あなたの隣で愛を囁く

ハゼミ

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S字結腸切除術

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いよいよ、手術が行われることとなった。
 それは、カズくんが入院してから4ヶ月も経った日だった。
 カズくんの手術は、6かかると主治医は言っていた。
 大掛かりな手術だ。
 今は外れているが、全身麻酔での手術のため、また人工呼吸器をつけなくてはならない。もちろん、気切(気管切開)をしているので、すぐに装着はできるのだが。

 私は、色々不安だった事もあり、早めに病室に来ていた。
 カズくんの体調は今のところ万全で、手術の時間を待っている状態だった。
 カズくんは、口でぱくぱくしながら、大丈夫を繰り返す。
 私はそんなカズくんの手を握り、頑張ってとか色々言っていた。

 12時30分

 いよいよ手術の時刻がやってきた。

 行ってくる

 と、カズくんは口パクでそう私につぶやいた。

 カズくんはベットごとエレベータへ運ばれ、6回の手術室へと運ばれていった。
 残された私は、病棟のホールで手術が終わるまで待つことだけだった。




 

 気がつけばあたりは暗く、病棟では夕食の準備がされていた。

 すでに6時間半。カズくんが手術室へ向かってから過ぎていた。

 私は、なんとか時間を潰していた。

 すると、病棟看護師さんから声をかけられた。

「今手術が終わったそうです。先生からお話があるそうです」

 私は平静を装いながら席をたち、看護師の後に続いた。

 向かったのは、6階のカンファレンス室。
 そこに主治医が座っていた。机の上には明らかにカズくんの体から取り出された肉の塊が銀色の器に入って置かれていた。

 「どうぞ、座ってください」
 看護師がそう私に声をかけてきた。私は、主治医と対面になって座った。
 「手術は、無事に終わりました。もう少ししたら、目を覚まされるかと思います。」
 そう主治医は言ってから、手袋をした手で目の前にある肉塊を触り始めた。
「今回S状結腸を全部摘出しました。こことか、ここのの部分がこんなに薄くなっています。」
 私は、その肉塊を見ながら主治医の説明を聞いた。
 カズくんを苦しめてきた本当の元凶が今、目の前にあるのだ。
 普通の人だったら、さっきまで人の体の中にあった肉塊を見て、気分が悪くなったかもしれない。
 ても、私は逆に嬉しくってたまらなかった。
 これで、やっとカズくんは元気になれる・・・。

 「私からの説明は以上です」
 主治医の説明が終わると、私は元の病棟へと戻ってきた。
 すでにカズくんは、ベッドごと手術室から戻され、元のリカバリー室に戻っていた。
 喉には人工呼吸器が付けられている。
 しかし、そんなことは些細なことでだった。
 痩せたカズくんが、無事に6時間半という長い手術に耐えて戻ってきたのだ。
 「カズくん、よかった・・・」
 まだ、意識も戻らないカズくんの冷たい右手を握りしめて。
 嬉しさのあまり私は、思わず涙が出てしまった。




 しかし。

 神様はそう簡単にはカズくんを楽にはしてくれなかったのだった。

 

 
 
 
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