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第五章:初めての魔法の訓練

58 僕たちは三年後に起こることを知らされる

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 戦闘訓練は終わったけれど、エイシア様が僕たちに話しておきたいことがあるそうだ。
 僕とスタイズさんは横に並んでエイシア様に向き合う。


 エイシア様は腕を組み、険しい表情で話し始めた。

 「魔術は人を守り助けるものであって、傷付けるためのものではない。そのため現在は、人々の争いに魔法を使うことは『世界魔術士協会』によって禁止されている。かつて愚かな魔術士たちの魔法によって、多くの人命が失われ、大地が荒れたからだ」

 ……これは学校の社会の授業でも習った話だ。


 「では、人間と動植物で構成される平和なこの世界で、何の為に魔術士が戦闘訓練をするのか? ……それはいずれ来る『その時』に備えるためだ」

 ……うーん、勿体ぶるなぁ。


 「今から約三年後、世界の果てで魔王が誕生する。そして多くのモンスターと呼ばれる怪物を生み出して、人々を襲うようになると言われている。奴らには普通の武器は歯が立たず、魔法のみでしか倒すことができないそうだ」

 ……は??
 魔王???
 モンスター????

 僕にとってそれらは、娯楽小説に登場する架空の存在でしかない。

 それが三年後に誕生する??
 何言ってるんだ??
 冗談じゃないのか???

 突拍子もない話に混乱していると、スタイズさんが右手を上げて、質問があると言ったんだ。


 「『言われている』というのは、誰が言っているのですか? 預言者ですか? そして今現在、予兆みたいなものはあるのでしょうか?」


 彼の言葉にエイシア様は、首を左右に振る。

 「今のところ、予兆と呼べるものはない。そして予言や予測ではなく、実際に未来を経験した者がそう言っているのだ」

 ……未来を経験した?
 またおかしなことを言っている……


 「その者たちによると、『世界の管理者』という存在に選ばれた魔術士は、一度だけ記憶を保持したまま、自分が生まれてから死ぬまでの間の任意の時点まで、世界の時間を巻き戻すことができるそうだ」

 ……娯楽小説でたまにある「タイムリープ」ってやつかな。

 そんなことが本当にできるのか?
 もし僕が時間を巻き戻した人にそう言われたとしても、信じられないと思う。


 「あの、えっと、エイシア様はそれらを『狂人の妄言』とは思わないのですか?」

 するとエイシア様は腕組みをしたまま、目を閉じて溜息をついた。

 「最初はそう思ったが、別々の時期に、別々の場所で、全く繋がりのない者たちが同じようなことを言っているとあれば、流石に考慮せざるを得ないだろう」

 ……一人じゃなくて複数人いるのか。
 とんでもない話になってきたな……


 「世界の管理者に選ばれた者は皆、一度死を迎えている。私は不老不死の魔法をこの身にかけている為、条件を満たすことはないだろう。セルテよ、もしお前が選ばれた時は、時間を巻き戻すのは1172年以降にしろ」

 「1172年って去年じゃないですか。何故ですか?」


 「今確認できている未来の記憶を持つ魔術士は、この世界に四人いる。そして、それぞれ1163年から1172年の間の別々の時まで、時間を巻き戻したらしい。だから、それより前の年月まで世界の時間を巻き戻した場合、その時点で存在しない時間遡行者たちの存在や知識が消えてしまう可能性があるからだ」

 ……世界の時間を巻き戻して人生をやり直した人が、既に四人もいるなんて。
 もしかしたら他の人の巻き戻しによって、巻き戻しがなかったことにされてしまった人も、いるのかもしれないけれど。


 「未来を知る者を一つの時間の流れに多く存在させることができれば、それだけ信憑性が高まり、多くの情報を得ることができるだろう。それが未来の世界を救う道だと思っている」

 ……何か少し壮大な話になってきたような。
 もし自分が選ばれたとして、記憶を持ったまま人生をやり直したいかと言われると……そうは思わないかな……






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※補足

この作品においては、世界の時間軸は一つです。

異世界転生やタイムリープは「この世界にはそういう要素がある」というだけで、どちらも本筋(セルテの物語)には関係ありません。
セルテはどちらもしません。
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