30 / 150
30話
しおりを挟む
「それじゃあ俺は城で情報をもらってくる。くれぐれも……といっても無駄だろうが、できる限りいざこざは起こさないでくれよ」
シリウスの姿をしたシルエはまるで本人のようにため息をつくと出ていった。
さすがにもう大丈夫だって……たぶん。
「さてと、俺たちも行くか」
「ワン!」
今日はこの国の祝日らしく、大通りではちょっとした屋台なんかもでているらしい。カーラの用事が終わったらアンジェロと見に行く予定のため朝食は軽めに済ませた。
宿屋から出て鍛冶場へ着くと扉は閉めてある。
ちょっと早かったか、カーラが来るまで待ってるか。
アンジェロを撫でながら待っていると何かに気付いたアンジェロは走り出した。
「ワフッ」
「あ、おいこら! ――すいません!」
女性の下で止まったアンジェロを捕まえる。
「あの、リッツさん。今日は来てもらってありがとうございます……ッス」
ん? この声は……。
顔をあげた俺の前にワンピース姿でお洒落なカーラが立っていた。
「カーラか! 悪い、別人みたいで気づかなかったよ」
「へ、変じゃないッスか?」
「全然! カーラもそういう恰好するんだな」
「それどういう意味ッスか……」
「あぁいや! 作業着しか見てないしカーラって鍛冶場に籠ってるイメージだったからさ」
「もう……さすがに籠りっぱなしってわけじゃないッスよ」
「ははは、そりゃあそうだよな。それで今日は何をするんだ?」
「それなんスけど実は今日、大通りや広場にお店が出てて……い、一緒にどうかなーって……」
カーラは頬を掻きながら少し視線を逸らす。
これはもしかして……一人だと恥ずかしいから誰かと一緒に行きたいってやつか。友達はみんな都合がつかなかったんだろう。
「だったらちょうどいい、俺もこのあと行こうと思ってたんだ。初めてだから案内してもらえると助かる。アンジェロもこのまま一緒に連れてっていいかな?」
「もちろん! 美味い食べ物もたくさん出てるし、アンジェロにもお礼をするッスよ!」
「ワン!」
「よーし、それじゃさっそく向かおう」
広場がみえてくると賑わう声が大きくなり赤や緑など目にすることのなかった色が映る。
「まずはあっちの店ッス! 串焼きがとても美味しいんスよ!」
前に出たカーラはこちらを振り返ると急かすように手招きする。
よっぽど楽しみだったんだな……組織のこともあるが今日くらいは俺も楽しむとしよう。
――――
――
「へ~つまりその鉱石を混ぜて食器を作れば、このパフェも冷えたまま楽しめるわけだ」
「その通りッス。おっともうこんな時間……リッツさん、これを食べたら最後に行きたいところがあるんスけどいいッスか?」
すっかり日も暮れ、カーラが最後に向かった先は時計塔だった。
「おーなんて――」
寂しい景色なんだ……。
空ではモクモクと煙が流れ、夕陽に照らされた大地はあちこち穴が開いている。カーラに抱かれているアンジェロも心なしか悲し気だ。
「はは、お世辞にも綺麗とは言えないッスよね。この国は元々草木があったらしいんスけど、鉱石や油田が見つかって掘り起こしているうちにこうなったって聞いたッス」
俺が生まれた村とは正反対だな……繁栄のためには仕方ないところもあったんだろうが……。
カーラは明かりが灯り始めた街を眺める。
「リッツさんに聞いてほしい話があって……昔、事故で火傷したって言ったッスよね。実はそれ、親父がある実験をしてる最中に私が鍛冶場に入ったのが原因だったんスよ。それ以来、親父は鍛冶場を閉めてしまって……」
「お互い悪気があったわけじゃなかったんだろ?」
「もちろんッス。でも、私が子供の頃に母さんを病気で亡くしてから、親父は危険なことを遠ざけるようになって……実験というのも私を喜ばせるためにしてたんスけど、事故がきっかけでまともに話もしてくれなくなったんスよ」
「……カーラのことが心配だったんだよ。大切な家族だから」
「分かってるッス、だから私も親父の実験を成功させようとしたんスけど失敗続きで……」
あんな爆発がしょっちゅう起きてるのかよ。
「余計なお世話だと思うが、もう少し安全を確保してからにしたほうがいいと思うぞ」
「それなんですが今度からは一人じゃないッス。リッツさんに助けてもらってから親父と話をすることができて、一緒にこの実験を成功させようって――これもリッツさんのおかげッスよ」
「よしてくれ。たまたまとはいえ一時は俺のせいで危険な目にあったんだ」
それを聞いたカーラはアンジェロを降ろすと鞄から鉱石を取り出した。
「これは昔親父が唯一成功させたモノで、リッツさんに見てもらえって親父にもらったッス」
「何なんだこれは?」
「みてのお楽しみッス! これを高く空に向かって投げてほしいんスけどいいッスか?」
「あぁ、それくらいなら任せておけ」
カーラが紐を巻き付けてる間に俺は草を齧る。
「それじゃ火をつけるので合図したら思いっきり投げてくださいッス」
カーラが紐に火をつけ数えると合図を出し、俺はすっかり暗くなった空に向けて鉱石を投げつける。煙の中に消えていった鉱石を見届けると大きな爆発が起き煙を吹き飛ばす。
「お、お~~~こりゃあすごい!」
「ワンワン!」
爆発で散った鉱石はキラキラと光り輝き、街から歓声が上がると徐々に燃え尽きていった。
「リッツさん……本当にありがとッス」
シリウスの姿をしたシルエはまるで本人のようにため息をつくと出ていった。
さすがにもう大丈夫だって……たぶん。
「さてと、俺たちも行くか」
「ワン!」
今日はこの国の祝日らしく、大通りではちょっとした屋台なんかもでているらしい。カーラの用事が終わったらアンジェロと見に行く予定のため朝食は軽めに済ませた。
宿屋から出て鍛冶場へ着くと扉は閉めてある。
ちょっと早かったか、カーラが来るまで待ってるか。
アンジェロを撫でながら待っていると何かに気付いたアンジェロは走り出した。
「ワフッ」
「あ、おいこら! ――すいません!」
女性の下で止まったアンジェロを捕まえる。
「あの、リッツさん。今日は来てもらってありがとうございます……ッス」
ん? この声は……。
顔をあげた俺の前にワンピース姿でお洒落なカーラが立っていた。
「カーラか! 悪い、別人みたいで気づかなかったよ」
「へ、変じゃないッスか?」
「全然! カーラもそういう恰好するんだな」
「それどういう意味ッスか……」
「あぁいや! 作業着しか見てないしカーラって鍛冶場に籠ってるイメージだったからさ」
「もう……さすがに籠りっぱなしってわけじゃないッスよ」
「ははは、そりゃあそうだよな。それで今日は何をするんだ?」
「それなんスけど実は今日、大通りや広場にお店が出てて……い、一緒にどうかなーって……」
カーラは頬を掻きながら少し視線を逸らす。
これはもしかして……一人だと恥ずかしいから誰かと一緒に行きたいってやつか。友達はみんな都合がつかなかったんだろう。
「だったらちょうどいい、俺もこのあと行こうと思ってたんだ。初めてだから案内してもらえると助かる。アンジェロもこのまま一緒に連れてっていいかな?」
「もちろん! 美味い食べ物もたくさん出てるし、アンジェロにもお礼をするッスよ!」
「ワン!」
「よーし、それじゃさっそく向かおう」
広場がみえてくると賑わう声が大きくなり赤や緑など目にすることのなかった色が映る。
「まずはあっちの店ッス! 串焼きがとても美味しいんスよ!」
前に出たカーラはこちらを振り返ると急かすように手招きする。
よっぽど楽しみだったんだな……組織のこともあるが今日くらいは俺も楽しむとしよう。
――――
――
「へ~つまりその鉱石を混ぜて食器を作れば、このパフェも冷えたまま楽しめるわけだ」
「その通りッス。おっともうこんな時間……リッツさん、これを食べたら最後に行きたいところがあるんスけどいいッスか?」
すっかり日も暮れ、カーラが最後に向かった先は時計塔だった。
「おーなんて――」
寂しい景色なんだ……。
空ではモクモクと煙が流れ、夕陽に照らされた大地はあちこち穴が開いている。カーラに抱かれているアンジェロも心なしか悲し気だ。
「はは、お世辞にも綺麗とは言えないッスよね。この国は元々草木があったらしいんスけど、鉱石や油田が見つかって掘り起こしているうちにこうなったって聞いたッス」
俺が生まれた村とは正反対だな……繁栄のためには仕方ないところもあったんだろうが……。
カーラは明かりが灯り始めた街を眺める。
「リッツさんに聞いてほしい話があって……昔、事故で火傷したって言ったッスよね。実はそれ、親父がある実験をしてる最中に私が鍛冶場に入ったのが原因だったんスよ。それ以来、親父は鍛冶場を閉めてしまって……」
「お互い悪気があったわけじゃなかったんだろ?」
「もちろんッス。でも、私が子供の頃に母さんを病気で亡くしてから、親父は危険なことを遠ざけるようになって……実験というのも私を喜ばせるためにしてたんスけど、事故がきっかけでまともに話もしてくれなくなったんスよ」
「……カーラのことが心配だったんだよ。大切な家族だから」
「分かってるッス、だから私も親父の実験を成功させようとしたんスけど失敗続きで……」
あんな爆発がしょっちゅう起きてるのかよ。
「余計なお世話だと思うが、もう少し安全を確保してからにしたほうがいいと思うぞ」
「それなんですが今度からは一人じゃないッス。リッツさんに助けてもらってから親父と話をすることができて、一緒にこの実験を成功させようって――これもリッツさんのおかげッスよ」
「よしてくれ。たまたまとはいえ一時は俺のせいで危険な目にあったんだ」
それを聞いたカーラはアンジェロを降ろすと鞄から鉱石を取り出した。
「これは昔親父が唯一成功させたモノで、リッツさんに見てもらえって親父にもらったッス」
「何なんだこれは?」
「みてのお楽しみッス! これを高く空に向かって投げてほしいんスけどいいッスか?」
「あぁ、それくらいなら任せておけ」
カーラが紐を巻き付けてる間に俺は草を齧る。
「それじゃ火をつけるので合図したら思いっきり投げてくださいッス」
カーラが紐に火をつけ数えると合図を出し、俺はすっかり暗くなった空に向けて鉱石を投げつける。煙の中に消えていった鉱石を見届けると大きな爆発が起き煙を吹き飛ばす。
「お、お~~~こりゃあすごい!」
「ワンワン!」
爆発で散った鉱石はキラキラと光り輝き、街から歓声が上がると徐々に燃え尽きていった。
「リッツさん……本当にありがとッス」
30
お気に入りに追加
1,442
あなたにおすすめの小説
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m
【完結】妃が毒を盛っている。
佳
ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。
王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。
側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。
いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。
貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった――
見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。
「エルメンヒルデか……。」
「はい。お側に寄っても?」
「ああ、おいで。」
彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。
この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……?
※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!!
※妖精王チートですので細かいことは気にしない。
※隣国の王子はテンプレですよね。
※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り
※最後のほうにざまぁがあるようなないような
※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい)
※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中
※完結保証……保障と保証がわからない!
2022.11.26 18:30 完結しました。
お付き合いいただきありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる