっぱり怖い人だ……
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