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177話 『集合』

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「アビスの王ってどんな相手なんだろうね」

「まさか王国があったりしないよな……」


 それだけは勘弁願いたい、ゾンビならまだしも大量の霊とかもうたくさんだぞ……。もしそんな国があったらリリアかシャルに幽霊を吸い取る掃除機でも出してもらおう。
 ついでにゴーストハンターの職業を持っている人にも会っておきたい。聖職者の上位とかで持ってる人いないかな。


「パパ、できたよー」

「よし、それじゃあ見せてくれ」


 シャルから紙を受け取り椅子に座る。ミントを待つ間、いくら時間があると言っても遊び惚けるわけにはいかない。今は勉強の時間だ。ミントが作っていた今回の問題は……。

『とても美味しそうな果物が三つありました。どうしたらいいでしょうか。


 ……これだけ? こんなの算数でも国語でもなくただのなぞなぞだろ……。とりあえずシャルの答えを見てみよう。下にはまだ書き慣れていない子どもの字で文章が書いてある。

 るーくはおっきいからいっこ。みんとおじちゃんはくいしんぼーだからいっこ。シャルもたべたいけどパパとママにもあげたいから、みんなでわけていっしょにたべる。


 な、なんて良い子なんや……リリアにも教えてあげないと!


「リリア見てくれええぇぇ! シャルが! こんなにも立派な回答を!」

「お、落ち着いて。この問題は騙しがあって――」

「シャル、よくできたね! さぁ勉強は終わりだ、遊ぶぞー!」

「ッ!! やったーーー!」


 シャルが眼を輝かせ突っ込んでくる。最近一緒に遊んでいなかったし今日はとことん付き合ってあげようじゃないか!
 リリアに答案用紙を預け一緒に走り出すと誰かがやってくる。


「ねぇ僕がいない間に何をやってるのさ」

「ミントッ!?」

「げっ、ミントおじちゃん!? お、おべんきょうはもうおわったよー……」


 シャルがゆっくりと背後に隠れる――ラーティアさんも一緒のところを見るとどうやら修行は無事に終わったみたいだな。よくみるとミントの羽が緋色になっており以前とはまるで違う。

 声に気づいたのか、大きな足音がするとリリアとルークもやってきた。


「ミント無事だったの!」

「グウウゥゥ!!」

「待たせたみたいで悪かったね、珍しく手こずっちゃってさ」


 いつもと違う雰囲気でいうが肉体的にも精神的にもかなり応えたようだ。プリンが奇跡を起こしたのかはわからないが……もし少しでも甘味の力を発揮してくれたのならありがたい。


「そういえばデザートがあるんだ。ラーティアさんの分もあるけどどう?」

「あら、私は味にうるさいわよ」

「いらないなら僕がもらうから安心してよ。さ、いこう。ついでにシャル、答えを見せてもらうよ。ちゃんと考えて解いたんだろうね?」

「…………」


 あれ、シャルが固まっている。自信もっていいんだぞ! リリアも苦笑いしているが俺にとっちゃ満点の解答だ。胸を張れ!


 * * * * *


「幻獣の島!? 吸血鬼!? そ、それでルークは大丈夫なのか!?」


 まさかミントの修行場が伝説と言われる幻獣の島だったとは、やはりどこかにあったんだ……最初にわかっていれば俺もついていったのに!

 ルークに至っては吸血鬼の女の子に噛まれたらしく大騒ぎになった。吸血鬼になったんじゃないかと心配になり、大慌てで陽の光にあててみたが一切異常は見当たらなかった。
 どうやらこちらの世界の吸血鬼は感染して増えるタイプではないらしい。


 前世じゃ『伝説の種族』という本で、吸血鬼は人間に混ざって生活をしていると読んだから探してみたが、案の定見つけることはできなかった。

 そういうコンセプトのお店はたくさんあったが、どれもこれも伝説を甘く見ている。作り物の牙やトマトジュースで俺を騙せると思っているのか。血糊をつけっぱなしにしている吸血鬼がいてたまるかとツッコんだこともあった。


「詳しい話はアビスの王を倒してからだよ」

「そんな……」

「私もあとでレニ君に話したいことがあるの」

「シャルもね、みんなにいいたいことがあるのー」


 揃いも揃ってどうしたんだ、ミントを筆頭にまるで畏まったように真剣だ。
 俺は特に話すこともないしな……。荒野で鍛えてましたとか何にも自慢にならないし、ルークですら吸血鬼の子を紹介したいといって友達が増えたらしいのに、俺はヒュノス以外の生物をみてないぞ。


 正直今知りたいが、無理に聞き出したところで後に影響したら大変だ。旅をやめるとか言われるかもしれないが、一区切りという意味でも仕方ないのかもしれない、話してもらうまで待つとしよう。

 そのためにはどんな敵だろうが一人も欠けてはならない。気を引き締め直すとメアさんがやってくる。


「これから先は命の保証もないし何が起こるか私でもわからない。覚悟して聞いてね」
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