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54話 『情報屋①』

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 この先にある砂漠地帯――そこでは一つの国があり、行き交う商人たちの間である噂が立っていた。砂漠の民に、救いの魔女が現れたと。


「なんでも現れたのは最近のことらしいよ。もしかしたらって思って」

「救いの魔女か……情報をありがとう」

「クゥー?」


 なんとなく気になったことがあったのかルークが俺に意志を伝えてくる。ミントはなんでそこにいったの? と。


「確かに……なぁ、なんでミントは砂漠にいったんだ?」

「そ、そ、それはあれだよ! 僕も色々と疲れたしオアシスで少し癒されてから帰ろうかなーって……」


 なるほど、つまりは寄り道ってことだ。色々言い訳しようにもすべて無理があるからな。


「よし、それじゃ案内は頼んだ」

「僕これから帰るんだけどッ!?」

「いいのか? 中途半端に遅く帰るとライムに寄り道がばれるぞ」

「うっ……」

「俺を連れていってくれれば遅くなった理由にするにも十分だし、もう一度オアシスにだっていける。いっそ小旅行感覚で俺たちと一緒に行動したほうが得だと思うんだけどなー」

「………………し、仕方ないなぁ。君がどうしてもっていうなら案内するよ」


 よし、ミントの説得完了。俺はみんなに事情を説明し急いで旅支度を済ませた。


「何度もいうがお主には本当に世話になった」

「うん、本当にありがとう」

「友よ、またどこかで会ったときは話を聞かせてくれ。それまで元気でな」

「俺も皆さんにはお世話になりました。また、必ず会いましょう!」


 散々お礼も言われていたし一通り簡単な挨拶が終わるとリビアが俺の前に歩いてくる。


「次会ったときはどっちが上か勝負よ」


 リビアはそれだけいうと俺に握手を求めてきた。これは鍛冶師として兄弟子への挑戦状だな……。
 ナイフ一本しか製作経験のない俺に勝負を挑むとはいい度胸だ。勝負にならない勝負になっても知らないぞ。


「楽しみにしてるよ、師匠にもよろしくな」


 最後にみんなへ一礼し、ルークの元へいくとミントは背中に乗っている。どうやら今回はルークの背に乗って移動したいようだ。ルークも嬉しそうだし道案内だけしてくれればいいか。


「待たせたな、いこう」

「クゥ!」

「それじゃよろしくねー」


 ミントの指示する方向へとルークが走っていく。そのまま俺たちはいくつかの山を越え陽も沈みかけた頃、徐々に枯れた大地が見え始めてくる。


「そろそろ砂漠地帯か。とりあえず今日はここで休もう」

「君、体力ありすぎない……?」

「気にするな、それにしてもこんな遠くまでよく来たもんだ」

「僕だってたまには一人になりたいときがあるのさ」

「まぁ、おかげで手掛かりは得られたから感謝してるよ」


 野宿の準備をすると夕飯を食べ一夜を過ごす。翌朝、砂漠地帯を進み続けると町が見え奥には大きな神殿が見えていた。


「さて僕はもう一度オアシスにいってくるよ」

「せっかくだし俺もみたいから案内してくれ」


 ミントについていき神殿から少し離れた場所にいくと、そこには綺麗なオアシスがあった。だが男たちが武器を持って立っており、奥では女性たちが目隠しするように布を広げていた。


「おい、誰かいるみたいだぞ」

「なんだあいつら……僕のオアシスを占領して!」


 そういってミントは男たちの元へ飛んでいく。何か言い争っているようだが……あ、武器を突き付けられてる。いったほうがよさそうだな。


「あの、どうかしたんですか」

「むッ!? 貴様もこの悪魔の手先か!」

「いや、知り合い程度ですけど」

「悪魔とは失礼な! 僕からすればあんたらのほうがよっぽど悪魔だ!」


 言い争いを始める二人をなだめ男性に何があったか事情を聞いてみる。


「今は救いの魔女様が水浴び中だ。誰一人近づくことは許さん」

「なんだよそれ!」

「王子様が決めたことだ、誰一人口答えすることは許さん。捕まりたくなければ早々に立ち去れ!」

「ミント、ここはいったん引き下がろう」

「ぬ~~…………」


 いったん町に戻ると辺りでは店が開き賑わっていた。ミントは人混みは嫌だと言って姿を消したが近くにはいるらしい。
 さて、まずこんなときは情報収集だな。俺は近くにあった果物を売っている店にいく。


「いらっしゃい! お、旅の方かい。若いのに大変だねぇ」

「相棒もいるから楽しんでますよ」

「ククゥ」

「おや、テイマーか、しかもリザード種とは大したもんだ」

「ありがとうございます。ところでこの町に救いの魔女が現れたって噂を耳にしたのですが」


 その言葉を聞いた店主は驚き、周りを確認すると俺に顔を近づけた。


「少年、その話はあまり喋らん方がいい……」

「どうしても知りたいんですよ。おじさん、ここでおすすめの果物は?」

「……おすすめはこいつだな! ココヤッシといって甘く瑞々しい果汁がたまらん。栄養満点で癖もないぞ」

「それ、三つください。あ、一つはすぐ飲むので切ってください」

「毎度あり!」


 お金を渡し果物を受け取る。二つはルークの鞄にしまい、残る一つは店主がその場で切ると草の茎のようなものをつける。どうやら中が空洞でストローみたいに吸えるらしい。そして受け取る間際、店主が小さく教えてくれた。


「詳しく知りたきゃ夜にあそこの店へいけ…………中の奴にチップはいくらだと聞けばいい」

「おっちゃんありがとう、また寄らせてもらうよ」


 夜まではまだ時間もあるしこの辺で宿を探すか。できればルークも一緒に入れておきたい。
 そして設備が最低限の簡易的な宿を見つけ、やる気のなさそうな店主に一人分多めに料金を出すとルークも中にいれることができた。

 砂漠まで旅をして至れり尽くせりの宿屋っていうのも変だしな、たまにはこういうのもいいだろう。部屋に入るとミントが姿を現す。


「うへ~汚い部屋」

「人間には十分なんだよ」

「ちょっと待ってよ」


 ミントはそういうと魔法を唱える。窓から風が吹き荒れ、部屋の中の埃や汚れを取っていく。


「よし、これで少しはマシでしょ」

「お~さすがだな」

「それより、さっきの果物美味そうだったんだけど」

「そうだった」


 俺はルークの鞄から二つ取り出し、ココヤッシを並べあることに気づく。


「……どうやって切ろう」


 さすがにヤバい剣を出して切るわけにもいかない、ルークに噛み砕かせるか? いや、爪でうまく切って……切らずに粉砕しそうな気がする。


「も~これくらい俺がやるよ、どいて」


 ミントが手短に魔法を使い果物の上だけを綺麗に切ってみせる。簡単そうにやってるけど相当繊細なんだろうな。


「これを使ってみるといい、飲みやすいぞ」

「お~これが人間の飲み方か」


 ミントはストローで、ルークはそのまま舐め始めた。


「ん~美味しい」

「クゥ~」

「ところで、ミントはこれからどうするつもりだ?」

「ん~……オアシスを独占されてるのも気にくわないし、どうせ帰ってもまたこき使われそうだし……もう少し様子をみてみるよ」


 戻ってライムにどやされるよりこっちにいたほうが楽ということだな。まぁ言い訳できる分、まだマシには……ライム相手になるのだろうか。とにかく、ミントがいてくれるなら心強い。


「ミントの力を貸してもらえるなんて大助かりだ」

「あんまり無理は言わないでくれよ~僕は繊細なんだから」

「ククゥ~」

「そうだな、ミントはやるときはやるから大丈夫」


 聞こえないフリをしたミントは果物を抱え直すとストローで飲み始める。しばらくのんびり時間を過ごすと夜になったため、先に夕食をすませ言われた店へと向かう。
 今回、ルークには悪いが留守番してもらい、ミントに姿を消してついてきてもらうことにした。店の中に入ると酒飲みたちで賑わっている。


「坊主、ここに何の用だ」

「ちょっと聞きたいことがあって……チップはいくらです?」

「何を言ってやがる。ここは酒飲みが来る場所だ」

「そうですね、だからチップはいくらなのかなって」

「…………注文があるなら上の席で待ってな」


 案内され二階に行くと机が置いてあり、しばらくすると男性がやってくる。


「若い客だな……で、知りてぇことはなんだ?」
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