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109話 『捜索②』

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 昔々、魔の森に捨てられた兄妹がいました。二人は生きるために盗み、騙し、奪う日々を過ごしました。ある日いつものように盗みに入ると、お兄ちゃんが捕まってしまい大怪我を負ってしまいます。

 身体が思うように動かなくなったお兄ちゃんに変わり、妹は必死に助けを求めました。しかし手を差し伸べる者は誰もいません。それもそのはず、妹は病気だったのです。

 二人は毎日神様へお願いをしました。早く『祝福』をください――なんでもいいので、生きていけるだけの職業ジョブを。ですが神様は願いを叶えてはくれません。

 その後、奇跡的に回復した二人はふと思いました。みんなが同じ境遇になればもう少し助け合う心を持っていたのだろうか。しかし、争いを好む人々は戦争を起こし、それが終わっても平和は訪れませんでした。

 そして皮肉にもお兄ちゃんが言い続けていた言葉、弱い者は強い者に奪われる――これが世界の理だということを知るきっかけとなったのです。

 二人は考えました……世界の理を変えることはできない。ならば自分たちがこれから生き続けられたとしても弱者であり奪われ続ける。

 悲観した二人に悪魔は囁きました。神様は助けてくれないから変わりに力を貸そう、今はジッと待つんだ……力を蓄えて、そっちに僕がいけば君たちは強者だ。




「おい、この本はいったいどこで手に入れた!?」

「ご、ごめんなさい!! も、もらったんです……ずっと昔、女の子がやってきて……」


 叱られていると思ったのか女の子はリッドに対し必死に頭を下げ言葉を探す。


「リッド、相手は子供よ。落ち着きなさい」

「し、失礼致しました……」

「ねぇあなたお名前は? お兄さんの名前も教えてくれないかな?」

「…………私はシェリー、お兄ちゃんはエディだよ」

「ありがとう。この本、上と書いてあるけどエディも持っているの?」

「うん、女の子が『仲良しの君たちには二つあげなきゃ不公平だね、二つに分けよう』ってくれたの」


 子供が考えたにしても出来過ぎている。間違いなくこれが予言の本で確定ね、二冊も存在していたなんて……。とにかく今やることは本の破壊だ。シェリーには酷だがやるしかない、リッドに合図を送る。


「シェリー、お腹が空いているだろうし今はこれを食べて、あとでお兄ちゃんを探しにいこう」

「あ、ありがとう……」


 食べ物につられ目を離したすきにそのまま本を持ち部屋を出る。剣を抜き本を斬ろうとした瞬間、本が光出し剣を弾いた。


「く……ッ! これは魔法障壁!?」


 剣が刃こぼれしている様子もない、完全に接触を防いでるようね……。修正しきれないイレギュラーを起こさなければ破壊はできない――まったく、厄介極まりないわね。

 しかも上下二冊でワンセットときた、ということはだ――最悪二つに対しイレギュラーを起こさなければいけないか、最低でも下巻の内容を超えるイレギュラーを起こす必要がでてくる。


「どうでした?」


 部屋に戻った私にリッドが声をかける。私が首を振るとすぐに立ち上がった。


「そうですか……エディの痕跡を探ってみましたが城には向かわずに街へいったようです」

「わかったわ。急いであとを追いましょう。シェリー、お兄さんを止めるためにも一緒に来てもらえないかしら」

「う、うん!」


 私たちはリッドの眼を頼りにエディの後を追った。そして街へ着くと体格のいい男たちが次々と運ばれていた。


「どうやら喧嘩があったようです。相手はすべて大柄な男、一部の目撃情報によると子供が絡まれていたという情報もあります」

「そう……エディの痕跡は?」

「お待ちください」


 リッドが調べている間、私はシェリーに真実を話すことにした。


「シェリー、その本は周りを内容通りに進めようとする悪いものなの。だから壊さないといけないのよ」

「えっ……」

「あなたたちが大変な目にあってきたのをわかるとはいわない。だけどね、このままじゃみんな無事じゃすまない。もちろんあなたのお兄さんも」

「でもこれがないと生きていけないよ……私たちは力がないから……」

「私が変えてみせる。あなたたちのような子供もみんな生きていけるように……約束する」

「レイラ様、今度こそエディは城に向かったようです」

「わかった、急ぎましょう」


 シェリーにはできればわかってほしいが、いざとなったら力尽くでも破壊するしかないわね。急ぎ城へ戻ると今度は衛兵が倒れている。


「な、何があった!?」

「うっぅっ……子供が……」

「まずいわね、早く回復薬を!」


 鎧はひしゃげており子供の力とは思えない。これが本の力――父上とアリスが危ない!


「お、お兄ちゃんがこれを……?」

「手遅れになる前に止めないと、急ぐわよ!!」


 中に入ると兵たちが倒れているのが続いていく……そして、その先には謁見の間があった。


「お兄ちゃん!!」

「シェリー、やっぱり本の力は本物だ。これでもう、≪神の祝福≫なんていらない」

「父上! アリス!」

「ぐぅぅッ……レイラ、アリスを連れて逃げなさい……」


 いったい何があった? 父上は王になって長いとはいえ、まだまだ力は現役そのもの、子供相手に後れをとるような真似はしないはずだ。


「なぜこのようなことをするのですか!?」

「お前は、弱い。そこをどけ」

「どきません! 私はみんなを守る!」

「じゃあ死ね」


 エディは身の丈に合わない剣を片手で軽々と拾い上げ、もう一方の手にはシェリーが持っていた本と同じ本を持っていた。


「待ちなさい。あなたはその本に惑わされているだけよ」

「なぜ本のことを――まぁいいや、お前は強いな。よし、やろう」


 こちらに気を引けたのはいいが油断はできない。剣を抜き構えると、エディは本来勝てるはずのない相手を前に怪しく笑った。
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