22 / 23
番外編
いやいやお薬
しおりを挟む
「ぜったい、いやぁぁ!!!!」
思わず絶叫した拍子に、クラリと眩暈がした。ラヴィはうめいてベッドに倒れ伏す。
「すぐ楽になるから」
困り顔のルーディを、涙がいっぱいに溜まったアメジストの瞳が睨む。
「だって……っ!」
真っ赤に火照った顔を濡れタオルで隠そうとしたら、ルーディに取り上げられた。
ぬるくなってしまったそれを、冷たい水に浸してしぼり、フロッケンベルクで医学と錬金術を学んだ彼は、こともなげに言う。
「そんなに嫌がることないじゃないか。――坐薬くらい」
最近、イスパニラ王都では風邪が大流行していた。
かかってもそれほど大事にはならないが、流行性が強く2・3日は高熱が出る。
今朝、ひどい頭痛でラヴィが眼を覚ました時には、ルーディが濡れタオルでせっせと額を冷やしてくれていた。
華奢な見た目に反し、ラヴィは病気とは無縁なほうで、熱など数年ぶりだ。
奴隷市場の劣悪環境でさえ、大丈夫だったのに、この風邪はそうとう強力らしい。
ルーディはとても心配してくれ、熱心に看病してくれた。
それはありがたいのだが……。
丸まって布団を頭からかぶり、ラヴィは断固として拒絶の意を示す。
ルーディが持ってきた、錬金術ギルド特製の風邪薬。
その使い方を聞き、下着を脱ぐよう言われ、絶叫したわけだ。
――たとえ熱が引いても、心理的ダメージで寝込むこと確実。
「変なことするつもりじゃないぞ」
布団ごしに、ちょっと拗ねたような声がかけられる。
「わ、わかってるけど……ビックリして……」
「他の国じゃ、あんまり出回ってないからなぁ。フロッケンベルクじゃ、結構よく使……」
ルーディは少し言葉を切り、言いなおした。
「あー、子どもの熱によく使ってる」
「……わたし、もう大人だもの」
「効き目が高くて副作用もないし、苦いのを我慢する必要もない。ラヴィ、苦いの大嫌いだろ?」
「……」
おそるおそる片目だけ出し、ルーディを見上げた。
お尻に薬を入れられるくらいなら、苦い薬を一気飲みするほうがマシ……と、言いたいが、実はどっちも同じくらい嫌だ。
子ども扱いされても仕方ないと、我ながら思ってしまう。
大きな手には、油薬の瓶と小さな丸薬が数個、所在なさげに乗っていた。
使用法はともかく、一番効果がある薬を選んでくれたのだろうと、ラヴィだって理解している。
「……じ、自分でするから……貸して」
精一杯の妥協点として、布団から手を伸ばしたが、首を振られた。
「初めてなら、自分じゃ上手く入れられないだろ?」
「大丈夫だから!……多分」
「いつも全部見てるんだから、今さら気にしなくても……」
「っ!!あ、あれは……」
いっそう顔を赤くし、ラヴィは再び布団の中に篭城する。
「ああいう時は、違うの!ワケがわからなくなってるし……だから……」
そのうえ少なくとも、そっちをいじられた事は、まだない。
「ふぅん」
コツン、と小瓶と薬をサイドテーブルに置く音が聞こえた。続いて、しっかり包まっていた布団が、凄まじく強い力であっさり剥ぎ取られる。
「ルー……んっ!?」
そのまま唇を塞がれ、いつもよりひんやり感じる舌に口内を貪られる。
歯列をなぞられ、吸い上げられた舌を甘く噛まれると、吐息の温度がいっそう上がっていく。
身体が辛くてしかたないが、いつもより多めに息継ぎを与えられながら、肩や背中を優しく撫でられると、次第に甘ったるい感覚が満ちる。
鼻に抜ける声が漏れ出したところで、ようやく唇を開放された。
「つまり、ワケわかんなくすれば問題ないのか」
とっても悪い狼が笑顔でのしかかる。
「ちょ、うそっ」
逃げようとした腰をがっちり抑えられ、また唇を塞がれた。口腔をなぶりながら、ルーディは片手で胸への愛撫を開始する。
薄い夜着の上から指先で円を描くように突起をなぞられ、硬くとがるよう促される。
控えめだが敏感な胸が、慣れた動きにたちまち反応を始めた。布上から硬くなった乳首を摘まれ、ヒクンと身体が震えた。
「ん……はぁ……だめ……」
押し戻そうとルーディの胸に当てた手はまるで力が入らず、シャツを握るのが精一杯だった。
首筋を舌でなぞられ、止らない胸への刺激に煽られ、全身で息をする。
発熱で熱く乾燥していた肌が次第に汗ばんでいく。
熱で潤んでいた視界がさらにぼやけ、目端から熱い涙が零れた。
薄い長袖の夜着は脱がされず、上から余すところなく撫でられていく。
やめて欲しいのに、何か足りないようなもどかしい気分が次第に高まる。疼く腰が僅かに浮き沈みし、ぎゅっと閉じた両足をこすりあわせるたび、奥から湿った音が聞こえてしまいそうだ、
ひざ丈の裾からするりと脚をじかに撫でられると、高い声をあげてしまった。
「あっ!んんっ……やめ……」
「いくら何でも、最後までしないけど……」
ルーディが困ったように苦笑する。
壊れ物でも扱うようにラヴィを抱き締め、かすかに上擦った声で囁く。
「早くしないと、俺の理性がもたない」
片手でラヴィを抱き締め、もう片手で下着だけを器用に剥ぎ取る。
太ももに手をかけ、大きく開かせたルーディは、足の間に身体を挟み込んだ。
確認しなくても蕩けきった箇所へ、粘つく音とともに指が一本潜り込んだ。
「ふぁっ!だめぇ……」
「すごく熱い……」
耳元で淫靡に呟かれた。
膣奥から蜜を掻きだすように指を動かされ、ラヴィの身体がビクビク痙攣する。枕にしがみつき、背を丸めて下肢から沸く快楽と熱の苦しさに必死で耐える。
愛液でぬめった指で陰核をこねられ、瞼の裏が赤や白に染まる。卑猥な濡れ音と、自分の荒い呼吸が聴覚を満たし、思考が霞んでいく。
「くぅぅんっ!」
喰いしばった歯の間から悲鳴が漏れた。
丸まっていた背を弓なりにそらせ、ラヴィのつまさきがシーツを強く蹴る。
激しい痙攣が治まりきらぬうちに、身体をうつ伏せにされた。
狼になったルーディと繋がる時のように、腰だけを高く掲げる姿勢をとらされる。
ルーディの指がとろけた蜜をすくい、後ろの窄まりにまで伸ばしていく。
「はぁ……ぁ……ぁ」
風邪の熱とルーディに煽られた熱。茹だった頭が反応しきれず、目を瞑りされるがままになっていた。
油薬のかわりに愛液のぬめりを借り、小指の先ほどの丸薬が後孔に押し込まれていく。
つぷん、と自分の身体が一つづつ薬を飲み込んでいくたび、背筋がひきつる。
シーツを握り締め、身体の中で溶けた薬が吸収されるのと、新たな薬が押し込まれる感覚に、身を震わせていた。
「はい、終わった」
あっさりと離された腰が、ポフンとシーツに落ちた。
「早く元気になって欲しかったんだけど……無理やりして、ごめん」
心底すまそうな顔のルーディが、濡れタオルで身体を拭ってくれる。
ぐったりして言葉を紡ぐ気力もないまま、ラヴィはゆるゆると頭を振った。首を少し傾け、大きな手にほお擦りする。
ゆっくり髪を撫でられ、眠気とだるさに逆らわず、そのまま目を閉じた。
薬が効いてきたのだろうか。体中を蝕んでいた寒気が徐々に納まり、じんわりと暖かくなっていく。
狼に変身したルーディが、ラヴィに寄り添い身体を横たえる。
ふかふかの毛皮と高い体温、喉奥からわずかに聞えるぐるるという低音も、全てが心地よくて、眠りに落ちるのはあっという間だった。
――翌朝。
眼が覚めると、ラヴィの熱はすっかり下がっていた。
そして……
「人狼は雪山を走り回って過ごしてるんだ。風邪なんかひいたことないよ」
横で起き上がり、へらへら笑って見せるルーディは、あきらかに不自然な赤い顔をしていた。
「ルーディ、じっとして」
手を伸ばし、往生際が悪い人狼の顔を引き寄せる。額をあわせると、やっぱり熱い。
昨日、あんなことをしたから伝染ったのだ。
「ほら、すごい熱」
「大丈夫だって……」
「ルーディも薬が必要みたいね?」
にっこり笑い、サイドテーブルに乗ったままの薬瓶を指差す。
ルーディは琥珀色の瞳を一瞬丸くし、脳内シュミレーションを完了させたらしい。
「い、いや……俺、苦い薬も平気だから……調合してくる……」
「その状態で薬の調合なんか無理よ」
風邪を引いたことがないということは、あの薬だって自分で使ったことは無いのだろう。
いざその立場に立って、初めてわかる気分を思い知ったようだ。
「ね?貴重な経験じゃない。どうしてこれが、大人にいまいち不評なのか、体験できるでしょ」
「ラヴィ……もしかして、すっごく怒ってる……?」
冷や汗を流して後ずさるルーディが可愛くて、ラヴィは薬瓶を手にもったまま、フフフと笑う。
「――っ!!」
ルーディは熱で赤かった顔を青ざめさせ、再び狼に変身してクルンと丸まってしまった。
ふさふさの尻尾をしっかり後ろ足の合間に挟んでガードし、耳はヘニョンと垂れてしまっている。
強くて頼りがいのある人狼青年は、こういった愛くるしい姿を時たま見せてくれる。
十分満足し、ラヴィは薬瓶を置いて手早く着替えを済ませた。
まだ丸まっている狼の毛皮をそっと撫で、囁く。
「少し待っててね。甘くて美味しいお薬を作ってくるわ」
田舎で暮らしていた頃、屋敷の料理人から教えてもらったものだ。
養母はラヴィの作ったものをすっかり気に入り、風邪を引くといつもこれを作ってくれと頼まれた。
――静かに部屋を出たラヴィは、自分流のとっておきの風邪薬……卵酒を作りに台所に降りていった。
思わず絶叫した拍子に、クラリと眩暈がした。ラヴィはうめいてベッドに倒れ伏す。
「すぐ楽になるから」
困り顔のルーディを、涙がいっぱいに溜まったアメジストの瞳が睨む。
「だって……っ!」
真っ赤に火照った顔を濡れタオルで隠そうとしたら、ルーディに取り上げられた。
ぬるくなってしまったそれを、冷たい水に浸してしぼり、フロッケンベルクで医学と錬金術を学んだ彼は、こともなげに言う。
「そんなに嫌がることないじゃないか。――坐薬くらい」
最近、イスパニラ王都では風邪が大流行していた。
かかってもそれほど大事にはならないが、流行性が強く2・3日は高熱が出る。
今朝、ひどい頭痛でラヴィが眼を覚ました時には、ルーディが濡れタオルでせっせと額を冷やしてくれていた。
華奢な見た目に反し、ラヴィは病気とは無縁なほうで、熱など数年ぶりだ。
奴隷市場の劣悪環境でさえ、大丈夫だったのに、この風邪はそうとう強力らしい。
ルーディはとても心配してくれ、熱心に看病してくれた。
それはありがたいのだが……。
丸まって布団を頭からかぶり、ラヴィは断固として拒絶の意を示す。
ルーディが持ってきた、錬金術ギルド特製の風邪薬。
その使い方を聞き、下着を脱ぐよう言われ、絶叫したわけだ。
――たとえ熱が引いても、心理的ダメージで寝込むこと確実。
「変なことするつもりじゃないぞ」
布団ごしに、ちょっと拗ねたような声がかけられる。
「わ、わかってるけど……ビックリして……」
「他の国じゃ、あんまり出回ってないからなぁ。フロッケンベルクじゃ、結構よく使……」
ルーディは少し言葉を切り、言いなおした。
「あー、子どもの熱によく使ってる」
「……わたし、もう大人だもの」
「効き目が高くて副作用もないし、苦いのを我慢する必要もない。ラヴィ、苦いの大嫌いだろ?」
「……」
おそるおそる片目だけ出し、ルーディを見上げた。
お尻に薬を入れられるくらいなら、苦い薬を一気飲みするほうがマシ……と、言いたいが、実はどっちも同じくらい嫌だ。
子ども扱いされても仕方ないと、我ながら思ってしまう。
大きな手には、油薬の瓶と小さな丸薬が数個、所在なさげに乗っていた。
使用法はともかく、一番効果がある薬を選んでくれたのだろうと、ラヴィだって理解している。
「……じ、自分でするから……貸して」
精一杯の妥協点として、布団から手を伸ばしたが、首を振られた。
「初めてなら、自分じゃ上手く入れられないだろ?」
「大丈夫だから!……多分」
「いつも全部見てるんだから、今さら気にしなくても……」
「っ!!あ、あれは……」
いっそう顔を赤くし、ラヴィは再び布団の中に篭城する。
「ああいう時は、違うの!ワケがわからなくなってるし……だから……」
そのうえ少なくとも、そっちをいじられた事は、まだない。
「ふぅん」
コツン、と小瓶と薬をサイドテーブルに置く音が聞こえた。続いて、しっかり包まっていた布団が、凄まじく強い力であっさり剥ぎ取られる。
「ルー……んっ!?」
そのまま唇を塞がれ、いつもよりひんやり感じる舌に口内を貪られる。
歯列をなぞられ、吸い上げられた舌を甘く噛まれると、吐息の温度がいっそう上がっていく。
身体が辛くてしかたないが、いつもより多めに息継ぎを与えられながら、肩や背中を優しく撫でられると、次第に甘ったるい感覚が満ちる。
鼻に抜ける声が漏れ出したところで、ようやく唇を開放された。
「つまり、ワケわかんなくすれば問題ないのか」
とっても悪い狼が笑顔でのしかかる。
「ちょ、うそっ」
逃げようとした腰をがっちり抑えられ、また唇を塞がれた。口腔をなぶりながら、ルーディは片手で胸への愛撫を開始する。
薄い夜着の上から指先で円を描くように突起をなぞられ、硬くとがるよう促される。
控えめだが敏感な胸が、慣れた動きにたちまち反応を始めた。布上から硬くなった乳首を摘まれ、ヒクンと身体が震えた。
「ん……はぁ……だめ……」
押し戻そうとルーディの胸に当てた手はまるで力が入らず、シャツを握るのが精一杯だった。
首筋を舌でなぞられ、止らない胸への刺激に煽られ、全身で息をする。
発熱で熱く乾燥していた肌が次第に汗ばんでいく。
熱で潤んでいた視界がさらにぼやけ、目端から熱い涙が零れた。
薄い長袖の夜着は脱がされず、上から余すところなく撫でられていく。
やめて欲しいのに、何か足りないようなもどかしい気分が次第に高まる。疼く腰が僅かに浮き沈みし、ぎゅっと閉じた両足をこすりあわせるたび、奥から湿った音が聞こえてしまいそうだ、
ひざ丈の裾からするりと脚をじかに撫でられると、高い声をあげてしまった。
「あっ!んんっ……やめ……」
「いくら何でも、最後までしないけど……」
ルーディが困ったように苦笑する。
壊れ物でも扱うようにラヴィを抱き締め、かすかに上擦った声で囁く。
「早くしないと、俺の理性がもたない」
片手でラヴィを抱き締め、もう片手で下着だけを器用に剥ぎ取る。
太ももに手をかけ、大きく開かせたルーディは、足の間に身体を挟み込んだ。
確認しなくても蕩けきった箇所へ、粘つく音とともに指が一本潜り込んだ。
「ふぁっ!だめぇ……」
「すごく熱い……」
耳元で淫靡に呟かれた。
膣奥から蜜を掻きだすように指を動かされ、ラヴィの身体がビクビク痙攣する。枕にしがみつき、背を丸めて下肢から沸く快楽と熱の苦しさに必死で耐える。
愛液でぬめった指で陰核をこねられ、瞼の裏が赤や白に染まる。卑猥な濡れ音と、自分の荒い呼吸が聴覚を満たし、思考が霞んでいく。
「くぅぅんっ!」
喰いしばった歯の間から悲鳴が漏れた。
丸まっていた背を弓なりにそらせ、ラヴィのつまさきがシーツを強く蹴る。
激しい痙攣が治まりきらぬうちに、身体をうつ伏せにされた。
狼になったルーディと繋がる時のように、腰だけを高く掲げる姿勢をとらされる。
ルーディの指がとろけた蜜をすくい、後ろの窄まりにまで伸ばしていく。
「はぁ……ぁ……ぁ」
風邪の熱とルーディに煽られた熱。茹だった頭が反応しきれず、目を瞑りされるがままになっていた。
油薬のかわりに愛液のぬめりを借り、小指の先ほどの丸薬が後孔に押し込まれていく。
つぷん、と自分の身体が一つづつ薬を飲み込んでいくたび、背筋がひきつる。
シーツを握り締め、身体の中で溶けた薬が吸収されるのと、新たな薬が押し込まれる感覚に、身を震わせていた。
「はい、終わった」
あっさりと離された腰が、ポフンとシーツに落ちた。
「早く元気になって欲しかったんだけど……無理やりして、ごめん」
心底すまそうな顔のルーディが、濡れタオルで身体を拭ってくれる。
ぐったりして言葉を紡ぐ気力もないまま、ラヴィはゆるゆると頭を振った。首を少し傾け、大きな手にほお擦りする。
ゆっくり髪を撫でられ、眠気とだるさに逆らわず、そのまま目を閉じた。
薬が効いてきたのだろうか。体中を蝕んでいた寒気が徐々に納まり、じんわりと暖かくなっていく。
狼に変身したルーディが、ラヴィに寄り添い身体を横たえる。
ふかふかの毛皮と高い体温、喉奥からわずかに聞えるぐるるという低音も、全てが心地よくて、眠りに落ちるのはあっという間だった。
――翌朝。
眼が覚めると、ラヴィの熱はすっかり下がっていた。
そして……
「人狼は雪山を走り回って過ごしてるんだ。風邪なんかひいたことないよ」
横で起き上がり、へらへら笑って見せるルーディは、あきらかに不自然な赤い顔をしていた。
「ルーディ、じっとして」
手を伸ばし、往生際が悪い人狼の顔を引き寄せる。額をあわせると、やっぱり熱い。
昨日、あんなことをしたから伝染ったのだ。
「ほら、すごい熱」
「大丈夫だって……」
「ルーディも薬が必要みたいね?」
にっこり笑い、サイドテーブルに乗ったままの薬瓶を指差す。
ルーディは琥珀色の瞳を一瞬丸くし、脳内シュミレーションを完了させたらしい。
「い、いや……俺、苦い薬も平気だから……調合してくる……」
「その状態で薬の調合なんか無理よ」
風邪を引いたことがないということは、あの薬だって自分で使ったことは無いのだろう。
いざその立場に立って、初めてわかる気分を思い知ったようだ。
「ね?貴重な経験じゃない。どうしてこれが、大人にいまいち不評なのか、体験できるでしょ」
「ラヴィ……もしかして、すっごく怒ってる……?」
冷や汗を流して後ずさるルーディが可愛くて、ラヴィは薬瓶を手にもったまま、フフフと笑う。
「――っ!!」
ルーディは熱で赤かった顔を青ざめさせ、再び狼に変身してクルンと丸まってしまった。
ふさふさの尻尾をしっかり後ろ足の合間に挟んでガードし、耳はヘニョンと垂れてしまっている。
強くて頼りがいのある人狼青年は、こういった愛くるしい姿を時たま見せてくれる。
十分満足し、ラヴィは薬瓶を置いて手早く着替えを済ませた。
まだ丸まっている狼の毛皮をそっと撫で、囁く。
「少し待っててね。甘くて美味しいお薬を作ってくるわ」
田舎で暮らしていた頃、屋敷の料理人から教えてもらったものだ。
養母はラヴィの作ったものをすっかり気に入り、風邪を引くといつもこれを作ってくれと頼まれた。
――静かに部屋を出たラヴィは、自分流のとっておきの風邪薬……卵酒を作りに台所に降りていった。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
氷炎の舞踏曲
小桜けい
恋愛
サーフィは北国の秘術で作られ、その性質故に吸血姫と呼ばれる忌み嫌われている。
雇い主の命に寄って彼女を作ったのは、北国の錬金術師ヘルマン。
師である彼は、容姿端麗、頭脳明晰。剣術から家事まで、何をやっても完璧。そのうえ不老不死で、百年以上も生きている、誰も愛さず自身さえも愛さない非道な青年。
それでもただ一人、自分をまともにただの一人の存在と見てくれる彼に、サーフィは想い焦がれるが……
他サイトにも同内容を掲載しております。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる