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玉生のリ・ハウス
玉生のリ・ハウス 2
しおりを挟むそれからそう待たず黒のミニバンで傍野がやって来て、スムーズにUターンをしてから柵の手前で停車した。
その車体を興味津々に眺めて「あー、このサイズなら色々持ち歩けていいな。免許取ったら欲しいな」「自分は軽トラの方が希望なんすけど、こうやって見ると迷うっすね」などと言っているアウトドアな二人に、寿尚はやれやれという目を向けている。
そのミニバンの運転席から、目が合った玉生に「よっ」と手を上げて挨拶した傍野は、揃えた指でちょいちょいと扉をスライドさせる様な動きで、ドアを引いて開けるように合図をしてきた。
それを見た駆が「あ、オレが開けるな」と意外と丁寧な手付きでドアをスライドさせると、後部だけでもシートが六席ある広い車内が現れる。
しかし、寿尚はあえて助手席のドアをコンコンと軽くノックした。
「今日はお世話になります。傍野さんにお尋ねしたい事もありますので、俺は助手席で構いませんか?」
肩をすくめて助手席のロックを解除する傍野を見て、空気を読んだ翠星が、玉生を誘って後部座席二段目のシートに乗り込んだ。
傍野がどの程度の事を知っているのかは不明だが、寿尚が彼に尋ねるのは例の家についてだろうから、詠は間違いなく会話に参加するだろう。
好奇心の強い駆も黙って聞き手に回るかというと怪しい。
この場合、その二人を前列にした方が話がスムーズにいくだろう。
翠星も当然その内容には興味があるが、彼や玉生はどちらかというと聞き手に回るほうが気楽なタイプだ。
第一、個人の意見が必要な時でもなければ、一人をこの人数で問い詰めるのも却って非効率だろう。
「この前の傍野さんのキャラバンは、座席が高くて外見るのが面白かったんだよ。今回の車は乗りやすくってシートがフカフカだし、すごいね!」
「こっちは依頼人を万全に運べる様に選んだヤツで、リクライニングでベッドにもなるからさ。登らないと乗れないキャラバンと比べて車体も低いから、お客さんには評判いいね」
挨拶のタイミングがつかめないでそわそわしていた玉生が、座席に着いたその座り心地の良さについ隣にいる翠星に興奮気味に語っていると、運転席からバックミラー越しに傍野が笑う。
それにわたわたとして「あ、あの、今日はわざわざお手伝い、ありがとうございます。その、よろしくお願いします!」と慌てる玉生に、傍野はひらひらと手を振って答えてからエンジンを掛けた。
そして静かに車をスタートさせる様子を見ながら、奇妙な話題なだけにどう切り出そうかと考えている寿尚に、傍野の方が直球で話を振ってくる。
「やあ、日尾野君。君たちも一緒だから大丈夫だとは思っていたけど、すぐに入居と決断したという事は問題なく“受け入れられる”んだな?」
「……それは、問題があるのが分かっていて自分は立ち会わずに、たまをあの家に送り出したという自白なんですか?」
「いや、俺はまだその許可があやふやでね。ペナルティーがなかなか容赦ないから、君たちを当てにしていたんだが――やっぱりそう思うよなあ」
あえて直球で返した寿尚にそう言って苦笑した傍野は、「そうだな」と改めて口を開いた。
「俺も実は、そう詳しいわけでもなくてね。それに、どう説明しても胡散臭い話になるから躊躇するというか、うん」
「その感じでは緊急性も危険性もないのでしょうが、知らない事で不利益を被る可能性は無視できません」
「とにかく言うだけ言えば、判断はこちらがする」
背後の席から詠にも情報を請求され、「そうだね。君たちの場合、知っていたら上手く活用はできるだろうなあ」とまだ少し躊躇っていた傍野だが、玉生が彼なりに気を遣って「ブラウニーがいるんですよね?」と口にしたのに力が抜けたらしい。
「気付かなかったらそれで済むという事もあるだろうし、宿命的なものに巻き込まれるにしても知らなければそれを引き延ばせるかもしれないと、俺とかは思ってたんだが、最悪なパターンもないわけではないんだろうなあ。だよなあ」
「思わせ振りだな。言霊を恐れるなら言葉を選べ」
「ああ、そっちの心配もあった」
ガリガリと頭を掻いた傍野は一度大きく息を吐くと、車を停車させた。
「それに、どうやら話が済むまで“ここ”から出してもらえないらしい」
「あ、やっぱり。いつまでも公道に出ないと思ったのは、気のせいじゃなかったんだな」
買い出しでこの道を通った駆の言葉を聞いた玉生も、昨日みんなでバス停から歩いた時の方が、はじめて傍野の車で来た時より屋敷までの道が短く感じたのを思い出した。
「そういう規模で事象を操る存在だと?」
詠が声を低めて確認をすると、「ああ、いや。どう言うのが正解なのか……」と顎に手を掛けて視線を上に向けた傍野は一つ頷いて、手のひらを彼らの方へ向けた。
「君たちは問題なく一晩過ごしているところを見ても、もう条件をクリアできていると思うが俺はちょっと微妙なんだ。迂闊な発言をした場合、悪影響を及ぼすと判定されたら、その関連の記憶だけ上手い具合に消去される可能性がある」
「記憶を弄れる存在って……明らかにそれは危険なのでは?」
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