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第一章:セルテと母親
14 僕の僅かな期待は砕かれる
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洗濯と布団干しを終えた僕は、自室に戻ってベッドに寝転がる。
自分の身長より大きなシーツと布団カバーを熱心に洗ったことで、妙な達成感はあるけれど、結構疲れてしまった。
服や下着とか小さいものならともかく、大きなものは洗濯屋さんにお願いした方がいいな……。
仕事として存在するんだから、利用するのは別に悪いことじゃない。
昨日役場から新聞社の方に連絡が行ったそうで、今朝の新聞のお知らせ欄に父さんが亡くなったことが載ったらしい。
昼を過ぎたあたりから、それを見た近所の人たちが次々と家に来てくれたんだ。
父さんや僕のことを気にかけてくれるのは有難いと思う。
けれど、皆バラバラに来るからずっとその対応をしないといけなくなって、結局午後はそれだけで終わってしまった。
小さな子どもじゃないんだし、見知った人だからこそ、失礼な対応はしたくない。
慰めの言葉をかけてくれる人に、感謝の言葉を述べてお辞儀をする。
そうして皆に気を使い続けたこともあって、夕方になる頃にはヘトヘト状態で、二階にある自分の寝室に戻る気力がわかなかった。
僕は家の出入り口に近い応接室のソファに横になり、貰ったお菓子をもそもそと口にする。
行儀が悪い行為だとは思うけど、今は僕一人しかいないんだし、まぁ良いよね……
気が付くと、僕の身体には布団――昼間に干した父さんのものが掛けられていて、テーブルには乾いたシーツと布団カバーが乱雑に置かれていた。
きっと帰ってきた母さんが取り込んでくれたのだろう。
お礼を言おうと思い部屋を出ると、丁度母さんが廊下を歩いてくるところだった。
立派な上着を着ていて、またこれからどこかに外出するようだ。
「あの、母さん。布団とか色々、ありがとう」
僕の言葉に母さんは、大きなため息をつき、顔を顰める。
「アンタが風邪をひいたり体調を崩したりすると、看病しないといけなくなって面倒だからってだけよ。夕食は適当に作ったのを台所に置いてるから、後で食べなさい」
忌々しそうな目で僕を見る母さんに、僕の胸が苦しくなる。
愛情からではなくて、保身からの行為だろうというのは、分かっていたはずなのに。
もしかしたら心のどこかで、少しは僕のことを愛してくれるかもという期待が、残っていたのかもしれない。
「母さん、どこかに出かけるの?」
「あの人が足を骨折して困っているの。これから私は彼の世話をしに行って今晩は帰らないから、アンタはちゃんと一人で過ごしときなさい」
「そっか、わかった。外は暗いから気を付けて……」
僕の言葉に返事をすることはなく、母さんは速足で家を出て行ってしまった。
母さんの恋人は、骨折して歩けなくなったのか。
不倫したり、僕に暴力を振ったのを神様が見ていて、罰を与えて下さったのかな?
とりあえず当分の間は、この家に母さんの恋人が来ることはなさそうなので、平穏な日々を過ごせそうだ。
実験の日まではまだ少しあるとはいえ、体調管理には気を付けて、やるべきことをやらないと。
自分の身長より大きなシーツと布団カバーを熱心に洗ったことで、妙な達成感はあるけれど、結構疲れてしまった。
服や下着とか小さいものならともかく、大きなものは洗濯屋さんにお願いした方がいいな……。
仕事として存在するんだから、利用するのは別に悪いことじゃない。
昨日役場から新聞社の方に連絡が行ったそうで、今朝の新聞のお知らせ欄に父さんが亡くなったことが載ったらしい。
昼を過ぎたあたりから、それを見た近所の人たちが次々と家に来てくれたんだ。
父さんや僕のことを気にかけてくれるのは有難いと思う。
けれど、皆バラバラに来るからずっとその対応をしないといけなくなって、結局午後はそれだけで終わってしまった。
小さな子どもじゃないんだし、見知った人だからこそ、失礼な対応はしたくない。
慰めの言葉をかけてくれる人に、感謝の言葉を述べてお辞儀をする。
そうして皆に気を使い続けたこともあって、夕方になる頃にはヘトヘト状態で、二階にある自分の寝室に戻る気力がわかなかった。
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気が付くと、僕の身体には布団――昼間に干した父さんのものが掛けられていて、テーブルには乾いたシーツと布団カバーが乱雑に置かれていた。
きっと帰ってきた母さんが取り込んでくれたのだろう。
お礼を言おうと思い部屋を出ると、丁度母さんが廊下を歩いてくるところだった。
立派な上着を着ていて、またこれからどこかに外出するようだ。
「あの、母さん。布団とか色々、ありがとう」
僕の言葉に母さんは、大きなため息をつき、顔を顰める。
「アンタが風邪をひいたり体調を崩したりすると、看病しないといけなくなって面倒だからってだけよ。夕食は適当に作ったのを台所に置いてるから、後で食べなさい」
忌々しそうな目で僕を見る母さんに、僕の胸が苦しくなる。
愛情からではなくて、保身からの行為だろうというのは、分かっていたはずなのに。
もしかしたら心のどこかで、少しは僕のことを愛してくれるかもという期待が、残っていたのかもしれない。
「母さん、どこかに出かけるの?」
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「そっか、わかった。外は暗いから気を付けて……」
僕の言葉に返事をすることはなく、母さんは速足で家を出て行ってしまった。
母さんの恋人は、骨折して歩けなくなったのか。
不倫したり、僕に暴力を振ったのを神様が見ていて、罰を与えて下さったのかな?
とりあえず当分の間は、この家に母さんの恋人が来ることはなさそうなので、平穏な日々を過ごせそうだ。
実験の日まではまだ少しあるとはいえ、体調管理には気を付けて、やるべきことをやらないと。
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