52 / 150
52話
しおりを挟む
「父上、母上! ただいま戻りました!!」
「トリストン……! 無事だったのね!」
玄関ホールではティーナの両親を筆頭に使用人たちがトリストンを出迎える。俺たちは事情を話す機会を伺っていた。
「ご心配をお掛けして申し訳ありません。しかし大切なご報告があります」
「なんだ、申してみよ」
「私が魔物を追ってると突如黒いバケモノに襲われ、兵を失い戦力を失くした私は一人隠れるほかありませんでした。それを計画したのがティーナとあやつらだったのです!」
…………? 何言ってんのこいつ。
「お兄様! いくら己の失態を隠すためとはいえ、あらぬ疑いを掛けるなど酷すぎます!」
「黙れ! お前はファーデン家の者らと共にこの家を乗っ取ろうとしているのだろう!」
二人が言い争っているとティーナの父が割って入る。
「トリストン落ち着きなさい。ティーナ……やはり、お前は我々を恨んでいるのだな? 己だけが有用なスキルを得られなかったのは我々が悪いのだと……」
「ッ!? お、お父様、私はそんなこと一言も!」
「あなたは育ててもらった恩も忘れてしまったの? あぁ……どうしてこんなことに……」
「母上、お気を確かに! 私が必ずやレブラント家を守ってみせます!」
な、何なんだこの家族は……本当にティーナの家族なのか……?
「ちょっと待て、俺たちは捜索に行けって言われたから来たんだぞ。それまでこの家とは一切接点がないのにおかしいだろ」
「どうせティーナに金で雇われたのであろう、ファーデンの犬め!」
「ワン!!」
アンジェロ、お前のことじゃないぞ。しかし参ったな、こうも話が通じないとは――。
一芝居を見せられていると後ろからエレナさんがやってきた。
「お嬢様、用事が終わったらすぐ戻るようにと言ったでしょう」
「エレナ、どうしてここに?」
「人の噂とは早いのです。トリストン様がお戻りになられたと耳にし駆けつけました」
エレナさんはティーナとトリストンたちの間に立つ。
「使用人がでしゃばるとは何事だ! ファーデン家は揃いも揃って――」
「あなたこそ無礼ですよ。お嬢様は現在子爵位を授かる身、男爵位であるあなたがそのような態度をとられていられるのも、お嬢様の慈悲があってのことなのです」
口が開いたままのトリストンを筆頭にレブラント家の面々がティーナをみる。
「う、嘘をつくな!! こいつが職位を得るなど」
「トリストン様、ここは穏便に済ませたほうが……。この度は、大変ご迷惑をお掛け致しました。変わってこの通り謝罪致します」
やってきたハリスが深く頭を下げる。
「貴様、この私を侮辱するつもりか!!」
トリストンはハリスを突き飛ばす。
「ハリス……! 大丈夫ですか!?」
ティーナがハリスに駆け寄るとエレナさんがトリストンを睨んだ。
「あなたはご自分のなさってることをご理解しているのですか? 使用人というのは家に仕える者、家の主であるあなたのご両親に仕えているのであって、あなた自身ではないのです」
「ふん! 父上たちは多忙だから私が代わって教育をしてやっているのだ」
「……エレナさん、こいつには何を言っても無駄なようだ」
本っ当に師匠たちを連れてこなくてよかったよ。
「ティーナ、覚悟を決めろ」
ティーナはギュッと口を結び立ち上がり、エレナさんの隣へ立つと手紙を取り出す。
「此度の件について――我らファーデン家としては許し難いものであるが、ご子息の安否、そしてティーナ嬢の願いを尊重し一度だけ手を貸すことを許した。ただし、これを最後としこれ以上我らに対する誹謗を行うのであれば、レブラント家との縁を切らせて頂く」
読み終えるとティーナはトリストンへ手紙を突き出した。
「――な、なんだこんなもの! やはりお前が……!」
ティーナに対しトリストンが振り上げた手を俺は掴む。
「そういえば薬の代金をまだもらってなかったな」
「ぶへあッ!!」
そこそこ軽く殴ってやったつもりがトリストンは大袈裟に転がっていく。
「これで薬の分はチャラにしてやる。治してほしかったら【カルサス】の聖人を尋ねな」
大騒ぎでトリストンに駆けつけるレブラント家を尻目に俺はハリスに薬を出す。
「これは騒がせたお詫びです。ついでにもう一つ、【カルサス】の教会裏に住んでる知り合いが使いを募集している。あなたが良ければそこへ行ってみるのもありだろう」
「あ、あなたは……」
俺は笑顔を返すとティーナたちと屋敷を出た。
「いやースッキリしたな!」
「まったく、もう少し穏便に済ませることはできなかったのですか」
そういうがエレナさんの顔は笑顔だ。
「正当防衛ってヤツだよ。大事なファーデン家の令嬢に傷をつけるわけにはいかないからな」
「二人共そんなこといって笑ってるじゃないですか……。でも、本当にありがとうございました」
ティーナは立ち止まって礼を言った。
「今まで私がみてきた家族は大きく畏怖すべきものでした。そんな私をいつも守ってくれたのはエレナとハリスだけ……しかし、やっと向き合うことができました。いくら立場があるとしても同じ人間、小さなものだったんだなと」
ティーナは自信に満ちた声でそういうと改めて礼を言う。
「俺たちは手助けをしただけだからな。成長しようと足掻いたのはティーナ自身の力さ」
「お嬢様のお転婆も無駄ではなかったということですね。苦労が報われたような気がします」
エレナさんは涙を拭く素振りをした。
「ちょ、ちょっとエレナ! それは今関係ないでしょー!!」
ティーナが逃げたエレナさんを追い掛ける。
「……少し、休んでから話を聞いてもいいか?」
「はい、もちろん。いつでもよろしいですよ」
俺の言葉にニエはいつものように笑顔で応えた。
「トリストン……! 無事だったのね!」
玄関ホールではティーナの両親を筆頭に使用人たちがトリストンを出迎える。俺たちは事情を話す機会を伺っていた。
「ご心配をお掛けして申し訳ありません。しかし大切なご報告があります」
「なんだ、申してみよ」
「私が魔物を追ってると突如黒いバケモノに襲われ、兵を失い戦力を失くした私は一人隠れるほかありませんでした。それを計画したのがティーナとあやつらだったのです!」
…………? 何言ってんのこいつ。
「お兄様! いくら己の失態を隠すためとはいえ、あらぬ疑いを掛けるなど酷すぎます!」
「黙れ! お前はファーデン家の者らと共にこの家を乗っ取ろうとしているのだろう!」
二人が言い争っているとティーナの父が割って入る。
「トリストン落ち着きなさい。ティーナ……やはり、お前は我々を恨んでいるのだな? 己だけが有用なスキルを得られなかったのは我々が悪いのだと……」
「ッ!? お、お父様、私はそんなこと一言も!」
「あなたは育ててもらった恩も忘れてしまったの? あぁ……どうしてこんなことに……」
「母上、お気を確かに! 私が必ずやレブラント家を守ってみせます!」
な、何なんだこの家族は……本当にティーナの家族なのか……?
「ちょっと待て、俺たちは捜索に行けって言われたから来たんだぞ。それまでこの家とは一切接点がないのにおかしいだろ」
「どうせティーナに金で雇われたのであろう、ファーデンの犬め!」
「ワン!!」
アンジェロ、お前のことじゃないぞ。しかし参ったな、こうも話が通じないとは――。
一芝居を見せられていると後ろからエレナさんがやってきた。
「お嬢様、用事が終わったらすぐ戻るようにと言ったでしょう」
「エレナ、どうしてここに?」
「人の噂とは早いのです。トリストン様がお戻りになられたと耳にし駆けつけました」
エレナさんはティーナとトリストンたちの間に立つ。
「使用人がでしゃばるとは何事だ! ファーデン家は揃いも揃って――」
「あなたこそ無礼ですよ。お嬢様は現在子爵位を授かる身、男爵位であるあなたがそのような態度をとられていられるのも、お嬢様の慈悲があってのことなのです」
口が開いたままのトリストンを筆頭にレブラント家の面々がティーナをみる。
「う、嘘をつくな!! こいつが職位を得るなど」
「トリストン様、ここは穏便に済ませたほうが……。この度は、大変ご迷惑をお掛け致しました。変わってこの通り謝罪致します」
やってきたハリスが深く頭を下げる。
「貴様、この私を侮辱するつもりか!!」
トリストンはハリスを突き飛ばす。
「ハリス……! 大丈夫ですか!?」
ティーナがハリスに駆け寄るとエレナさんがトリストンを睨んだ。
「あなたはご自分のなさってることをご理解しているのですか? 使用人というのは家に仕える者、家の主であるあなたのご両親に仕えているのであって、あなた自身ではないのです」
「ふん! 父上たちは多忙だから私が代わって教育をしてやっているのだ」
「……エレナさん、こいつには何を言っても無駄なようだ」
本っ当に師匠たちを連れてこなくてよかったよ。
「ティーナ、覚悟を決めろ」
ティーナはギュッと口を結び立ち上がり、エレナさんの隣へ立つと手紙を取り出す。
「此度の件について――我らファーデン家としては許し難いものであるが、ご子息の安否、そしてティーナ嬢の願いを尊重し一度だけ手を貸すことを許した。ただし、これを最後としこれ以上我らに対する誹謗を行うのであれば、レブラント家との縁を切らせて頂く」
読み終えるとティーナはトリストンへ手紙を突き出した。
「――な、なんだこんなもの! やはりお前が……!」
ティーナに対しトリストンが振り上げた手を俺は掴む。
「そういえば薬の代金をまだもらってなかったな」
「ぶへあッ!!」
そこそこ軽く殴ってやったつもりがトリストンは大袈裟に転がっていく。
「これで薬の分はチャラにしてやる。治してほしかったら【カルサス】の聖人を尋ねな」
大騒ぎでトリストンに駆けつけるレブラント家を尻目に俺はハリスに薬を出す。
「これは騒がせたお詫びです。ついでにもう一つ、【カルサス】の教会裏に住んでる知り合いが使いを募集している。あなたが良ければそこへ行ってみるのもありだろう」
「あ、あなたは……」
俺は笑顔を返すとティーナたちと屋敷を出た。
「いやースッキリしたな!」
「まったく、もう少し穏便に済ませることはできなかったのですか」
そういうがエレナさんの顔は笑顔だ。
「正当防衛ってヤツだよ。大事なファーデン家の令嬢に傷をつけるわけにはいかないからな」
「二人共そんなこといって笑ってるじゃないですか……。でも、本当にありがとうございました」
ティーナは立ち止まって礼を言った。
「今まで私がみてきた家族は大きく畏怖すべきものでした。そんな私をいつも守ってくれたのはエレナとハリスだけ……しかし、やっと向き合うことができました。いくら立場があるとしても同じ人間、小さなものだったんだなと」
ティーナは自信に満ちた声でそういうと改めて礼を言う。
「俺たちは手助けをしただけだからな。成長しようと足掻いたのはティーナ自身の力さ」
「お嬢様のお転婆も無駄ではなかったということですね。苦労が報われたような気がします」
エレナさんは涙を拭く素振りをした。
「ちょ、ちょっとエレナ! それは今関係ないでしょー!!」
ティーナが逃げたエレナさんを追い掛ける。
「……少し、休んでから話を聞いてもいいか?」
「はい、もちろん。いつでもよろしいですよ」
俺の言葉にニエはいつものように笑顔で応えた。
23
お気に入りに追加
1,442
あなたにおすすめの小説
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~
結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は
気が付くと真っ白い空間にいた
自称神という男性によると
部下によるミスが原因だった
元の世界に戻れないので
異世界に行って生きる事を決めました!
異世界に行って、自由気ままに、生きていきます
~☆~☆~☆~☆~☆
誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります!
また、感想を頂けると大喜びします
気が向いたら書き込んでやって下さい
~☆~☆~☆~☆~☆
カクヨム・小説家になろうでも公開しています
もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~>
もし、よろしければ読んであげて下さい
英雄一家の〝出涸らし〟魔技師は、今日も無自覚に奇跡を創る。
右薙光介
ファンタジー
かつて世界を救ったという英雄の一家がある。
神すらも下した伝説の魔法使いの父、そしてその隣に立ち続けた母。
しかし、その息子──ノエルには、その才能が一片も受け継がれなかった。
両親から全ての才能を引き継いだ姉の隣で、周囲から〝出涸らし〟と揶揄される日々。
あげくに成人の儀式では、最低評価の『一ツ星(スカム)』を受けてしまうノエル。
そんなノエルにも魔法道具(アーティファクト)職人……『魔技師』になるという夢があった。
世界最高の頭脳が集まる『学園』で待っていたのは、エキサイティングな学生生活、そして危険な課題実習。
そんなある日、課題実習のさなかにノエルはある古代魔法道具による暴走転移事故に巻き込まれてしまう。
姉、そして幼馴染とともに吹き飛ばされたその先は、なんと40年前の世界だった。
元の時間に戻るべく、転移装置修理に乗り出す三人。
しかし、資金調達のために受けた軽い依頼から、大きなトラブルに巻き込まれることに。
それはやがて、英雄一家の過去と未来を左右する冒険の始まりとなるのだった。
魔法使いになりたかった〝出涸らし〟の少年が、『本当の魔法』を手にする冒険ファンタジー、ここに開幕ッ!!
※他サイトにも掲載しております。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる