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179話 『未来の英雄②』
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ドラゴンという存在はこれまで捕食する側から逸れたことがない。あるとすれば同じ種族や強者同士による食うか喰われるかの摂理だったが、その立ち位置が揺らぐことは一度たりともなかった。
醜悪な巨体が触手を無数に伸ばしている――その先には、絶対的強者であり、一度は世界を危機に陥れた黒竜だった。
縦横無尽に空を飛び回り触手を避ける。爪で切り裂くと悲鳴をあげながら落下し本体に取り込まれていく。
ニッグの心は怒りに満ち溢れていた。これまで己の生命を脅かしたのは強者のみ……それが今、訳の分からない捕食者相手に狙われ何もできずにいる。
『……おい貴様ら、話はまだ終わらんのか!』
「――なるほど……ちょっと試してみよう。おーい、触手を一本落としてよ!」
獣人の話ではある条件のときだけアビスを倒すができるということだった。攻撃すればするほど成長する相手に何もできず手を焼いていた僕たちにとって、少しでも可能性があることなら何であろうと試してみる価値はあった。
無造作に切り裂かれた触手がこちらへ吹き飛んでくる。ニッグも随分おかんむりのようだし、あとで交代してあげるか。ヒュノスが蠢く触手を二つへ切り分ける。
「さて、それじゃ試しにやってみるから、二人はどうなるかみていてくれ」
≪アイスヘル≫
一方の触手を凍てついた鋭い氷の茨が埋め尽くす。傷つけられた触手は凍りつくとヒビが入り、割れると同時に霧散して消えていった。
「それじゃ今度はこっちね」
≪ウィンドストーム≫
残った触手の周りを嵐が吹き荒れる。スパスパと切りつけられていく触手は叫び声をあげてたが、しばらくすると奇妙な笑い声をあげ嵐を徐々に喰い始めた。
≪ロックニードル≫
巨大で鋭利な岩が降り注ぎ触手を貫くと、すぐに笑い声は消え霧散し消えていった。
「どうやら間違いないようだな。問題はあの巨体をどうするかだが」
「今のように細かく分離させ倒してはどうでしょうか? あなたたちの魔力と強さがあれば――」
「それは無理みたいだね。見てごらん、さっきよりも成長するスピードが増している。こんなちまちまやっていたらそれこそ手が付けられなくなっちゃうよ」
倒す方法はわかったが早急にこいつを仕留めなければ詰みか。さぁて、あいつがこの場にいたらなんていうかな。多分だが――――
「僕に考えがある。ニッグに伝えてくるから君たちは待ってて」
* * * * *
この作戦がうまくいけばきっと倒せるだろう。だがもし、僕らの誰か一人でも力が足りなかった場合、その瞬間負けが決まる。
随分と大きくなったアビスを前に三人で並ぶ。
「それじゃあ勝っても負けても、たぶんこれで最後だから、みんなによろしくね」
『これほど勇敢な妖精がおったとはな。我が死するその日まで、決して忘れはせぬぞ』
「まったくだ。決していい作戦とはいえないが、それ以外に何も思いつかないのが悔やまれるよ」
死んで世界を救えるなら僕としても大手を振って自慢できる。過去が変わったら自分がどうなっているのかわからないが、新しい未来でもみんなと一緒に旅をしたいというのはわがままだろうか。
とにかく決心が揺らいでしまう前にさっさと作戦を始めよう。そう思い動こうとした瞬間、ヒュノスが咄嗟に手を出した。
「そうだ、一つ言い忘れてたわ。俺は切るのは得意だが魔法は苦手なんだよ。だから――後は頼んだ」
「あっ、おい!?」
ヒュノスはアビス目掛け走り出すと巨体を片っ端から切り始める。それは僕の役目――そう言おうとした僕に対しニッグは驚きもせず口を開いた。
『さぁいくぞ、あいつの覚悟を無駄にするな』
「ちょ、ちょっと!?」
後を追うとニッグの身体から溢れんばかりの魔力が凝縮されていく。必死に止めるよう呼びかけるがニッグは静かにヒュノスを見つめていた。
『あやつはとうの昔に死んだはずだった……ここまで生きてこられて十分ということだろう。さぁ、早くしないと手遅れになるぞ! 覚悟を決めろ!!』
「くっ…………あぁもうわかったよ!! 全開だッ!!」
大急ぎで反対側へ回ると先に動いたのはニッグだった。凝縮された魔力が黒い炎となり全身から溢れ出すと、まるで日食のような黒点ができあがる。
≪インフェルノ・ノヴァ≫
熱源から発せられる炎はその場にあるすべてを焼き尽くしていった。地は溶け草木は炭すら残さず塵となって消え、それはアビスも例外ではなかった。
ヒュノスによって切られたアビスが霧散していく。しかし、その巨体すべてを焼き切るにはあと一手が遠い。
本来であればあの熱源の中、アビスを削るのは僕の役目だった。だが、肉体を燃やし続け暴れているのは歴史に消された英雄。
「英雄というのはそういう運命にあるということだろうか……ならば、尚更負けるわけにはいかないね」
僕が修行で気づいた成長へのきっかけは背中の羽だった。今までは特に考えたことなどなかったがラーティアの強さの秘密がヒントをくれた。
小さければ魔力が高いという常識は半分正解であり半分間違いで、正確には如何に魔力を身体に取り入れることができたかが重要だった。
身体が小さいということは即ち、何をするにも肉体より魔力を使った方が単純に楽だということ。
ちょっとした段差から短い距離、小さい妖精はすべてに魔法を使う必要がある。だとすれば小さければ魔力が高いのは必然、そして、そんな僕らの成長を止めるきっかけというのがこの羽だ。
冷静に考えてみれば本来、この体では魔力を十分に受け入れることなどできない。だからこそ器を作り、魔力を十分に取り入れられるようにしたのがこの羽なのだが、同時にそれは器という限界を示すことになっていた。
だから僕は己の器を壊し、新しい魔力を取り入れ、それが入りきる器を身体に創らせる必要があった。今思えば短くも地獄のような修行。
普通だったら絶対にやらない。やりたくない。やる必要がない。……でも、僕にはそれが必要だった。
「これで少しは僕もみんなと戦えるはずだ。いくよ――」
≪ガンマレイ≫
醜悪な巨体が触手を無数に伸ばしている――その先には、絶対的強者であり、一度は世界を危機に陥れた黒竜だった。
縦横無尽に空を飛び回り触手を避ける。爪で切り裂くと悲鳴をあげながら落下し本体に取り込まれていく。
ニッグの心は怒りに満ち溢れていた。これまで己の生命を脅かしたのは強者のみ……それが今、訳の分からない捕食者相手に狙われ何もできずにいる。
『……おい貴様ら、話はまだ終わらんのか!』
「――なるほど……ちょっと試してみよう。おーい、触手を一本落としてよ!」
獣人の話ではある条件のときだけアビスを倒すができるということだった。攻撃すればするほど成長する相手に何もできず手を焼いていた僕たちにとって、少しでも可能性があることなら何であろうと試してみる価値はあった。
無造作に切り裂かれた触手がこちらへ吹き飛んでくる。ニッグも随分おかんむりのようだし、あとで交代してあげるか。ヒュノスが蠢く触手を二つへ切り分ける。
「さて、それじゃ試しにやってみるから、二人はどうなるかみていてくれ」
≪アイスヘル≫
一方の触手を凍てついた鋭い氷の茨が埋め尽くす。傷つけられた触手は凍りつくとヒビが入り、割れると同時に霧散して消えていった。
「それじゃ今度はこっちね」
≪ウィンドストーム≫
残った触手の周りを嵐が吹き荒れる。スパスパと切りつけられていく触手は叫び声をあげてたが、しばらくすると奇妙な笑い声をあげ嵐を徐々に喰い始めた。
≪ロックニードル≫
巨大で鋭利な岩が降り注ぎ触手を貫くと、すぐに笑い声は消え霧散し消えていった。
「どうやら間違いないようだな。問題はあの巨体をどうするかだが」
「今のように細かく分離させ倒してはどうでしょうか? あなたたちの魔力と強さがあれば――」
「それは無理みたいだね。見てごらん、さっきよりも成長するスピードが増している。こんなちまちまやっていたらそれこそ手が付けられなくなっちゃうよ」
倒す方法はわかったが早急にこいつを仕留めなければ詰みか。さぁて、あいつがこの場にいたらなんていうかな。多分だが――――
「僕に考えがある。ニッグに伝えてくるから君たちは待ってて」
* * * * *
この作戦がうまくいけばきっと倒せるだろう。だがもし、僕らの誰か一人でも力が足りなかった場合、その瞬間負けが決まる。
随分と大きくなったアビスを前に三人で並ぶ。
「それじゃあ勝っても負けても、たぶんこれで最後だから、みんなによろしくね」
『これほど勇敢な妖精がおったとはな。我が死するその日まで、決して忘れはせぬぞ』
「まったくだ。決していい作戦とはいえないが、それ以外に何も思いつかないのが悔やまれるよ」
死んで世界を救えるなら僕としても大手を振って自慢できる。過去が変わったら自分がどうなっているのかわからないが、新しい未来でもみんなと一緒に旅をしたいというのはわがままだろうか。
とにかく決心が揺らいでしまう前にさっさと作戦を始めよう。そう思い動こうとした瞬間、ヒュノスが咄嗟に手を出した。
「そうだ、一つ言い忘れてたわ。俺は切るのは得意だが魔法は苦手なんだよ。だから――後は頼んだ」
「あっ、おい!?」
ヒュノスはアビス目掛け走り出すと巨体を片っ端から切り始める。それは僕の役目――そう言おうとした僕に対しニッグは驚きもせず口を開いた。
『さぁいくぞ、あいつの覚悟を無駄にするな』
「ちょ、ちょっと!?」
後を追うとニッグの身体から溢れんばかりの魔力が凝縮されていく。必死に止めるよう呼びかけるがニッグは静かにヒュノスを見つめていた。
『あやつはとうの昔に死んだはずだった……ここまで生きてこられて十分ということだろう。さぁ、早くしないと手遅れになるぞ! 覚悟を決めろ!!』
「くっ…………あぁもうわかったよ!! 全開だッ!!」
大急ぎで反対側へ回ると先に動いたのはニッグだった。凝縮された魔力が黒い炎となり全身から溢れ出すと、まるで日食のような黒点ができあがる。
≪インフェルノ・ノヴァ≫
熱源から発せられる炎はその場にあるすべてを焼き尽くしていった。地は溶け草木は炭すら残さず塵となって消え、それはアビスも例外ではなかった。
ヒュノスによって切られたアビスが霧散していく。しかし、その巨体すべてを焼き切るにはあと一手が遠い。
本来であればあの熱源の中、アビスを削るのは僕の役目だった。だが、肉体を燃やし続け暴れているのは歴史に消された英雄。
「英雄というのはそういう運命にあるということだろうか……ならば、尚更負けるわけにはいかないね」
僕が修行で気づいた成長へのきっかけは背中の羽だった。今までは特に考えたことなどなかったがラーティアの強さの秘密がヒントをくれた。
小さければ魔力が高いという常識は半分正解であり半分間違いで、正確には如何に魔力を身体に取り入れることができたかが重要だった。
身体が小さいということは即ち、何をするにも肉体より魔力を使った方が単純に楽だということ。
ちょっとした段差から短い距離、小さい妖精はすべてに魔法を使う必要がある。だとすれば小さければ魔力が高いのは必然、そして、そんな僕らの成長を止めるきっかけというのがこの羽だ。
冷静に考えてみれば本来、この体では魔力を十分に受け入れることなどできない。だからこそ器を作り、魔力を十分に取り入れられるようにしたのがこの羽なのだが、同時にそれは器という限界を示すことになっていた。
だから僕は己の器を壊し、新しい魔力を取り入れ、それが入りきる器を身体に創らせる必要があった。今思えば短くも地獄のような修行。
普通だったら絶対にやらない。やりたくない。やる必要がない。……でも、僕にはそれが必要だった。
「これで少しは僕もみんなと戦えるはずだ。いくよ――」
≪ガンマレイ≫
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