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33話

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 屋敷に戻ってから数日たったが俺は相変わらずやることがなかった。

 シリウスは組織についての情報を精査するといっていたし、いざこうなると暇だな……。

「リッツ様、お客様がお見えになっております」

 使用人に連れられ玄関へ向かうと商人らしき男性が立っていた。

「突然のご訪問失礼致します。聖人様へお住まいの候補が揃いました。よろしければこれから内見でもいかがでしょうか」

「ちょうどよかった、準備してくるから待っててくれ」

 アンジェロと馬車に乗り候補先へ向かう。

「……でかくない?」

「ワン! ワン!」

 山の中にポツンと巨大な屋敷が佇んでいる。

「こちらは周りに何もないため見晴らしがよく、騒音に悩まされることもございません。貴族の奥様方もお体を休めるのにお使いなられるほどの人気物件なんですよ」

 隠居生活をしたいわけじゃないから……。

「大きすぎて俺には合わないなぁ。アンジェロにはちょうどよさそうなんだが申し訳ない」

「いえいえ、それでは次の物件をご案内致します」

 俺たちを乗せた馬車は街のほうへ走っていく。

「お次はこちら、街も近いですしどこへ行くにもアクセスは良好かと」

 そこまで大きくはないが豪華な外観だな。これだったら管理もしやすいし――。

「お、聖人様! 最近見かけないと思ったが元気にしてたか?」

「相変わらずだよ、おっちゃんも元気そうでなによりだ。落ち着いたらまた店に行くよ」

 街道が近いため通りかかる人々に次々と声を掛けられる。

 これじゃゆっくりしてられないな。

「ここも悪くはないんだけど、もう少し人目につかない場所はないかな?」

「あるにはあるのですがちょっと問題が……まぁ行くだけいってみましょう」

 馬車は教会を通り過ぎるとすぐに止まった。裏手から少し進んでいくと草木に覆われた屋敷が見え、庭は荒れ果てている。

「こりゃあなんともまぁ……」

「街も近く建物自体は名工が作ったため申し分ないのですが、如何せん教会の裏手というのがどうにも……以前お住まいだった方は趣味で畑をやっていたそうですがこの通りでして……」

 雑草が生い茂る庭の先を見ると僅かにだが区画を整備した跡がある。

 そういえば俺が生まれた村じゃ希少な草なんかは畑で栽培していたな。父さんや母さんの手伝いもよくやってたっけ。

「ワン!」

「そうだな、ここなら森を突っ切ればファーデン家にも近いし静かだ。綺麗にすれば問題はなさそうだしここに決めるか」

「時間さえ頂ければある程度は私どもの方で清掃を致します」

「それは助かるよ。ついでに聞きたいんだけどさ、屋敷を持つなんてこれが初めてだから使用人なんかはどこで雇えばいいんだ?」

「基本的には二つありまして、一つは国で運営している斡旋所に行き契約をする、そしてもう一つは知り合いなどの伝手で当人同士契約を結ぶことです。もちろん違法性がないかなどチェックするために斡旋所は通しますが、給金や業務内容に関しては当人たちの意向が優先されます」

「なるほど、とりあえず詳しいことは戻って聞いてみるとするか」

「ファーデン家の人脈は広いとお聞きしますからそれがよろしいかもしれませんね」

 屋敷に戻りバトラさんへ事情を話すとその日の夜に時間を作ってくれた。

「すいません、色々と忙しいときに」

「いえいえ、リッツ様には恩がございますからお気になさらないでください」

 椅子に座りバトラさんは机に紙を出す。

「さっそく始めましょう。まずは使用人を雇うにあたっていくつか注意点がございます。まず一つはその者が信用に足るかどうかです」

「やっぱり裏切られたとかあるんですか?」

「滅多にあるわけではないのですが、例えばリッツ様に仕える者がほんの少しだけ情報を漏らしてしまったとします。すぐに聖人と繋がりを持ちたいという貴族が殺到し、毎日手紙と使いが送られることになるでしょう」

 うへぇっ、最悪じゃん……。

「応えない場合はファーデン家――つまり、リッツ様と親しい相手へ連絡が行きます。最悪の場合、なんとしても接触を試みようと強く出てくる輩がいることも」

「そんなことになれば大問題だな……わかりました、用心します。ほかには何がありますか?」

「次に大切なのは契約内容の確認です。何をどこまでやるのか、中には住み込みで働く者もおりますが、きちんと休みがなくては違法な契約となります。いくらお互いの間柄があったとしてもふとしたことから亀裂が生じかねませんので、はっきりしておくことをお勧め致します」

 確かに、いくら好きだと言っても夜な夜なポーションを作るのはもううんざりだ。これもきっちりしておいたほうがいいな。

「そして最後は給金です。これに関しては言わずもがなですが、一つ注意点がございます」

「高過ぎず安過ぎず……ってことですよね?」

「それも大切なことですが、働き手の能力に見合っているのかを見極めねばなりません」

「頑張る人には多く払ってサボる奴は減らせってこと?」

「正確にはこれだけ頑張れば評価してもらえるという繋がりを作るのです。それがまた信頼となり互いを育て、絆となるのです」

「なんか難しそうなんですけど……」

「ははは、こればかりは主を経験し覚えていくしかありません。忘れぬことが大事なのです」

 なるほど、修行だと思えばいいわけだ。

「やれるだけやってみます。ダメだったら、また頼らせてもらいますね」

 俺はバトラさんに礼を言うと部屋に戻り考えたが、すぐに夢の中へ入ってしまった。
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