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131話 ミレイユサイド

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 静かな鍛錬場で集まった『紅蓮の風』の団員たちは、ミレイユの隣に立つ男から目を離すことができなかった。

「団長、これはどういうことか説明してもらえるんでしょうね?」

「見ての通りよ。これから向かう先は【果ての谷】、アルの力が必要になってくる」

「副団長や俺たちがいるのになんでそいつなんですか!」

「聖域ではティーナ嬢を守らなければいけない。それに加えあなたたちを守れるほど余裕はないのよ」

「なっ……俺たちよりもそいつのほうが強いと!?」

「ええ、間違いなくね」

「一つ質問だ。リッツの仇でもあるそいつが裏切ったらどうする。いつぞやのように逃げられたら、今回のようにみつけることは不可能に近いはずだ」

「ウェッジ、そのときは私がこの手で殺すわ。リッツに変なことを吹き込もうとしても、よ」

 ミレイユが言ってることは本気だろう。

 沈黙が流れるなかクラーツが手を挙げる。

「団長が決めたことに口を出すつもりはありません。だけど、この男が本当に強いのか知りたい。俺と闘わせてください」

「おいクラーツ! 俺らでも厳しいんだ、お前じゃ勝つなんて」

「マーリーさん、わかってます。きっとこの男は団長と同じくらい強い……それでも、俺はこの男に一発入れなきゃならないんです」

 ミレイユはジッとクラーツを見つめると頷く。

「わかったわ、アルとの模擬戦を許可する。ただし、二人共スキルは使用禁止、どちらかが降参するか私の判断で終了とする、いいわね?」

 ――――

 クラーツは団員の中でも若手だ。

 しかし彼は決して弱いわけではない。

 傭兵や冒険者、貴族だったほかの団員に比べて圧倒的に場数が足りないだけであり、スキルとセンスだけでいえばミレイユも目を見張るものがある。

「くっ……!」

「ふむ、鎧に頼り切った奴らとは違うようだな」

 アルフレッドは息一つ乱すことなくクラーツの猛攻を止める。

 その異様さにみていたマーリーが声をあげた。

「おいクラーツ! 呼吸を乱すな!」

「……っ!」

 クラーツが距離をとるとアルフレッドは立ち止まった。

「待っててやる」

「はぁはぁ……そんな情けなどいらない!」

 すぐに攻め直すクラーツをみてマーリーは首を振った。

「あのバカ、珍しく躍起になりやがって」

「お前はわからないだろうがあの男は相手の流れを乱すプロだ。考えてみろ、攻撃する直前に一歩入られ避けようとすると攻撃がこない。かといって攻めればあっちも攻める、それがずっとだ」

「……副団長は勝てると?」

「ルールに則ってならな。なしなら、まぁ無理だろ」

 ジッとみつめる二人をよそに、しばらくクラーツが攻めるが好転することはなかった。


「そろそろ諦めたらどうだ」

「お前は……それだけの力を持ってなぜリッツの村を!」

 クラーツの攻めに合わせアルフレッドが攻撃する。

 しかしクラーツはそのまま受けるとアルフレッドの顔を殴った。

「そこまで!!」

「くそ……っ」

 ミレイユの合図と共にクラーツは片膝をつく。

 アルフレッドは何事もなかったようにクラーツに近づくと肩に手を置いた。

「……最後のはいい攻撃だった。その気持ちを忘れるな、いずれ答えに辿り着く」

「ッ!!」

 アルフレッドがミレイユの側に戻ると団員たちは整列する。

 ミレイユが今後の計画を説明する間、クラーツは拳を握りしめていた。
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