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第八十九話

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 大学を卒業して新社会人になった亮太は、家賃が安いという理由で古い団地に引っ越した。建物は薄暗く、住人も少ない。隣近所からの生活音もほとんど聞こえず、不気味な静けさに包まれていた。

ある日、仕事を終えた亮太がエレベーターに乗ると、5階のボタンが押されていた。亮太の部屋は6階だが、特に気にせず5階でエレベーターが止まるのを待っていた。しかし、ドアが開いてもそこには誰もいない。

「押し間違えかな?」
そう思いながら6階で降り、自室に戻った。だがその夜、部屋の天井から足音が聞こえてきた。亮太の部屋の上は空き部屋のはずだ。気味が悪くなり、次の日、管理人に確認したが、やはり6階には亮太以外に住人はいないという。

その翌日、亮太が深夜に帰宅すると、エレベーターの前に長い黒髪の女性が立っていた。古びたワンピースを着ていて、顔は下を向いている。亮太が「何階ですか?」と声をかけても、女性は何も言わないままエレベーターに乗り込む。

彼女が押したのは5階だった。妙な胸騒ぎを覚えながらも亮太は彼女に続き、5階で降りてみた。しかし、エレベーターを降りた瞬間、その女性の姿は消えていた。
その夜、また天井から足音が聞こえた。さらに、低い声で「……助けて」という声も聞こえた気がする。亮太は恐怖で眠れず、翌日管理人に再度相談した。

すると管理人は、困ったような顔でこう言った。

「5階には住人はいないし、もう10年以上空き部屋のままだ。……でも、気になるなら一緒に見に行こうか?」

管理人と一緒に5階を訪れると、そこには何の異常もなく、埃が積もった空き部屋があるだけだった。しかし、亮太がふと部屋の隅に目をやると、そこには人の形をした黒いシミが床に広がっていた。

「……ここ、昔、自殺があった部屋なんだよ」
管理人は言いにくそうに続けた。「最後の住人が、ここで首を吊ってね。それ以来誰も住んでない。だけど……たまにこういうことがあるんだ」


大学を卒業して新社会人になった亮太は、家賃が安いという理由で古い団地に引っ越した。建物は薄暗く、住人も少ない。隣近所からの生活音もほとんど聞こえず、不気味な静けさに包まれていた。

ある日、仕事を終えた亮太がエレベーターに乗ると、5階のボタンが押されていた。亮太の部屋は6階だが、特に気にせず5階でエレベーターが止まるのを待っていた。しかし、ドアが開いてもそこには誰もいない。

「押し間違えかな?」
そう思いながら6階で降り、自室に戻った。だがその夜、部屋の天井から足音が聞こえてきた。亮太の部屋の上は空き部屋のはずだ。気味が悪くなり、次の日、管理人に確認したが、やはり6階には亮太以外に住人はいないという。

その翌日、亮太が深夜に帰宅すると、エレベーターの前に長い黒髪の女性が立っていた。古びたワンピースを着ていて、顔は下を向いている。亮太が「何階ですか?」と声をかけても、女性は何も言わないままエレベーターに乗り込む。

彼女が押したのは5階だった。妙な胸騒ぎを覚えながらも亮太は彼女に続き、5階で降りてみた。しかし、エレベーターを降りた瞬間、その女性の姿は消えていた。


その夜、また天井から足音が聞こえた。さらに、低い声で「……助けて」という声も聞こえた気がする。亮太は恐怖で眠れず、翌日管理人に再度相談した。

すると管理人は、困ったような顔でこう言った。

「5階には住人はいないし、もう10年以上空き部屋のままだ。……でも、気になるなら一緒に見に行こうか?」

管理人と一緒に5階を訪れると、そこには何の異常もなく、埃が積もった空き部屋があるだけだった。しかし、亮太がふと部屋の隅に目をやると、そこには人の形をした黒いシミが床に広がっていた。

「……ここ、昔、自殺があった部屋なんだよ」
管理人は言いにくそうに続けた。「最後の住人が、ここで首を吊ってね。それ以来誰も住んでない。だけど……たまにこういうことがあるんだ」


亮太はそれ以上何も言わず、すぐに部屋を引き払うことを決意した。しかし引っ越しの日、荷物を運び出しにエレベーターに乗ると、またしても5階のボタンが押されていた。

エレベーターが5階に止まると、ドアの向こうには例の黒髪の女性が立っていた。彼女は亮太の方を向き、口を開いた。

「……次は、あなたの番よ」

その言葉を最後に、亮太の行方を知る者はいないという。
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