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10話 『竜の巫女』

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「「うわ~……おぉっき~い」」


 ここが王都――やっぱり話に聞くのと実物見るのじゃ違うなぁ!
 ちなみに今の俺の装備は腰に鞄と短剣をつけ、鞄の中にはお金とドラゴンの鱗が入っている。お金は両親が万が一にと、多くはないが決して少ないというわけでもない額を袋に詰め渡してくれた。

 リリアに関してはいつも大事にしている鞄を肩から提げ、シンプルな杖をギュッと握りしめている。何か見つけるたび「うわぁ~」と声が漏れ、俺たち二人はなかなかの田舎者丸出しだった。
 それをソフィアさんは保護者のような暖かい目でにこにこしながら見ている。


「それじゃまずはギルドに行きましょうか、迷子にならないようについてくるのよ」

「「はい」」


 ソフィアさんは俺たちのことを気遣ってくれているのか、前を歩きつつもちょくちょく後ろを確認してくれていた。


「おっと……結構人が多いな……リリア大丈夫? 手を繋いでおくか?」

「も、もう! 私は子供じゃないんだから! で、でも…………レニ君がそういうなら」

「ほら……んっ? ソフィアさんあのお店はなんですか!?」

「あ、ま、待ってよー!」


 よく見るとこの辺りは武器屋に防具屋に道具屋と、あれは鍛冶屋の工房だろうか、用途不明のお店から本当に色々なお店がある。
 まるでゲームの世界……伝説の武器や防具がどこかにあるかもしれない! あとは伝説の鍛冶師とか物語とか!

 俺は気づいたら体が動いてしまっていた。だがそこは元38歳、しっかりと自制・・し、ソフィアさんに許可を取り少しだけ覗きに行く。そう、我慢のしすぎはよくない。
 気づけばソフィアさんはリリアと手を繋ぎ、リリアが興味を示したお店の説明をしている。こうして見ると仲のいい年の離れた姉妹だな。

 多少時間をくいながらも俺たちは迷子になることもなく無事ギルドへと到着した。



 * * * * * * * * * * * *



「その子が例の?」

「えぇ、レニ君と、それにそのとき一緒にいたリリアちゃん」

「「よろしくお願いします」」

「礼儀が正しいのは好ましいことだ。俺はギルドマスターをやっているドルノスだ、よろしくな」


 そういって力強く握手を求めてきたおっさんの顔は普通でもかなり恐いが、古傷がそれをさらに引き立てている。前世でも本物・・は腰が低く丁寧というが……こちらの世界も同じようだ。


「顔はちょっとあれだけどいい人だから恐がらないでね」

「は、はい! モンスターより恐くないので大丈夫です!」

「いや、よく見るとこれはこれでドラゴンやブラッドベアーとはまた違った恐さが」

「おいおい……俺をモンスターと比べるな」


 ドルノスさんは頭を掻きながら椅子へと座る。俺たちもソフィアさんに促され椅子へと座った。


「さてと、まずは何があったのかを詳しく教えてくれ」


 俺たちはあの日あった出来事を順を追って説明した。そして話終えると証拠としてドラゴンの鱗をドルノスさんへと見せる。
 身を乗り出し鱗を覗くように見つめるとドルノスさんは頭を掻き溜め息をついた。


「はぁ~まじかよ……作り話だったらどれほどよかったか……」

「あら、私たちを疑っていたの?」

「そんなつもりはねぇよ。だが……ドラゴンと会話したなんて、竜の巫女・・・・以来だぞ」

「だからこそ驚きはしても信じるべきじゃないのかしら?」

「俺だって信じたいが疑ってかからなきゃこの世界はやっていけねぇんだ」

「そんなあなたがよく今回の依頼を承諾したわね」

「あぁそれなんだが……依頼者に『仲間がモンスターに襲われ逃げてきた、モンスターは村のほうへ向かっていった。一刻を争う』って多額の金を出されたんだ。できるだけ強い冒険者をだしてくれってな」

「だからって私たち二人じゃなくても」

「依頼者自身からのお願いだったからな。ただどんなモンスターだったかはわからないの一点張りだ。緊急だったし金を払われてる以上、俺だって無駄な犠牲はだしたくないんだよ」


 ソフィアさんは煮え切らないのか納得したのか腕を組み直す。


「まったく……それで、その依頼者の素性はわかったの?」

「いや、片っ端から調べたがさっぱり。使われていた名前や住所もまったく関係のないものだった」

「裏が関わっている可能性が高い……か。あれほど痛めつけてやったのにまだ懲りないようね」

「あの~裏ってなんでしょうか?」


 いまいち話をわかっていないリリアが小さく手を挙げながら質問するが俺はなんとなく察していた。どう考えてもあっち系の組織だったりそういう稼業の人たちのことだろう。

 それよりも竜の巫女って……なんか伝説のにおいがする単語だが。


「裏っていうのはね、通常できないような依頼を受ける人や組織をいうのよ。盗みや口合わせ、それこそ殺人なんかもよ」

「そこまでしてドラゴンさんの卵が欲しい方っているんでしょうか?」

「コレクターだったり素材だったり……欲を言えばきりがないわ。だけど危険すぎて誰も手を出さない。それにこの国にはドラゴンに手を出してはいけないというルールがあるの」

「なんか変なルールですね」

「昔、素材ほしさに権力者がドラゴンに手を出しちゃってね、国が危機に瀕したのよ。そこに一人の少女が現れドラゴンと言葉を交わし、ドラゴンとの間にこちらから手を出さない限りは襲わないというルールができたのよ。私はまだ駆け出しだったしはっきりとはわからないんだけど」

「なんかレニ君みたい!」

「はは、俺もそんな感じで綺麗に収められていたらよかったけどなぁ」

「あとは自分も言葉を交わせると勘違いするバカがでないとも言い切れん。表向きは王様が誓約を交わしたとしているが民衆に詳細な発表などはしとらん」


 確かに……前例があれば自分もできるかもという勘違いは誰でもするが、そもそもやったという人間がいなければやろうと思う人間はほぼいない。
 だからこそ新たな開拓者や天才と呼ばれる者が現れるのだが。


「とりあえず今日は宿をとって、明日タイラーと合流するわ」

「あいつはこのことを王様に伝えてくると言っていた。城に行けばわかるだろう」

「わかった、何かあればまた来るわ」


 外に出るとちょうど日も暮れ人混みは落ち着いていた。時間も余ったため散歩がてら王都を見て回り、一通り見終えると古風な趣のある宿屋へと入った。


「リリアちゃんは私と一緒でレニ君は一人でも大丈夫ね?」

「はい」

「えっ、ソフィアさんと一緒ですか?」

「あら、嫌なの?」

「い、いえっ! 嫌とかじゃなくて……二人だと狭くなっちゃうんじゃ……」

「気にしないの。それに若い男と一緒の部屋じゃくつろげるものもくつろげないわよ?」

「なんで俺を見るんですか、何もしませんよ」

「レニ君なら大丈夫……なのかな? ……あ、いや安心できるというかなんというか……あわわわわ……」


 勝手に慌てだしたリリアを見てソフィアさんは軽く微笑み――そしてなぜかまた俺を見る。


「何もしませんって」
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