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8話 『特性』

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「知恵の高いモンスターは人の言葉を理解していると聞いたことはあったが……まさかドラゴンと話せるなんてな」

「まったく……ドラゴンの卵を盗むなんてどこのバカかしら」

「そういえば二人はなぜこの村に? 俺からすればあまりにもタイミングが良すぎるというか」

「俺たちもギルドからモンスター討伐の緊急依頼があってきただけなんだ。だがなぁ……」


 そういってタイラーさんはソフィアさんをみると何かに同意するようにソフィアさんも頷く。


「さすがにドラゴンが出るなんて聞いていないわ」

「あの……モンスターってブラッドベアーじゃないですか?」

「ブラッドベアーも確かに危険だが、鍛錬を積んだ冒険者であれば倒すことはできるからな。俺たちが出向くほどではないんだ」


 別のモンスターだったのだろうか? でも二人が来る必要がある依頼なんて、あとはドラゴンくらいしか思い浮かばないが。


「とりあえず今は王都に戻って情報を集めてみるしかないな」

「俺も連れてってもらえませんか。この鱗が何か手掛かりになるかもしれませんし」

「逆に私たちからもお願いするわ、回復したらすぐに出れる?」

「……あ、あの、ソフィアさん!」


 一通り進んでいく話を止めるようにリリアが声をあげた。


「少しだけでいいので……私に魔法を教えてください!」

「リリアちゃんは魔法職なの?」

「そ、それが私、職業が【魔法使い】なんですが……まだ魔法を使えたことがないんです……」


 リリアの職業に関しては前に一度だけ話を聞いたことがある。どうやら普通の魔法とは違うようで、色々努力はしているもののうまくいったことはないらしい。
 時間があるときは諦めず努力を続けているようだったが、残念ながら今まで何も進展はなかった。


「どういうことかしら? 魔法使いというのは総称であって……職業で聞いたことなんてないわ」

「なら、俺は時間が惜しいから先に王都に戻って調べておく。お前は少し嬢ちゃんを見ていくか」

「そうね、私個人としても気になるし放っておけないわ」

「あっ……ありがとうございます! タイラーさんソフィアさん!!」

「いいってことよ。レニ、お前は体が癒えたらまず自分の職業の特性を調べてみろ。わからんことがあればソフィアにでも聞けばいい」

「わかりました、色々と面倒をお掛けします」

「気にするな、これも何かの縁ってやつだ」


 言われてみればせっかく神様にもらった職業、どんなことができるのかを先に調べてみるべきだったな。颯爽と出ていくタイラーさんの背中がかっこよくみえる……。


「それじゃあ私はあなたの無事を知らせてくるから、少しの間だけど……二人でごゆっくり~♪」


 ソフィアさんはそういうと慌てて詰め寄ろうとしたリリアから逃げるように出ていった。静かになった部屋でリリアは椅子に座り顔を仰いだ。


 一時はどうなることかと思ったがみんな無事でよかった。しかし……手に持ったドラゴンの鱗を動かすと、鱗は光を反射し見事な輝きをみせる。
 間近で見たドラゴンの眼……伝説といっていいような生物の例えようのない迫力と美しさ、そして――多分だがあのとき、ドラゴンは卵を気にして本気じゃなかったと思う。だからこそあの程度の被害で済んだのだ。


 伝説級レジェンドクラス――あんなのがこの世界にはたくさんいるのかもしれない。そして俺をこの世界に呼んだ声の正体……神の祝福を受けたときの声とも違う、呼んだのは神様じゃないのか?


 しばらくして次々とお見舞いが来る中、俺の中にはある思い・・が芽生えていた。



 * * * * * * * * * * * *



「それじゃあ始めるわよ」

「はい、よろしくお願いします!」


 リリアが杖を持ちソフィアさんから指導を受けている。少し離れた場所で俺はスライム相手に戦闘態勢になっていた。
 よし、こっちもやるか!

 今回の戦いは安全第一の戦闘だ。ソフィアさんもいるし、目の前のぷるぷるした可愛いモンスタースライム相手に負けることはないが油断は禁物だ。

【ものまねし:状態(スライム)物理無効:微】


「さぁ覚悟しろ!」


 スライム目掛け手に持った木刀を振り下ろす。ぽよん……という感触が伝わり押し返されると俺は踏ん張ることもできず後ろへ倒れた。

 ……はっ?

 なんだ今のは……ドラゴンのときはもっとこう、なんというか芯から力が湧いていた。だが今の俺はスライム相手に振り抜くことすらできなかった。
 叩いたり蹴ったりつついたり、ぽよんぽよよんと色々試すがスライムはダメージを受けてるようにはみえない。俺だって決して遊んでるわけではない、大まじめだ。
 そんなことを繰り返していると声が聞こえてくる。

 ≪灯火トーチ≫

 遠くではソフィアさんの手のひらに火が灯っていた。それをみたリリアも真似をしているが何も起きない。


「……やっぱり才能がないんでしょうか」

「職業は素質をもとに決定してるから使えないなんてことはないはずよ。ほかにも試してみましょう」


 あっちはあっちで試行錯誤中のようだな。よし、今度は投擲でも試してみよう。
 スライムから少し離れ石を全力で投げつける――石は弱弱しく飛んでいくとスライムまで届かずに地面に落ち転がった。


「弱ッ!!」


 あまりの酷さに自分で突っ込んでしまった……くそ、これでは何の役にも立たないじゃないか。
 俺が一人で落ち込んでいると、遠くでソフィアさんが見本を見せるように魔法を使った。

 ≪ファイアーボール≫

 火の玉は俺の視界を通り過ぎ近くにあった岩を破壊する。吹き飛んだ岩の破片はスライムに直撃、ダメージを受けたのかさっきまでの形を保てず力なくへにゃっとしていた。


「ごめんなさい、ちょっと加減を間違えちゃった。怪我はない?」

「大丈夫です。しかしすごい魔法ですね――」


 そういった瞬間俺の体は鉛でコーティングされたように重くなり、力が入らず動くこともままならなくなった。


「な、んだ……これは?」

「どうしたの、大丈夫!?」


 目の前のへにゃったスライムと同じように俺も力なく膝を地面につける。心配する声が響きリリアとソフィアさんが駆け寄ってきた。

【ものまねし:状態(ソフィア:魔導師)】


 対象が変わったのかと思った瞬間、俺の体は軽くなり先ほどまでの重さは嘘のようになくなる。そして今度は溢れるような魔力が体を駆け巡っていた。


「な、なんだったんだ今のは……しかもこれって」

「大丈夫? 怪我でもしたかしら?」

「いえ、もしかすると職業のせいかもしれません。今ソフィアさんを真似してるんですが、さっきまで鉛のように重かった体が嘘のように軽いんです。しかも、たぶんですがこれ……」


 確信はなかったが、頭にいくつも浮かぶ呪文の中で先ほどと同じものを唱える。

≪ファイアーボール≫

 火の玉が飛んでいくと遠くにあった岩を破壊した。


「うそっ……私と同じ魔法……」

「レニ君、魔法が使えたの!?」

「いや、今のでわかったが、魔法はソフィアさんがいたからだ。逆にさっきの体が重くなったことを考えると…………たぶんだが、ものまねっていうのは相手の状態を含め全て・・コピーしているのかもしれない。それこそ相手がダメージを受けた部分すらも」


 よく考えてみると、それってつまりスライムに勝てないどころか、誰にも勝てないんじゃね? 近くに強い人がいればそれを利用してとかできそうだが……一対一だったらどうするのよ……。


「癖がすごいわね……でも、おかげで一つ面白いことを思いついたわ。レニ君、リリアちゃんと私を比べて違いを教えてちょうだい」

「あっ、なるほど。それならいけるかも!」


 リリアはわかっていないようだったが、俺とソフィアさんは根拠のない希望を胸に抱いていた。
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