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第一章:セルテと母親

3 僕と母さんだけの寂しい葬儀

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 神父さんが祈りの言葉を唱えながら先頭を歩き、続いて四人の修道士さんが父さんが入った棺を担いで、その後ろに黒い帽子を被ってマントをつけた僕と母さんが並び、ゆっくりと教会へと向かう。


 以前、町中で同じような光景をみたことがある。
 その時は昼間だったということもあり、沢山の通行人が一行に温かい言葉をかけていた。
 今住んでいるのは小さな町なので、良くも悪くも皆、知り合いみたいなところがあるからだろう。

 しかし今はまだ薄暗い時間帯ということもあって、辺りには人気はなく、ひっそりとしている。
 巡回中の兵士さんが僕たちに気付いて頭を下げてくれたくらいで、他の人には知られないまま教会に着いて、葬儀が行われるんだろうな。





 教会に着いた僕たちは正面にある大聖堂ではなく、横の方にある小さな部屋へと進んだ。
 小さな聖像の前にある台に棺が置かれ、修道士さんたちが葬儀の準備を始める。


 父さんと母さんは、訳あって実家とは疎遠になっているので、葬儀に来てくれるような親戚はいない。
 だから葬儀に参加するのは僕と母さんだけだ。

 父さんは国に五つしかない高等学校のうちの一つ、トルヴァス学院に勤める歴史学者だった。
 真面目で温和な人柄で、沢山の同僚や部下、友人から慕われていたのに。
 そんな素晴らしい人の最期がこんな寂しいものだなんて、あんまりじゃないか。

 葬儀が終わったら、分かる範囲で父さんが亡くなったことについての連絡を入れよう。
 そう思いつつ、僕は母さんと二人並び、無言で葬儀が始まるのを待った。





 光が差し込む小さな部屋で、聖像の方を向いた神父さんが頭を下げ、祈りの言葉を長々と唱えている。


 時々、父さんに連れられて教会の礼拝に行ったことはあるけれど、祈りの言葉は自分の知らない言語の意味不明なもので、毎回退屈だなと思っていた。

 そして今も、非日常的な状況で、よく分からない祈りの言葉を聞いているうちに、妙に冷静になってしまった。
 視線だけを動かして、棺が置かれている台の両側に飾られている花の数を数えてみたり、目の前にいる神父さんの服の模様を視線でなぞってみたり。
 頭を下げたままで何もできない退屈さを、誤魔化そうとしていた。
 


「……人生の旅路を終えたカーレム・ラファレトが、安らかな眠りにつき、いつの日か……」

 父さんの名前が聞こえた瞬間、現実に引き戻された。
 今まで知らない言語で話していた神父さんが、急に僕が知っている言語で話しだしたんだ。


 病気の苦しみから解放された父さんが死後の世界で幸せであるように願う言葉に、目の奥が熱くなって、また涙が零れてしまう。


 隣で母さんが溜息をつく音が聞こえた。
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