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152話 『故郷』

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 翌朝、無事に回復したソフィアさんとタイラーさんから俺たちは詳しい事情を聞いていた。本当はもっとゆっくり話をしたいところだが今はそれどころではない。


「それで、ドラゴンが村を燃やしたっていうのは本当なんですか?」

「周辺は火の海になっており近づくことさえ不可能だったと聞いている」


 なぜそんなことを……。まさかまた誰かがドラゴンにちょっかいでもだしたのか。俺みたいに会話ができる人もいないだろうし、よく考えればいずれこうなることもなくはない話だ。


「誰かが手を出したという可能性は?」

「それはほぼないとみていい。あのドラゴンは俺らがいない間、この周辺に危機がせまるとその都度手を貸してくれていたからな」

「おかげで王都の守護竜なんて呼び名がついてね。本人は多分嫌がってたと思うわ」


 まるでドラゴンを庇うかのように二人は言葉を選びながら発していた。俺もできればそんなことをするヤツだとは思いたくない。
 しかしドラゴンというのは天災のような存在。たまたまあのときはルークを助けたという一件があったが……本来こちらの希望通りに動いてくれると思うこと自体が大間違いなのだ。


「せめて少しでも生き残りがいてくれれば……」

「村に警備をつけていたんだがそいつともまったく連絡がとれん状況なんだ、望みは薄いとみてだろう」


 タイラーさんたちも長年の経験から変な希望や望みは持つだけ邪魔ということをわかっているのか、濁すことなく今ある状況を的確に教えてくれていた。


「お二人はここについてどのくらい経ちましたか?」

「まだ報告を受けてから数日程度よ。アビスが現れるとは思わなかったから対策を練ろうとしていたの」


 なるほど…………少し整理してみよう。
 まず初めに空に異変が起き、そしてドラゴンが村を燃やしたという報告があがった。
 それを確認しようと二人が兵を連れここまできたところでアビスに遭遇、ソフィアさんが取り憑かれてしまったと――空に異変が現れてから一週間もないくらいか。


「よし、まだ生き残りがいるかもしれないから俺たちも村にいってみよう」

「危険すぎる、俺たちも準備が出来次第向かうからそれまで――」

「大丈夫です。私たち、これでも少しは強くなったので任せてください!」


 リリアが言うように俺たちはあの頃少年時代に比べたら強くなった。ミントとシャルという仲間だってできた。
 もしかするとベテランの二人からすればまだまだかもしれないが、自分たちで道を選ぶくらいには成長したのだ。


「リリアちゃん……立派になったわね」

「ふふふ、レニ君には随分泣かされましたからね」


 ちょ、それは今言わなくても!? 二人でクスクス笑ってるのが恐いんですけど……なんかリリアがソフィアさんに似てきたような気がする。


「でも、泣いた分だけ強くなれたので、いいんです」


 それを聞いたタイラーさんは小さく笑った。


「しゃあねぇ、俺とソフィアも準備ができたらすぐに追う。いいか、絶対に無理はするんじゃないぞ」

「はい、お二人も気をつけて」


 俺たちは握手を交わしルークに乗ると急いで村へと向かった。



「くそ、やっぱり話は本当だったか……」


 遠くで煙が見え始めるとかなり広範囲にわたっているのがわかる。近づくにつれ、すでに火は村を囲むように燃え広がっていた。


「どうしてこんなことを……」

「グウゥゥゥッ!!」

「何ッ? 全員ルークに掴まれ!!」


 突如ルークが急旋回をすると空から巨大な火球が次々と降ってくる。俺たちがいるから思うように動けないのか、本来のルークならもっと動けるはずだが振り落とさないように躱していく。

 いったん状況を確認するべく、俺は焼け野原になった地上に降下するよう指示をだす。


「グルルルルルル……」

「みんな、あ、あそこ!!」


 リリアが上空を指すと、そこには全身が漆黒に染まったドラゴンが空からこちらを見下ろしていた。

【ものまね士:状態(ニーズヘッグ)】

 ――――あれは……やっぱりあんただったのか! スキルの正体がわかり合点がいった瞬間、力が身体を飲み込もうと襲ってくる。


「ぐっ……まずい!」

≪スキル:ものまね(英霊ヴァイス)≫


 あ、危なかった……。一瞬で力は消えいつもの感覚が戻ってくる。しかしあの姿は――――


「あれってまさか」

「あぁ、アビスが全身を覆っている」

「まるで魔境辺のときにみたモンスターだね。気味が悪いよ」


 言われてみればあのモンスターも全身がアビスのようになっていた。今度の相手はあんなもんじゃないが……しばらくそんなことを考えるくらいの時間が過ぎると、ジッとこちらを見つめていたドラゴンは視線をはずし去っていった。


「お、襲ってこない?」

「なんだったんだ……?」

「とにかく一度作戦を練ったほうがいいね。あれは間違いなくあのとき・・・・の君以上にヤバい」


 ミントがそういうと全員が頷く。スキルの正体がわかった今、俺が暴れたときの力があのドラゴンのものだったということがはっきりした。
 ということはあの夢――いや、記憶が本当なのであれば、ここで止めなければ世界は滅びる可能性がある。あのときは謎の人物が現れたがここには俺たちしかいない。


「でっかいルーク、いっちゃったねー」

「そうだね、だけどあいつを助けてやりたいんだ。パパのときみたいに……大変だけど力を貸してくれるかい?」

「いいよーがんばろーー!」


 本来であればあまりシャルの力には頼りたくない。それは子供に力を借りるのが癪だから、というわけではなくシャルの両親のことを思ってだった。
 にっこりと笑顔をみせるシャルの顔をみた俺は前世で幾度となく見た人間の醜さを思い出していた。
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