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20話 『酒の力』

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「お兄ちゃんお姉ちゃん!」

「君はさっきの」

「グロウジカが来てるから早く逃げて!」

「君は逃げないのか」

「お母さんが残っているし……私はここしか知らないから……」


 心配そうに顔を伏せる女の子をリリアが優しく抱き寄せ頭を撫でる。不安を取り除けるわけじゃないが、こういうときは少しでも安心感を与えたほうがいいよな……。
 なんだかんだこういうときはしっかりしてるな、そう思ってリリアに感心していると、


「らいじょうぶ!! わらしたちがいるらら!」

「お……お姉ちゃん?」


 あ。大丈夫じゃなかった。


「ゴメンね、リリアの奴今酔ってて――」

「レニ君はほうみえて最強なの! だえにも負けないんだから!」

「本当……?」

「あ、いや」


 女の子は小さな希望にすがるように上目遣いで俺を見てきた。リリアなんてことを言うんだ!
 子供は期待した分、失望も大きくなる……万が一失敗でもしてしまったらトラウマになってしまう。


「さぁモンスター退治にレッツゴー!」

「う、うん! こっちだよ!」


 女の子の後についていくと大人たちが集合していた。綺麗な着物姿の女性が近づいてくる。


「メユッ!? あなたなんでここに」

「お、お母さんごめんなさい。で、でも……」

「みなさん、わらしたちがきたからにはもうだいひょうぶれす!!」


 おいおい、さっきより酔いが回ってないか……邪魔してしまう前に早くなんとかしないと!


「嬢ちゃん、危ないから逃げるんだ。みんな来たぞ!!」


 その声に一斉に外を見る――雪煙が舞うなか、多くのグロウジカが角を光らせこちらに走ってきていた。


「さぁルーふ! わらしたちの出番よ!」


 みんなの制止を聞かず最前線にリリアとルークが出ていき、そのままルークは翼を広げ飛び立つ。


「グォォォオオオオオオオ!!」

〖竜の咆哮〗


 ドラゴンである証とでも言わんばかりの咆哮が響き渡り、こちらに向かっていたグロウジカの多数が足を止め向きを変えた。


「お、おい今の声って……あれはドラゴンか!?」

「ルーふやるなぁ。ようし今度はわらしの番だぁ~!」


 みんなが驚き顔を合わせていると、今度はリリアが杖を持ちフラフラと前に出ていく。描かれていく魔法の線はへろへろで何をイメージしているのかもわからない――描き終わったリリアが杖を雪に差す。
 綺麗な花がたくさん溢れ……だが、花は根っこを使って走り出すと何か楽しそうに叫びながらグロウジカの群れに突っ込んでいった。
 こ、こわっ……しかも根っこで動いててキモい……。

 異様な光景に群れはさらに分断され方向を変えていく。しかし、一頭だけ大きな個体がこちらへ向かってくる。


「む、群れのボスだ……あんな大きな奴じゃどうしようもねぇ!」

「だいようぶ、こんなときこそ、じゃーん! レニ君がいまーふ!!」


 後ろからとてつもない視線を感じる…………そんなに期待されてもすごい魔法とかビームとかでないよ。
 先ほどの女の子が駆け寄ってくると、やはり心配なのだろう。俺に再度確認をしてきた。


「お兄ちゃん、だ、大丈夫なの?」

「あ~まぁ、なんとかはするから安心していいよ。ほら、リリアは危ないからこの子と一緒に待ってて」

「は~い、いってらっしゃ~い!」


 貴重な外装を壊す訳にもいかないため、リリアに預け走り出す。グロウジカのボスは俺に狙いを定めると大きな角を前に突き出しさらに加速した。

【ものまねし:状態(グロウジカ)】


「さぁて、いっちょやるか」

≪スキル:加速ブースト


 正面からぶつかり合うと俺は角を抑え突進を止めた。よし、力も入るしこれならスキルを利用して下から持ち上げれば……。


「ぬおおおおおぉぉぉぉ……ぉおおりゃああああああ!!」


 グロウジカは宙を舞い、落下と同時に地面が大きく揺れる。さて、どうなったかな。
 後ろを振り返るとひっくり返り地面に角が刺さって動けないグロウジカがいた。動けなくなってることを確認し意識をはずす。

【ものまねし:状態】


 雪がクッションになったのかダメージもなさそうだし、うまくいってよかった……が、寒い!
 外装がないだけでこんなに寒いとは、早く戻らないと。


「クゥー!」

「ルークか、みんなに被害はなかった?」

「クゥクゥ」

「ははっ、俺は寒いだけだから大丈夫だ。戻ろう」


 ルークと共にみんなの元へ戻ると、なぜか変なものでも見るような目で見られていた。


「なんてやつだ……」

「まさか怪物じゃないだろな……」

「だ、だがこれでひとまず脅威は去ったぞ」

「ね~だからいったれしょ、レニ君はすごいんだらら!」


 リリアが自慢気にアピールしている……いいから早く外装を返してくれ……。


「お兄ちゃんお姉ちゃん、ありがとう!」

「ははっ、どう致しまして。うー寒い、リリア、外装くれ」

「は~い」


 そういったリリアは俺の背後へ回り込み――――着せてくれるのかと思った次の瞬間、おぶさるように俺の背中に乗ってきた。


「うぉっ!? ちょ、リリア!?」

「うふふふふ……私が温めてあげりゅ~」


 突然掛かった重さに片膝をつくと、リリアはさらに上に乗り腕を回しギュッとする。
 リリアの髪が俺の頬に触れ、背中全体に柔らか……温かい。


「リリア、ほらみんな見てるから離れて」

「ん~温めてあげるってば~」

「これじゃ歩けないだろ」

「え~わらしなんか眠くなってきたぁ……おぶって~」

「お、おいまじかよ。起きろリリア!」

「大丈夫~レニ君はわらしの…………Zzz」


 何か言いかけるとリリアはむにゃむにゃと眠りに落ちていった。
 俺たち、まだ泊まる宿も決めてないんですけど……どうしたもんかなぁ、どなたか泊めて頂けませんかって叫んでみるか?
 悩んでいると事情を察してくれたのか着物姿の女性がやってきた。


「お母さん!」

「あの、もしよろしければ私の家に来ますか?」

「い、いいんですか!?」

「メユや町を救ってくれた恩人ですから。それに、その子も女手だけのうちなら安心だと思いますよ」


 そこまで気を遣ってもらえるなら……泊まるところもないし、ここはお言葉にあまえよう。返事をしなんとかリリアをおぶったまま立ち上がる。


「あ、トス爺~」

「おい……あいつは町でもらってもいいか?」


 トス爺はくっついてきた女の子の頭を撫でながら、動けなくなっているグロウジカを指す。


「いいですよ。そのかわり今度からはリリアにお酒は無しでお願いします」

「……あぁ、すまなかったな」

「ふふ、それじゃあ行きましょうか」

「お世話になります、ルークいくよー」

「クゥ!」

「トス爺またねー!」


 俺はリリアの温もりを背に、女性の家へと向かった。
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