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156話 『帰郷②』

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「お婆ちゃん……遅くなってごめんね」


 さすがに婆さんも寿命には勝てなかったか……魔女のようで魔女じゃない、魔女らしい婆さんだった。
 リリアも色々なことを思い出していたのかしばらく沈黙が訪れる。


「人間の死者を弔うという行為はとても丁寧だね。ほかの種族も倣うべきだと思うよ」


 ミントなりの慰めなのか、それとも本心で言ってるのかはわからないが、その言葉通り婆さんの墓は綺麗に維持されていた。
 ほかのお墓に比べちょっとだけ大きく、婆さんの意思を汲んだのか質素で丁寧に造られたお墓は、村のみんなにどれだけ愛されていたのかがわかる。


「お二人は、私のこと覚えてますか?」


 一通りお参りが終わると女性が問いかけてきたが、正直昔のこと過ぎて覚えていない。リリアもさすがに覚えていないようだ。


「昔、モンスターに襲われたとき、お婆さんの家に逃げていった――」

「ッ!! あのときの子か!」


 さすがにあれから二十数年、姿もすっかり大人になっており面影もほとんど思い出せないが……。しかしあの一件ははっきりと覚えている。


「はい! お二人に助けてもらって、ずっとお礼を言いたかったんです!」

「俺のほうこそ、君があのとき来てくれなかったらリリアがどうなっていたか……本当にありがとう」


 この子が婆さんと俺に知らせてくれたおかげでリリアを助けることができたんだ。今思えばお礼の一つも言わず旅にでてしまっていた。
 あの頃の懐かしい話で盛り上がっていると気づけばすっかり夕暮れとなっていた。


「それじゃあ、そろそろ戻るとするか」


 俺を先頭に歩き出す。やはり女性同士色々と話したいことがあるのだろう、はっきりとは聞こえないが後ろでは何やら盛り上がっているようだ。
 多分、女性同士聞かれたくない話でもあるのだろう。少しひそひそとしてるし聞き耳を立てるのも野暮というものだ、普通に歩いていよう。



「リリアさん……実は私、レニさんのことが好きだったんです」

「えぇッ!?」

「結構女の子達の間でも人気で、旅に出たって聞いたときはみんなガッカリしてたんですよ」

「そ、そうだったんだ、全然知らなかった……」

「でもよかったです。無事にお二人が結ばれたようで」

「そう思うでしょ? それがまだなんだなぁ」

「えっ、だってお子さんも――」

「あの子は成り行きで拾ったようなものだからね。あいつは相当な曲者だよ」



 何やら盛り上がっているようなんだがなぜ俺の背にこれほど視線を感じる……。ミントの奴、俺の悪口でも言ってるんじゃないだろうな……。



 * * * * * * * * * * * *



「ただいま~」

「お、お邪魔します……」


 久しぶりの家は記憶よりも狭く感じた。子供の頃はよく母さんにあの隅へ追い詰められていたっけ……。
 懐かしいような思い出したくないような……そんなことを思っていると母さんとシャルが台所から出てくる。


「おかえりー!」

「帰ったかい、今夕飯の支度をしているからね」


 まずい、さすがに母さんの料理をリリアたちに食わせるわけには……まだ間に合うか!?


「か、母さん、俺も手伝うよ」

「そんなのいいから、あんたはリリアちゃんの部屋を準備しなさい」

「えっ、あ、いや私は」

「遠慮することないよ。ほらレニ、父さんが部屋を片付けてるからいってきな!」


 急だったからみんなが泊まるとこも考えてなかったな。どうせだし家に泊まってもらうなら部屋の準備を手伝ったほうがいいだろう。
 仕方ない、母さんの料理は腕があがっていることを信じるしかない。


「わかった、いってくるよ」

「あの、私も何か」

「あ、それじゃあリリアは母さんの料理を監視――じゃなかった、手伝ってくれ。ルークの分も簡単にでいいから頼む」

「う、うん。えっと……おばさま、私もお手伝いさせてもらいます」

「そんなに畏まらないでいいのよ。リリアちゃんのことは小さいときから知ってるんだから」

「ねーお料理焦げちゃうよー」

「あらやだ! 急いで戻るわよ!」

「いそげーーー!」


 大慌てで母さんとシャルが走っていく。リリアはまだ遠慮してるのか俺に確認を取ってから台所へ向かった。

 さてと、リリアとシャルは俺が使ってた部屋でいいとして、俺とミントは物置にでもスペースを作るか。父さんとあれこれ片付けをしていると、終わる頃にはちょうど夕食も出来上がった。


 母さんの腕があがっていたのか、それともリリアがうまくフォローしてくれたのかはわからないが、料理はとても美味しそうにできており、ルークと一緒にみんなで庭で食べることにした。


「ほらシャルちゃん、遠慮せずいっぱい食べるのよ」

「おーーー!」


 母さん、シャルに遠慮はないから大丈夫だ。食うことに関してはルークとミントがいるため遠慮なんてないし、むしろ旅をしてる身としては食えるときに食っとけと教えている。
 少し図太いと思われるくらいがちょうどいいのだ。


「はっはっは! みんないい食べっぷりだな!」

「すみません、ご馳走になっちゃって」

「そんなの気にするな。リリアちゃんもほら、遠慮しないで食え」

「そうよ、今更遠慮なんてしないの。それで、シャルちゃんは何歳になったんだい? まさかあんたたちが子供をこさえてくるとは思いもしなかったけど――」

「ぶッ!!」


 母さんのその一言に俺は吹き出した。そういえばまだちゃんと説明していなかったな……。さすがに誤解させたままじゃ悪いしそろそろ話したほうがいいだろう。


「あーそういう訳じゃないんだ。ちょっと複雑というか…………」

「シャル、せっかくだから僕が美味しい食べ方を教えてあげる。こっちにおいで」

「ほんとー!?」


 ミントは今のうちにと目で合図した。こういうときになんだかんだ気を遣ってくれるのは本当に助かる。
 俺とシャルを途中で拾ったと説明し、記憶がなく俺たちを両親と勘違いしてると説明した。


「あらそうだったのね」

「だから静かに見守ってくれるとありがたい」


 まぁすぐに説明しなかった俺も悪いんだけど。とりあえず誤解も解けたし村のみんなにも同じように説明しておけばいいだろう。


「で、お前はリリアちゃんとどうなんだ?」

「父さんまで……何もあるわけないだろ。喧嘩をしたときもあったけど、ちゃんと誤解も解けたしな」

「リ、リリアちゃんまさか…………」


 二人ともなぜリリアを見るんだ、気まずそうにしてるじゃないか。昔から知ってるとはいえ無茶を聞いてはいけないだろう。そういうノリが嫌いな人だっているのだ。


「二人とも失礼だよ、リリアにだって自分の人生があるんだ。今じゃなくても、長い人生でいつか良い人にきっと出会えるときがくる、それまで何も急かす必要はないだろ」


 いくら両親とはいえここはビシッと言っておかなければならない。妙齢になるとすぐに結婚だなんだと周りが騒ぐからいけないのだ。
 お爺ちゃんになろうとお婆ちゃんになろうと、そのときその瞬間に素敵な出会いがあればそれでいいじゃないか。


「こ、これはなかなかお目にかかれない天然ものだぞーーー!!」

「お、ミントわかってるじゃないか! この料理に使われてるのは今の時期にしかとれなくてな。ほかの料理にしても美味し――――」




「あいつ。ここまでだったとは……」

「リリアちゃん、ごめんなさいね……」


 俺もあとで謝っておくか。リリアは昔から他人の空気を読むのが上手いからな、ここでは遠慮せず嫌なら嫌といっていいと教えておこう。
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