上 下
170 / 201

170話 『真髄』

しおりを挟む
 暴れ回ること数時間、なんとヒュノスはその間ずっと俺の攻撃を受けながら、アドバイスを続けていた。多少傷はできているものの一人でここまで耐えられるとは賞賛するほかないだろう。


「グウウゥゥ…………ふー……」

「そうだ、その感覚のままゆっくり――おっと! 焦るなよ」


 雑念を捨てひたすら声に意識を傾ける。難しいなんてもんじゃない――今だからわかるが、人間ってのはほんの少しでも己の力を感じた瞬間、無意識に気持ちが昂り、それは優越感や高揚感としてやってくる。そして同時に不安、驕り、動揺などが煽り立ててくるのだ。

 だが、なんとなくだがつかめてきた。

 あれほど黒竜を形作っていた魔力は徐々に小さくなっていく。まだまだ扱えるとはいえないが……制御するコツ・・は見つけた。


「なかなかやるじゃないか」


 ヒュノスは驚いたように言うが別に明鏡止水の極致に至ったわけでもない。

 詳しくは分かりようもないが、今までニッグのものまねをすると押し寄せる感情に飲まれていた。だからその感情をまず受け入れ、ニッグとしてなりきることにしてみた。

 ドラゴンであればこの力に疑問を持つことはない。そんなことでうまくいくのかとも思ったが、多分こっちに呼ばれた転生者ということが影響しているのだろう。

 こっちの俺は俺であると同時に、レニという器に入った俺なのだ。ならば器がいくら変化しようと変わることはない、ドラゴンとして転生したとでも思えばいい――。


 大きな翼を動かし飛んでみる。飛べることも尻尾があることも元からできていた。それが当たり前だったという感覚。まるで夢の中にいるような気分だ。
 力を込め魔力で形成された大きな爪を振り切ると大気が裂け地面に爪痕が入る。


「よし、段々分かってきた。さぁ続きをやろう」

「……これは俺も本気を出さねぇとな」


 完全とは言い難いが暴れる身体を徐々に制御しつつ力を引き出していく。さすが黒竜、まだまだいける――そしてブレスを吐こうとした俺にヒュノスは手を出した。


「ストップ、意識はあるな?」

「あぁ大丈夫だ」

「これ以上は殺し合いになる。ここまで扱えれば十分だろう」


 どうやら及第点に至っていたようだ。スキルを解除すると特に大きく変わった様子もない。なんか不思議な感じだな……。


「ふぅ、しかしあれほど便利だと思っていた職業がここまで扱いずらいものになるとはなぁ」

「職業が成長した結果だろう。力だけでなく、全盛期の力や感情までも引き出せるのかもしれない」

「なるほど……だったらもう一つ試させてくれ」

≪スキル:ものまね(ヴァイス、剣聖)≫


「うぉっ、まじか!」


 驚いて声を出してしまったが、いくらなんでもまさか生前のヴァイスさんの力を使えるとは……。剣が呼応するように光出す。まさか喜んでいるのかな?
 剣を一振りしてみると遠くにあった岩に線が入りずれていく。


「その者はなかなかの実力者だったようだな」

「そういえば、あんたの職業も特殊職ユニークだろ。一つ気になるのがその異常なまでの強さだ。今ならなんとなくわかるが……やっぱり秘密はその特性なのか?」

「あぁそうだ。代行者っていうのは誰かの変わりに何かを成すものだが、そこにもう一つ隠された条件がある」

「条件? 俺のように心次第とか?」

「いいや、もっと簡単な話さ。変わりになる者が支障をきたす分だけ俺は強くなる。例えば――死にいく者の願いなんかは絶対的な力を発揮する。今回はこの次元にいないメアだから同じくらい力はあった」


 なるほど、ただでさえ強いヒュノスが更に強化を促す特殊職だったからあんな人外じみた強さを発揮していたわけか。まだまだ職業ってのは奥が深いようだ。


「それじゃ戻るとしよう」


 ヒュノスが本を取り出し開くと魔法陣が展開される。眩しい光に包まれ、気が付けばニッグの巣に戻っていた。


『ほう、やはりお主たちが一番だったか』

「ニッグ! メアさんはどこだ!? 早くこの修行を止めさせないとッ!」

『何をそんなに慌てておる?』

「このままじゃみんなが危ないんだよ!」


 早くみんなを助けにいかないと――最悪、居場所だけでもわかればメアさんの力を使っていけるはずだ。
 説明し心当たりのある場所がないか聞いてみるが首を横に振りため息をつく。


『まったく……お前も余計なことを言ったものだ』

「まさか俺の読みが外れるとは思わなかったんだよ。こいつのセンスは尋常じゃない」


 ヒュノスもニッグに対し同じようにため息をついている。二人共何かわかっているようだが俺にはなんのことかまったくわからないぞ。


「お、おい、いったいどういうことだ?」

「そうだな、俺が言ったことは間違いないがお前は一つ大きな勘違いをしている」

「何……?」

「時間をかければっていうのは修行が思ったより難航しそうだと思ったからだ。だが、試練を乗り越えられなければ死ぬというのは本当のことだ」


 それって、結局はみんなを助けにいかないとダメじゃないか! こいつはいったい何を言ってるんだ!?


「だからそんな危険な試練すぐにやめさせないと!」

『まぁ、落ち着け。お主の仲間はそれを望んでいるのか』

「そういう問題じゃないだろ! みんなだってまさか死ぬとは思っていないはずだ」

『ほう、今までお主らは死ぬかどうかを考えながら旅を続けてきたのか』

「――っんなわけあるか!!」


 全員命をかけてついてきてくれた仲間であり、そんなことはとうの昔に乗り越えた。だからこそ俺はみんなが危険と分かれば助けなければいけないのだ。
 熱くなる俺にヒュノスは冷静になるように促した。


「いいか、彼女メアは快楽殺人者でもなければ無理難題を押し付けて楽しむ人間でもない。俺が彼女をまともじゃないと言ったのは人間から見ればってことだ」

「だけどこんなこと……普通はやらせないだろ」

「そこだよ、君らが思う普通ってのは今しか知らないからだ。考えてみろ、破滅の未来が分かっていれば誰だって回避させる方法を探すだろ。だが彼女だけはいくらでも戻る・・ことができる。彼女からすれば世界が滅ぶなんてのはどうでもいいことなんだよ」


 あまりにもスケールの違いすぎるヒュノスの発言に納得してしまったのか、一切反論の言葉が出てこない。
 だからって俺たちを巻き込むなと言いたいが、今だけでも楽に生きたいと思う俺と同じくらいに、メアさんにとっては現在も未来もどうでもいいことなんだろう。


「じゃあ俺たちを強くさせようとしているこの試練ってのは……」

「さっきも言ったが単に彼女の好奇心を引いたからだ。しかし、生存をかけて足掻くのは彼女じゃない、選ぶのは君たちだ」

「手取り足取り教えないといけないようなら生きる価値もないということか」

「はっはっは! 冷たいが言い方をかえればそうなるな」


 確かに俺たちは世界を救うと決めた。だけど、もし、仮にだがあのとき死ぬかもしれないと聞かされていたらどうしていただろう……もちろん最初は拒否する。
 だけどなんだかんだで結局、いつも通り助けようって……いや、絶対にそうなっていた気がするな……。


『永き日を生きるというのも容易ではないということだ』

「……あんたが言うと説得力があるよ」

「言わせてもらうが彼女は決して命を弄んでるわけじゃない、己はただの人間であり神ではないと分かっているからな」


 だから過剰な干渉もしなければ強制もさせないということか。言葉足らずなところがある気もするが、こうなったら全員無事に戻ってくることを祈って待つしかない……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔術師見習い、ニッポンの侍の末裔を召喚する(?)

三毛猫 ポチ
ファンタジー
侍の時代が終わって100年以上が経った・・・800年に渡って続く侍の家系の37代目を継ぐはずの男がいた・・・ そんな37代目を聖騎士(パラディン)として召喚した女たちがいた! アツモリ (男)  本名 阿佐敦盛(あさ・あつもり)     37代目 阿佐揚羽流の継承者  経典に書かれた『終末の聖騎士』・・・と思われる(?) エミーナ (女)  職業 魔術師見習い(卒業試験を受けてないから見習いのまま)  経歴 ヒューゴボス帝国魔術師学校中退     (学校が閉鎖されたから)     エウレパ大陸冒険者ギルド・ファウナ支部所属     アツモリをこの世界に召喚?した張本人 ルシーダ(女)  職業 神官見習い(卒業試験を受けてないから見習いのまま)  経歴 バレンティノ教団クロト修道院・神官課程中退     (修道院が閉鎖されたから)     エウレパ大陸冒険者ギルド・ファウナ支部所属     エミーナの仲間 ☆この作品はノベルアップ+で同タイトルで公開しています

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

少女に抱かれて行く異世界の旅 ~モフモフの魔物は甘えん坊!~

火乃玉
ファンタジー
平和主義で戦闘能力を持たない、丸くてモフモフで好奇心旺盛――最弱とも呼べる一匹の魔物は、とっても甘えん坊だ。 生まれてすぐに訪れた命の危機を、人間の少女に救われ友達になった。七海と名乗る少女は、魔物をとても可愛がり愛してくれた。モフモフの毛並みを撫でられれば魔物は嬉しいし、少女も喜びwinwinの関係だ。構ってもらえないと寂しくなってしまうのはご愛嬌。 そして、友達になった少女はデタラメに強かった。天下無双――何者も寄せ付けない圧倒的な力を持つ彼女は、魔物を守ってくれる保護者のような存在になる。 その柔らかい胸の中、温かい庇護の下、安心安全快適な二人旅が始まる。

処理中です...