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第六章:病室で休む二人
69 僕はスタイズさんからハンカチを貰う
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「セルテ君、今日は色々あったし、疲れたよな」
スタイズさんに声をかけられたので、僕は布団から頭を出して彼の方を向いた。
彼は隣にあるベッドの端に座り、穏やかな笑顔を僕に向けてくれている。
「寝る前に自慰はしないのか?」
「……」
あらかじめ自分で精液を出しておくことで、夢精で下穿きを汚してしまうのを防ぐことが出来ると教材にはあった。
そうなんだけど、今から起き上がってトイレに行って自分で性器を扱いて……そんな気力は残っていない。
「すみません。何か、そんな気分じゃ、なくて……」
「うん、そうか。そんなこともあるよな。謝る必要はないさ」
彼はそう言うと、立ち上がって部屋の隅にある机の方へと向かい、ゴソゴソと何かを探しているようだ。
そして僕のところにきて、差し出してきたのは……一枚のハンカチだった。
「これを下穿きの中に入れておけば、万が一夢精をしても下穿きが汚れることはないだろう。下穿きを洗うより、ハンカチを洗う方が楽じゃないか?」
確かにそうかもしれないけれど、見覚えのないハンカチに困惑してしまう。
これってスタイズさんのハンカチだよね?
「訓練時に我々が着ていた服は、洗濯と乾燥が終わって畳まれていたけれど、君のハンカチが見当たらなくてね。とりあえず私のを使ったらいいよ」
……おかしいな。
ハンカチは上着のポケットに入れていて、訓練の時にスタイズさんの傷を押さえるのに使ったはず。
医務室の職員さんが洗濯してくれた時に、運悪くどこかに消えてしまったのだろうか?
っていうか、他人のハンカチを下穿きの中に入れるなんて、そんなことできるわけがないじゃないか!
反応できずにいると、僕の目の前にそっとハンカチが置かれた。
「このハンカチは君にあげるよ。安物だから気にしないでくれ」
僕は布団から手を出して、ハンカチに触れてみた。
手触りがすごく良くて、上品な模様があしらわれていて、どう考えても安物ではないことが分かる。
それに、くたびれた感じもしないから、新品に近いのでは?
安物だと言ったのは、僕に気を使ってのことだろうか?
それとも彼は隊長さんだったから、給金を沢山貰っていて、ハンカチぐらいなら大した額ではないとか?
気を使われて、しかも上等なハンカチまで貰って、何も返さないわけにはいかない。
「スタイズさん、すみません。代わりに今度、新しいハンカチを差し上げますので」
僕が初めて魔術研究所に来た時は、父さんの遺灰と着替え以外は最低限の物しか持っていなかった。
だからここでの生活に必要なものは医務室の職員さんが用意してくれて、その中にハンカチもあった。
僕が魔術士だからか、とても質の良いものを大量に用意してくれたけれど、使うのが勿体なくて、大半は新品のままで置いている。
それをスタイズさんにあげよう。
スタイズさんが笑顔でゆっくりと頷いた。
「君がそう言うのなら、貰おうかな。ありがとう、セルテ君」
「いえ、そんな。こちらこそ、ありがとうございます」
それから何時間経っただろうか。
薄暗くなった病室の中で、僕とスタイズさんは布団の中で静かに横になっている。
僕は疲れているはずなのに、頭の中がグルグルした感じで、目を閉じているのに全然眠れそうにない。
今のところは体調は大丈夫だけど、急変したらどうしよう。
懲罰魔法は今回だけで、訓練の度にかけられることはないよね?
下穿きの中にハンカチを入れているけれど、夢精して汚れたら嫌だな。
色々なことが次々と頭の中に浮かんできて止まらない。
何となくスタイズさんの方を見てみる。
彼の表情はよく分からないけれど、寝息が聞こえるので眠っているようだ。
彼も今までとは全く違う環境で生活することになったのに、不安になったり緊張したりしないのだろうか?
それに、研究所の外にいる親しい人と二度と会えなくなるわけで、寂しくならないのだろうか?
僕は……
「下がれ、ダグディ!」
突然、静かな病室にスタイズさんの低い声が響いて、僕は驚きのあまり息が止まりそうになった。
目を凝らして彼の顔を見ると、目を閉じたままのように思えるので、これは寝言なのかな。
「勝手な行動をするな……作戦通りに……」
どうやら彼は夢の中では任務の途中で、ダグディという名前の部下?が命令を無視しているようだ。
スタイズさんは普段は優しいけれど、魔道生物との戦闘訓練の時は迫力があったし、本気で怒ると怖そうだ。
僕は寝言の続きが気になってしまい、彼の顔をじっと見つめる。
だけどその後は静かになったので、夢は恐ろしい展開にはならなかったのかな。
……良かった。
僕の為に魔術研究所に来てくれたスタイズさん。
これからの生活は楽しいことばかりじゃないと思うけれど、彼には幸せであってほしいと思うんだ。
父さん……もう会えないのは寂しいけれど、僕はスタイズさんと頑張るよ。
この後は良い夢を見れますように……僕は目を閉じてそう願った。
スタイズさんに声をかけられたので、僕は布団から頭を出して彼の方を向いた。
彼は隣にあるベッドの端に座り、穏やかな笑顔を僕に向けてくれている。
「寝る前に自慰はしないのか?」
「……」
あらかじめ自分で精液を出しておくことで、夢精で下穿きを汚してしまうのを防ぐことが出来ると教材にはあった。
そうなんだけど、今から起き上がってトイレに行って自分で性器を扱いて……そんな気力は残っていない。
「すみません。何か、そんな気分じゃ、なくて……」
「うん、そうか。そんなこともあるよな。謝る必要はないさ」
彼はそう言うと、立ち上がって部屋の隅にある机の方へと向かい、ゴソゴソと何かを探しているようだ。
そして僕のところにきて、差し出してきたのは……一枚のハンカチだった。
「これを下穿きの中に入れておけば、万が一夢精をしても下穿きが汚れることはないだろう。下穿きを洗うより、ハンカチを洗う方が楽じゃないか?」
確かにそうかもしれないけれど、見覚えのないハンカチに困惑してしまう。
これってスタイズさんのハンカチだよね?
「訓練時に我々が着ていた服は、洗濯と乾燥が終わって畳まれていたけれど、君のハンカチが見当たらなくてね。とりあえず私のを使ったらいいよ」
……おかしいな。
ハンカチは上着のポケットに入れていて、訓練の時にスタイズさんの傷を押さえるのに使ったはず。
医務室の職員さんが洗濯してくれた時に、運悪くどこかに消えてしまったのだろうか?
っていうか、他人のハンカチを下穿きの中に入れるなんて、そんなことできるわけがないじゃないか!
反応できずにいると、僕の目の前にそっとハンカチが置かれた。
「このハンカチは君にあげるよ。安物だから気にしないでくれ」
僕は布団から手を出して、ハンカチに触れてみた。
手触りがすごく良くて、上品な模様があしらわれていて、どう考えても安物ではないことが分かる。
それに、くたびれた感じもしないから、新品に近いのでは?
安物だと言ったのは、僕に気を使ってのことだろうか?
それとも彼は隊長さんだったから、給金を沢山貰っていて、ハンカチぐらいなら大した額ではないとか?
気を使われて、しかも上等なハンカチまで貰って、何も返さないわけにはいかない。
「スタイズさん、すみません。代わりに今度、新しいハンカチを差し上げますので」
僕が初めて魔術研究所に来た時は、父さんの遺灰と着替え以外は最低限の物しか持っていなかった。
だからここでの生活に必要なものは医務室の職員さんが用意してくれて、その中にハンカチもあった。
僕が魔術士だからか、とても質の良いものを大量に用意してくれたけれど、使うのが勿体なくて、大半は新品のままで置いている。
それをスタイズさんにあげよう。
スタイズさんが笑顔でゆっくりと頷いた。
「君がそう言うのなら、貰おうかな。ありがとう、セルテ君」
「いえ、そんな。こちらこそ、ありがとうございます」
それから何時間経っただろうか。
薄暗くなった病室の中で、僕とスタイズさんは布団の中で静かに横になっている。
僕は疲れているはずなのに、頭の中がグルグルした感じで、目を閉じているのに全然眠れそうにない。
今のところは体調は大丈夫だけど、急変したらどうしよう。
懲罰魔法は今回だけで、訓練の度にかけられることはないよね?
下穿きの中にハンカチを入れているけれど、夢精して汚れたら嫌だな。
色々なことが次々と頭の中に浮かんできて止まらない。
何となくスタイズさんの方を見てみる。
彼の表情はよく分からないけれど、寝息が聞こえるので眠っているようだ。
彼も今までとは全く違う環境で生活することになったのに、不安になったり緊張したりしないのだろうか?
それに、研究所の外にいる親しい人と二度と会えなくなるわけで、寂しくならないのだろうか?
僕は……
「下がれ、ダグディ!」
突然、静かな病室にスタイズさんの低い声が響いて、僕は驚きのあまり息が止まりそうになった。
目を凝らして彼の顔を見ると、目を閉じたままのように思えるので、これは寝言なのかな。
「勝手な行動をするな……作戦通りに……」
どうやら彼は夢の中では任務の途中で、ダグディという名前の部下?が命令を無視しているようだ。
スタイズさんは普段は優しいけれど、魔道生物との戦闘訓練の時は迫力があったし、本気で怒ると怖そうだ。
僕は寝言の続きが気になってしまい、彼の顔をじっと見つめる。
だけどその後は静かになったので、夢は恐ろしい展開にはならなかったのかな。
……良かった。
僕の為に魔術研究所に来てくれたスタイズさん。
これからの生活は楽しいことばかりじゃないと思うけれど、彼には幸せであってほしいと思うんだ。
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