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93話 『一寸先は闇』

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「この天気、まるで僕たちを歓迎してないようだねぇ」

「……よし、戻るか」

「レニ君早いよ、まだ着いたばかりなんだからもう少し頑張ろう」


 まぁ戻るといっても船はもういっちゃったし帰る手段はないんだけどね。

 新しい大陸に降り立った俺たちを歓迎したのは、以前までのような晴天とは程遠く、空は完全に黒雲で覆われていた。昼間なのに森を見ると奥は真っ暗、そして何より一番は……この大陸についてから俺の伝説探知レーダー(第六感)が一切反応しない。


「冗談はこれくらいにしてまずは一雨来る前に進もう。この辺りは獣人が多いと聞くし、話が通じるかわからないが村や町を案内してもらえるかもしれない」

「どんな人たちなんだろう……ミントは見たことある?」

「あるけど種族によってかなり違うし、僕に聞くより実際見たほうがいいんじゃないの」

「それもそっか、それじゃ出発~」


 道を歩いていくと特に寒くもなく暑くもない――そして風もほとんど吹いていないのが妙な違和感を持たせる。


「誰もいないね」

「あぁ……モンスターもいる気配がない」

「おっ、あれはなんだろ?」


 ミントが道の先に木でできた板を見つける。片方には[魔境辺、魔界]と書いてあり、逆側には[トキノヤシロ]と書いてあった。


「町の名前かな?」

「とりあえず今は魔境辺に向かおう。先駆者がまたどこかに行ってしまったら延々と追いかけっこになってしまう」

「そうだね!」


 俺たちは魔境辺に向け歩き続けた。そして……

 ――――――

 ――――

 ――


「ねぇ、これどこまで続いてるのかな……」

「少し休もう。ずっと歩いてきたしそろそろ何か見えてもいいと思うんだが」

「クゥ~」


 リリアとルークが座り込むと俺はミントと一緒に周りを確認する。なんか妙だな……ここまで歩いて人っ子一人どころかモンスターすらいない。いや、いないだけならまだしも音すら聞いていない気がする。


「うへーーーーー!?」

「何か見えたか?」

「う、後ろみて!」


 俺たちはミントに言われ今まで通ってきた道を振り返った。特に何も変わったところは見当たらない……いや、見当たらなさ過ぎた。


「どういうことだ……ルーク、すまないがあっちにあるあの岩に向かって飛んでくれ」

「クゥ!」


 俺は横の遠くに見える大きな岩を指す。ルークが走り出し飛び上がるとぐんぐん進んでいく――そしてある程度進んだところで異変は起きた。


「……ルーちゃん進んでなくない?」

「あぁ……だけど進んでるようにも見える。とりあえず呼び戻そう」


 ルークが俺の声に反応し戻ってくると、やはり何か感じたらしく訴えかけてくる。
 話を聞く限りではルークには進んだ分だけ岩が動いてるように見えていたらしい。ミントがうんざりしたようにやってくる。


「ねぇ、もしかして僕たちってすでに何かに巻き込まれてる?」

「あぁ、いつの間にかな」

「はぁ~……まったく君の才能には本当に驚かされるよ」


 これは俺のせいじゃないだろ。いやまぁ、ことあるごとに何かしら巻き込まれている気はするが……。
 俺って実は巻き込まれ体質だったの? そんな、歩くトラブルメーカーのような才能いらないんだけど。


「どうしよう……これじゃ魔境辺にいけない……」

「このまま進んでもダメそうだしいったん戻ったほうがいいな、もう少し歩けそうか?」

「うん、大丈夫」


 今度は来た道を戻る――すると先ほど見かけた看板があった。


「戻るのは問題なさそうだね」

「こっちのほうにいってみる?」

「そうだな、何かわかるかもしれない」


 今度は[トキノヤシロ]と書かれた方向に向かい、しばらく進んでいくと橋が見えてくる。


「川か」

「あれ、奥に誰かいる」


 橋を渡った先の河原をみてみると、全身ふわふわの体毛に覆われた人が洗い物をしていた。尻尾と耳もついてるし獣人の子どもで間違いなさそうだ。


「ちょっと声をかけてみよう」


 リリアもミントもいるし、それほど警戒はしないはずだ。俺たちは獣人に近近づいていき大きめに声をだす。


「あのーそこの君! ちょっといいかな!」


 獣人は動かしていた手をとめ耳をぴくぴくさせこちらを向いた。


「だ、誰~?」

「俺たち旅をしてるんだけど少し話がしたくて、そっちにいってもいいか?」


 獣人が頷き許可をもらった俺たちは近づいていく。だが、ルークをみるなり怯えてしまった。


「モ、モンスター!?」

「こいつは俺の従魔だから襲ったりしないよ」

「ほ、ほんとに……噛んだりしない?」

「大丈夫。ルーク、その子に触らせてあげて」

「ククゥ!」


 そういってルークは前にでていくと獣人から一定の距離をとりその場に座り込み、それをみた獣人は恐る恐る近づくとルークに触れた。


「うわぁ、鱗が硬い! それに綺麗な色……」

「ルークっていうんだ。仲良くしてやってくれ」

「あ……僕はマフィーです」

「俺はレニ、それでこっちがリリアとミントだ」

「よろしくねマフィー君!」

「あれっ、この匂いは…………女神様?」


 そういうとマフィーは突然リリアに近づき鼻をスンスンさせる。おい、いくら獣人でもそれは女性にしちゃいけないと思うぞ!
 リリアはどうしていいのかわからず固まっているとミントが間に割って入った。


「ねぇ君、それは人間にとって失礼になるからやめたほうがいいよ」

「わッ! ご、ごめんなさい……」


 よく言ったミント! 実は女神様の匂いってのが気になって少しくらいなら一緒に嗅いでもって思って……これ以上はやめておこう。


「誰か知ってる人と似てる匂いなの?」

「うん、昔ここで出会った女神様と似てるんです。その人が本を置いてってくれたから覚えてて」


 匂いが一緒ってまさかリリアの母親だろうか。だが、本を置いていったってことはまさか……。


「それって見せてもらうことできる?」

「うん。あ、でもまだこれ残ってて……」

「私も手伝うよ!」

「俺も手伝おう、みんなでやればすぐに終わるからな」

「ほんと!? みんな、ありがとう」


 俺たちは洗い物を終わらせるとマフィーの家に案内してもらう。
 ミントにはあの本がある可能性を考慮し俺に異変があった場合、すぐさまリリアを連れて逃げるように指示した。
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