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第三十六話
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私が事故物件に住んでいたのは、ほんの二週間ほどのことでした。
理由は簡単です。
私の両親が離婚することになったからです。
原因は父親の浮気でした。
母親はそれに愛想を尽かし、実家のある北海道へと帰っていきました。
残された私は母方に引き取られることになり、転校を余儀なくされました。当然、新しい住居を探すことになりましたが、とても困ったことになりました。
なぜなら、私が住んでいるアパートの部屋は二年前に亡くなった人のものだったからです。
その部屋を借りた時からすでに半年が経過していました。
つまり、契約違反ということで違約金が発生することになったのです。
そのため、すぐに代わりの住まいを見つける必要がありました。ところが、不動産屋さんに行っても条件に見合うものはなく、途方に暮れているところでした。
そんな時に紹介されたのが、今のマンションだったわけです。
築十年の中古物件でしたが、間取りは1LDKでお風呂とトイレも別々だし、何より家賃が格安だったので即決しました。
そして、引っ越してから一ヶ月ほど経った頃でした。
仕事を終えて家に帰ると、部屋の明かりが点いていました。消し忘れて出てしまったのかと思い、確認するとやはり消えていて、ドアを開けるとそこには……
「おかえりなさい。ご飯にする?それとも先にする?」
エプロン姿の女性が立っていて、笑顔で出迎えてくれました。
一瞬、幻覚でも見ているのではないかと思ったほどでした。
ただ、よく見ると彼女が身に着けているのは本物のようで、しかも見覚えがありました。それは私が今通っている高校の制服だったからです。
そこでようやく気付きました。
ああ、これは夢なんだな……って。
だって、死んだはずの人がこんなところにいるはずがないじゃないですか。
きっと疲れていたせいでしょう。
だから、つい魔が差してしまったんです。
「じゃあ、あなたを……」
なんて言ってみたら、彼女もまた嬉しそうに笑って、
「うん!」
と言ってくれたので、そのままベッドへ直行しました。そして、翌朝目が覚めた時、隣には誰もいなかったのでやっぱり現実ではなかったんだと悟りました。
それでも不思議と寂しいとは感じませんでした。
なぜかというと、昨晩はとても満たされた気分で眠りにつくことができたからです。
結局、それから一度も彼女の姿を目にすることはありませんでした。ただ、時折どこかから視線を感じることがありました。それは私に向けられたものなのか、それとも別の何かに向けられたものだったのか、それはわかりません。
だけど、もしもまた彼女に会える日が来るとしたなら、今度はちゃんとお話ししたいと思います。
それが叶うかどうかはわかりませんけどね。
理由は簡単です。
私の両親が離婚することになったからです。
原因は父親の浮気でした。
母親はそれに愛想を尽かし、実家のある北海道へと帰っていきました。
残された私は母方に引き取られることになり、転校を余儀なくされました。当然、新しい住居を探すことになりましたが、とても困ったことになりました。
なぜなら、私が住んでいるアパートの部屋は二年前に亡くなった人のものだったからです。
その部屋を借りた時からすでに半年が経過していました。
つまり、契約違反ということで違約金が発生することになったのです。
そのため、すぐに代わりの住まいを見つける必要がありました。ところが、不動産屋さんに行っても条件に見合うものはなく、途方に暮れているところでした。
そんな時に紹介されたのが、今のマンションだったわけです。
築十年の中古物件でしたが、間取りは1LDKでお風呂とトイレも別々だし、何より家賃が格安だったので即決しました。
そして、引っ越してから一ヶ月ほど経った頃でした。
仕事を終えて家に帰ると、部屋の明かりが点いていました。消し忘れて出てしまったのかと思い、確認するとやはり消えていて、ドアを開けるとそこには……
「おかえりなさい。ご飯にする?それとも先にする?」
エプロン姿の女性が立っていて、笑顔で出迎えてくれました。
一瞬、幻覚でも見ているのではないかと思ったほどでした。
ただ、よく見ると彼女が身に着けているのは本物のようで、しかも見覚えがありました。それは私が今通っている高校の制服だったからです。
そこでようやく気付きました。
ああ、これは夢なんだな……って。
だって、死んだはずの人がこんなところにいるはずがないじゃないですか。
きっと疲れていたせいでしょう。
だから、つい魔が差してしまったんです。
「じゃあ、あなたを……」
なんて言ってみたら、彼女もまた嬉しそうに笑って、
「うん!」
と言ってくれたので、そのままベッドへ直行しました。そして、翌朝目が覚めた時、隣には誰もいなかったのでやっぱり現実ではなかったんだと悟りました。
それでも不思議と寂しいとは感じませんでした。
なぜかというと、昨晩はとても満たされた気分で眠りにつくことができたからです。
結局、それから一度も彼女の姿を目にすることはありませんでした。ただ、時折どこかから視線を感じることがありました。それは私に向けられたものなのか、それとも別の何かに向けられたものだったのか、それはわかりません。
だけど、もしもまた彼女に会える日が来るとしたなら、今度はちゃんとお話ししたいと思います。
それが叶うかどうかはわかりませんけどね。
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