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114話 『タノミゴト①』

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 一つ、また一つと魔法陣を斬っては作られていく。俺は今、スキルでヴァイスさんの力を使っている。もし出会ってなければ……この剣がなければ一瞬で決着はついていただろう。
 スキルでヴァイスさんの力を借りている俺と違い、アインさんは最低限魔法陣を破壊しうまく立ち回っている。

 そして、何度か凌ぐと突然魔法陣はぱったりと止んだ。


「ふー……疲れた!!」


 そりゃあそんなにポンポン魔法を使ってれば疲れもするよ。てかこの子の魔力どうなってんの……まさか無制限じゃないよな。


「チャンスは今しかない、いくぞ」

「ほ、本当にやるんですか!?」


 考えろ……きっとほかに方法があるはず、シャルの両親だってそれを願ったからここを作ったんだろ……。


「リリア、大丈夫か!」

「んんっ…………あれ、ここは……」

「詳しいことはあとで説明する! 今は状況判断で頼む!」


 リリアは頷くと杖を拾い握り直す。混乱してる様子もない、あとはシャルだけだ。すでにアインさんはシャルの元に辿り着き緊張感のないシャルは呑気に座ったままだった。


「あーもうー、ママを起こしちゃダメだよー」


 バカこっちをみてる場合じゃ!! アインさんはその隙を見逃さなかった。素早く短剣を抜くと躊躇なくシャルへ突き刺す。


「――えっ?」

「すまない、好きなだけ私を恨むがいい」


 深々と突き刺さり引き抜かれた腹からは血が流れだしてきた。シャルはその場に横たわると俺たちに向け手を伸ばした。


「痛いッ……痛いよママぁ…………助けてえぇ……」

「くっ……ほかに、何か方法があったはずだ!」

「は、早く治療しないと!」


 回復薬はルークの鞄、それにレイラさんたちのためにほとんど使ってしまっていた。どうにか応急処置だけでもしなければ!


「巻き込んですまなかった、この子が死ねばこの世界も消えるだろう」

「そんな……まだ子供なのに! どうしてこんなことをしたんですか!!」


 くそ、血が止まらない……ッ! いざというときに必要なものがないというのはよくあることだ、冷静になれ……頭を使うんだ。


「そうだ、シャル! お前は魔法使いだ、自分を治せ! そう願え!!」

「うぅぅ……っ」

「無駄だ、これ短剣は乱麻石で造られてある。まともに魔力を練るのは不可能」

「どうしようこのままじゃ――えっ?」


 リリアが周りを見渡しているがもちろん何かあるわけがない。この空間はシャルが魔法で出したものくらいしか置いてなかった。もちろんそれも幻のようなもの。


「声がしなかった? 魔力を分けるってどういう……え、手を?」


 何も聞こえないが……。リリアはシャルに近づくと血にまみれたその手を握る。


「シャル! しっかりするのよ!」

「ママ…………の……手……」


 先ほどよりさらにシャルの顔色は悪くなっていた。もう手遅れだ……そう思ったとき、突然シャルとリリアの周りに魔法陣が出現、それは今までとは違い歪な雰囲気を放っていた。そしてシャルの中に吸い込まれるように入り込む。

 徐々にシャルの髪は黒く染まり、いつの間にか傷口は塞がり血は止まっていた。そして目を覚ますとリリアの手を振り払い立ち上がった。


「はーっはっはっはっは!! やっと出てこれたぜええええ!!」

「な、どうしたのシャル……」

「んん? お前、混ざってんじゃねぇか」

「リリア、すぐにそいつから離れろ!!」


 間違いない、あのときのリリアと同じ――二重人格、いやそういう類じゃない。どういう魔法なのかわからないがあれは危険すぎる。


「まさか、禁忌に触れたというのか!?」

「アインさん、あれが何か知ってるんですか!」

「魔法使いの中でも特に封じられてきた歴史だ……詳しくはわからないが、どこからか高次元の存在を呼び寄せる魔法があったと聞いたことがある」


 まさか神様を呼び寄せたとかだったらもう無理だぞ。リリアのときはなぜかリリアが目を覚ましてくれたため、本来の解決法なんてわからない。


「しかしこいつはすげー魔力を持ってやがるな。久々にひと暴れするぜ!!」

「まずいぞ、絶対にヤツを外に出してはならん」

「で、でもあれはシャルの身体……」


 くそ、とにかく今はあいつをなんとかすることだけを考えよう。この中で前衛張れそうなのは……うん、俺しかいないな。こうなったら戦いながら作戦を練るしかない。


「俺が前にでます。リリアは援護、アインさんは補助をお願いします!」

「ほう、お前いい剣を持ってるな」


 そりゃあローラさん渾身の――ってなんだその剣!? どっから出したかわかんないけど完全に魔剣の類じゃないか!


「遊んでやるぜ」

「くっ……いくぞ!」


 剣がぶつかり合い火花が散る。一方的に俺が攻めてるように見えるが攻撃を受け止められて完全にわかった、力では勝てない、ならば……。


「レニ君、避けて!」


 後ろからリリアの声がすると同時に魔法の鳥が上からシャルに襲い掛かった。しかしシャルはその場で剣を振るい魔法の鳥を相手に遊び始めた。


「ふぁ~、面白い魔法だが弱すぎて欠伸がでるぜ」

「そりゃあよかったよ」

≪絶剣:桜花奉断≫


 渾身の一撃は剣で防ごうとしたシャルの片腕を折りそのまま吹き飛ばした。殺してはいない……はず。いや、これくらいでも胸騒ぎが収まらない。


「どうだ少しはダメージが」

「ははははは! やってくれたなぁ!! 今のはちょっと効いたぜぇ?」

「……って元気そうだな」


 こちらに歩いてきたシャルの腕は折れ曲がり、剣は防ごうと受け止めた場所が大きく欠けヒビが入っていた。腕の折れた女の子が魔剣片手に笑いながら歩いてくる姿は完全にホラーだ。
 シャルの腕は魔力で黒く染まると元の形に治っていく。

 自己治癒もできんのかよ、正攻法じゃ無理だろこれ……。
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