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197話 『絆の邂逅①』
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「はぁはぁはぁ……お婆ちゃんッ! 今ね、神様から祝福があったよー!!」
勢いよく家の扉を開け中に入ると、片付けをしていたお婆ちゃんがいそいそとエプロンで手を拭きながら歩いてきた。
「お~よかったのぅ。何をもらったんじゃ?」
「えっと、えっと……!! なんだったっけ!? どうしよう忘れちゃった!!!」
「ほれ、ゆっくり深呼吸して――さぁ、何が浮かんどる?」
興奮を抑えるようにゆっくり息を整え頭に浮かぶ文字を見つめる。その瞬間、確かにあったはずの文字が崩れていく。
「あれ? 消えちゃった……」
「どういうことじゃ? 職業が消えるなぞありえないはずじゃが」
「嘘じゃないよ! 本当にさっき祝福が…………もしかして……神様に嫌われたのかな……」
「きっと何か事情があったんじゃろて。ほれ、茶でも飲んで一息付けたらどうじゃ」
お婆ちゃんがいれてくれるお茶はとても美味しく、いつもなら大喜びで椅子に座るところだがなぜか気持ちがのらない。
お婆ちゃんはそんな私を慰めるように何度も声をかけてくれたが私の耳には届いていなかった――。
翌朝、いつもなら起きてるはずのお婆ちゃんの姿が見当たらない。
「お婆ちゃん? 朝だよー――」
「ゴホッゴホッ……!!」
「お婆ちゃん!? どうしたの!」
「おぉっ……風邪でもひいたようじゃ……そう心配せんでもえぇ、うつると悪いから部屋から出てなさい……」
寝ればよくなるといって布団を被るお婆ちゃんは苦しそうに咳をしている。いわれた通り部屋からでると一人立ち尽くす。時間が過ぎていきふとヒヤリとしたものがよぎる。
このままお婆ちゃんがいなくなったら――
そうだ、あの棚に薬があったはず……!
椅子を引っ張り出し足場にすると棚の上段を見渡す。だがそれらしいものはなく、見慣れた食器が並んでいるだけだった。
助けを呼ぼうにも村に行ってはいけないといわれている、だけどこのままじゃ……。
閉められた扉の先から何度かお婆ちゃんの咳が聞こえた瞬間、鞄を取り家を出る。すでに日は登りきっているもののまだ空気が冷えた薄暗い森を駆けていく。
両親は私を置いて出ていった、もしお婆ちゃんまでいなくなったら――不安が一層高まり息苦しさと同時に孤独が胸を締めつける。
半ばパニックになりながらも道の先が開けているのを確認すると反射的に木の陰へと隠れた。
あと何歩か進めば村に入ってしまう……これ以上進めばお婆ちゃんとの約束を破ることになる……。
今まで良い子になろうと頑張ってきた、そうすればいつかお父さんにもお母さんにも会えるだろうと信じて。
しかし、すでに私の心は孤独と疲労で押しつぶされていた。救いを求めるようにゆっくり慎重に近づいていく。
「ねぇ君、村の子じゃないよね? どこからきたの?」
「きゃッ!?」
急に聞こえた声に身体がビクリと反応し咄嗟に後ろを振り返ると男の子の顔が一瞬だけ見える。しかし、木の根に足をとられた私はそのまま空を仰いだ。
「――危ないッ!!」
助けを求めようと無意識に伸ばした手を男の子が掴むが一緒に倒れてしまう。ゆっくりと身体の緊張を解くと地面との間に何かがある。
上体を起こし見てみると男の子が下敷きになっており、私の顔をみるなり慌てて両手の掌をみせ振りだした。
「ご、ごめん! わざとじゃないんだ、この身体じゃまだ支えきれなくて――えぇっと怪我はない? 大丈夫?」
その声はどこかで聞いたような、まるで何度も聞いたことがあるように不思議な感覚になっていく。
馬乗りのような状態でジッと動かずにいると私が邪魔で動けないのだろう、彼の顔は影でよくみえなかったが、そのまま何度も心配する声が向けられていた。
ゆっくりと陽に照らされ影が消えると男の子の顔がはっきり見えてくる。
「あ、あれ……っ?」
見下ろした男の子の顔に一滴、また一滴と水滴が落ちていく。雨が降るような天気ではない、おかしいと気づいたのは男の子が慌てながら言葉を放った後だった。
「どこか痛いの!? すぐ手当てしてあげるから! ほ、ほらっ、泣かないでッ!」
泣いている? 私が? どうして――。
涙が止まらないまま、なぜか心はさっきまであった締め付けられるような恐怖や孤独感はなくなっており、むしろ安堵しているといってもよかった。
この子なら助けてくれる……そう思い勇気を振り絞る。
「お婆ちゃんが熱で……お薬、なくて……っ」
「そうだったのか……大丈夫、俺がなんとかするよ」
男の子は私の頬に手を添え涙を拭い立ち上がると、先ほどまで慌てていた子どもとは雰囲気がうって変わり、落ちていた私の鞄を拾うと汚れをとり優しく手渡してくれた。
「すぐに薬をもらいにいこう、歩ける?」
「あっ……」
村にいってはいけない――すでに男の子に見つかってしまったが、逆にいえばまだこの子にしかみつかっていない。
そんな都合を察してくれたのかわからないが男の子は森の奥に目をやると視線を戻した。
「――よし、少しここで待ってて、薬をもらってくるから!」
走り去っていくその姿に既視感が拭えないまま、私は木の陰から男の子の到着を待った。
勢いよく家の扉を開け中に入ると、片付けをしていたお婆ちゃんがいそいそとエプロンで手を拭きながら歩いてきた。
「お~よかったのぅ。何をもらったんじゃ?」
「えっと、えっと……!! なんだったっけ!? どうしよう忘れちゃった!!!」
「ほれ、ゆっくり深呼吸して――さぁ、何が浮かんどる?」
興奮を抑えるようにゆっくり息を整え頭に浮かぶ文字を見つめる。その瞬間、確かにあったはずの文字が崩れていく。
「あれ? 消えちゃった……」
「どういうことじゃ? 職業が消えるなぞありえないはずじゃが」
「嘘じゃないよ! 本当にさっき祝福が…………もしかして……神様に嫌われたのかな……」
「きっと何か事情があったんじゃろて。ほれ、茶でも飲んで一息付けたらどうじゃ」
お婆ちゃんがいれてくれるお茶はとても美味しく、いつもなら大喜びで椅子に座るところだがなぜか気持ちがのらない。
お婆ちゃんはそんな私を慰めるように何度も声をかけてくれたが私の耳には届いていなかった――。
翌朝、いつもなら起きてるはずのお婆ちゃんの姿が見当たらない。
「お婆ちゃん? 朝だよー――」
「ゴホッゴホッ……!!」
「お婆ちゃん!? どうしたの!」
「おぉっ……風邪でもひいたようじゃ……そう心配せんでもえぇ、うつると悪いから部屋から出てなさい……」
寝ればよくなるといって布団を被るお婆ちゃんは苦しそうに咳をしている。いわれた通り部屋からでると一人立ち尽くす。時間が過ぎていきふとヒヤリとしたものがよぎる。
このままお婆ちゃんがいなくなったら――
そうだ、あの棚に薬があったはず……!
椅子を引っ張り出し足場にすると棚の上段を見渡す。だがそれらしいものはなく、見慣れた食器が並んでいるだけだった。
助けを呼ぼうにも村に行ってはいけないといわれている、だけどこのままじゃ……。
閉められた扉の先から何度かお婆ちゃんの咳が聞こえた瞬間、鞄を取り家を出る。すでに日は登りきっているもののまだ空気が冷えた薄暗い森を駆けていく。
両親は私を置いて出ていった、もしお婆ちゃんまでいなくなったら――不安が一層高まり息苦しさと同時に孤独が胸を締めつける。
半ばパニックになりながらも道の先が開けているのを確認すると反射的に木の陰へと隠れた。
あと何歩か進めば村に入ってしまう……これ以上進めばお婆ちゃんとの約束を破ることになる……。
今まで良い子になろうと頑張ってきた、そうすればいつかお父さんにもお母さんにも会えるだろうと信じて。
しかし、すでに私の心は孤独と疲労で押しつぶされていた。救いを求めるようにゆっくり慎重に近づいていく。
「ねぇ君、村の子じゃないよね? どこからきたの?」
「きゃッ!?」
急に聞こえた声に身体がビクリと反応し咄嗟に後ろを振り返ると男の子の顔が一瞬だけ見える。しかし、木の根に足をとられた私はそのまま空を仰いだ。
「――危ないッ!!」
助けを求めようと無意識に伸ばした手を男の子が掴むが一緒に倒れてしまう。ゆっくりと身体の緊張を解くと地面との間に何かがある。
上体を起こし見てみると男の子が下敷きになっており、私の顔をみるなり慌てて両手の掌をみせ振りだした。
「ご、ごめん! わざとじゃないんだ、この身体じゃまだ支えきれなくて――えぇっと怪我はない? 大丈夫?」
その声はどこかで聞いたような、まるで何度も聞いたことがあるように不思議な感覚になっていく。
馬乗りのような状態でジッと動かずにいると私が邪魔で動けないのだろう、彼の顔は影でよくみえなかったが、そのまま何度も心配する声が向けられていた。
ゆっくりと陽に照らされ影が消えると男の子の顔がはっきり見えてくる。
「あ、あれ……っ?」
見下ろした男の子の顔に一滴、また一滴と水滴が落ちていく。雨が降るような天気ではない、おかしいと気づいたのは男の子が慌てながら言葉を放った後だった。
「どこか痛いの!? すぐ手当てしてあげるから! ほ、ほらっ、泣かないでッ!」
泣いている? 私が? どうして――。
涙が止まらないまま、なぜか心はさっきまであった締め付けられるような恐怖や孤独感はなくなっており、むしろ安堵しているといってもよかった。
この子なら助けてくれる……そう思い勇気を振り絞る。
「お婆ちゃんが熱で……お薬、なくて……っ」
「そうだったのか……大丈夫、俺がなんとかするよ」
男の子は私の頬に手を添え涙を拭い立ち上がると、先ほどまで慌てていた子どもとは雰囲気がうって変わり、落ちていた私の鞄を拾うと汚れをとり優しく手渡してくれた。
「すぐに薬をもらいにいこう、歩ける?」
「あっ……」
村にいってはいけない――すでに男の子に見つかってしまったが、逆にいえばまだこの子にしかみつかっていない。
そんな都合を察してくれたのかわからないが男の子は森の奥に目をやると視線を戻した。
「――よし、少しここで待ってて、薬をもらってくるから!」
走り去っていくその姿に既視感が拭えないまま、私は木の陰から男の子の到着を待った。
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