34 / 90
第三章:スタイズとの出会い
33 僕は母さんのような人間にはなりたくない
しおりを挟む
エイシア様は僕と相性が良さそうな人を見つけたと言っていたけれど、どんな流れで決まったんだろう?
気になったのでスタイズさんに聞いてみた。
「上官に命じられて、今朝よく分からないままにここに来たら、魔術士のエイシア様と魔術研究所の所長のファリウス様がいらっしゃってね。色々と説明を受けた上で、新しい魔術士のパートナーになって欲しいと頼まれたんだ」
ええええええ!????
今朝ってまだ数時間しか経ってないし、事前に話があったわけでもないようだし、凄く急な話じゃないか!
それに魔術研究所の所長のファリウス様は、王弟殿下だと看護士さんから聞いたことがある。
世界魔術士協会本部の凄い魔術士と王族直々の「お願い」なんて、普通の人にとっては「命令」と同じようなもののはず。
一応、面談という形を取ってはいるけれど、スタイズさんの方から断ることなんてできないだろう。
実は命令だからここに来ただけで、内心は魔術士のパートナーになんてなりたくないと思っているとしたら……
今まで優しくしてくれていたのは、魔術士である僕の機嫌を損ねないように気を使っていただけだとしたら……
そう思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまったんだ。
自分だけの都合で他人の人生を大きく変えるなんて、母さんや叔母さんと一緒じゃないか!
そんなのは絶対に駄目だ!
「あのっ、スタイズさん! もし僕の、パートナーになるのが、嫌だったら、え、遠慮なく、言って下さいね! そちらから、断ることが、できないのでしたら、僕が合わなかったと、断りますので……」
「えっ?」
「だって、いきなり、こんな知らない子どもと一緒に、研究所の中で、生活しないといけないとか、嫌じゃないですか? スタイズさんにも、壁の外に、仲の良い友人が、いらっしゃる、でしょうし……」
僕は、他人が積み重ねてきた人生を捨ててまで一緒になるような価値のある人間じゃない。
こんな優しくて良い人の人生を壊したくない、今ならまだ間に合う、パートナーは研究所の中の適当な人で妥協する……僕は頭を下げて、必死に想いを伝えた。
スタイズさんは黙って僕の言葉を聞いてくれているけれど、否定されないってことは、やっぱりそうなんだ……
ホッとしたと同時に、この機会を逃してしまうと、こんなに優しくて良い人にはもう巡り合えないんじゃないのか、とも思ってしまった。
悲しいような、よく分からない感情で頭の中がいっぱいになり、目が熱くなってきた。
……すると、頭を優しく撫でられたんだ。
「セルテ君、別に私は嫌ではないのだが?」
「!?」
スタイズさんの言葉に驚いた僕は、恐る恐る顔を上げて彼を見た。
彼は少し困ったような、でも優しい表情をしている。
そして、彼は穏やかな声で語り始めたんだ。
「元々私は、近いうちに軍を辞めて、孤児を引き取ってのんびり暮らすことを考えていた。そして今回、かつて関わりがあったカーレム先生の子どもである君が置かれた状況を知り、放っておくことはできないと思ってしまった。これも何かの縁だろうと思って、引き受けるつもりでいるんだ」
「でも……そんな……」
「仲が良い友人や同僚・部下とは離れることにはなるが、これまでも配置換えや家庭の事情で離れてしまい、文通だけでの交流になった人が何人もいる。同じ空の下で無事に生きていると分かれば、それだけで十分だ。それに魔術研究所の中で新しい人間関係もできるだろうから、私は悲観していないんだ」
そして彼は僕の方に向き直り、僕の両手を優しく支え持ってくれた。
「セルテ君。君さえ良ければ、私は君と家族になって、君を守り、支え、これからの人生を共に歩みたいと思っている……どうだろうか?」
気になったのでスタイズさんに聞いてみた。
「上官に命じられて、今朝よく分からないままにここに来たら、魔術士のエイシア様と魔術研究所の所長のファリウス様がいらっしゃってね。色々と説明を受けた上で、新しい魔術士のパートナーになって欲しいと頼まれたんだ」
ええええええ!????
今朝ってまだ数時間しか経ってないし、事前に話があったわけでもないようだし、凄く急な話じゃないか!
それに魔術研究所の所長のファリウス様は、王弟殿下だと看護士さんから聞いたことがある。
世界魔術士協会本部の凄い魔術士と王族直々の「お願い」なんて、普通の人にとっては「命令」と同じようなもののはず。
一応、面談という形を取ってはいるけれど、スタイズさんの方から断ることなんてできないだろう。
実は命令だからここに来ただけで、内心は魔術士のパートナーになんてなりたくないと思っているとしたら……
今まで優しくしてくれていたのは、魔術士である僕の機嫌を損ねないように気を使っていただけだとしたら……
そう思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまったんだ。
自分だけの都合で他人の人生を大きく変えるなんて、母さんや叔母さんと一緒じゃないか!
そんなのは絶対に駄目だ!
「あのっ、スタイズさん! もし僕の、パートナーになるのが、嫌だったら、え、遠慮なく、言って下さいね! そちらから、断ることが、できないのでしたら、僕が合わなかったと、断りますので……」
「えっ?」
「だって、いきなり、こんな知らない子どもと一緒に、研究所の中で、生活しないといけないとか、嫌じゃないですか? スタイズさんにも、壁の外に、仲の良い友人が、いらっしゃる、でしょうし……」
僕は、他人が積み重ねてきた人生を捨ててまで一緒になるような価値のある人間じゃない。
こんな優しくて良い人の人生を壊したくない、今ならまだ間に合う、パートナーは研究所の中の適当な人で妥協する……僕は頭を下げて、必死に想いを伝えた。
スタイズさんは黙って僕の言葉を聞いてくれているけれど、否定されないってことは、やっぱりそうなんだ……
ホッとしたと同時に、この機会を逃してしまうと、こんなに優しくて良い人にはもう巡り合えないんじゃないのか、とも思ってしまった。
悲しいような、よく分からない感情で頭の中がいっぱいになり、目が熱くなってきた。
……すると、頭を優しく撫でられたんだ。
「セルテ君、別に私は嫌ではないのだが?」
「!?」
スタイズさんの言葉に驚いた僕は、恐る恐る顔を上げて彼を見た。
彼は少し困ったような、でも優しい表情をしている。
そして、彼は穏やかな声で語り始めたんだ。
「元々私は、近いうちに軍を辞めて、孤児を引き取ってのんびり暮らすことを考えていた。そして今回、かつて関わりがあったカーレム先生の子どもである君が置かれた状況を知り、放っておくことはできないと思ってしまった。これも何かの縁だろうと思って、引き受けるつもりでいるんだ」
「でも……そんな……」
「仲が良い友人や同僚・部下とは離れることにはなるが、これまでも配置換えや家庭の事情で離れてしまい、文通だけでの交流になった人が何人もいる。同じ空の下で無事に生きていると分かれば、それだけで十分だ。それに魔術研究所の中で新しい人間関係もできるだろうから、私は悲観していないんだ」
そして彼は僕の方に向き直り、僕の両手を優しく支え持ってくれた。
「セルテ君。君さえ良ければ、私は君と家族になって、君を守り、支え、これからの人生を共に歩みたいと思っている……どうだろうか?」
24
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。


兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる