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第四章:新生活の始まり
50 僕は褒められるのが恥ずかしい
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手紙の続きには、母さんが相続人でなくなったことで僕が唯一の相続人となり、父さんの遺産を全て貰うことができると書いてあった。
本来は銀行に直接行って書類を書かないといけないんだけど、僕が魔術研究所から出ることができないこともあって、特別に郵送での手続きにしてくれるらしい。
以前医務室にいた時に看護士さんに聞いた話を思い出した。
魔術士や職員が貰う給金や研究所内にある各種施設で使えるのは独自のお金で、壁の外で使われる紙幣や硬貨は使うことができないと。
そう考えると、父さんの遺産を貰っても、研究所の外に出ることができない僕は使いようがない。
それなら父さんのように町に寄付して、皆に使ってもらった方がいいんじゃないだろうか?
レオンさんからの手紙の最後には、突然の別れと二度と会えないことを悲しむ言葉が書かれていた。
そして僕のことは忘れない、どうか幸せになってほしいともあった。
その他には、僕が通っていた学校の友達に声をかけて書いて貰ったという寄せ書きや、皆で撮影したという写真が同封されていた。
生まれてからずっと住んでいた町の、親しい人たち。
祭りで一緒に楽しんだこと、学校の皆で遠足に行ったこと、何気ない些細な日常……色々なことを思い浮かべるうちに目が熱くなり、胸が苦しくなってくる。
「はぁ……」
苦しい気持ちを断ち切りたくて、目を閉じて深呼吸をする。
エイシア様が言っていた「置かれた状況でどう生きるかを考えるしかない」という言葉。
僕は望んで魔術士になったわけではないけれど、辞めることができないのなら、受け入れるしかないんだ。
魔術研究所から出ることができないから、魔術士として直接、お世話になった町の皆の役に立つことはできないだろうけれど……頑張ろう。
封筒に中身を戻すと、スタイズさんが優しく僕の頭を撫でてくれた。
「セルテ君、読み終わったのか」
「はい。返事は今度書こうと思います」
「そうか。君からの返事が届けば、皆喜ぶだろうな」
「そ、そうだと、いいですね……」
スタイズさんは相変わらず僕の頭を撫でながら、じっと見つめてくる。
「あ、あの、どうしました?」
「いや……魔術士が白髪で青緑の瞳というのは知っていたが、改めて近くでじっくりと見ると、微かに不思議な色合いで光っているようにも見えるんだよな……」
「そうなんですか? 僕、自分の顔をじっくり見たことがないので……」
魔術士になってから自分の姿をまともに見たのは、今日が初めてだ。
しかも少し離れた位置にある鏡で大まかに見ただけだから、そんなことには全く気が付かなかった。
近距離で見つめ合うのは恥ずかしすぎるので、顔を背けたい。
だけど彼は普通とは違う僕の瞳を見たいのかもと思ったので、頑張って彼の方を向いて目を見開いてみた。
しばらくの間、僕たちは近距離で見つめ合っていた。
そしてスタイズさんは小さく頷いた後、目を細め、頬を緩めてこう言ったんだ。
「綺麗な瞳だ。白い髪も触ってて気持ちが良いな」
彼の落ち着いた声、穏やかな笑顔、優しい手つき……何これ、やばいって!!
「優しい」を通り越して、甘すぎるよ!!
一瞬のうちに身体が熱くなって、頭の中がグチャグチャになって、思考が纏まらない。
どう反応したらいいか分からなくて、僕はぎゅっと目を閉じて下を向き、両手を両膝の上で握り締めた。
スタイズさんの少し困った様子の声が聞こえてきた。
「もしかしてセルテ君は、褒められるのが苦手か?」
「えっ!?」
この人は僕が褒められたことで照れているとか、恥ずかしがっていると、勘違いしているんだろうか。
いや、医務室で再会した時も、格好良いとか僕の声が心地良いとか色々と褒めてくれたので、褒められ過ぎて恥ずかしいというのは確かにあるのだけど。
……そうなんだけど、一番の問題はこの近すぎる距離感だ。
悪気は無いようだし、彼が僕のことを大切に思ってくれているのはよく伝わる。
それに僕だって触れられるのは嫌じゃない……むしろ嬉しいんだけど、常にこんな状態では僕の心が持ちそうにない。
スタイズさんが僕の頭をポンポンと優しく撫でる。
「君が素敵な子だから、ついつい良い所を言ってしまうのだろう。私はこういう人間だから、君もそのうち聞き慣れて、恥ずかしいとか思わなくなるんじゃないかな。ははは」
うう……「素敵な子」って、まただ。
この人は無自覚のうちに、軽率に誉めるような言葉を口にする人なのだろう。
貶されたり、馬鹿にされたり、嫌味を言われたりするよりは、よっぽどいいんだろうけど……
本来は銀行に直接行って書類を書かないといけないんだけど、僕が魔術研究所から出ることができないこともあって、特別に郵送での手続きにしてくれるらしい。
以前医務室にいた時に看護士さんに聞いた話を思い出した。
魔術士や職員が貰う給金や研究所内にある各種施設で使えるのは独自のお金で、壁の外で使われる紙幣や硬貨は使うことができないと。
そう考えると、父さんの遺産を貰っても、研究所の外に出ることができない僕は使いようがない。
それなら父さんのように町に寄付して、皆に使ってもらった方がいいんじゃないだろうか?
レオンさんからの手紙の最後には、突然の別れと二度と会えないことを悲しむ言葉が書かれていた。
そして僕のことは忘れない、どうか幸せになってほしいともあった。
その他には、僕が通っていた学校の友達に声をかけて書いて貰ったという寄せ書きや、皆で撮影したという写真が同封されていた。
生まれてからずっと住んでいた町の、親しい人たち。
祭りで一緒に楽しんだこと、学校の皆で遠足に行ったこと、何気ない些細な日常……色々なことを思い浮かべるうちに目が熱くなり、胸が苦しくなってくる。
「はぁ……」
苦しい気持ちを断ち切りたくて、目を閉じて深呼吸をする。
エイシア様が言っていた「置かれた状況でどう生きるかを考えるしかない」という言葉。
僕は望んで魔術士になったわけではないけれど、辞めることができないのなら、受け入れるしかないんだ。
魔術研究所から出ることができないから、魔術士として直接、お世話になった町の皆の役に立つことはできないだろうけれど……頑張ろう。
封筒に中身を戻すと、スタイズさんが優しく僕の頭を撫でてくれた。
「セルテ君、読み終わったのか」
「はい。返事は今度書こうと思います」
「そうか。君からの返事が届けば、皆喜ぶだろうな」
「そ、そうだと、いいですね……」
スタイズさんは相変わらず僕の頭を撫でながら、じっと見つめてくる。
「あ、あの、どうしました?」
「いや……魔術士が白髪で青緑の瞳というのは知っていたが、改めて近くでじっくりと見ると、微かに不思議な色合いで光っているようにも見えるんだよな……」
「そうなんですか? 僕、自分の顔をじっくり見たことがないので……」
魔術士になってから自分の姿をまともに見たのは、今日が初めてだ。
しかも少し離れた位置にある鏡で大まかに見ただけだから、そんなことには全く気が付かなかった。
近距離で見つめ合うのは恥ずかしすぎるので、顔を背けたい。
だけど彼は普通とは違う僕の瞳を見たいのかもと思ったので、頑張って彼の方を向いて目を見開いてみた。
しばらくの間、僕たちは近距離で見つめ合っていた。
そしてスタイズさんは小さく頷いた後、目を細め、頬を緩めてこう言ったんだ。
「綺麗な瞳だ。白い髪も触ってて気持ちが良いな」
彼の落ち着いた声、穏やかな笑顔、優しい手つき……何これ、やばいって!!
「優しい」を通り越して、甘すぎるよ!!
一瞬のうちに身体が熱くなって、頭の中がグチャグチャになって、思考が纏まらない。
どう反応したらいいか分からなくて、僕はぎゅっと目を閉じて下を向き、両手を両膝の上で握り締めた。
スタイズさんの少し困った様子の声が聞こえてきた。
「もしかしてセルテ君は、褒められるのが苦手か?」
「えっ!?」
この人は僕が褒められたことで照れているとか、恥ずかしがっていると、勘違いしているんだろうか。
いや、医務室で再会した時も、格好良いとか僕の声が心地良いとか色々と褒めてくれたので、褒められ過ぎて恥ずかしいというのは確かにあるのだけど。
……そうなんだけど、一番の問題はこの近すぎる距離感だ。
悪気は無いようだし、彼が僕のことを大切に思ってくれているのはよく伝わる。
それに僕だって触れられるのは嫌じゃない……むしろ嬉しいんだけど、常にこんな状態では僕の心が持ちそうにない。
スタイズさんが僕の頭をポンポンと優しく撫でる。
「君が素敵な子だから、ついつい良い所を言ってしまうのだろう。私はこういう人間だから、君もそのうち聞き慣れて、恥ずかしいとか思わなくなるんじゃないかな。ははは」
うう……「素敵な子」って、まただ。
この人は無自覚のうちに、軽率に誉めるような言葉を口にする人なのだろう。
貶されたり、馬鹿にされたり、嫌味を言われたりするよりは、よっぽどいいんだろうけど……
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