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番外編5 5 ウロボロスの繁殖
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ヘルマンは生半可な医者よりも、出産に関する適切な知識と技術を持っている。
たとえばアイリーン・バーグレイが難産で産まれた時は、山間の野営地で帝王切開手術を施した。
その後、バーグレイ商会を訪れるたびに、なぜか当然のように幼いアイリーンの世話を押し付けられたから、おしめを替えたりと、育児経験もバッチリだ。
他にも2・3人。何かしらの縁や事情から出産の手伝いをしたり、多少の世話をした赤子はいる。
だから妊婦には適度な運動も必要で、あまり神経質になるのは良くないと知っているのに……。
いざ自分の愛妻に子が宿ると、理性と感情のせめぎあいに、これほど苦悩する羽目になるとは思いもしなかった。
大きなお腹のサーフィが階段を昇り降りするのにハラハラする。
一人で外出など、とんでもない!……と言いたいのを我慢我慢。
買い物かごを持って出かけるサーフィの後を、こっそりつけて行きたい衝動に耐えていると、脳裏で呆れたぼやき声が響いた。
『やぁれやれ、人って変われば変わるもんだね』
『僕も驚いておりますよ。まさか、これほど自制心が無くなるとは』
目を瞑り意識の中で、自身の内に宿る氷の魔物の隣りへ座る。
真っ白な氷の世界で、子ども時代のヘルマンの姿をした黒髪の少年・略して子ヘルはニヤニヤ笑っていた。
氷の魔人も、東の民という亜種から完成品になったホムンクルスも、大変珍しい存在だ。更にその二人が両親という組み合わせなど、大陸全土を探しても他にはいないだろう。
果たしてどんな子が産まれるのやら……。
そして、十二月も終りにさしかかった日。
フロッケンベルク王都は、素晴らしい晴れ日よりだった。
前日までの猛吹雪はピタリと止み、まぶしい太陽が降り積もった白銀の雪と氷をキラキラと輝かせている。まるで氷雪が灼熱の太陽と手を取り合ったような風景だった。
王都中の子どもたちはそりやスケート靴を手に飛び出し、大人たちは雪かきを始める。ユニークな雪ダルマがあちこちで作られ、こんな真冬には珍しいほど、大通りは賑やかな笑い声に満ちていた。
そして錬金術ギルドの近くにひっそり建つ一軒家にて、一人の女児が産声をあげた。
母そっくりな炎色の瞳と、父そっくりな氷色の瞳を左右に持った赤子は、シャルロッティ・エーベルハルトと名づけられた。
シャルという愛称で呼ばれるようになった彼女は、とても愛くるしい赤子だった。
これはヘルマンやサーフィの贔屓目を抜きにしても、正しい判定だ。
どこもかしこも小さな身体。柔らかなほっぺた。左右の色が違う瞳はパッチリ大きく、白銀の長い睫毛が縁取っている。桜色の唇をパクリと開き「あー、あー」と発する声も可愛い。
誰かが顔を覗き込むと、「キャハ」と笑い声をあげる。その仕草とあどけない笑顔で、相手はたちまち柔面になり『とても良い子だ』と太鼓判を押すのだ。
お忍びで見舞いにきたヴェルナー王とエヴァ王妃も絶賛した。
まさに、愛される要素をこれでもかというほど詰め込んだ存在。
しかし……。
三月になったある昼下がり。
空気は冷たいが天気はよく、道の両脇に積み上げられた雪がキラキラと輝いている。二階の窓から、栗色のコートと同色の帽子をかぶったサーフィが、大通りに向って歩いていくのが見えた。
ヘルマンは窓から離れ、ベビーベッドの傍らに戻る。
木製の柵つきベッドには清潔な布団が敷かれ、白とピンクのベビー服を着た愛くるしい赤ん坊が、二色の瞳をパチンとあけた。
家にはいま父娘のみ。
サーフィは先ほど外出し、帰ってくるのは早くとも陽が沈んでからだろう。
遠慮する妻に、時には育児の気分転換も必要だと、半ば無理やり芝居を見に行かせたのだ。
サーフィはシャルを目にいれても痛くないほど溺愛し、殆ど一日中傍に置いていたから、育児に関してヘルマンの出番はあまりなかった。こんな風に家で二人きりになるのは初めてだ。
「とー、とー?」
生後三ヶ月になるシャルロッティは、無邪気な瞳で父親を見つめ返し、手足をじたばたさせる。
「シャル。母上は外出いたしましたので、僕と二人でお留守番ですよ」
「……あーぅ?」
チラ、とシャルが室内を見渡す。
「遠慮は無用です。思い切り遊んでかまいません」
ヘルマンはニコリと微笑み、ガラガラを握らせた。
回転木馬の絵のついた玩具は、振るとカラカラと軽快な音がする。いつもシャルがおでかけに必ず持つ玩具だ。
「ぷぅー」
シャルはガラガラを両手に掴み、しげしげと眺める。
「君の思うようにふるまって良いですよ」
もう一度告げると、二色の瞳がチラリと父親をみあげた。そして……
「フッ」と、薄い笑みを浮べた。
それは常のシャルからは想像もつかない、シニカルな表情。
ベビーベッドの赤ん坊はフンと鼻を鳴らし、小さな手でガラガラを突き返す。まるで、こんなつまらないモノに用はないとでも言いたげだ。
(やっぱり……!)
ヘルマンは、ヒクリと片頬をひきつらせる。
サーフィに休息をとらせたかったのも本当だが、実はそれよりも、確かめたいことがあったのだ。
「気に入りませんか。これはどうです?」
今度は小さな手にふわふわで手触りの良いウサギちゃんの縫いぐるみを渡した。
「むー」
小さな小さな指が……丹念に縫い目を探り、バラバラに分解しはじめた。
『……えーと、これは?』
脳裏から、子ヘルの遠慮がちな声が聞える。
「ええ……思ったとおりでした」
力なくヘルマンは返事をした。
――やはりこの娘、相当に猫かぶっていた!
シャルは夜泣きもせず、やたらにぐずったりもしない。
サーフィが乳母車に乗せて買い物に出かけると、近所の奥さんたちは大人しくニコニコ笑っている赤子に「まぁ、なんてお利巧さんなの」と絶賛してくれるそうだ。
いつも行く店では、到着するとガラガラを振って店員たちに知らせ、ちょっとした名物になっている。
可愛らしさ百点満点のシャルロッティだが、むしろヘルマンにはそれが不自然に感じた。
赤ん坊というのは、場の空気など読まず、もっとワガママで手のかかる存在なのだ。
そして決定打は先日、市場に親子三人で買い物に出かけたとき。
やはり通りすがりの奥さまやおばあさんたちに、シャルは愛想をふりまき、可愛い可愛いともてはやされ、リンゴやお菓子を大量に頂いていた。
その時、ヘルマンは見てしまったのだ。乳母車にできた戦利品の山の陰で、シャルがこのシニカルな笑みでほくそえんでいたのを。
『ふふっ、ちょろい』
表情は確かにそう語っていた。
ヘルマンと目が合うと、一瞬でその笑みはいつものあどけないものに変わり、無邪気に指をしゃぶって見せた。
その後、注意してシャルを見張っていたが、一度も市場のようなそぶりは見せなかった。
しかし二人きりになり、遠まわしに指摘したことで、開き直ったらしい。
シャルが縫いぐるみから綿を引き摺りだし、「チッ」と小さく舌打ちしたのが確かに聞えた。
(君の言いたいことはわかりますよ。僕も赤ん坊の頃、やった覚えがありますのでね!)
ベッドの柵に掴まり、ショックで倒れそうな身体を必死に支える。
きっと中身がきちんと臓器の形をしていなかったのを、手抜きだと内心で罵ったのだろう。
さすがに産まれた直後までは覚えていないが、今のシャルくらいの頃からは記憶がある。
離宮の一室で乳母に育てられたが、与えられた幼稚な玩具を鼻で笑い、中身が気になったものは即座に分解した。
「シャル。ぬいぐるみの中身はそれでいいのです。破けて出た中身がリアルな臓物でしたら、一般的な子どもは骨格や生態を知ろうとする前に、ショックで大泣きしますのでね」
「ぷー」
シャルはつまらなそうに溜め息をつき、あっという間に見るも無残な姿にした縫いぐるみの残骸を、柵の間から床に落として捨てた。
自分のベッドが散らかるのは嫌なのだろう。綿くずも丁寧に全部ボロボロと床へ押しだした。
「ん」
片付けといて。と言うように、カーペットに出来たボロくず綿の山を指す。
『うっわ、まさしく君の子』
子ヘルがゴクリと唾を飲み、ヘルマンはうな垂れる。
彼とて若気のいたりや失敗はあった。
できれば消したい過去の一つや二つも持っている。
この年齢当時、まだ自分を客観的に見るまでは至っていなかったが、傍からみるとこんな赤ん坊だったのか。
――正直言って、可愛くない。
実に可愛げのない姿。しかも顔立ちが整っているだけに、小憎たらしさが倍増する。
その昔、乳母が幼い自分を放置し、引きつった顔で田舎に帰ってしまった理由が、なんとなくわかったような気がした……。
天井を見上げ、思わず遠い目になってしまったヘルマンだが、小さな異音に我に返った。
「シャル!!」
小さなバターナイフを手にしたシャルが寝返りを打ち、ベッド柵の隅で何か熱心に作業している。
おそらく台所で抱っこされている間にサーフィの目を盗み、布団の下に隠しておいたのだろう。
ガタンと音をたて、ベッドの柵が一部落ちる。
シャルはナイフの先端をベッド柵のねじ穴に差込み、せっせと回していたのだ。
ベビーベッドからの脱走。これも、嫌と言うほど覚えがある。
離宮にも衛兵はいたから、たいてい廊下を這いずっている途中で回収され、真っ青な顔をした乳母は壊れたベビーベッドを前に途方にくれていた。
その昔、乳母が……以下略。
シャルが嬉々とした顔でベッドの柱に掴まって滑り降りようとするのを、ヘルマンは慌てて駆け寄り抱きとめた。
「や!や!」
脱走を阻まれたシャルは、腕の中で憤慨してもがく。白衣の襟を掴み、手足を振り回す。
ポカポカ殴るのは小さな弱々しい手だが……こら。眉間と鼻の下とか喉仏とか、的確に急所をつくんじゃありません。
「残念ながら君の力では、さほど効果は得られませんよ」
そもそも、魔人たる身体は痛みを感じない。そう告げると、今度はネクタイを思い切り引っ張られた。
「ケホッ!家の中を見て回りたいなら、抱っこして連れて行きます」
溜め息混じりにヘルマンは告げる。
自分そっくりの性格を受け継いでしまった娘に、言っても無駄だろうと知りながら。
シャルは大人に連れて行って欲しいのではなく、自身で好奇心の赴くまま自由に探索したいのだ。
だが、ヘルマンの育った離宮は平屋建てで、さしたる家財道具もなく危険も少なかったが、この家には錬金術で使う危険な薬品や道具がてんこ盛りだ。
「べー!」
しまいにシャルはもがくのを諦め、小憎たらしい声で舌をつきだした。
「思い切り遊んで良いとは言いましたが、危険な場合は阻止いたしますよ。何しろ僕は……」
一瞬、言葉に詰まる。
この呼び名を誰かに言うなど、一生ないと思っていた。
サーフィはシャルに、ヘルマンの事を『そう』呼んでいたが、改めて自分で口にするのは、なんて照れくさいのだろう。
勇気を振り絞り、喉にこびりついてしまいそうな言葉を形にする。
「僕は……君の、父親、なのですから」
顔が赤らむのを感じる。
身体の中で、子ヘルがニヤニヤと……とても嬉しそうに優しく笑っているのを感じる。
シャルは憮然とした顔で腕の中に収まり、「ん」と扉を指差した。
「はいはい」
苦笑し、油断なくシャルを抱きかかえながらヘルマンは子ども部屋を出た。
「ぷわぁ……」
書斎に並ぶ本と薬品棚を前に、シャルは瞳を輝かせる。しかし、伸ばした小さな手に分厚い錬金術の本は重すぎて、引き抜くことすらできない。
「これですか?」
ヘルマンは椅子に腰掛け、シャルを膝にのせて本を開く。
「ん?んー」
ビッシリ並ぶ細かな文字と複雑な記号に、シャルは眉を潜めて首をかしげた。
「これはまだ難しいですね。しかし君なら、じきに理解できると思いますよ」
ヘルマンは目を細め、本を閉じる。
明日、錬金術ギルドの図書館から借りてくる本を頭の中でリストアップした。
図鑑に歴史書、数学書……幼児向けではなくとも難しすぎず、なるべく挿絵のたくさん入ったものがいい。
「あー、とー?」
シャルが今度は、棚に整頓されたフラスコやビーカーを指差す。
続いてヘルマンを指差し、首をかしげた。
「ええ、僕が錬金術の実験で使う道具です」
「しゃーる?も?」
自身を指差し、期待に満ちた目を向ける愛娘に、口元が勝手にほころぶ。
「ええ。君が望むなら、僕の知る全てを教えますよ」
「アハッ!」
シャルが顔をくしゃんと縮めて笑う。計算された可愛い猫かぶり顔ではなく、実に子どもらしい素直な笑顔で。
借りてくる本のリストに錬金術の初歩入門書を追加し、ヘルマンは膝にチョコンと乗っているシャルを撫でた。絹糸より細い白銀の髪が、手に心地よい。
自分は幼い頃、こんな顔で笑った事があっただろうかと、ふと考えた。記憶を引っ掻き回してみたが、どうにも覚えがない。
乳母が離職し、勝手によちよち出歩いても、叱ったり探したりする人はいなくなった。
離宮の奥で閉ざされた書庫を見つけた時、感動したことは覚えている。
でも、その時にヘルマンは一人きりで、傍には誰もいなかった。
フロッケンベルクの三月は、まだ陽が沈むのが早い。
四時にはもう薄暗くなり、通りの外灯が輝きはじめる。子ども部屋に灯りをつけ少しした頃、玄関の開く音がした。
「――戻りました!」
コートを脱ぐのももどかしい様子で、サーフィが駆け込んできた。ずっと走って帰ってきたのか、白い頬はかすかに蒸気していた。
ネジを締めなおしたベビーベッドにシャルを寝かせ、ヘルマンは振り向いた。
「お帰りなさい。どうでしたか?」
「とても楽しゅうございました。ありがとうございます」
サーフィが柔らかく微笑む。
「それは良かった。シャルは……」
言いかけ、ふとヘルマンの声は止まった。
シャルが錬金術に興味を示し、さっきまでずっと実験機材で遊んでいたと言うべきだろうか?
神童とか天才とか、賢い子に対して人は褒め言葉を惜しまない。
それでも限度というものがある。
理解を超える以上の能力を持つ者には、一転して異端の烙印が押され忌避される。赤子の頃のヘルマンを、乳母や後任の侍女たちが気味悪がって退けたように。
その点でシャルは、父親より確かに上手だった。
本性を隠し猫かぶりをして周囲の庇護をがっつり受けるという、当時のヘルマンができなかったことを見事にこなしたのだから。
「シャルも良い子でお留守番してくれたかしら?」
にこやかにベビーベッドを覗き込むサーフィ。
その後ろ姿を眺め、冷や汗が背中を伝うのを感じた。
改めて思い知る。サーフィが特別愛しい存在であるように、シャルだって『どうでも良くなんかない』のだ。
あの愛くるしい姿が、全て偽りの仮面だったと知ったとき、サーフィはどんな顔を見せるか……。
「あらあら、やっぱり。また脱走しようとしたのね?」
かがみこんだサーフィがほがらかな声とともに、布団の下からバターナイフを取り出す。
どうやらシャルはもう一本、更に布団の奥へ隠してあったらしい。
「は?」
唖然としたヘルマンの前で、サーフィは憮然とした顔のシャルを撫でながら言い聞かせる。
「言いましたでしょう?シャルはとってもお利巧さんですけど、一人で出歩くのはまだ早すぎますよ」
「ちょ……サーフィ!?知っていたのですか!?」
ヘルマンの焦り声に、きょとんとした顔でサーフィはふりむく。
「何をですの?」
「ですから、その……シャルが、標準より少々発育が早いというか……」
我ながら情けないほど言葉を濁し、ヘルマンは娘と妻を交互に見る。ベビーベッドの中で、シャルがニヤリと悪戯っ子の笑みを浮べた。
「あなたもてっきり知っているとばかり……」
もしかして、知らなかったのですか?と、サーフィの気まずそうな表情が物語っている。
「シャルは外でお行儀良くしているぶん、二人きりになると、少しばかり暴れてしまうのですよねー?」
にこにことシャルに話しかけるサーフィに、恐る恐る尋ねる。
「驚かなかったのですか……?」
「ええ、確かに最初は少し驚きましたが」
氷の魔人の妻は、にっこり告げる。
まるで、この一言ですべて納得いくというように。
「何しろ、あなたの子ですから」
「……」
言葉を失い、ヘルマンは全身から力が抜けていくのを感じた。
「……すみません」
深い深い溜め息をつき、うな垂れた。
――すみません。君を少しでも疑ってしまって。
「あの、どうかいたしました!?」
耳まで赤くなった顔を見られたくなくて、サーフィを抱き締めた。
「てーっ」
ポコンと柔らかいものがヘルマンの頭に当たる。見るとシャルが投げた枕だった。
「ぷぅっ!」
見てらんない、とばかりにシャルが顔をしかめている。
「ああ、失礼しました」
ニヤリと笑い、ヘルマンは愛娘を抱き上げる。
真相がはっきりした以上、もう翻弄はされるまい。
「サーフィ。シャルは明日から、僕の弟子として錬金術を学びます」
「え?」
「無理はさせませんから。かまいませんでしょう?」
「え、ええ……」
サーフィは流石に驚いたようだったが、機嫌を直したシャルは、ニコニコ顔で両手を振り回した。魔法灯火に輝く白銀の髪も、ふわふわと嬉しそうに揺れる。
「せーせ?」
小さな指がヘルマンを指し、尋ねる。
「ええ、そうですね」
ヘルマンは頷いた。
「僕は君の師で、同時に……」
ああ、やはりこれを言うのはまだ勇気がいる。
なにしろ二百年近くも独身で、これからもずっとそうだと思って生きてきたのだ。
ウロボロスがこの世でたった一匹とされるのは、全てを知り永遠を生きる存在は、繁殖を必要としないから。
何でも一人でできたから、他者を傍に置く必要なんてなかった。
心底から愛しい妻を得たのだって予想外。同じくらい愛しく、驚くほどしたたかな娘を得たのは、更に予想外。
『ほら、どうしたのさ?全てを知り全てを教えるのがウロボロスだろう?』
意識の内側にある氷雪の世界で、子ヘルが励ましてくれる。
咳払いし、喉にはりつきかけた言葉をようやく声に出した。
「君の、父親です」
終
たとえばアイリーン・バーグレイが難産で産まれた時は、山間の野営地で帝王切開手術を施した。
その後、バーグレイ商会を訪れるたびに、なぜか当然のように幼いアイリーンの世話を押し付けられたから、おしめを替えたりと、育児経験もバッチリだ。
他にも2・3人。何かしらの縁や事情から出産の手伝いをしたり、多少の世話をした赤子はいる。
だから妊婦には適度な運動も必要で、あまり神経質になるのは良くないと知っているのに……。
いざ自分の愛妻に子が宿ると、理性と感情のせめぎあいに、これほど苦悩する羽目になるとは思いもしなかった。
大きなお腹のサーフィが階段を昇り降りするのにハラハラする。
一人で外出など、とんでもない!……と言いたいのを我慢我慢。
買い物かごを持って出かけるサーフィの後を、こっそりつけて行きたい衝動に耐えていると、脳裏で呆れたぼやき声が響いた。
『やぁれやれ、人って変われば変わるもんだね』
『僕も驚いておりますよ。まさか、これほど自制心が無くなるとは』
目を瞑り意識の中で、自身の内に宿る氷の魔物の隣りへ座る。
真っ白な氷の世界で、子ども時代のヘルマンの姿をした黒髪の少年・略して子ヘルはニヤニヤ笑っていた。
氷の魔人も、東の民という亜種から完成品になったホムンクルスも、大変珍しい存在だ。更にその二人が両親という組み合わせなど、大陸全土を探しても他にはいないだろう。
果たしてどんな子が産まれるのやら……。
そして、十二月も終りにさしかかった日。
フロッケンベルク王都は、素晴らしい晴れ日よりだった。
前日までの猛吹雪はピタリと止み、まぶしい太陽が降り積もった白銀の雪と氷をキラキラと輝かせている。まるで氷雪が灼熱の太陽と手を取り合ったような風景だった。
王都中の子どもたちはそりやスケート靴を手に飛び出し、大人たちは雪かきを始める。ユニークな雪ダルマがあちこちで作られ、こんな真冬には珍しいほど、大通りは賑やかな笑い声に満ちていた。
そして錬金術ギルドの近くにひっそり建つ一軒家にて、一人の女児が産声をあげた。
母そっくりな炎色の瞳と、父そっくりな氷色の瞳を左右に持った赤子は、シャルロッティ・エーベルハルトと名づけられた。
シャルという愛称で呼ばれるようになった彼女は、とても愛くるしい赤子だった。
これはヘルマンやサーフィの贔屓目を抜きにしても、正しい判定だ。
どこもかしこも小さな身体。柔らかなほっぺた。左右の色が違う瞳はパッチリ大きく、白銀の長い睫毛が縁取っている。桜色の唇をパクリと開き「あー、あー」と発する声も可愛い。
誰かが顔を覗き込むと、「キャハ」と笑い声をあげる。その仕草とあどけない笑顔で、相手はたちまち柔面になり『とても良い子だ』と太鼓判を押すのだ。
お忍びで見舞いにきたヴェルナー王とエヴァ王妃も絶賛した。
まさに、愛される要素をこれでもかというほど詰め込んだ存在。
しかし……。
三月になったある昼下がり。
空気は冷たいが天気はよく、道の両脇に積み上げられた雪がキラキラと輝いている。二階の窓から、栗色のコートと同色の帽子をかぶったサーフィが、大通りに向って歩いていくのが見えた。
ヘルマンは窓から離れ、ベビーベッドの傍らに戻る。
木製の柵つきベッドには清潔な布団が敷かれ、白とピンクのベビー服を着た愛くるしい赤ん坊が、二色の瞳をパチンとあけた。
家にはいま父娘のみ。
サーフィは先ほど外出し、帰ってくるのは早くとも陽が沈んでからだろう。
遠慮する妻に、時には育児の気分転換も必要だと、半ば無理やり芝居を見に行かせたのだ。
サーフィはシャルを目にいれても痛くないほど溺愛し、殆ど一日中傍に置いていたから、育児に関してヘルマンの出番はあまりなかった。こんな風に家で二人きりになるのは初めてだ。
「とー、とー?」
生後三ヶ月になるシャルロッティは、無邪気な瞳で父親を見つめ返し、手足をじたばたさせる。
「シャル。母上は外出いたしましたので、僕と二人でお留守番ですよ」
「……あーぅ?」
チラ、とシャルが室内を見渡す。
「遠慮は無用です。思い切り遊んでかまいません」
ヘルマンはニコリと微笑み、ガラガラを握らせた。
回転木馬の絵のついた玩具は、振るとカラカラと軽快な音がする。いつもシャルがおでかけに必ず持つ玩具だ。
「ぷぅー」
シャルはガラガラを両手に掴み、しげしげと眺める。
「君の思うようにふるまって良いですよ」
もう一度告げると、二色の瞳がチラリと父親をみあげた。そして……
「フッ」と、薄い笑みを浮べた。
それは常のシャルからは想像もつかない、シニカルな表情。
ベビーベッドの赤ん坊はフンと鼻を鳴らし、小さな手でガラガラを突き返す。まるで、こんなつまらないモノに用はないとでも言いたげだ。
(やっぱり……!)
ヘルマンは、ヒクリと片頬をひきつらせる。
サーフィに休息をとらせたかったのも本当だが、実はそれよりも、確かめたいことがあったのだ。
「気に入りませんか。これはどうです?」
今度は小さな手にふわふわで手触りの良いウサギちゃんの縫いぐるみを渡した。
「むー」
小さな小さな指が……丹念に縫い目を探り、バラバラに分解しはじめた。
『……えーと、これは?』
脳裏から、子ヘルの遠慮がちな声が聞える。
「ええ……思ったとおりでした」
力なくヘルマンは返事をした。
――やはりこの娘、相当に猫かぶっていた!
シャルは夜泣きもせず、やたらにぐずったりもしない。
サーフィが乳母車に乗せて買い物に出かけると、近所の奥さんたちは大人しくニコニコ笑っている赤子に「まぁ、なんてお利巧さんなの」と絶賛してくれるそうだ。
いつも行く店では、到着するとガラガラを振って店員たちに知らせ、ちょっとした名物になっている。
可愛らしさ百点満点のシャルロッティだが、むしろヘルマンにはそれが不自然に感じた。
赤ん坊というのは、場の空気など読まず、もっとワガママで手のかかる存在なのだ。
そして決定打は先日、市場に親子三人で買い物に出かけたとき。
やはり通りすがりの奥さまやおばあさんたちに、シャルは愛想をふりまき、可愛い可愛いともてはやされ、リンゴやお菓子を大量に頂いていた。
その時、ヘルマンは見てしまったのだ。乳母車にできた戦利品の山の陰で、シャルがこのシニカルな笑みでほくそえんでいたのを。
『ふふっ、ちょろい』
表情は確かにそう語っていた。
ヘルマンと目が合うと、一瞬でその笑みはいつものあどけないものに変わり、無邪気に指をしゃぶって見せた。
その後、注意してシャルを見張っていたが、一度も市場のようなそぶりは見せなかった。
しかし二人きりになり、遠まわしに指摘したことで、開き直ったらしい。
シャルが縫いぐるみから綿を引き摺りだし、「チッ」と小さく舌打ちしたのが確かに聞えた。
(君の言いたいことはわかりますよ。僕も赤ん坊の頃、やった覚えがありますのでね!)
ベッドの柵に掴まり、ショックで倒れそうな身体を必死に支える。
きっと中身がきちんと臓器の形をしていなかったのを、手抜きだと内心で罵ったのだろう。
さすがに産まれた直後までは覚えていないが、今のシャルくらいの頃からは記憶がある。
離宮の一室で乳母に育てられたが、与えられた幼稚な玩具を鼻で笑い、中身が気になったものは即座に分解した。
「シャル。ぬいぐるみの中身はそれでいいのです。破けて出た中身がリアルな臓物でしたら、一般的な子どもは骨格や生態を知ろうとする前に、ショックで大泣きしますのでね」
「ぷー」
シャルはつまらなそうに溜め息をつき、あっという間に見るも無残な姿にした縫いぐるみの残骸を、柵の間から床に落として捨てた。
自分のベッドが散らかるのは嫌なのだろう。綿くずも丁寧に全部ボロボロと床へ押しだした。
「ん」
片付けといて。と言うように、カーペットに出来たボロくず綿の山を指す。
『うっわ、まさしく君の子』
子ヘルがゴクリと唾を飲み、ヘルマンはうな垂れる。
彼とて若気のいたりや失敗はあった。
できれば消したい過去の一つや二つも持っている。
この年齢当時、まだ自分を客観的に見るまでは至っていなかったが、傍からみるとこんな赤ん坊だったのか。
――正直言って、可愛くない。
実に可愛げのない姿。しかも顔立ちが整っているだけに、小憎たらしさが倍増する。
その昔、乳母が幼い自分を放置し、引きつった顔で田舎に帰ってしまった理由が、なんとなくわかったような気がした……。
天井を見上げ、思わず遠い目になってしまったヘルマンだが、小さな異音に我に返った。
「シャル!!」
小さなバターナイフを手にしたシャルが寝返りを打ち、ベッド柵の隅で何か熱心に作業している。
おそらく台所で抱っこされている間にサーフィの目を盗み、布団の下に隠しておいたのだろう。
ガタンと音をたて、ベッドの柵が一部落ちる。
シャルはナイフの先端をベッド柵のねじ穴に差込み、せっせと回していたのだ。
ベビーベッドからの脱走。これも、嫌と言うほど覚えがある。
離宮にも衛兵はいたから、たいてい廊下を這いずっている途中で回収され、真っ青な顔をした乳母は壊れたベビーベッドを前に途方にくれていた。
その昔、乳母が……以下略。
シャルが嬉々とした顔でベッドの柱に掴まって滑り降りようとするのを、ヘルマンは慌てて駆け寄り抱きとめた。
「や!や!」
脱走を阻まれたシャルは、腕の中で憤慨してもがく。白衣の襟を掴み、手足を振り回す。
ポカポカ殴るのは小さな弱々しい手だが……こら。眉間と鼻の下とか喉仏とか、的確に急所をつくんじゃありません。
「残念ながら君の力では、さほど効果は得られませんよ」
そもそも、魔人たる身体は痛みを感じない。そう告げると、今度はネクタイを思い切り引っ張られた。
「ケホッ!家の中を見て回りたいなら、抱っこして連れて行きます」
溜め息混じりにヘルマンは告げる。
自分そっくりの性格を受け継いでしまった娘に、言っても無駄だろうと知りながら。
シャルは大人に連れて行って欲しいのではなく、自身で好奇心の赴くまま自由に探索したいのだ。
だが、ヘルマンの育った離宮は平屋建てで、さしたる家財道具もなく危険も少なかったが、この家には錬金術で使う危険な薬品や道具がてんこ盛りだ。
「べー!」
しまいにシャルはもがくのを諦め、小憎たらしい声で舌をつきだした。
「思い切り遊んで良いとは言いましたが、危険な場合は阻止いたしますよ。何しろ僕は……」
一瞬、言葉に詰まる。
この呼び名を誰かに言うなど、一生ないと思っていた。
サーフィはシャルに、ヘルマンの事を『そう』呼んでいたが、改めて自分で口にするのは、なんて照れくさいのだろう。
勇気を振り絞り、喉にこびりついてしまいそうな言葉を形にする。
「僕は……君の、父親、なのですから」
顔が赤らむのを感じる。
身体の中で、子ヘルがニヤニヤと……とても嬉しそうに優しく笑っているのを感じる。
シャルは憮然とした顔で腕の中に収まり、「ん」と扉を指差した。
「はいはい」
苦笑し、油断なくシャルを抱きかかえながらヘルマンは子ども部屋を出た。
「ぷわぁ……」
書斎に並ぶ本と薬品棚を前に、シャルは瞳を輝かせる。しかし、伸ばした小さな手に分厚い錬金術の本は重すぎて、引き抜くことすらできない。
「これですか?」
ヘルマンは椅子に腰掛け、シャルを膝にのせて本を開く。
「ん?んー」
ビッシリ並ぶ細かな文字と複雑な記号に、シャルは眉を潜めて首をかしげた。
「これはまだ難しいですね。しかし君なら、じきに理解できると思いますよ」
ヘルマンは目を細め、本を閉じる。
明日、錬金術ギルドの図書館から借りてくる本を頭の中でリストアップした。
図鑑に歴史書、数学書……幼児向けではなくとも難しすぎず、なるべく挿絵のたくさん入ったものがいい。
「あー、とー?」
シャルが今度は、棚に整頓されたフラスコやビーカーを指差す。
続いてヘルマンを指差し、首をかしげた。
「ええ、僕が錬金術の実験で使う道具です」
「しゃーる?も?」
自身を指差し、期待に満ちた目を向ける愛娘に、口元が勝手にほころぶ。
「ええ。君が望むなら、僕の知る全てを教えますよ」
「アハッ!」
シャルが顔をくしゃんと縮めて笑う。計算された可愛い猫かぶり顔ではなく、実に子どもらしい素直な笑顔で。
借りてくる本のリストに錬金術の初歩入門書を追加し、ヘルマンは膝にチョコンと乗っているシャルを撫でた。絹糸より細い白銀の髪が、手に心地よい。
自分は幼い頃、こんな顔で笑った事があっただろうかと、ふと考えた。記憶を引っ掻き回してみたが、どうにも覚えがない。
乳母が離職し、勝手によちよち出歩いても、叱ったり探したりする人はいなくなった。
離宮の奥で閉ざされた書庫を見つけた時、感動したことは覚えている。
でも、その時にヘルマンは一人きりで、傍には誰もいなかった。
フロッケンベルクの三月は、まだ陽が沈むのが早い。
四時にはもう薄暗くなり、通りの外灯が輝きはじめる。子ども部屋に灯りをつけ少しした頃、玄関の開く音がした。
「――戻りました!」
コートを脱ぐのももどかしい様子で、サーフィが駆け込んできた。ずっと走って帰ってきたのか、白い頬はかすかに蒸気していた。
ネジを締めなおしたベビーベッドにシャルを寝かせ、ヘルマンは振り向いた。
「お帰りなさい。どうでしたか?」
「とても楽しゅうございました。ありがとうございます」
サーフィが柔らかく微笑む。
「それは良かった。シャルは……」
言いかけ、ふとヘルマンの声は止まった。
シャルが錬金術に興味を示し、さっきまでずっと実験機材で遊んでいたと言うべきだろうか?
神童とか天才とか、賢い子に対して人は褒め言葉を惜しまない。
それでも限度というものがある。
理解を超える以上の能力を持つ者には、一転して異端の烙印が押され忌避される。赤子の頃のヘルマンを、乳母や後任の侍女たちが気味悪がって退けたように。
その点でシャルは、父親より確かに上手だった。
本性を隠し猫かぶりをして周囲の庇護をがっつり受けるという、当時のヘルマンができなかったことを見事にこなしたのだから。
「シャルも良い子でお留守番してくれたかしら?」
にこやかにベビーベッドを覗き込むサーフィ。
その後ろ姿を眺め、冷や汗が背中を伝うのを感じた。
改めて思い知る。サーフィが特別愛しい存在であるように、シャルだって『どうでも良くなんかない』のだ。
あの愛くるしい姿が、全て偽りの仮面だったと知ったとき、サーフィはどんな顔を見せるか……。
「あらあら、やっぱり。また脱走しようとしたのね?」
かがみこんだサーフィがほがらかな声とともに、布団の下からバターナイフを取り出す。
どうやらシャルはもう一本、更に布団の奥へ隠してあったらしい。
「は?」
唖然としたヘルマンの前で、サーフィは憮然とした顔のシャルを撫でながら言い聞かせる。
「言いましたでしょう?シャルはとってもお利巧さんですけど、一人で出歩くのはまだ早すぎますよ」
「ちょ……サーフィ!?知っていたのですか!?」
ヘルマンの焦り声に、きょとんとした顔でサーフィはふりむく。
「何をですの?」
「ですから、その……シャルが、標準より少々発育が早いというか……」
我ながら情けないほど言葉を濁し、ヘルマンは娘と妻を交互に見る。ベビーベッドの中で、シャルがニヤリと悪戯っ子の笑みを浮べた。
「あなたもてっきり知っているとばかり……」
もしかして、知らなかったのですか?と、サーフィの気まずそうな表情が物語っている。
「シャルは外でお行儀良くしているぶん、二人きりになると、少しばかり暴れてしまうのですよねー?」
にこにことシャルに話しかけるサーフィに、恐る恐る尋ねる。
「驚かなかったのですか……?」
「ええ、確かに最初は少し驚きましたが」
氷の魔人の妻は、にっこり告げる。
まるで、この一言ですべて納得いくというように。
「何しろ、あなたの子ですから」
「……」
言葉を失い、ヘルマンは全身から力が抜けていくのを感じた。
「……すみません」
深い深い溜め息をつき、うな垂れた。
――すみません。君を少しでも疑ってしまって。
「あの、どうかいたしました!?」
耳まで赤くなった顔を見られたくなくて、サーフィを抱き締めた。
「てーっ」
ポコンと柔らかいものがヘルマンの頭に当たる。見るとシャルが投げた枕だった。
「ぷぅっ!」
見てらんない、とばかりにシャルが顔をしかめている。
「ああ、失礼しました」
ニヤリと笑い、ヘルマンは愛娘を抱き上げる。
真相がはっきりした以上、もう翻弄はされるまい。
「サーフィ。シャルは明日から、僕の弟子として錬金術を学びます」
「え?」
「無理はさせませんから。かまいませんでしょう?」
「え、ええ……」
サーフィは流石に驚いたようだったが、機嫌を直したシャルは、ニコニコ顔で両手を振り回した。魔法灯火に輝く白銀の髪も、ふわふわと嬉しそうに揺れる。
「せーせ?」
小さな指がヘルマンを指し、尋ねる。
「ええ、そうですね」
ヘルマンは頷いた。
「僕は君の師で、同時に……」
ああ、やはりこれを言うのはまだ勇気がいる。
なにしろ二百年近くも独身で、これからもずっとそうだと思って生きてきたのだ。
ウロボロスがこの世でたった一匹とされるのは、全てを知り永遠を生きる存在は、繁殖を必要としないから。
何でも一人でできたから、他者を傍に置く必要なんてなかった。
心底から愛しい妻を得たのだって予想外。同じくらい愛しく、驚くほどしたたかな娘を得たのは、更に予想外。
『ほら、どうしたのさ?全てを知り全てを教えるのがウロボロスだろう?』
意識の内側にある氷雪の世界で、子ヘルが励ましてくれる。
咳払いし、喉にはりつきかけた言葉をようやく声に出した。
「君の、父親です」
終
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お久しぶりです
何年か前に野いちごで掲載されていたものですね?(別サイトの名前を出してしまい不快な思いをされていたら申し訳ありません)
当時は何回も何回も読み返しており、フロッケンベルクシリーズは今の自分を形作ったと言っても過言ではないくらい大好きな作品です
消されてからいろいろ検索して探しては、どのサイトからも年齢的に入れず自分が欠けたような寂しい時間が続きましたが、またこうして出会うことができて本当に嬉しく思います
いわしろさん、小桜けいさんの作品は描写が丁寧なのはもちろん心情の描写が繊細で日本語って美しいな…と感じる作品から、見方や考え方に驚かされたりクスッと笑ってしまう作品など様々な描きかたをされていて、とにかく大好きです!
よかったらフロッケンベルクシリーズをまた投稿してください!何回読んでも楽しめる作品に初めて出会ったのがこの物語ですが、改めて年月が経って読むと新しい見方ができて面白いものですね
長文散文になりましたが、5年分の想い、見ていただけたならとても嬉しいです
これからも小桜けいさんの作品を楽しみに応援していますね
とても感激なお言葉をありがとうございます!あまりに嬉しくて、本当に涙が出てしまいました。
仰る通り、当時は自分に合う投稿サイトを手探りしていまして、この作品も全年齢用に端々を変えて他に投稿もしましたが、やはり年齢制限ありのもので統一しようと思いまして、大変にご不便をおかけしました。
趣味で書き始めたお話ではありますが、誰かに好きだと思ってもらえて、ましてや何かしら良い影響を受けたと言って頂けましたら、これほど嬉しい事はありません。
規定年齢まできちんと待ってくださった良識ある方に、そのようなお褒めを頂けましたことを誠に光栄に思います。
フロッケンベルクシリーズは、現在の所はまだ次作など未定ですが、私の原点には違いありませんのでまたいつかこの世界の話をかければと思います。
その際にはまたお付き合い頂けましたら光栄です。
重ね重ね、ありがとうございました!