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本編
14 満月綺想曲
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ラヴィは今でも犬は苦手だ。狼も怖い。
ルーディだけが特別だから、人狼でも怖くない。
ラヴィの『つがい』の人狼青年は、優しくて強くて頼りがいがあって、見た目まで良い。
ただ……ほんの少し困った部分はあるけれど……
「ルーディ……んっ!」
衣服の上から胸の突起を弄られ、困惑の声は、語尾が妙に跳ね上がってしまった。
「ラヴィは、本当に感じやすいなぁ」
ラヴィを後ろから抱きしめて、ルーディが楽しげに囁く。
からかい混じりのセリフに、頬が一層赤くなったのがわかった。
当たり前の事なのだけれど、こういう風に密着すると、余計にルーディが男性なのだと、ことさら意識してしまう。
もう何度も抱かれているのに、いつまで経ってもこのドキドキだけは消えそうにない。
「ん、ん……こんな所で、どうして……」
夕暮れのキッチンで夕食を作っていたら、いつのまにか後にいたルーディに、突然抱きしめられたのだ。
手に持っていたトマトが落ち、コロコロ流しの中を転がっていく。
「や、ラヴィのケガもすっかり治ったしさ。有言実行をしようかと」
力強い片手でしっかり抱えられ、身体の向きさえ変えられないまま、後から囁かれた。
「有げ……?」
「キッチンでもどこでも、ラヴィがすぐ欲しくなる」
うなじに口づけられ、ゾクリと肌があわ立つ。
「ん!?」
そういえば、確かにそんな事を言っていたが……。
「だ、駄目だって!ふぁぁ!」
慌てて身をよじって逃れようとしたが、ガッチリ押さえる腕は、ピクリとも動かない。
それどころか、また衣服の上から胸を弄られ、腰が砕けそうな声をあげてしまった。
足に力が入らず、両手で目の前の流し台に掴まる。
「っん!ふ……ふぁ……」
背後から回された両手が、衣服の裾から侵入し、胸に直接触れる。
後から無骨な大きい手からは想像もかない繊細な動きで、二つの胸の先端を嬲られる。
ルーディの言うとおり、抱かれる回数を重ねる毎に、ラヴィの身体はどんどんルーディの愛撫に夢中になり、性感帯を開発されている。
たちまち固く尖った乳首を摘んだり軽く引っ張ったりされると、下肢もすぐ潤いだしてくるのを感じた。
「あ、あ、あ……」
くすぐったいような、もどかしい感覚に、腰がくねくね勝手に動き、スカートがそれにあわせて揺れる。
けれど、そちらにはいっさい手を触れられず、ひたすら胸だけを刺激され続けた。
「抱くたびに感度良くなってくみたいだし。そろそろ胸だけでイけるかも」
「ひゃんっ!あ、ああ……そ、そんなの……無理……」
「ふぅん。じゃぁ賭ける?」
「え?」
思わず首をよじって、ルーディを見上げた。
ルーディはなんだか、ものすごーく嬉しそうな顔で、ニヤニヤ笑っている。
「下を触らないでイけたら、俺の言う事何でも聞くってのは?」
こういうタチの悪い笑みを浮べている時の彼は、たいていろくな事を言い出さない。
いつもはすごく優しいくせに、信じられないほど意地悪くなるのだ。
それでも、ラヴィが本当に嫌がる事はしない。そこがまた困った所だった。
どんなに恥ずかしい事を要求されても、結局ラヴィは受け入れてしまうのだから。
「……ヤダ」
「十分の制限時間付きで」
「……ダメ」
「出来なかったら、俺がラヴィのいう事を何でも聞くけど?」
「……」
結局、頷いてしまった。
いくらなんでも、そんなに敏感なわけはないし、ちょっと痛い目を見てもらうのも良いかもしれない。
一週間の禁欲でも言い渡そうと、ラヴィはほくそ笑む。
「ニマニマしちゃって、余裕じゃん」
「あっ」
くるんと身体の向きを変えられ、テーブルの上に押し倒された。
それでもラヴィが頭をぶつけないように、しっかり腕でガードしていてくれた事に気付く。
組み敷かれたままルーディを見上げると、とても愛しそうに口づけられた。
「ん……ふ……」
唇を舌で柔らかくなぞられると、それだけで簡単に解けてしまった。
侵入してきた舌は、ラヴィの一番大好きなやり方をちゃんと心得ていて、上あごの縫い目や歯列を、絶妙な手順で愛撫していく。
卑怯にもほどがあるキスだ。
思考がとろとろに溶けて、硬いテーブルの板も、ここがキッチンなのも、まだ明るい時間なのも、どうでも良くなってくる。
唇を合わせ、甘く舌を絡ませられる感覚に酔っていると、いつのまにかエプロンとブラウスのボタンが全部外されていた。
「っ!?」
「さて、頑張るとしますか」
ニヤリと笑った狼青年の口端から、鋭い犬歯がチラリと覗く。
早まったかもしれない……そう思った時には、もう遅かった。
すでに固く尖っていた乳首をペロリと舐め上げられ、喉が反り返る。
「ぁん!!」
身体の傷はすっかり完治し、痕も普段は殆どわからないが、興奮してくるにつれ、しだいにうっすらと赤い線が斜めに浮かびあげってくる。
乳房の片方にもかかっている線を、なぞるように舐められると、身体が勝手にビクビク引きつる。
頬のもそうだが、傷痕を舐められるのに、ラヴィは弱い。
「ん、ん、ふぁっ!あ、あ……」
コリコリと片方の乳首を指で刺激されながら、もう片方を口に含まれて、思うさま弄ばれる。
熱心に吸い付かれ、指で舌で嬲られ続けた胸の飾りは、真っ赤に熟れきって、じんじんと疼く。
身悶えしても、力強い腕はしっかりラヴィを押さえ込んで、苦しいほど甘ったるい拷問から許してもらえない。
「は……はぁ……ん……」
気持ち良いのに、足りない。ほんの少し足りない。
もっと……もっともっと欲しい!!
中途半端な快楽は飢餓感を深めるだけで、苦しさにポロポロ涙が零れる。
達してしまえば負けなのに、意志と無関係に、最後の一押しを欲しがって腰が揺らめく。
いっそ負けても良いから、楽にして欲しい。
なのに、ルーディはそこには触れてくれない。
チラリと壁時計に視線を走らせると、まだ五分しか経っていなかった。
「ふぁ、あぁ、あ……るーでぃ……っ」
涙声で、暗灰色の髪をかき抱いて喘ぐ。
やりたい放題に胸を弄りまわされ、貪欲な胎内が、ヒクヒクと痙攣を繰り返し始める。
熱い愛液は溢れ出し続け、下着はとっくにグチャグチャになっていた。
背筋がゾクゾク震え、つっぱった両足に力が入る。
「あ、あふっ、あ……ああ!!も……やぁ……おかしくなっちゃ……」
「ラヴィ……」
不意に耳元で囁かれ、カプリと耳朶を甘噛みされた。
焦らされ過ぎていた身体に、不意打ちの刺激は予想以上にこたえた。
「あ、あ――――――っ!!!!」
身体が弓なりに仰け反り、ビクビクと激しく痙攣を繰り返す。
達してしまった事を、これ以上ないほどはっきりルーディに知らせてしまった。
「っ……はぁ、あ……」
「ハハッ、俺の勝ち」
聞き捨てならないセリフに、荒い息もつきながら、反論した。
「だ、だって!あんなの卑怯……胸だけって……」
「へぇ?俺は『下を触らないで』って言っただけだけど?」
しれっと言い返され、スカートのうえからそこを軽く指でなぞられた。
「ふぁぁぁ!!!」
すでにぐちゃぐちゃになっていた蜜壷には、それだけでも強烈な刺激になった。
「ラヴィ、すごく可愛い」
かすれた声が耳元で囁く。そのまま、さっさとスカートを捲られてしまった。
下着の横から指が侵入し、ぐちゅぐちゅ淫猥な音が響く。
「あ、あああああああ!!」
今度は率直過ぎるほど与えられる快楽に、簡単に屈してしまう。
しがみついたシャツの背に爪を立てながら、身体を弓なりにそらせて快楽に上り詰めた。
「ひ……ぁ……あああ……」
身体の奥が、ひくひく蠢いている。
ここまで来たら、もうラヴィも終われない。
「あ、あ……ん……」
半脱ぎの衣服がまとわりつく身体で、されるがままうつ伏せにテーブルへ上体を押し付けられる。
灼熱の塊が押し付けられたと思った次の瞬間、一気に奥まで貫かれていた。
「ひぁあああん!!」
悲鳴にも似た嬌声が上がる。背骨が限界まで反り、必死に天板へ爪をたてた。
狭い蜜道をギチギチと押し広げられても、狂いそうなほど焦らされ続けていた身体は、少しも痛みを感じない。
やっと求めていたものが与えられた事に、ただ夢中で喜び、快楽に溺れる。
「あっ!は、ああっ!」
腰を掴まれ、揺さぶられると、あっという間にまた昇りつめる。
何度も何度も瞼の裏に火花が散り、神経が焼ききれそうなほど快楽に浸けられる。
口端から唾液が垂れ、強すぎる快楽に涙が零れ落ちて、真っ赤になった頬に伝っていく。とてもみっともない顔のはずだ。
「や……ああっ!!あ、あっ!!」
テーブルに突っ伏して、両腕で身体を支えながら顔も隠していると、腰を掴んでいた手が、上へ回った。
「きゃっ!?あああ!」
繋がったまま上体を引き起こされ、その拍子に、いっそう奥まで突き入れられ、また達した。
「ひぅっ!あ……あ……はぁ」
「ラヴィ……俺の事、どう思ってるか言って」
「はぁ、はぁ……え?」
「何でもいう事聞いてくれるって賭け。俺の勝ちだろ?」
だから……と、背後から強く抱きしめられ、耳元に囁かれる。
「俺が好きだって……言って」
ルーディの表情は見えなかったけど、とても切ない声音だった。
「あ……」
ルーディが大好きに決まっている。
世界の誰よりも愛してる。
それがラヴィの中で、もう当たり前すぎていて、気付かなかった。
彼に愛され通じ合っていても、考えてみれば、まだ一度もちゃんと言葉に出して言った事がなかったのだ。
「ルーディ……好き……」
あらためて口にするには、なんだか気恥ずかしかったが、首を精一杯後に向け、はっきり告げる。
「愛してる……私のつがいは、世界中でルーディだけよ」
その時見たルーディの顔を、ラヴィは一生忘れない。
今にも泣きだしそうなクシャクシャの笑顔で、ラヴィを抱きしめてキスした。
「んっ!んんっ!」
唇を重ねながら、器用にラヴィの身体は反転させられ、再びテーブルの上に横たわる。
「っは……あ、ああああっ!!」
激しく腰を突き入れられ、仰け反りながらルーディにしがみつく。
「ああっ!す……すき……あいしてる……ふぁっ……るーでぃっ好きぃっ!」
一度溢れ出した言葉が止らない。
言うたびに、心臓の奥に暖かいものがこみ上げてきて、必死で訴える。
あの時、本当に死んでも良いと思ったけれど、今は二人で生きたいと思う。
二人でなくては駄目なのだ。どちらが欠けてもいけない。
ラヴィはもう、ルーディなしでは生きていけないし、ルーディもラヴィなしでは生きていけない。
たとえ身体は生きていても、心が死んでしまうだろう。
これが自惚れじゃない事を、もう互いに知っている。
「ラヴィ……俺も……愛してる」
狼の凶暴性と人の優しさを合わせ持った琥珀の瞳が、ラヴィの心も身体も貫く。
世界でたった一人の愛しいつがい。人間にも狼にも人狼の中にも、他には誰も該当者はいない。ルーディだけだ。
愛してる。愛してる。愛してる!!
抱きしめ、抱きしめられ、喘いで貫かれ、注ぎこまれ、荒い息をつきながら口づけを交わし、照れながら笑いあう。
激しすぎる情交の名残で、ラヴィの手足はフルフル震えていたが、まだ料理の途中だった事をやっと思い出した。
しかし、その身体はルーディに軽々抱きかかえられ、寝室に運ばれてしまう。
「ルーディっ、まだお料理の途中で……」
ラヴィをベッドに降ろし、ルーディが苦笑した。
「その身体じゃ、無理だろ。あとで俺が何か作るよ」
「あとで……?」
不穏な空気を感じ、ゴクリとラヴィは息をのむ。
「もう一回。いや、あと二回くらい抱いた後で」
「ええ!!」
「俺はまだ足りない。もっとラヴィを食べたくて仕方ない」
とびきりニコニコ顔の狼青年が、じゃれつきながらおねだりを開始する。
「…………ぅ」
「ラーヴィ?」
「……ん」
なんてタチの悪い狼に掴まってしまったんだろう。
ラヴィの心へとびきり優しく噛み付いて、残さず貪りつくして飲み込んでしまった。
****
季節は流れ、冬が来た。
白銀の雪に覆われたフロッケンベルクの森を、ルーディは四足で駆け抜ける。
針葉樹林の間にあるはずの街道は、深い積雪に覆われて、どこが道なのかも判別できない。
これから雪解けの季節まで、フロッケンベルクの王都はこの雪に閉ざされるのだ。
しかし、厚い毛皮に覆われた身体は、吹雪の寒さにも耐えられ、身軽な獣の脚は積雪に沈む事も無い。
時折、雪の森で獲物を見つけて腹を満たしながら、なつかしいフロッケンベルク王都へ向かってひた走る。
一ヶ月はラヴィの元に帰れないだろうが、彼女は件の老婦人の元へ、身を寄せている。
老婦人は今、イスパニラ王都の閑静な住宅街に住んでおり、今後もそこで暮らすそうだ。
驚いた事に、彼女はラヴィから、ルーディが人狼だと打ち明けられても、反対しなかったそうだ。
『私だって、若い頃はロマンスの一つもありましたよ。貴女が選んだのでしたら、それが一番です』
平然と、そう言ったらしい。
針葉樹の森の奥から、狼達の遠吠えが響いてきた。
人狼ではない、ただの狼だ。
それでもルーディの血は高鳴り、歩みを止めて一緒に月へ向かって吼える。
今は遠い地で暮らす住む同族達も、この月を見て吼えているだろう。
バーグレイ紹介の調査により、ヴァリオが一族のために手に入れた土地の事がわかった。
そこに住んでいるのは、もはや本当に数少ない最後の人狼たちだ。
ルーディは彼らの元へ、鎮静剤の調合法を記した紙を匿名で送った。必要な薬草は、あの土地でならごくありふれた野草だし、分量さえ間違わねば、調合もそう難しくない。
それを使うかどうかは、彼等自身が決める事だ。
今日の夜空はよく晴れ渡っていて、雪化粧をした針葉樹たちの向こうには、神々しい満月が輝いている。
こんな月を見るたび、あの時の夢を思い出す。
満月の夜には、鎮静剤を飲んでいても変身して走り回らねば治まらない。
ヴァリオの言うとおり、狼の血はそう簡単には屈しないのだろう。
いつの日かルーディとラヴィの子孫たちは、こんな満月の夜に、同族へ出会うのかもしれない。
その頃には血はひどく薄まって、変身すらおぼつかなくなるかもしれない。祖先が人狼だなど、知りもしないかもしれない。
けれどきっと、この大きな満月の下で、狼のコーラスを聞けば、血のたぎりは呼び覚まされる。
狼たちの歌う、満月綺想曲は、どんなに時がたっても変わらないのだから。
ルーディだけが特別だから、人狼でも怖くない。
ラヴィの『つがい』の人狼青年は、優しくて強くて頼りがいがあって、見た目まで良い。
ただ……ほんの少し困った部分はあるけれど……
「ルーディ……んっ!」
衣服の上から胸の突起を弄られ、困惑の声は、語尾が妙に跳ね上がってしまった。
「ラヴィは、本当に感じやすいなぁ」
ラヴィを後ろから抱きしめて、ルーディが楽しげに囁く。
からかい混じりのセリフに、頬が一層赤くなったのがわかった。
当たり前の事なのだけれど、こういう風に密着すると、余計にルーディが男性なのだと、ことさら意識してしまう。
もう何度も抱かれているのに、いつまで経ってもこのドキドキだけは消えそうにない。
「ん、ん……こんな所で、どうして……」
夕暮れのキッチンで夕食を作っていたら、いつのまにか後にいたルーディに、突然抱きしめられたのだ。
手に持っていたトマトが落ち、コロコロ流しの中を転がっていく。
「や、ラヴィのケガもすっかり治ったしさ。有言実行をしようかと」
力強い片手でしっかり抱えられ、身体の向きさえ変えられないまま、後から囁かれた。
「有げ……?」
「キッチンでもどこでも、ラヴィがすぐ欲しくなる」
うなじに口づけられ、ゾクリと肌があわ立つ。
「ん!?」
そういえば、確かにそんな事を言っていたが……。
「だ、駄目だって!ふぁぁ!」
慌てて身をよじって逃れようとしたが、ガッチリ押さえる腕は、ピクリとも動かない。
それどころか、また衣服の上から胸を弄られ、腰が砕けそうな声をあげてしまった。
足に力が入らず、両手で目の前の流し台に掴まる。
「っん!ふ……ふぁ……」
背後から回された両手が、衣服の裾から侵入し、胸に直接触れる。
後から無骨な大きい手からは想像もかない繊細な動きで、二つの胸の先端を嬲られる。
ルーディの言うとおり、抱かれる回数を重ねる毎に、ラヴィの身体はどんどんルーディの愛撫に夢中になり、性感帯を開発されている。
たちまち固く尖った乳首を摘んだり軽く引っ張ったりされると、下肢もすぐ潤いだしてくるのを感じた。
「あ、あ、あ……」
くすぐったいような、もどかしい感覚に、腰がくねくね勝手に動き、スカートがそれにあわせて揺れる。
けれど、そちらにはいっさい手を触れられず、ひたすら胸だけを刺激され続けた。
「抱くたびに感度良くなってくみたいだし。そろそろ胸だけでイけるかも」
「ひゃんっ!あ、ああ……そ、そんなの……無理……」
「ふぅん。じゃぁ賭ける?」
「え?」
思わず首をよじって、ルーディを見上げた。
ルーディはなんだか、ものすごーく嬉しそうな顔で、ニヤニヤ笑っている。
「下を触らないでイけたら、俺の言う事何でも聞くってのは?」
こういうタチの悪い笑みを浮べている時の彼は、たいていろくな事を言い出さない。
いつもはすごく優しいくせに、信じられないほど意地悪くなるのだ。
それでも、ラヴィが本当に嫌がる事はしない。そこがまた困った所だった。
どんなに恥ずかしい事を要求されても、結局ラヴィは受け入れてしまうのだから。
「……ヤダ」
「十分の制限時間付きで」
「……ダメ」
「出来なかったら、俺がラヴィのいう事を何でも聞くけど?」
「……」
結局、頷いてしまった。
いくらなんでも、そんなに敏感なわけはないし、ちょっと痛い目を見てもらうのも良いかもしれない。
一週間の禁欲でも言い渡そうと、ラヴィはほくそ笑む。
「ニマニマしちゃって、余裕じゃん」
「あっ」
くるんと身体の向きを変えられ、テーブルの上に押し倒された。
それでもラヴィが頭をぶつけないように、しっかり腕でガードしていてくれた事に気付く。
組み敷かれたままルーディを見上げると、とても愛しそうに口づけられた。
「ん……ふ……」
唇を舌で柔らかくなぞられると、それだけで簡単に解けてしまった。
侵入してきた舌は、ラヴィの一番大好きなやり方をちゃんと心得ていて、上あごの縫い目や歯列を、絶妙な手順で愛撫していく。
卑怯にもほどがあるキスだ。
思考がとろとろに溶けて、硬いテーブルの板も、ここがキッチンなのも、まだ明るい時間なのも、どうでも良くなってくる。
唇を合わせ、甘く舌を絡ませられる感覚に酔っていると、いつのまにかエプロンとブラウスのボタンが全部外されていた。
「っ!?」
「さて、頑張るとしますか」
ニヤリと笑った狼青年の口端から、鋭い犬歯がチラリと覗く。
早まったかもしれない……そう思った時には、もう遅かった。
すでに固く尖っていた乳首をペロリと舐め上げられ、喉が反り返る。
「ぁん!!」
身体の傷はすっかり完治し、痕も普段は殆どわからないが、興奮してくるにつれ、しだいにうっすらと赤い線が斜めに浮かびあげってくる。
乳房の片方にもかかっている線を、なぞるように舐められると、身体が勝手にビクビク引きつる。
頬のもそうだが、傷痕を舐められるのに、ラヴィは弱い。
「ん、ん、ふぁっ!あ、あ……」
コリコリと片方の乳首を指で刺激されながら、もう片方を口に含まれて、思うさま弄ばれる。
熱心に吸い付かれ、指で舌で嬲られ続けた胸の飾りは、真っ赤に熟れきって、じんじんと疼く。
身悶えしても、力強い腕はしっかりラヴィを押さえ込んで、苦しいほど甘ったるい拷問から許してもらえない。
「は……はぁ……ん……」
気持ち良いのに、足りない。ほんの少し足りない。
もっと……もっともっと欲しい!!
中途半端な快楽は飢餓感を深めるだけで、苦しさにポロポロ涙が零れる。
達してしまえば負けなのに、意志と無関係に、最後の一押しを欲しがって腰が揺らめく。
いっそ負けても良いから、楽にして欲しい。
なのに、ルーディはそこには触れてくれない。
チラリと壁時計に視線を走らせると、まだ五分しか経っていなかった。
「ふぁ、あぁ、あ……るーでぃ……っ」
涙声で、暗灰色の髪をかき抱いて喘ぐ。
やりたい放題に胸を弄りまわされ、貪欲な胎内が、ヒクヒクと痙攣を繰り返し始める。
熱い愛液は溢れ出し続け、下着はとっくにグチャグチャになっていた。
背筋がゾクゾク震え、つっぱった両足に力が入る。
「あ、あふっ、あ……ああ!!も……やぁ……おかしくなっちゃ……」
「ラヴィ……」
不意に耳元で囁かれ、カプリと耳朶を甘噛みされた。
焦らされ過ぎていた身体に、不意打ちの刺激は予想以上にこたえた。
「あ、あ――――――っ!!!!」
身体が弓なりに仰け反り、ビクビクと激しく痙攣を繰り返す。
達してしまった事を、これ以上ないほどはっきりルーディに知らせてしまった。
「っ……はぁ、あ……」
「ハハッ、俺の勝ち」
聞き捨てならないセリフに、荒い息もつきながら、反論した。
「だ、だって!あんなの卑怯……胸だけって……」
「へぇ?俺は『下を触らないで』って言っただけだけど?」
しれっと言い返され、スカートのうえからそこを軽く指でなぞられた。
「ふぁぁぁ!!!」
すでにぐちゃぐちゃになっていた蜜壷には、それだけでも強烈な刺激になった。
「ラヴィ、すごく可愛い」
かすれた声が耳元で囁く。そのまま、さっさとスカートを捲られてしまった。
下着の横から指が侵入し、ぐちゅぐちゅ淫猥な音が響く。
「あ、あああああああ!!」
今度は率直過ぎるほど与えられる快楽に、簡単に屈してしまう。
しがみついたシャツの背に爪を立てながら、身体を弓なりにそらせて快楽に上り詰めた。
「ひ……ぁ……あああ……」
身体の奥が、ひくひく蠢いている。
ここまで来たら、もうラヴィも終われない。
「あ、あ……ん……」
半脱ぎの衣服がまとわりつく身体で、されるがままうつ伏せにテーブルへ上体を押し付けられる。
灼熱の塊が押し付けられたと思った次の瞬間、一気に奥まで貫かれていた。
「ひぁあああん!!」
悲鳴にも似た嬌声が上がる。背骨が限界まで反り、必死に天板へ爪をたてた。
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やっと求めていたものが与えられた事に、ただ夢中で喜び、快楽に溺れる。
「あっ!は、ああっ!」
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何度も何度も瞼の裏に火花が散り、神経が焼ききれそうなほど快楽に浸けられる。
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「や……ああっ!!あ、あっ!!」
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「きゃっ!?あああ!」
繋がったまま上体を引き起こされ、その拍子に、いっそう奥まで突き入れられ、また達した。
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「はぁ、はぁ……え?」
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だから……と、背後から強く抱きしめられ、耳元に囁かれる。
「俺が好きだって……言って」
ルーディの表情は見えなかったけど、とても切ない声音だった。
「あ……」
ルーディが大好きに決まっている。
世界の誰よりも愛してる。
それがラヴィの中で、もう当たり前すぎていて、気付かなかった。
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「ルーディ……好き……」
あらためて口にするには、なんだか気恥ずかしかったが、首を精一杯後に向け、はっきり告げる。
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「んっ!んんっ!」
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「っは……あ、ああああっ!!」
激しく腰を突き入れられ、仰け反りながらルーディにしがみつく。
「ああっ!す……すき……あいしてる……ふぁっ……るーでぃっ好きぃっ!」
一度溢れ出した言葉が止らない。
言うたびに、心臓の奥に暖かいものがこみ上げてきて、必死で訴える。
あの時、本当に死んでも良いと思ったけれど、今は二人で生きたいと思う。
二人でなくては駄目なのだ。どちらが欠けてもいけない。
ラヴィはもう、ルーディなしでは生きていけないし、ルーディもラヴィなしでは生きていけない。
たとえ身体は生きていても、心が死んでしまうだろう。
これが自惚れじゃない事を、もう互いに知っている。
「ラヴィ……俺も……愛してる」
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愛してる。愛してる。愛してる!!
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「ラーヴィ?」
「……ん」
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****
季節は流れ、冬が来た。
白銀の雪に覆われたフロッケンベルクの森を、ルーディは四足で駆け抜ける。
針葉樹林の間にあるはずの街道は、深い積雪に覆われて、どこが道なのかも判別できない。
これから雪解けの季節まで、フロッケンベルクの王都はこの雪に閉ざされるのだ。
しかし、厚い毛皮に覆われた身体は、吹雪の寒さにも耐えられ、身軽な獣の脚は積雪に沈む事も無い。
時折、雪の森で獲物を見つけて腹を満たしながら、なつかしいフロッケンベルク王都へ向かってひた走る。
一ヶ月はラヴィの元に帰れないだろうが、彼女は件の老婦人の元へ、身を寄せている。
老婦人は今、イスパニラ王都の閑静な住宅街に住んでおり、今後もそこで暮らすそうだ。
驚いた事に、彼女はラヴィから、ルーディが人狼だと打ち明けられても、反対しなかったそうだ。
『私だって、若い頃はロマンスの一つもありましたよ。貴女が選んだのでしたら、それが一番です』
平然と、そう言ったらしい。
針葉樹の森の奥から、狼達の遠吠えが響いてきた。
人狼ではない、ただの狼だ。
それでもルーディの血は高鳴り、歩みを止めて一緒に月へ向かって吼える。
今は遠い地で暮らす住む同族達も、この月を見て吼えているだろう。
バーグレイ紹介の調査により、ヴァリオが一族のために手に入れた土地の事がわかった。
そこに住んでいるのは、もはや本当に数少ない最後の人狼たちだ。
ルーディは彼らの元へ、鎮静剤の調合法を記した紙を匿名で送った。必要な薬草は、あの土地でならごくありふれた野草だし、分量さえ間違わねば、調合もそう難しくない。
それを使うかどうかは、彼等自身が決める事だ。
今日の夜空はよく晴れ渡っていて、雪化粧をした針葉樹たちの向こうには、神々しい満月が輝いている。
こんな月を見るたび、あの時の夢を思い出す。
満月の夜には、鎮静剤を飲んでいても変身して走り回らねば治まらない。
ヴァリオの言うとおり、狼の血はそう簡単には屈しないのだろう。
いつの日かルーディとラヴィの子孫たちは、こんな満月の夜に、同族へ出会うのかもしれない。
その頃には血はひどく薄まって、変身すらおぼつかなくなるかもしれない。祖先が人狼だなど、知りもしないかもしれない。
けれどきっと、この大きな満月の下で、狼のコーラスを聞けば、血のたぎりは呼び覚まされる。
狼たちの歌う、満月綺想曲は、どんなに時がたっても変わらないのだから。
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