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第四章:新しい街での暮らしが始まる
第35話「アンジェリカとようじょ」
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完璧に近い美と言うものを体現させたアンジェリカと名乗る少女は、幼さの残るあどけない笑顔を浮かべ、フリルで大きく膨らんだ純白のジャンパースカートを揺らしながら、愕然としてソファに腰かけている僕に顔を近づけた。
息のかかるような距離、見た人をとろけさせてしまうような笑顔、そして甘い香り。
瑞々しいチェリーのような唇が開き、僕の耳元に、ガラスのベルが奏でるような、美しく、それでいて舌ったらずな可愛らしさも残したその声を響かせた。
「……分かってると思いますけど、あたくしが元おっさんだと言うことを誰かに漏らしたら、生爪一枚一枚剥がしながら、体中の穴と言う穴に焼けた火箸を突っ込んで、あなたを殺すのですわ」
僕の耳に真っ白い飴細工のように艶やかな指を滑らせ、小さく「ふふっ」と笑った彼女は僕から離れ、ポットからお茶を注ぐ。
紅茶の良い香りが辺りに立ち込め、茶葉が蒸れるのを待つ間、僕はアンジェリカから目を離すことが出来なかった。
「……あら、そう言えばあなたは能力持ちでしたわね。困ったですわ。あたくしの力では、アクナレート、あなたを殺せないかもしれないですわね」
「い、いや……言わない。誰にも……アンジェリカが……あの、秘密にしたいって言うなら……えっと、嫌なら、言わないです。です」
ゴクリと生唾を飲み込み、僕はそう答える。
アンジェリカの正体はおっさんなんだ、別に好きになったとかそう言うんじゃない。でも、あの瞳で見つめられると何か心がざわざわするし、たとえ見た目だけであろうとも、こんな可愛らしい女の子が悲しむような姿を僕は見たいとは思わなかった。
「ふふっ、アンジェ……と呼んでも構わなくてよ?」
「う、うん。安心して、アンジェ」
アンジェリカは紅茶の香りを確認し、僕の返答と紅茶の出来栄えに満足したように頷くと、カップを僕の手に握らせた。
くるりとまわってスカートを広げ、自分のカップを手に取ると、もう一度まわってそのまま肘置きの上に可愛いお尻を乗せる。
紅茶を上品に一口飲むと、彼女はもう一度あのとろけるような笑顔を見せた。
「ええ、信じるですわ。でも、対策はあるのですわ。もしあなたがこのことを口外して、あたくしがあなたを殺せなかったら……あたくし、自殺しますわ。アクナレート、あなたがこの超絶美少女を殺したことになるのですわよ? お分かりかしら?」
「え? ……あ、うん。大丈夫、絶対誰にも言わないよ。……ねぇ、どうしてそこまでして、僕に……あの、その秘密を言っちゃったの?」
僕の質問を聞いて、さも面白いことを言われたかのようにアンジェは顔をそむけて「ぷっ……ふふっ」と笑うとカップをテーブルに置いた。
「勘違いなさらないで。あたくしは男の人を好きになったりしませんのですわ。だって中身は美少女が大好物のおっさんですのよ? あなたが特別だから秘密を告げたのではないのですわ。まぁ……そろそろ黙っているのも限界で、そこに丁度同じ転移者のあなたが現れたから。と言うだけの事かしら」
「あ、うん。も……もちろん僕が特別だって思ってるわけじゃなくて、だからこそなんでかなって思って」
「……そうですわね。……あえて言えば、『与し易そうだったから』ですわ」
「与し易そう?」
「ええ、一目見て理解したのですわ! あなたは私の嫌がることをしない! 言う事はなんでも聞いてくれそう! まさにカモですわ! それに、その白い肌と白髪、濃い緑色の瞳、簡素な黒いローブ、死神の鎌ですわ。となりにアクナレートが立っていたら、あたくしの美しさが一層引き立つと思いませんこと?」
なるほど。
横に置いておくことになっても不快ではない、文句も言わなそうな手下、と言うところだろうか。
交渉相手に対してその評価をそのまま言うのは正直すぎるだろうとは思ったけど……まぁ実際そんなものだろうと僕も自分自身の行動に予想がついたので、この少女――それともおっさんだろうか?――の人を見る目に大いに感心して、僕はうんうんと頷いた。
「それはさておき、今日はあたくしたちに協力するために来てくれたんじゃないのですってね?」
「あ、協力しないって訳じゃなくて」
「事前の話し合いだと聞いているですわ」
馬車の上でちょっと話をしただけなのに、いつの間にその情報を仕入れたんだろう?
精霊魔法の聞き耳か、一般魔法の遠話か、もしかしたらチートなのかもしれない。
やっぱりこの少女は見た目通りの無垢な女の子ではない。百戦錬磨の40過ぎのおっさんなのだ。僕はちょっと気を引き締めた。
「うん、僕たちは世界が救えるならどっちの勢力にも力を貸すつもりでいる。ただ、千年王国の王侯貴族については、ある一人を除いて信用できないと判断したから出てきたんだ。だから……」
「あたくしたちにも協力してもいいけど、勢力に属するかどうかは、信用できるかどうか見極めてから。と言う事ですわね?」
「あ、う、うん」
「いいんじゃない? 私でもそうするですわ」
「……話が早くて助かるよ」
話が早すぎる。
たぶんもう彼女の中では僕たちを信用すると決めているんだろう。言葉に出しているのは、その指針に沿った明確な答えに過ぎない。
さすがはこの大きな組織をまとめる長だけのことはあると僕は感心したが、その一方で、さっき会ったばかりの僕たちをこうも簡単に信用する彼女に危うさも感じていた。
「アクナレート、もう一つ言っておくことがあるのですわ」
「……まだあるの?」
今度はなんだ?
僕は身構えたけど、この美の結晶のような少女が実は40過ぎのおっさんだと言う事実以上に僕を驚かせることがあるだろうかと思い直し、落ち着きを取り戻して紅茶を一口すすった。
「あたくしの能力は美の具現化ただ一つなのですわ。鬼神のごとく強い肉体も、世界が驚くような魔法も、星を砕くような武器も、役に立つ能力は何一つないの。だから、あたくしはあなたたちの力を心から欲しているのですわ。……あたくしのためだけじゃなく、不安を抱く世界中の人たちの……ちょっと違うかしら。あたくしの美を褒め称え崇め奉る可愛いオーディエンスたちのために……ですわ」
最後はちょっと茶化した感じで、それでも真剣な表情でアンジェリカは語った。
基本的にまじめな人なんだろう。
僕はチートの力も借りずに人々をまとめ上げ、ここまで安全な街を作り上げた彼女の手腕に、心の中で拍手を送る。
たとえ中身がおっさんだろうが、僕はアンジェリカに好意を抱き、信用してもいいと言う気持ちになっていた。
……それに、おすましして『長』として振る舞っている時は別として、素に戻った瞬間のあの雰囲気。あれがなぜかりんちゃんを想像させて、僕にはどっちにしろ彼女を悲しませるなどと言う選択肢は選べそうも無かった。
「……僕たちは、僕たちの判断で動きたいんだ。アンジェたちが信用できるうちは……アンジェたちがやろうとしていることが正しいことだと思えるうちは、僕らも力は惜しまない」
「そうですわね。なんでも協力するって言われるよりそう言ってくれた方が、こっちも信用できるってものですわね」
楽しげにそう告げると、アンジェリカは作業台へと向かう。
作業台の端、分厚い天板の下へちょっと手を入れると、ほとんど間を置かずにドアがノックされた。
「お入りなさいですわ」
ガチャリとドアが開き、ジョゼフが頭を下げて現れる。
覗き込むように部屋に向けられたその眼は、鋭い眼光でアンジェリカや僕、部屋の中などを確認した。
「お話はお済みでしょうか? アンジェリカ様、アマミオ閣下」
僕がアンジェリカに不埒なことをしていないと確認できたのだろう、ジョゼフの表情がちょっとだけ和む。
素晴らしいリーダーとして敬愛しているのか、それともこの小学生くらいの見た目で中身がおっさんである少女に思慕の情を持っているのか、それは見ただけでは分からなかったけど、とにかく今の行動と表情で、ジョゼフがアンジェリカに心酔していることだけは分かった。
後者だったら可愛そうだなと思いながら、僕は席を立つ。
アンジェリカはお腹の前で上品に手を揃えて立ったまま、ジョゼフを勘違いさせるに十分な笑顔を見せた。
「いいえ、まだなのですわ。……でも、一番重要な部分であたくしたちは合意に至ったのですわ。もろもろの事務的な手続きについては、ジョゼフ。あなたにまかせるのですわ。……アクナレート、皆さんでこの街に住むのでしょう?」
「あ、うん。さっきの条件で良いのなら、僕たちはミレナリオの勢力下にない街に住みたいから、そうできたらうれしいよ」
「聞こえたかしら? ジョゼフ。アクナレートは大事な食客なの。衣食住全てに最善を尽くして欲しいのですわ」
「……かしこまりました。長の仰せとあらばこのジョゼフ、必ずやアマミオ閣下にご満足いただけるよう粉骨砕身いたします」
相変わらずめんどくさいしゃべり方のジョゼフに、アンジェリカは「期待してるですわ」と、ちょっと言葉としておかしい返事を返す。
聞くタイミングは無かったけど、そのうちこのしゃべり方はわざとなのかどうなのか、聞いてみようと僕は思った。
「では閣下、こちらへ。アンジェリカ様、失礼いたしますが、何かあればいつでもお呼びください」
ドアを出て、ジョゼフがドアを閉める。
振り返ると、ドアの隙間が無くなるまで、アンジェリカは完璧な笑顔で小さく手を振り、僕を見送っていた。
最後までそれを見つめていた僕に、ジョゼフが例の冷たい笑顔で迫る。
「長は……アンジェリカ様はお優しい方ですから、誰にでも親密にお話をしてくださいますが……勘違いなさいませぬよう。閣下」
「勘違いって?」
「なさっていなければ結構。さぁ、道端や馬車の中で一泊したくなければお急ぎください。私が最善を尽くしてあなた方の住居を用意させていただきますよ」
ふんっと鼻を鳴らして、ジョゼフは廊下を突き進む。
僕は「ねぇ、その閣下って呼び方やめない?」と彼の後を追いながら、新しい家にもお風呂をつけたいな。水道はちゃんとあるかな。庭がなかったらりんちゃんとルカが悲しむな……などと、これからの生活のことをあれこれ考えていた。
息のかかるような距離、見た人をとろけさせてしまうような笑顔、そして甘い香り。
瑞々しいチェリーのような唇が開き、僕の耳元に、ガラスのベルが奏でるような、美しく、それでいて舌ったらずな可愛らしさも残したその声を響かせた。
「……分かってると思いますけど、あたくしが元おっさんだと言うことを誰かに漏らしたら、生爪一枚一枚剥がしながら、体中の穴と言う穴に焼けた火箸を突っ込んで、あなたを殺すのですわ」
僕の耳に真っ白い飴細工のように艶やかな指を滑らせ、小さく「ふふっ」と笑った彼女は僕から離れ、ポットからお茶を注ぐ。
紅茶の良い香りが辺りに立ち込め、茶葉が蒸れるのを待つ間、僕はアンジェリカから目を離すことが出来なかった。
「……あら、そう言えばあなたは能力持ちでしたわね。困ったですわ。あたくしの力では、アクナレート、あなたを殺せないかもしれないですわね」
「い、いや……言わない。誰にも……アンジェリカが……あの、秘密にしたいって言うなら……えっと、嫌なら、言わないです。です」
ゴクリと生唾を飲み込み、僕はそう答える。
アンジェリカの正体はおっさんなんだ、別に好きになったとかそう言うんじゃない。でも、あの瞳で見つめられると何か心がざわざわするし、たとえ見た目だけであろうとも、こんな可愛らしい女の子が悲しむような姿を僕は見たいとは思わなかった。
「ふふっ、アンジェ……と呼んでも構わなくてよ?」
「う、うん。安心して、アンジェ」
アンジェリカは紅茶の香りを確認し、僕の返答と紅茶の出来栄えに満足したように頷くと、カップを僕の手に握らせた。
くるりとまわってスカートを広げ、自分のカップを手に取ると、もう一度まわってそのまま肘置きの上に可愛いお尻を乗せる。
紅茶を上品に一口飲むと、彼女はもう一度あのとろけるような笑顔を見せた。
「ええ、信じるですわ。でも、対策はあるのですわ。もしあなたがこのことを口外して、あたくしがあなたを殺せなかったら……あたくし、自殺しますわ。アクナレート、あなたがこの超絶美少女を殺したことになるのですわよ? お分かりかしら?」
「え? ……あ、うん。大丈夫、絶対誰にも言わないよ。……ねぇ、どうしてそこまでして、僕に……あの、その秘密を言っちゃったの?」
僕の質問を聞いて、さも面白いことを言われたかのようにアンジェは顔をそむけて「ぷっ……ふふっ」と笑うとカップをテーブルに置いた。
「勘違いなさらないで。あたくしは男の人を好きになったりしませんのですわ。だって中身は美少女が大好物のおっさんですのよ? あなたが特別だから秘密を告げたのではないのですわ。まぁ……そろそろ黙っているのも限界で、そこに丁度同じ転移者のあなたが現れたから。と言うだけの事かしら」
「あ、うん。も……もちろん僕が特別だって思ってるわけじゃなくて、だからこそなんでかなって思って」
「……そうですわね。……あえて言えば、『与し易そうだったから』ですわ」
「与し易そう?」
「ええ、一目見て理解したのですわ! あなたは私の嫌がることをしない! 言う事はなんでも聞いてくれそう! まさにカモですわ! それに、その白い肌と白髪、濃い緑色の瞳、簡素な黒いローブ、死神の鎌ですわ。となりにアクナレートが立っていたら、あたくしの美しさが一層引き立つと思いませんこと?」
なるほど。
横に置いておくことになっても不快ではない、文句も言わなそうな手下、と言うところだろうか。
交渉相手に対してその評価をそのまま言うのは正直すぎるだろうとは思ったけど……まぁ実際そんなものだろうと僕も自分自身の行動に予想がついたので、この少女――それともおっさんだろうか?――の人を見る目に大いに感心して、僕はうんうんと頷いた。
「それはさておき、今日はあたくしたちに協力するために来てくれたんじゃないのですってね?」
「あ、協力しないって訳じゃなくて」
「事前の話し合いだと聞いているですわ」
馬車の上でちょっと話をしただけなのに、いつの間にその情報を仕入れたんだろう?
精霊魔法の聞き耳か、一般魔法の遠話か、もしかしたらチートなのかもしれない。
やっぱりこの少女は見た目通りの無垢な女の子ではない。百戦錬磨の40過ぎのおっさんなのだ。僕はちょっと気を引き締めた。
「うん、僕たちは世界が救えるならどっちの勢力にも力を貸すつもりでいる。ただ、千年王国の王侯貴族については、ある一人を除いて信用できないと判断したから出てきたんだ。だから……」
「あたくしたちにも協力してもいいけど、勢力に属するかどうかは、信用できるかどうか見極めてから。と言う事ですわね?」
「あ、う、うん」
「いいんじゃない? 私でもそうするですわ」
「……話が早くて助かるよ」
話が早すぎる。
たぶんもう彼女の中では僕たちを信用すると決めているんだろう。言葉に出しているのは、その指針に沿った明確な答えに過ぎない。
さすがはこの大きな組織をまとめる長だけのことはあると僕は感心したが、その一方で、さっき会ったばかりの僕たちをこうも簡単に信用する彼女に危うさも感じていた。
「アクナレート、もう一つ言っておくことがあるのですわ」
「……まだあるの?」
今度はなんだ?
僕は身構えたけど、この美の結晶のような少女が実は40過ぎのおっさんだと言う事実以上に僕を驚かせることがあるだろうかと思い直し、落ち着きを取り戻して紅茶を一口すすった。
「あたくしの能力は美の具現化ただ一つなのですわ。鬼神のごとく強い肉体も、世界が驚くような魔法も、星を砕くような武器も、役に立つ能力は何一つないの。だから、あたくしはあなたたちの力を心から欲しているのですわ。……あたくしのためだけじゃなく、不安を抱く世界中の人たちの……ちょっと違うかしら。あたくしの美を褒め称え崇め奉る可愛いオーディエンスたちのために……ですわ」
最後はちょっと茶化した感じで、それでも真剣な表情でアンジェリカは語った。
基本的にまじめな人なんだろう。
僕はチートの力も借りずに人々をまとめ上げ、ここまで安全な街を作り上げた彼女の手腕に、心の中で拍手を送る。
たとえ中身がおっさんだろうが、僕はアンジェリカに好意を抱き、信用してもいいと言う気持ちになっていた。
……それに、おすましして『長』として振る舞っている時は別として、素に戻った瞬間のあの雰囲気。あれがなぜかりんちゃんを想像させて、僕にはどっちにしろ彼女を悲しませるなどと言う選択肢は選べそうも無かった。
「……僕たちは、僕たちの判断で動きたいんだ。アンジェたちが信用できるうちは……アンジェたちがやろうとしていることが正しいことだと思えるうちは、僕らも力は惜しまない」
「そうですわね。なんでも協力するって言われるよりそう言ってくれた方が、こっちも信用できるってものですわね」
楽しげにそう告げると、アンジェリカは作業台へと向かう。
作業台の端、分厚い天板の下へちょっと手を入れると、ほとんど間を置かずにドアがノックされた。
「お入りなさいですわ」
ガチャリとドアが開き、ジョゼフが頭を下げて現れる。
覗き込むように部屋に向けられたその眼は、鋭い眼光でアンジェリカや僕、部屋の中などを確認した。
「お話はお済みでしょうか? アンジェリカ様、アマミオ閣下」
僕がアンジェリカに不埒なことをしていないと確認できたのだろう、ジョゼフの表情がちょっとだけ和む。
素晴らしいリーダーとして敬愛しているのか、それともこの小学生くらいの見た目で中身がおっさんである少女に思慕の情を持っているのか、それは見ただけでは分からなかったけど、とにかく今の行動と表情で、ジョゼフがアンジェリカに心酔していることだけは分かった。
後者だったら可愛そうだなと思いながら、僕は席を立つ。
アンジェリカはお腹の前で上品に手を揃えて立ったまま、ジョゼフを勘違いさせるに十分な笑顔を見せた。
「いいえ、まだなのですわ。……でも、一番重要な部分であたくしたちは合意に至ったのですわ。もろもろの事務的な手続きについては、ジョゼフ。あなたにまかせるのですわ。……アクナレート、皆さんでこの街に住むのでしょう?」
「あ、うん。さっきの条件で良いのなら、僕たちはミレナリオの勢力下にない街に住みたいから、そうできたらうれしいよ」
「聞こえたかしら? ジョゼフ。アクナレートは大事な食客なの。衣食住全てに最善を尽くして欲しいのですわ」
「……かしこまりました。長の仰せとあらばこのジョゼフ、必ずやアマミオ閣下にご満足いただけるよう粉骨砕身いたします」
相変わらずめんどくさいしゃべり方のジョゼフに、アンジェリカは「期待してるですわ」と、ちょっと言葉としておかしい返事を返す。
聞くタイミングは無かったけど、そのうちこのしゃべり方はわざとなのかどうなのか、聞いてみようと僕は思った。
「では閣下、こちらへ。アンジェリカ様、失礼いたしますが、何かあればいつでもお呼びください」
ドアを出て、ジョゼフがドアを閉める。
振り返ると、ドアの隙間が無くなるまで、アンジェリカは完璧な笑顔で小さく手を振り、僕を見送っていた。
最後までそれを見つめていた僕に、ジョゼフが例の冷たい笑顔で迫る。
「長は……アンジェリカ様はお優しい方ですから、誰にでも親密にお話をしてくださいますが……勘違いなさいませぬよう。閣下」
「勘違いって?」
「なさっていなければ結構。さぁ、道端や馬車の中で一泊したくなければお急ぎください。私が最善を尽くしてあなた方の住居を用意させていただきますよ」
ふんっと鼻を鳴らして、ジョゼフは廊下を突き進む。
僕は「ねぇ、その閣下って呼び方やめない?」と彼の後を追いながら、新しい家にもお風呂をつけたいな。水道はちゃんとあるかな。庭がなかったらりんちゃんとルカが悲しむな……などと、これからの生活のことをあれこれ考えていた。
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