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16 結婚式3
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混乱の空気は次第に大きくなっていく。
「ど、どうして……」
エステルもすっかり訳が解らず狼狽えて、大司教と猫になったアルベルトを交互に眺めた。
どう見ても、今の宣言で正式に婚姻は済んだことになる。
それなのに、なぜアルベルトはまだ子猫になってしまったのだろう?
「静まれ!」
不意に国王が立ちあがり、張りのある声が響いた。
祭壇近くの高座に立つ国王は、私室であった時の気さくで柔和な雰囲気とは違い、一刻の王たる堂々とした威厳を見せている。
「此度の件については、王室で入念な調査を行い、後日正式に結果を公表する」
そして国王の視線がチラリとアルベルトに向いた。
「アルベルト、それで異論はないな?」
「はい、陛下。このような場で無様に取り乱してしまい、誠に申し訳ございません」
子猫のアルベルトが、ペコリと頭を下げる。
その仕草はとてつもなく可愛らしく、客席の方からほぅっと感嘆の息が聞えてきたくらいだったが、エステルはそれにうっとりする余裕はなかった。
(私、何か失敗していたのかしら……?)
例えば、誓いの言葉を述べる際に、例え本心からの愛の誓いでなくても気合が足りなかったとか……。
オロオロとするエステルを尻目に、アルベルトは既に気を取り直したらしい。
子猫ながら威厳たっぷりに周囲を見渡し、口を開く。
「皆にも騒がせてしまったことを詫びる。だが、私にのみ見える赤い糸は確かに彼女に繋がれており、なぜ呪いが解けなかったのかは、陛下の指示通り、慎重に調査をしたいと思う」
静かになった式堂にその声はよく響き、招待客たちは顔を見合わせ頷きあっていた。
呪いが解けなかったことについて、当人のアルベルトが誰よりも衝撃を受けていたのは、先ほどの悲鳴からも一目瞭然である。
その上で国王父子から、冷静に今後についてを説明されれば、これ以上は騒げまい。
騒ぎが収まったのを見て、国王が再び口を開いた。
「残念ながらこのような結果にはなったが、王太子が妃を迎えたのは事実である。祝いの席は予定通りに開くので、皆も楽しんでくれ。賑やかに祝い、災厄を吹き飛ばそう」
ニコリと微笑んで国王が最後の台詞を言い終えると、式堂全体から拍手が沸き上がった。
割れんばかりの拍手の中、エステルはピンと尻尾を立てて歩くアルベルトについて、そそくさと式堂をでる。
「あれしきで取り乱すなど……私は王族として、まだまだだな」
扉をしめてもまだ中から聞こえる拍手を聞きながら、ボソリとアルベルトがそう呟いた。
「殿下……」
「そなたも驚かせて申し訳ない。だが、なぜ呪いが解けなかったのかどうしてもわからないのだ」
悲しそうにそう言ったアルベルトの猫耳は、シュンと垂れてしまっている。
そして彼はおずおずとエステルを見上げた。
「すまないが、急いで移動したい。私の執務室まで抱えて連れて行ってくれるだろうか?」
「えっ! は、はい! 勿論させて頂きます!」
式堂での堂々とした振る舞いから一転して、アルベルトはまだ動揺から立ち直れていない様子だ。
勿論、気の毒だとは思うのだけれど、大粒の瞳を潤ませてこちらを見上げる子猫の彼は、卒倒しそうなほどに可愛らしい。
こんな風にお願いされたら、大抵のことはしてしまいそうだ。
「さ、どうぞ」
動きにくい婚礼衣装に苦労しながら、エステルは屈んでアルベルトを抱き上げる。
(気持ちいいっっ‼)
この世のどんな素材も叶わないのではと思う程に心地よい、ふわふわした金色の毛並みに肌をくすぐられる。
しかし、残念ながらその心地よさをゆっくり味わう暇はない。
エスエルはションボリ顔で押し黙っているアルベルトを慎重に抱え、彼の私室へと急いだ。
「ど、どうして……」
エステルもすっかり訳が解らず狼狽えて、大司教と猫になったアルベルトを交互に眺めた。
どう見ても、今の宣言で正式に婚姻は済んだことになる。
それなのに、なぜアルベルトはまだ子猫になってしまったのだろう?
「静まれ!」
不意に国王が立ちあがり、張りのある声が響いた。
祭壇近くの高座に立つ国王は、私室であった時の気さくで柔和な雰囲気とは違い、一刻の王たる堂々とした威厳を見せている。
「此度の件については、王室で入念な調査を行い、後日正式に結果を公表する」
そして国王の視線がチラリとアルベルトに向いた。
「アルベルト、それで異論はないな?」
「はい、陛下。このような場で無様に取り乱してしまい、誠に申し訳ございません」
子猫のアルベルトが、ペコリと頭を下げる。
その仕草はとてつもなく可愛らしく、客席の方からほぅっと感嘆の息が聞えてきたくらいだったが、エステルはそれにうっとりする余裕はなかった。
(私、何か失敗していたのかしら……?)
例えば、誓いの言葉を述べる際に、例え本心からの愛の誓いでなくても気合が足りなかったとか……。
オロオロとするエステルを尻目に、アルベルトは既に気を取り直したらしい。
子猫ながら威厳たっぷりに周囲を見渡し、口を開く。
「皆にも騒がせてしまったことを詫びる。だが、私にのみ見える赤い糸は確かに彼女に繋がれており、なぜ呪いが解けなかったのかは、陛下の指示通り、慎重に調査をしたいと思う」
静かになった式堂にその声はよく響き、招待客たちは顔を見合わせ頷きあっていた。
呪いが解けなかったことについて、当人のアルベルトが誰よりも衝撃を受けていたのは、先ほどの悲鳴からも一目瞭然である。
その上で国王父子から、冷静に今後についてを説明されれば、これ以上は騒げまい。
騒ぎが収まったのを見て、国王が再び口を開いた。
「残念ながらこのような結果にはなったが、王太子が妃を迎えたのは事実である。祝いの席は予定通りに開くので、皆も楽しんでくれ。賑やかに祝い、災厄を吹き飛ばそう」
ニコリと微笑んで国王が最後の台詞を言い終えると、式堂全体から拍手が沸き上がった。
割れんばかりの拍手の中、エステルはピンと尻尾を立てて歩くアルベルトについて、そそくさと式堂をでる。
「あれしきで取り乱すなど……私は王族として、まだまだだな」
扉をしめてもまだ中から聞こえる拍手を聞きながら、ボソリとアルベルトがそう呟いた。
「殿下……」
「そなたも驚かせて申し訳ない。だが、なぜ呪いが解けなかったのかどうしてもわからないのだ」
悲しそうにそう言ったアルベルトの猫耳は、シュンと垂れてしまっている。
そして彼はおずおずとエステルを見上げた。
「すまないが、急いで移動したい。私の執務室まで抱えて連れて行ってくれるだろうか?」
「えっ! は、はい! 勿論させて頂きます!」
式堂での堂々とした振る舞いから一転して、アルベルトはまだ動揺から立ち直れていない様子だ。
勿論、気の毒だとは思うのだけれど、大粒の瞳を潤ませてこちらを見上げる子猫の彼は、卒倒しそうなほどに可愛らしい。
こんな風にお願いされたら、大抵のことはしてしまいそうだ。
「さ、どうぞ」
動きにくい婚礼衣装に苦労しながら、エステルは屈んでアルベルトを抱き上げる。
(気持ちいいっっ‼)
この世のどんな素材も叶わないのではと思う程に心地よい、ふわふわした金色の毛並みに肌をくすぐられる。
しかし、残念ながらその心地よさをゆっくり味わう暇はない。
エスエルはションボリ顔で押し黙っているアルベルトを慎重に抱え、彼の私室へと急いだ。
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