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〈第五話〉
しおりを挟む馬車がカルデラ邸に着き、ナイトハルトとカイオンが馬車から降り、凶悪な面構えで待ち構えるゲオルグ公爵と対面する。
「お初にお目にかかります。私は、第一王子、ナイトハルト・セラフィス」
ナイトハルトは、本当に重圧など感じていないのだろう、興味がなさそうに、ゲオルグ公爵に挨拶をする。
ゲオルグ公爵がじっとナイトハルトを見つめ、黙っていると、リリー夫人が現れる。
「まぁ!」
母親の記憶が無く、今の王妃に嫌われている事もあり、女性に対して良いイメージを持っていないナイトハルトが、リリー夫人を見て若干嫌そうな顔をする。
「美少年……」
それを察してか、リリー夫人の声のトーンも少し落ちる。
「リリー、ご挨拶を」
「リリー・カルデラです」
リリー夫人が、スカートの端を摘んで丁寧に挨拶をする。
「こちらへ……」
そして挨拶し終わると、そっとナイトハルトの手を取って、屋敷の中へと案内した。
※
ナイトハルトは、庭に響く怒号に向ける。
「こんなことも出来ませんの⁈」
「申し訳ありません!」
「リジー!」
リリー夫人の呼びかけに、振り向くリジーは、ナイトハルトを見て顔を赤らめ、走り去る。
それを見たナイトハルトは、溜息を吐く。
「随分……元気のいい御令嬢なのですね」
ナイトハルトなりのお世辞だったのだろうが、半分は嫌味とも取れかねない内容である。
この後、リジーを追いかける事のなかったナイトハルトは、髪の整ったリジーと面会を果たし、軽く挨拶をした後、帰路に着くのであった。
※
城に帰り、部屋で課題をこなすナイトハルトの元に、王が現れる。
「どうだった?」
「きちんと婚約のお話は、承ってきました」
「それで?」
「それで、とは?」
旧ナイトハルトが、冷たく何の興味も無い視線で王を見る。
「いや、いい……」
王は、どう付き合ったらいいかわからず、長く放っておいたままにしてしまった後ろめたさも有ったのだろう、何も言わずにナイトハルトの部屋を去っていった。
※
――その後のカルデラ家では
ゲオルグ公爵が、顔にシワを寄せる。
「どうしても嫌なら、王家を敵に回してでも断って――」
「私!あの方を……あの方を笑顔にしてみせますわ!その為に、あの方に役に立つ様に、自分を鍛えなければ……」
最後に若干の涙声を隠せなかったリジーは、両親を心配させまいとそういうと、父と母の元を去る。
「リジー……」
不安を隠せない筈の婚約者、それを悟られまいと健気に笑って答えたリジーは、その後、必死に自分を磨いた。
しかし、なまじ自分より優秀になってしまったリジーが、更に疎ましくなったナイトハルトは、リジーを邪険に扱う様になっていく。
※
――学園最後の舞踏会の日
「お前と他の令嬢達が結託しやった事の証拠は揃っているのだぞ‼︎ リジー・カルデラ‼︎」
ヒロインを自分の横に据えて、また数人の攻略対象達と共に、ナイトハルトはリジーを断罪する。
多少の心当たりは在るものの、その多くは、リジーの預かり知らないところで行わられた物。
心当たりがある物に関しても、ナイトハルトの婚約者として、貴族として必要であると思った物ばかり。
リジーは、必死に尽くそうと努力してきたナイトハルトに裏切られたにも関わらず、最後まで淑女としてのマナーを守り、涙を堪え、この場の令嬢達の代表として、堂々と言い放つ。
「決してその様な事はしていませんわ‼︎」
「うるさい! 捕らえろ‼︎」
令嬢達が捕らえられていく中、リジーは自分の友人達が捕らえられていく事に危機感を覚える。
「白状しますわ! 私がみんなを主導しましたの‼︎」
「リジー‼︎」
「何を言って‼︎」
「皆脅されてやっただけですの! 連れて行くなら私だけに致しなさい‼︎」
ヒロインが若干チッという顔をする。
「ようやく白状したか、連れて行け!」
ナイトハルトの射殺す様な目が、リジーに突き刺さり、他の令嬢を残し、リジーは衛兵に連れて行かれてしまった。
※
その後、ナイトハルトの行動に激昂したゲオルグ公爵と、その他の家々が結託し、国に対して襲撃を仕掛ける。
しかし、結果として襲撃は失敗、ゲオルグ公爵家の面々は海外へと逃亡する事になっていくのだった。
※
清々しい程スッキリとした朝の筈なのに、なんだこの壮絶な寝覚めの悪さは……
現ナイトハルトは、昨日見た夢を思い出す。
何だったんだ、あの夢? というか、なんつー奴だ、ナイトハルト……
現ナイトハルトは、旧ナイトハルトに同情しかけていた自分が、若干馬鹿馬鹿しくなってきた。
リジーが、いい子過ぎて泣けてきた……大事にしよう……ハッ! これが本当の、リジーは俺の嫁っ‼︎
そして改めて、自分の嫁さん……婚約者を大切にしようと心に誓うのであった。
※
夢で見た映像を元に、ゲームの登場人物の大体の情報を整理するナイトハルトのところへ、カイオンが訪れる。
「失礼します」
綺麗なお辞儀と共に、ペリドットの瞳が、興味深かそうにナイトハルトを見つめる。
「どうした?」
「ナイトハルト殿下……その、男色家の趣味があるというのは本当ですか?」
ナイトハルトは、直球で投げ掛けられた質問に硬直し、心中で又してもかの名言を唱える。
お前もか、ブルータスウゥゥゥゥ!!
「ちょ……その情報は何処まで広まっている?」
「本当なのですか?」
「いや、絶対に嘘だ。信じてはならない」
父上ぇぇぇぇ‼︎
「噂は、そこまで広まっている訳ではありません…………まぁ、大丈夫でしょう」
なんだその間は、なんだその間は‼︎
焦燥を感じざるを得ないナイトハルトは、それでもどうにかこうにか平静を装う。
「それで、要件はそれだけか?」
「いえ、ゲオルグ公爵から招待状を預かっております」
カイオンが、さらりと懐から招待状を取り出し、ナイトハルトに手渡す。
ナイトハルトが封筒を開けると、招待状の中には、来週末のリジーとのピクニックのお誘いが入っていた。
いよっしゃぁぁぁぁ‼︎
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