上 下
190 / 201

190話 『期日③』

しおりを挟む
 時乃回廊へ戻ると話を聞いていたのか、すでに議論を始められるように全員が集まっていた。


「まさかお前メアが失敗するとはな。ま、これでお前も普通の人間ってことがわかって安心したぜ」

「言ってくれるわね。これでもあなたたちより世界を見てきたつもりだったんだけど、私もまだまだねぇ」


 ヒュノスは揶揄って見せたが別に責めようとする者は誰一人としていない。
 そもそもメアさんがいなければ、俺たちは今頃一切何も知ることなく、アビスによる滅亡を待ちながら過ごしていた。
 ここからは俺たちも一丸となって解決策を見出さなければならないだろう。


「今の歴史じゃレニ君は死んでる、もし彼の犠牲を覚悟でアビスを倒したとしても、今度は彼女リリアが生きられない。ならばどうするか……か」


 ラーティアさんが確認するようにポツリと呟く。言うなれば最後の相手は運命そのもの、俺が死ねばリリアを守る守護者がいなくなってしまう――そこまで考えた俺にふと妙案が降りる。


「あ、だったら俺の変わりにリリアを守れる守護者を探すってのはどうなんだ? ミントなら俺たちが生まれた時代でも生きていたはずだ。魔力も持っているし、契約がなくたって十分助けることができるだろ?」


 我ながらなかなかいい案だと思ったがそれを聞いた周りの反応はいまいちだった。代表するようにミントが俺の前に出てくる。


「君、それ本気でいってるの?」

「当たり前だろ。俺のことはともかくとして、まずは世界の平和とリリアが生きられる状況を組み立てなければいけない。そのうえで俺が生きていける方法があればいいんだが……とにかく、今は優先すべき順を間違っては――」

「パパのバカぁぁぁああああああああッ!!!」

「ぐぇあッ!?」


 助走をつけた久々のシャルアタックはなかなかの衝撃を俺に与えた。ダメージになるぎりぎり手前のせいか、ものまね士の恩恵を受けることなく、俺はその場に跪く。
 顔をあげると目の前には腰に両手を当て仁王立ちするシャルが見下ろしていた。


「シャ、シャル……今まじめな話をだな……」

「みんなで助からなきゃダメなの! わかってるッ!?」


 だからそれを今探してるわけで……ミントに対し何かいってくれと視線を向けると宙にいたはずのミントの姿が消えていた。


「あーはっはっはっは!! ひー……は、腹が痛いッ!!」


 シャルの後ろから声がすると、ミントは隠れるように地面を叩いていた。そのまま息を整えるとシャルを指差しリリアをみた。


「ね、ねぇ! この子、すっごく君に似ていると思わない? ……ぷっ、あっはははははは!!!」

「わ、私あんな怒り方してたっけ?」


 シャルを叱っているリリアにそっくりだ。思い出しつい顔が緩むとシャルが可愛い顔でキッと睨んでくる。


「パパ、ちゃんと聞きなさい! もう! ママからもいってあげてー」

「えッ!?」


 出鼻を挫かれたためか、言葉を探しつつもその表情は真剣そのものだった。先ほどまで笑っていたミントも落ち着いたのかリリアと一緒にシャルの横にくる。


「わ、私はレニ君とずっと一緒に旅をしてきた……だから、これからもずっと一緒にいたいの」


 言われてみればドラゴンの事件以降から旅を続けてきた仲だ。それにシャルのことだって中途半端にするわけにはいかない。
 今更ながら家族だと言った手前、俺も生き残る方法を優先しないとな……。


「そうだな、俺たちは一人もかけちゃいけないんだった。なんとかみんなで生き残れる方法を探そう」

「やる気になってくれてちょうどいいわ。一つだけ、あなたたち全員が助かるかもしれない方法が見つかった」


 ネーナさんに色々と質問をしていたメアさんが僅かな希望を知らせにくる。その方法というのは本来ならば 考えられないようなものだったが、ここにいる全員はそれ以外に思いつくようなこともなかった。


「万が一失敗した場合は俺がいなくなる可能性もでてくると?」

「えぇ、ネーナが使った魔法はあなたを指定したわけじゃなく彼女リリアを助ける者を呼んだだけ。これだけ歴史が変わった今、次に呼ばれるのがあなたとは限らない」


 俺が死ぬだけなら何度も戻ってやり直せばいいんじゃないかと思ったんだが……まさかこんなところで一発勝負になるとは。


「私にできるかな……やっぱり、お母さんに任せた方がいいと思うんだけど、どうにかならない? もし失敗でもしちゃったら……」

「リリア、よく聞きなさい。誰かを助ければ誰かが救われないというのは世の理。あのときの私は何を犠牲にしようとあなたを助けたかった。それは今でも変わらないし過去に戻っても変えられない。だけどあなたには彼と過ごした思い出がある。力に変えるのよ――私たちは想いそのものが力になる」


 ネーナさんがいうように魔法使いの魔法というのは想いがすべてだ。現状では俺のことを一番知ってそうなリリアしか適任者はいないだろう。何度もいったが万が一失敗したとしても誰のせいでもないのだ。


「封印が解かれる頃だわ。みんな、準備はいい?」


 そろそろ頃合いか、あいつを見逃せば何をしでかすかわからないからな。絶対に止めなければならない。

 またこの世界に呼ばれることができたらもっと伝説の地を巡りたいものだ。幻獣もみたいし伝説の鍛冶師にだって会いたい、ローラさんたちやメユちゃんにも会いたいし、それにマフィーも迎えにいかなきゃな。

 アビスがいなくなれば世界も大きく変わる。むしろアビスが存在しなかった世界に戻るといってもいい。


 ――うまくいったとしてどうなるか、答え・・を予想出来ているのはメアさんとネーナさんくらいだろう。

 次の世界線では俺という存在がどこまで認知されるのかはわからないが、新しい俺だって何も変わることなく旅に出るはずだ、きっとみんなにもまた会える。


「さぁみんな、最後の一仕事だ! 旅のついでに世界を救ってやろう!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔術師見習い、ニッポンの侍の末裔を召喚する(?)

三毛猫 ポチ
ファンタジー
侍の時代が終わって100年以上が経った・・・800年に渡って続く侍の家系の37代目を継ぐはずの男がいた・・・ そんな37代目を聖騎士(パラディン)として召喚した女たちがいた! アツモリ (男)  本名 阿佐敦盛(あさ・あつもり)     37代目 阿佐揚羽流の継承者  経典に書かれた『終末の聖騎士』・・・と思われる(?) エミーナ (女)  職業 魔術師見習い(卒業試験を受けてないから見習いのまま)  経歴 ヒューゴボス帝国魔術師学校中退     (学校が閉鎖されたから)     エウレパ大陸冒険者ギルド・ファウナ支部所属     アツモリをこの世界に召喚?した張本人 ルシーダ(女)  職業 神官見習い(卒業試験を受けてないから見習いのまま)  経歴 バレンティノ教団クロト修道院・神官課程中退     (修道院が閉鎖されたから)     エウレパ大陸冒険者ギルド・ファウナ支部所属     エミーナの仲間 ☆この作品はノベルアップ+で同タイトルで公開しています

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

少女に抱かれて行く異世界の旅 ~モフモフの魔物は甘えん坊!~

火乃玉
ファンタジー
平和主義で戦闘能力を持たない、丸くてモフモフで好奇心旺盛――最弱とも呼べる一匹の魔物は、とっても甘えん坊だ。 生まれてすぐに訪れた命の危機を、人間の少女に救われ友達になった。七海と名乗る少女は、魔物をとても可愛がり愛してくれた。モフモフの毛並みを撫でられれば魔物は嬉しいし、少女も喜びwinwinの関係だ。構ってもらえないと寂しくなってしまうのはご愛嬌。 そして、友達になった少女はデタラメに強かった。天下無双――何者も寄せ付けない圧倒的な力を持つ彼女は、魔物を守ってくれる保護者のような存在になる。 その柔らかい胸の中、温かい庇護の下、安心安全快適な二人旅が始まる。

処理中です...