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第五章:初めての魔法の訓練

54 僕は魔法の実演を見る

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 僕たちはさっきまで第五転送機のすぐ横にいたはずなのに、一瞬のうちに全然違う場所に立っていた。
 気味が悪い色味の空と海、生暖かい空気……ここはどこなんだろうか?


 ゆっくりと辺りを見回したスタイズさんが、困惑の表情に変わった。

 「ここはフィーエス島じゃないか。どういうことだ?」

 「えっ、知っているんですか!?」


 「ああ。何度か軍の訓練で行ったことのある無人島なんだが、数年前に突然消失して結構な騒ぎになってね。島があった辺りに船で近付こうとしても何故か近づけなくて、よく分からないまま調査は終了したんだ」


 すると僕たちの前に光の柱が発生し、その中から長い白髪の女性――魔術士エイシア様が現れた。

 「数年前に魔術士の訓練場を増やそうと思い、この島を魔法で異空間に隔離したのだ。今では私の魔法でしか、ここに辿り着くことは出来ない」

 つまり、魔法の訓練をするために、僕たちをこの島に瞬間移動魔法で移したってことか。
 相変わらず説明なく突然移動させるんだな、この人は……



 エイシア様は腕を組み、眉間にシワを寄せて、僕たちを睨みつけている。

 「これより魔術士セルテの、魔法訓練を始める」

 低く淡々とした声、全身から黒いモヤのようなものが湧き出ている恐ろしい雰囲気に、僕の身体は強張ってしまった。


 すると僕の隣にいたスタイズさんの手が僕の背中に触れて、少し力が入った。
 彼の方を見ると口をパクパクさせて「挨拶」と言っているように見えたので、僕は慌ててエイシア様に向かって頭を下げた。
 
 「えっ、えっと。ご、ご指導のほど、よろしくお願いします!」

 「エイシア様、よろしくお願いします」

 僕に続いてスタイズさんが挨拶をすると、エイシア様は目を閉じて両手を腰に当てた。

 「うむ、よろしい」

 ただでさえ怖い人なのに、機嫌を損ねたら何をされるかわからない。
 しっかりしないと。





 僕とスタイズさんは二人並んでエイシア様と向き合ったままで、エイシア様による魔法の説明が始まった。

 「魔法とは、魔力によって発動する、様々な事象を起こすことができる術のことだ」

 何故魔力によって魔法が発動するのかというのは、説明が難しいらしい。
 新たな魔法を開発するような凄い魔術士以外は原理を覚える必要はなく、「そういうもの」だと思って魔法を使えば良いそうだ。



 魔法には色々な種類があるらしく、これからエイシア様が実演してくれることになった。

 エイシア様は真顔で右手を前に出し、掌を僕たちの方に向ける。

 「これが攻撃魔法だ」

 その直後エイシア様の手が光り、同時にスタイズさんの苦しげな声が聞こえた。
 しかし横を見ても彼の姿はなく、振り返ると彼が十メートルくらい後ろに吹っ飛んで、地面に落下して倒れるのが見えたんだ。

 「スタイズさん!!」

 僕は急いで彼の元へと走った。
 彼は呻き声を上げながら身体を起こしたけれど、額が切れて血が流れている姿が痛々しい。

 落下した時に打ったのだろうか。
 僕が自分の上着のポケットからハンカチを出して患部を押さえると、スタイズさんは僕を見て苦々しく笑った。

 「すまないセルテ君。大丈夫だ。大したことはない」

 すると彼の身体が光り、少しずつ怪我が治っていく。
 気配を感じて振り向くと、エイシア様が僕たちに近付いて来るところだった。

 「これが回復魔法だ。あくまで一時的に自己治癒力を高めるだけで、欠損や自然に治らない病気などを治すことはできない」

 その直後、スタイズさんの姿が消えた。
 辺りを見回しても姿が見えず、彼の名前を叫ぶと、小さな声で返事が聞こえてきた。
 声がする方を見ると、エイシア様の頭上のはるか上の方に、彼が浮いていたんだ。

 「これが空間操作魔法。続いて物体操作魔法、防御魔法だ」

 スタイズさんの身体が物凄い勢いで回転しながら落下し、頭から地面に激突する! ……と思ったら、彼の身体が光の膜に包まれて、ポヨンと跳ねた。


 「他にも色々とあるが、これくらいでいいだろう。今日は魔法の中で一番簡単な、放出系攻撃魔法を教えることにする。スタイズ、お前は少し離れろ」

 光の膜は消えて、スタイズさんが地面に倒れた。
 僕は彼の元に駆け寄ったけれど、彼は目が回ったのか、ふらついて起き上がることができないようだ。

 彼は顔をしかめつつも、握りしめた拳を僕の目の前に出してきた。
 
 「私は、大丈夫だ。頑張れ、セルテ君!」

 「はいっ!」


 ついに僕の魔法の訓練が本格的に始まる……!!
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