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番外編

いやいやお薬

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「ぜったい、いやぁぁ!!!!」

 思わず絶叫した拍子に、クラリと眩暈がした。ラヴィはうめいてベッドに倒れ伏す。

「すぐ楽になるから」

 困り顔のルーディを、涙がいっぱいに溜まったアメジストの瞳が睨む。

「だって……っ!」

 真っ赤に火照った顔を濡れタオルで隠そうとしたら、ルーディに取り上げられた。
 ぬるくなってしまったそれを、冷たい水に浸してしぼり、フロッケンベルクで医学と錬金術を学んだ彼は、こともなげに言う。

「そんなに嫌がることないじゃないか。――坐薬くらい」

 
 最近、イスパニラ王都では風邪が大流行していた。
 かかってもそれほど大事にはならないが、流行性が強く2・3日は高熱が出る。
 今朝、ひどい頭痛でラヴィが眼を覚ました時には、ルーディが濡れタオルでせっせと額を冷やしてくれていた。
 華奢な見た目に反し、ラヴィは病気とは無縁なほうで、熱など数年ぶりだ。
 奴隷市場の劣悪環境でさえ、大丈夫だったのに、この風邪はそうとう強力らしい。
 ルーディはとても心配してくれ、熱心に看病してくれた。
 それはありがたいのだが……。

 丸まって布団を頭からかぶり、ラヴィは断固として拒絶の意を示す。
 ルーディが持ってきた、錬金術ギルド特製の風邪薬。
 その使い方を聞き、下着を脱ぐよう言われ、絶叫したわけだ。

――たとえ熱が引いても、心理的ダメージで寝込むこと確実。

「変なことするつもりじゃないぞ」

 布団ごしに、ちょっと拗ねたような声がかけられる。

「わ、わかってるけど……ビックリして……」

「他の国じゃ、あんまり出回ってないからなぁ。フロッケンベルクじゃ、結構よく使……」

 ルーディは少し言葉を切り、言いなおした。

「あー、子どもの熱によく使ってる」

「……わたし、もう大人だもの」

「効き目が高くて副作用もないし、苦いのを我慢する必要もない。ラヴィ、苦いの大嫌いだろ?」

「……」

 おそるおそる片目だけ出し、ルーディを見上げた。
 お尻に薬を入れられるくらいなら、苦い薬を一気飲みするほうがマシ……と、言いたいが、実はどっちも同じくらい嫌だ。
 子ども扱いされても仕方ないと、我ながら思ってしまう。
 大きな手には、油薬の瓶と小さな丸薬が数個、所在なさげに乗っていた。
使用法はともかく、一番効果がある薬を選んでくれたのだろうと、ラヴィだって理解している。

「……じ、自分でするから……貸して」

 精一杯の妥協点として、布団から手を伸ばしたが、首を振られた。

「初めてなら、自分じゃ上手く入れられないだろ?」

「大丈夫だから!……多分」

「いつも全部見てるんだから、今さら気にしなくても……」

「っ!!あ、あれは……」

 いっそう顔を赤くし、ラヴィは再び布団の中に篭城する。

「ああいう時は、違うの!ワケがわからなくなってるし……だから……」

 そのうえ少なくとも、そっちをいじられた事は、まだない。

「ふぅん」

 コツン、と小瓶と薬をサイドテーブルに置く音が聞こえた。続いて、しっかり包まっていた布団が、凄まじく強い力であっさり剥ぎ取られる。

「ルー……んっ!?」

 そのまま唇を塞がれ、いつもよりひんやり感じる舌に口内を貪られる。
 歯列をなぞられ、吸い上げられた舌を甘く噛まれると、吐息の温度がいっそう上がっていく。
 身体が辛くてしかたないが、いつもより多めに息継ぎを与えられながら、肩や背中を優しく撫でられると、次第に甘ったるい感覚が満ちる。
 鼻に抜ける声が漏れ出したところで、ようやく唇を開放された。

「つまり、ワケわかんなくすれば問題ないのか」

 とっても悪い狼が笑顔でのしかかる。

「ちょ、うそっ」

 逃げようとした腰をがっちり抑えられ、また唇を塞がれた。口腔をなぶりながら、ルーディは片手で胸への愛撫を開始する。
 薄い夜着の上から指先で円を描くように突起をなぞられ、硬くとがるよう促される。
 控えめだが敏感な胸が、慣れた動きにたちまち反応を始めた。布上から硬くなった乳首を摘まれ、ヒクンと身体が震えた。

「ん……はぁ……だめ……」

 押し戻そうとルーディの胸に当てた手はまるで力が入らず、シャツを握るのが精一杯だった。
 首筋を舌でなぞられ、止らない胸への刺激に煽られ、全身で息をする。
 発熱で熱く乾燥していた肌が次第に汗ばんでいく。
 熱で潤んでいた視界がさらにぼやけ、目端から熱い涙が零れた。
 薄い長袖の夜着は脱がされず、上から余すところなく撫でられていく。
 やめて欲しいのに、何か足りないようなもどかしい気分が次第に高まる。疼く腰が僅かに浮き沈みし、ぎゅっと閉じた両足をこすりあわせるたび、奥から湿った音が聞こえてしまいそうだ、
 ひざ丈の裾からするりと脚をじかに撫でられると、高い声をあげてしまった。

「あっ!んんっ……やめ……」

「いくら何でも、最後までしないけど……」

 ルーディが困ったように苦笑する。
 壊れ物でも扱うようにラヴィを抱き締め、かすかに上擦った声で囁く。

「早くしないと、俺の理性がもたない」

 片手でラヴィを抱き締め、もう片手で下着だけを器用に剥ぎ取る。
 太ももに手をかけ、大きく開かせたルーディは、足の間に身体を挟み込んだ。
 確認しなくても蕩けきった箇所へ、粘つく音とともに指が一本潜り込んだ。

「ふぁっ!だめぇ……」

「すごく熱い……」

 耳元で淫靡に呟かれた。
 膣奥から蜜を掻きだすように指を動かされ、ラヴィの身体がビクビク痙攣する。枕にしがみつき、背を丸めて下肢から沸く快楽と熱の苦しさに必死で耐える。
 愛液でぬめった指で陰核をこねられ、瞼の裏が赤や白に染まる。卑猥な濡れ音と、自分の荒い呼吸が聴覚を満たし、思考が霞んでいく。

「くぅぅんっ!」

 喰いしばった歯の間から悲鳴が漏れた。
 丸まっていた背を弓なりにそらせ、ラヴィのつまさきがシーツを強く蹴る。
 激しい痙攣が治まりきらぬうちに、身体をうつ伏せにされた。
 狼になったルーディと繋がる時のように、腰だけを高く掲げる姿勢をとらされる。
 ルーディの指がとろけた蜜をすくい、後ろの窄まりにまで伸ばしていく。

「はぁ……ぁ……ぁ」

 風邪の熱とルーディに煽られた熱。茹だった頭が反応しきれず、目を瞑りされるがままになっていた。
 油薬のかわりに愛液のぬめりを借り、小指の先ほどの丸薬が後孔に押し込まれていく。
 つぷん、と自分の身体が一つづつ薬を飲み込んでいくたび、背筋がひきつる。
 シーツを握り締め、身体の中で溶けた薬が吸収されるのと、新たな薬が押し込まれる感覚に、身を震わせていた。

「はい、終わった」

 あっさりと離された腰が、ポフンとシーツに落ちた。

「早く元気になって欲しかったんだけど……無理やりして、ごめん」

 心底すまそうな顔のルーディが、濡れタオルで身体を拭ってくれる。
 ぐったりして言葉を紡ぐ気力もないまま、ラヴィはゆるゆると頭を振った。首を少し傾け、大きな手にほお擦りする。
 ゆっくり髪を撫でられ、眠気とだるさに逆らわず、そのまま目を閉じた。
 薬が効いてきたのだろうか。体中を蝕んでいた寒気が徐々に納まり、じんわりと暖かくなっていく。
 狼に変身したルーディが、ラヴィに寄り添い身体を横たえる。
 ふかふかの毛皮と高い体温、喉奥からわずかに聞えるぐるるという低音も、全てが心地よくて、眠りに落ちるのはあっという間だった。


――翌朝。
 眼が覚めると、ラヴィの熱はすっかり下がっていた。
 そして……

「人狼は雪山を走り回って過ごしてるんだ。風邪なんかひいたことないよ」

 横で起き上がり、へらへら笑って見せるルーディは、あきらかに不自然な赤い顔をしていた。

「ルーディ、じっとして」

 手を伸ばし、往生際が悪い人狼の顔を引き寄せる。額をあわせると、やっぱり熱い。
 昨日、あんなことをしたから伝染ったのだ。

「ほら、すごい熱」

「大丈夫だって……」

「ルーディも薬が必要みたいね?」

 にっこり笑い、サイドテーブルに乗ったままの薬瓶を指差す。
 ルーディは琥珀色の瞳を一瞬丸くし、脳内シュミレーションを完了させたらしい。

「い、いや……俺、苦い薬も平気だから……調合してくる……」

「その状態で薬の調合なんか無理よ」

 風邪を引いたことがないということは、あの薬だって自分で使ったことは無いのだろう。
 いざその立場に立って、初めてわかる気分を思い知ったようだ。

「ね?貴重な経験じゃない。どうしてこれが、大人にいまいち不評なのか、体験できるでしょ」

「ラヴィ……もしかして、すっごく怒ってる……?」

 冷や汗を流して後ずさるルーディが可愛くて、ラヴィは薬瓶を手にもったまま、フフフと笑う。

「――っ!!」

 ルーディは熱で赤かった顔を青ざめさせ、再び狼に変身してクルンと丸まってしまった。
 ふさふさの尻尾をしっかり後ろ足の合間に挟んでガードし、耳はヘニョンと垂れてしまっている。
 強くて頼りがいのある人狼青年は、こういった愛くるしい姿を時たま見せてくれる。
 十分満足し、ラヴィは薬瓶を置いて手早く着替えを済ませた。
 まだ丸まっている狼の毛皮をそっと撫で、囁く。

「少し待っててね。甘くて美味しいお薬を作ってくるわ」

 田舎で暮らしていた頃、屋敷の料理人から教えてもらったものだ。
 養母はラヴィの作ったものをすっかり気に入り、風邪を引くといつもこれを作ってくれと頼まれた。

――静かに部屋を出たラヴィは、自分流のとっておきの風邪薬……卵酒を作りに台所に降りていった。

 
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