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第七章:新しい魔術士とそのパートナーの歓迎会

84 僕たちは開会の時間を待つ

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 綺麗に流された茶色の髪、刺繍や装飾品で輝く高貴な雰囲気の衣装、服を着ていても分かる鍛え上げられた肉体、自信に満ち溢れた立ち姿……目の前にいるスタイズさんは、まるで娯楽小説に登場する騎士、貴族のようだ。

 スタイズさんが除籍される前は、こういった豪華な格好でパーティーに参加して、婚約者と一緒にダンスを踊ったりしたのだろうか?
 女性をリードしながら踊る姿は、きっと優雅で素敵なんだろうな。

 ……貴族時代のことは彼にとっては苦い思い出かもしれないから、僕からは触れない方が良さそうだけど。


 穏やかな笑顔を見せながらも、今までとは違う雰囲気の、格好良いスタイズさん。
 彼は事あるごとに僕のことを褒めてくれるし、僕もちゃんと伝えないと。

 「か、格好良いです! 騎士、みたいで……」

 「そうかい? ありがとう、セルテ君」

 嬉しそうな様子のスタイズさんに頬を優しく撫でられて、僕の顔が一気に熱くなる。


 「君のその輝かしい姿は、まるで絵画から出てきたかのようで、今日の主役に相応しいと思うよ。皆、君の姿に目が釘付けになってしまうだろうな」

 ……きっとそれは、衣装と化粧が凄いだけだと思うけれど。
 耳に響く落ち着いた声、頬に優しく触れる手の感触……それがまた恥ずかしくて、嬉しくて、僕の全身が震えてしまう。



 「セルテ様、スタイズ様」

 他の人の声が聞こえてきたので、その方に顔を向けると、美容部の人たちが少し離れたところで頭を下げている。
 今のやり取りを見られていたのに気が付いて、恥ずかしさから顔が更に熱くなってしまった。

 「私たちはこの辺で、失礼させていただきます。何かありましたら、ご遠慮なくお呼びつけください」

 「こ、こちらこそ、ありがとうございました」

 僕は皆の方を見て頭を下げて、着替えを手伝ってもらったことに対するお礼の言葉を述べた。


 そうして美容部の人たちが出ていき、部屋には僕とスタイズさんの二人きりの状態になった。
 スタイズさんがソファーに座ったので、僕も隣に座ることにする。

 壁にかけられた時計を見ると、午後四時半を過ぎたところだ。
 歓迎会が始まるまでは、まだ一時間以上ある。

 「セルテ君。だいぶ早めに来てしまったせいで、暇になってしまったな。すまない」

 「いえ、僕は構いませんよ。時間に追われてバタバタするよりは全然良いですし」

 何をしなくても、スタイズさんと一緒にいるだけで、僕は十分幸せだから。
 彼と一緒にいる時の、この穏やかな雰囲気が大好きなんだ。



 しばらくすると、部屋の外からドアをノックする音が聞こえてきた。
 僕が返事をするとワートさんが部屋の中に入ってきたのだけれど、彼は目を見開いて、そして少しの間無言で首を傾げながら僕たちの方を見て、その後笑顔で「お二人とも素敵っすね」とだけ言ったんだ。

 そして彼はテーブルの上に十冊ほどの本を並べた。
 どの本も、表紙には色彩豊かな絵が描かれている。

 「まだ時間があるので、暇潰しになりそうな本を持ってきました。控室から出ても構いませんが、あまり遠くに行かれないようにお願いします」

 「ありがとうございます」



 ワートさんが出ていったので、また二人きりになった。
 部屋に入って来た時のワートさんの微妙な態度……もしかして着飾ったスタイズさんの姿を見て、やっぱり除籍されたストライズ・バッフェムじゃないかと怪しんだとか?
 彼が何歳かは知らないけれど、さすがにスタイズさんが生家を出る前には生まれているだろうし、貴族のパーティーで顔を合わせたことがあるとか?
 うーん、いや、考え過ぎかな……


 そういえば、研究所の職員が貴族の生まれの人ばかりなら、他にもスタイズさんと関わったことがある人がいて「おや?」と思われることがあるかもしれない。
 証拠がないのなら、たまたま似ているだけの別人だと言い張っていれば大丈夫なのかな?



 とりあえず机に並べられた本の表紙を眺めていると、スタイズさんが「おっ、これは……」と言って、一冊の大きくて薄い本を手にした。
 表紙の真ん中のあたりには、島が空に浮いている絵が描かれていて、その上の方には「世界各地の魔術都市紹介」という文字が書かれている。


 魔術士と職員は高い壁に囲まれた魔術研究所の中で生活し、外にいる一般の人と関わることは基本的にない。
 とはいえ僕たちは研究所の中のみで一生を過ごすというわけではなく、研究所の中にある転送機を使ってでしか行くことができない「魔術都市」に遊びに行くことができるそうだ。
 逆に一般の人は行くことができないところだ。


 僕とスタイズさんは一緒に本を見る。

 空中に浮かぶ島にある街、大きな滝に囲まれた街、沢山の大きな花が紫に光る森の中にある街、その辺の建物より大きな水晶が生えている山にある街……どれも幻想的なものだ。
 アータイン王国は平原と森と山という平凡な風景ばかりだから、こういうのは娯楽小説の中にしかないと思っていたのだけれど、実在することに驚いてしまった。


 「セルテ君。研究所の生活に慣れたら、一緒にどこかに遊びに行くのもいいな」

 「そうですね。えへへ、楽しみです……」

 大好きなスタイズさんとなら、きっとどこに行っても楽しくて幸せな気分になれるだろう。
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