上 下
2 / 150

2話

しおりを挟む
「王様、これがエリクサーになります」

 俺は綺麗な翡翠色の液体が入った瓶を渡した。

 王様は少し怪しげな表情でポーションを受け取ると、なぜか一気に飲み干す。

 チェック済みとはいえまさかその場でグイッといくとは……よっぽどどこか悪かったのかな。

 しばらくすると王様の体は柔らかい光に包まれた。

「…………これは本当に不老不死の薬なのか?」

「……はいっ?」

 何か勘違いしてるのかな……でも確かにエリクサーを作れって言われたし……。

 王様に進言するというのは気が滅入るが、こういうときはちゃんと伝えることが大事だって、師匠は口を酸っぱくして言ってたしな。うん。

「――――失礼ですが王様、エリクサーにそんな効果はありませんよ?」

 俺の言葉を聞いた王様はポカーンと口をあけたまま固まっていた。

「エリクサーって不老不死の薬じゃなくて、ただの凄い回復薬ですよ?」

「なっ……なんだとおおおおおお! 貴様は儂を愚弄するのかあああああああ!!」

「ええええ!? い、いや、だってエリクサーを作れって……頑張ったのに……」

「偽物を寄越すとはこの不届き者が!! えーい貴様なぞ追放だ! 本来ならば打ち首にしてやるところだがあやつの顔も立てねばならん、師に感謝しろ! 貴様は金輪際わが国【ブレーオア】に入ることは許さん! 衛兵! いますぐこの者をつまみ出せ!」

 激怒する王様の命令によって俺は城から追い出されるどころか、問答無用で国から追い出されてしまった。







「おらさっさと降りろ! 命があるだけ感謝するんだな、この嘘つきめ」

 乱暴に馬車から追い出されると一人ポツンと佇む。

 嘘つきって……あれは紛れもなくエリクサーなのに……はぁ……さすがに師匠は話せばわかってくれるだろうけど……これからどうしたもんかなぁ。

 ――仕方ない、こんなときは前進あるのみだ。

 お、あそこに生えてるのは香草……自生しているとは珍しい。

 ん? あれは薬草……あそこにも……あんなにたくさん!

「く、草がいっぱいだあああああああ!」

 ――いっぱいだああああ!

 俺の声が響く。

 あれはブドの実! あっちはトウカ草!

 山のほうにもまだまだありそうだぞ。

 俺は足取り軽く緑生い茂る山の中へ入った。

 ――――――

 ――――

 ――

 いかん、すっかり夜だ……楽しいときというのはなぜこうも時間が経つのが早いんだ。

 …………寝るか。

 適当な場所を見つけ寝転ぶと満天の星がみえる。

 師匠は今頃どうしてるかなぁ……騎士団のみんなに八つ当たりしてないといいけど…………まさか俺を探しにきたりは――。

 何かの気配を感じると薄っすらと光るモヤのようなものがいた。

「誰かそこにいるのか?」

 モヤは獣に似た姿となり、何度もこちらを振り返る仕草をする。少しだけ近づくとその分だけゆっくり離れた。

 ……ついてこいって言ってるのか?

 周囲を警戒しながら追うとモヤは消え、傷だらけの犬のような巨獣が横たわっていた。

「お、おい、大丈夫か!?」

 動く気配がない……横にいるのはこいつの子どもかな、可哀想に……。

「――くぅ……ん……」

「ッ! しっかりしろ! 今助けるからな!!」

 すぐにエリクサーを取り出し子犬へ飲ませると子犬は柔らかい光に包まれた。

「ふぅ……もう大丈夫だ」

「……ワン!」

 子犬は立ち上がるとすぐに巨獣の体を揺らし始める。

「お前……そうだな、まだ間に合うかもしれない」

 エリクサーを取り出すと大きな口の中へ垂らす。

 ――頼む、飲んでくれ。

「ワン! ワン!」

 子犬が必死に吠えるが翡翠色の液体はそのまま零れ落ちてくる。

「…………すまない、これ以上は……」

 子犬は懇願するように何度も俺の服を引っ張った。

「俺には治せないんだ……本当に……すまない……っ」

 あのときと同じ……また、俺は助けられなかった……。

 溢れ出る涙とともに俺はガクリと膝をついた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

処理中です...