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第一章:セルテと母親
4 僕は母さんのぼやきに同意できない
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葬儀が終わった僕たちは、教会の裏にある火葬場に向かった。
昔は土葬が一般的だったらしいけど、五十年ほど前からは魔道具――魔法が込められた不思議な道具を使って高温で焼いて灰にすることが増えたらしい。
遺灰を壺に入れたら、手元に置いていつでも故人の存在を感じることができる。
また、遺族に渡した後の残りの遺灰は、他の人の遺灰と一緒に合同墓地に入れられて、いつでも誰でも死者へ祈りを捧げることが出来る。
遺灰は海や山に撒いても良いとのこと。
貴族とか偉い人は昔ながらの土葬を選ぶ人が多いけど、庶民の大半は火葬を選ぶそうだ。
灰になるまで三十分くらいかかるとのことで、僕と母さんは休憩室でテーブルの席に着いて待つことになった。
母さんは足を組んでテーブルに片肘をつき、不満げな表情でぼやき始める。
「はぁ、人が死ぬのも面倒なものね。ちょっとムニャムニャと言って、死体を焼いて灰にするだけで、こんなにかかるなんて。ぼったくりもいいところじゃない」
そう言って、葬儀の代金の請求書をヒラヒラと僕に見せて来た。
……何を言っているんだこの人は。
早朝から神父さんたち五人に来てもらって、色々としてもらったんだから、それなりにお金がかかるのは当然じゃないか。
請求書を見る限りでは、父さんが持っているお金で充分支払える額だ。
最期の時ぐらい気分良く払えばいいのに。
あ、そうか、遺産が少しでも減るのが気に食わないんだろうな。
僕は母さんの言葉に同意をしたくなくて、無言で視線を休憩室の外へと向けた。
「セルテ。落ち着いたらあの家を売り払って、どこか別の町に家を買うつもりよ。良い造りの家だから、結構な値段が付くんじゃないかしら」
母さんの言葉に、僕は勢いよく席を立ち、睨みつける。
「はああっ!? あの家には父さんとの思い出がつまっているんだ! もし母さんが出ていくとしても、僕は一人であの家に住み続ける! 他の人に売るなんて、絶対に許さないからな!!」
怒りに震える僕とは対照的に、母さんはヘラヘラと笑っている。
「父さんの財産は、全て妻である私のもの。どうしようと私の勝手でしょ。ようやく自由を手に入れることができた私は、知っている人のいない土地で真に愛する人と新しい生活を送るのよ♡♡♡」
真に愛する人……それはきっと恋人のことだろう。
目の前にいる、葬儀の直後に両頬に手を当てて嬉しそうに浮気相手を想う女に、僕は嫌悪感を抱いてしまった。
そして顔が引きつったのを帽子で隠す為に下を向き、また椅子に座った。
「あ、そうだ。アンタのことは妹に引き取ってもらう様に頼んだから。親権が妹に移ったら親子の縁は切れるわね。あー、ホントせいせいするわ!」
「えっ……」
母さんの妹――僕にとって叔母さんにあたる人なんだけど、一度も会ったことはない。
何か遠くにある国営の施設に勤めているらしい、というのは聞いたことがあるけれど、それ以外のことは何も知らないんだ。
父さんとの思い出がつまった生家を出て、赤の他人同然の人と暮らさないといけないなんて。
そんなことはしたくないのに。
自分の無力さに、僕はまた悲しくなるのだった。
昔は土葬が一般的だったらしいけど、五十年ほど前からは魔道具――魔法が込められた不思議な道具を使って高温で焼いて灰にすることが増えたらしい。
遺灰を壺に入れたら、手元に置いていつでも故人の存在を感じることができる。
また、遺族に渡した後の残りの遺灰は、他の人の遺灰と一緒に合同墓地に入れられて、いつでも誰でも死者へ祈りを捧げることが出来る。
遺灰は海や山に撒いても良いとのこと。
貴族とか偉い人は昔ながらの土葬を選ぶ人が多いけど、庶民の大半は火葬を選ぶそうだ。
灰になるまで三十分くらいかかるとのことで、僕と母さんは休憩室でテーブルの席に着いて待つことになった。
母さんは足を組んでテーブルに片肘をつき、不満げな表情でぼやき始める。
「はぁ、人が死ぬのも面倒なものね。ちょっとムニャムニャと言って、死体を焼いて灰にするだけで、こんなにかかるなんて。ぼったくりもいいところじゃない」
そう言って、葬儀の代金の請求書をヒラヒラと僕に見せて来た。
……何を言っているんだこの人は。
早朝から神父さんたち五人に来てもらって、色々としてもらったんだから、それなりにお金がかかるのは当然じゃないか。
請求書を見る限りでは、父さんが持っているお金で充分支払える額だ。
最期の時ぐらい気分良く払えばいいのに。
あ、そうか、遺産が少しでも減るのが気に食わないんだろうな。
僕は母さんの言葉に同意をしたくなくて、無言で視線を休憩室の外へと向けた。
「セルテ。落ち着いたらあの家を売り払って、どこか別の町に家を買うつもりよ。良い造りの家だから、結構な値段が付くんじゃないかしら」
母さんの言葉に、僕は勢いよく席を立ち、睨みつける。
「はああっ!? あの家には父さんとの思い出がつまっているんだ! もし母さんが出ていくとしても、僕は一人であの家に住み続ける! 他の人に売るなんて、絶対に許さないからな!!」
怒りに震える僕とは対照的に、母さんはヘラヘラと笑っている。
「父さんの財産は、全て妻である私のもの。どうしようと私の勝手でしょ。ようやく自由を手に入れることができた私は、知っている人のいない土地で真に愛する人と新しい生活を送るのよ♡♡♡」
真に愛する人……それはきっと恋人のことだろう。
目の前にいる、葬儀の直後に両頬に手を当てて嬉しそうに浮気相手を想う女に、僕は嫌悪感を抱いてしまった。
そして顔が引きつったのを帽子で隠す為に下を向き、また椅子に座った。
「あ、そうだ。アンタのことは妹に引き取ってもらう様に頼んだから。親権が妹に移ったら親子の縁は切れるわね。あー、ホントせいせいするわ!」
「えっ……」
母さんの妹――僕にとって叔母さんにあたる人なんだけど、一度も会ったことはない。
何か遠くにある国営の施設に勤めているらしい、というのは聞いたことがあるけれど、それ以外のことは何も知らないんだ。
父さんとの思い出がつまった生家を出て、赤の他人同然の人と暮らさないといけないなんて。
そんなことはしたくないのに。
自分の無力さに、僕はまた悲しくなるのだった。
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