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120話 『記憶の残滓』

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『あ、悪魔……この世の終わりだ……』

『味わうがいい、これが貴様たちの求めた力だ。目に焼きつけろ――そして魂に刻め』


 辺りは火の海が広がり生命あったモノがあちこちに落ちている。妖精から獣人、そして魔族、弱き者たちがどれだけ力を合わせようと戦況は変わらない。


『な、なんだぁこいつ!?』

『ふむ、私たちよりも随分強いようだ』

『興味深いわね』


 人のなりに近いがなかなかの魔力を持っているな……もしや魔人か。


『幻獣たちよ、ついに気が狂ったか。人如きに力を借りようなどとは』

『あぁ!? 俺様をあんなゴミ人間たちと一緒にすんな!』


 自信ありげに突っ込んできたが話にならん。どれほど強かろうと力の根源、魔力を削げば動きは鈍る。小賢しい動きなどまとめて崩せばいい。


『ちッ……! なんなんだこのバケモンは!』

『やはり力の差は歴然か』

『あぁ!? お前らも見てねぇでやってみろよ!!』


 どうやらこの者たちは協力するということを知らぬようだな、ならば放っておいても問題はない。


『ふ~……やっとついた』

『これはすごいな、本当に世界の危機じゃないか』

『私たちの時代とは違っているようね』

『ふむ、この力は相当なものだ』


 こやつらどうやってここに……今の魔法は転移魔法とも違っている。
 魔法陣から突如現れたのは人間の女に妖精の女、そして魔族の男に大きな魔獣、あれは幻獣だろうか。全員、この場にいる誰よりも力を持っている。


『初めまして。私たちはあなたを止めにきたの』

『ふん、どれほど力を持っていようが我を止めることはできん』

『視てたわよ、あなた寂しいんでしょ。わかるわ……私たちも一緒だから』


 この女、もしやテイマーか? 我を捕らえる気ならば残りの二人と魔獣も相当な手練れだろう。


『黒き竜よ、この世を滅ぼしたところで新たな世界は始まる。それは神が定めたことだからだ。ならば運命に身を委ね共に世界を見守ろうではないか』


 運命か……この男の言う通り死ぬことが運命さだめだというのならば受け入れよう、だがそれは我が負けるとき。


『よかろう、ならば止めてみよ』

『やっぱりこうなるのね。話を聞いてくれないのはいつの時代も一緒みたい』



 * * * * * * * * * * * *



 まさかこれほど強い者たちがまだこの世界に残っていたとは……。やはりあいつ妹竜の言う通りだった……この世界は広い。


『我の負けだ、殺すなり好きにしろ』


 変に足掻いたところでこの者たちには勝てぬ、ならば潔くこの地に沈むとしよう。


『や、やった……悪魔の竜が倒れた!』

『ま、まだ生きてるぞ。何をしている! 早く息の根を止めろ!』


 ふん、小うるさい奴らだ。お前らごときでは無駄だというのがわからんのか。


『ここじゃうるさくて仕方ないわね。ちょっと移動してもいいかしら?』

『勝手にするがいい』


 女が手を左右に広げると巨大な魔法陣が出来上がる。人間でこれほどまでの力を持つ者がいるとは……。
 気づけば見たこともない空間へととばされ、先ほどの三人と魔獣も揃っていた。


『あなた名前は?』

『そんなもの知ってどうする。情けのつもりか』

『おいおい、いい加減話を聞けって』

『とりあえず私たちから名乗るべきね。私は妖精のラーティア』

『あーそれもそうか、俺は魔族のヒュノスだ。仲良くやろうぜ』


 ラーティアにヒュノス……どこかで聞いた名だ…………そうだ、思い出したぞ。


 妖精のラーティア――自国の王族を殺害した同族殺し。表向きはそう言われているが、精霊や幻獣を乱獲し悪用しようとしていた王族の計画を阻止してくれたと幻獣たちが言っていたな。

 そして魔族のヒュノス――生まれは王族だったが城にいた兵や重鎮たちを全員殺害。同族殺しとして追放されたが、真実はスラム街の子供らを使い生物兵器を作る計画を防いだ結果だ。

 どちらも歴史の闇に消された英雄……だが二人は生まれも時代も違っていたはずだ、なぜここにいる。


『最後に霊獣のフェンリルと、私はミアよ』


 ……こやつが一番得体が知れぬ。見たところ普通の人間、魔力もほかの者より抜きんでているわけでもない。


『何が目的だ』

『目的ねぇ……世界の崩壊を防ぐ……といえば聞こえはいいけど、まぁ単なる暇つぶしよ』


 すでに負けた我が考える必要はないのだがどうにも真意が掴めぬ。


『そう深く考えるなって。世界ってのはな、俺たちが何をしたって勝手に回るんだ』

『いくら大義を成し遂げても、一人じゃたかが知れてるのはあなたもわかってるでしょう?』


 だからといって何もせねば何も変わらぬ、それはこやつらもわかっているはずだ。


『あのまま放っておくとあなたは世界を変えたわ。だけどそれは荒廃し何もなくなった悲しい世界、あなたはそこで永年の刻を生き、そして孤独のまま死を迎えていた』


 やはり何かおかしい、まるで未来を知っているような言い方……いや、本当に未来を知っているのであればなぜわざわざ関わるようなことをする。


『世界がどうなろうとお主らには関係のないことなのだろう。なのになぜ関わるのか、お主たちの真意がわからぬ』

『いつかわかるわ、だけど今はまだそのときじゃない。また会いに来るからその力はしまっておきなさい』


 身体を魔法陣が包み込むと光が視界を奪った。



 * * * * * * * * * * * *



 …………二君、目を開けて…………お願い…………


 何度も誰かを呼ぶ声がする。懐かしい声、ずっと昔から知っているような…………俺は…………。

 力なく開いた視界の先で彼女は泣いていた。何度も見た涙、だけどその表情は喜びに変わっていった。たぶん問題は去ったのだろう。

 俺は……相も変わらず泣かせてばかりだな…………。


「リ…………リ……ア…………」


 涙を拭いてあげないと…………ソフィアさんならハンカチの一つも持ち歩いているんだろうけど俺には何もない……。一つしかない腕の感覚を必死に動かそうとするが力が思うように入らない。
 それに油断すると今すぐにでも意識が飛びそうだ…………。


「大丈夫、ゆっくり休んで。ミントもルーちゃんも……みんないるから」

「………………」


 優しく頬に触れた手の感触を最後に、俺は頑なに掴んでいた意識を手放した。
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