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玉生ホーム探検隊
玉生ホーム探検隊 6
しおりを挟むそうしているうちにカレーは手早く完成して後は食べる寸前まで寝かせようとなり、炊飯器のスイッチも忘れないうちにタイマーをセットすると、後はその間に寝床を探すべしとリビングに進んで探検を再開する事になった。
「ここにもソファーか。でもこっちはテレビ受信機付きのモニターと録画機器に立体音響装置まであるし、絨毯とか敷かれてクッションとかごろ寝しろと言わんばかり――あっちは来客向けで、こっちは身内用のリビングだな」
好奇心のまま真っ先に進む駆は電気機器も一通りチェックして、「ここのラックには色々なジャンルの作品があるぞ。画面も大きいから見応えあるだろうし、娯楽作品も多いし後で見ような」とご機嫌に玉生を誘った。
映画は玉生にとって贅沢な出費になるので友人たちは当然のように奢りで誘うのだが、前売り券だと申し訳なさそうにするので、実は手を回して「タダで貰ったから」と招待券を手に入れて誘う様にしている。
しかし『これは玉生が好きそうだ』という作品が続くと、「一人で映画館というのも」という口実ではさすがに本人も不審に思うだろうし、趣味でもない作品では時間を拘束するだけという結果になってしまうので、その匙加減が難しいのだ。
その点、録画機器で見るなら途中で席を立つのも自由なので、例えハズレ映画でも仲間内でワイワイと突っ込みを入れながら鑑賞するという楽しみ方もありだろう。
そんなアメニティのために用意されたと思しきリビングは、家具を一つの部屋の中に配置して土間との間にある靴箱が直線的な視線を遮っているだけの大きな空間の一部でもある。
おまけにダイニングの床との境目すらも曖昧で、強いて言うなら間にあるキャビネットがその役割に当たるだろう。
そして、箪笥の背側が壁代わりに並んだ向こうにもさらに部屋は続いて、もう一つの部屋という形に近い空間があるのだ。
ただし部屋とはいっても、リビングとの間を壁として仕切っているのが天井までの高さがあるとはいえ収納系の家具なので、正確には広いリビングの中間に屏風か衝立のように家具を配置して、その隅っこを個室っぽくレイアウトしているだけとも言えるのだが。
それに広さでごまかされてしまいそうだが、ソファーのあるリビング部分までの中二階がある場所の天井は高いが、このベッドのある仮の個室はせいぜい二m三十cmあるかどうかというところなのだ。
つまり、中二階からつながる二階はこの上にあると推測できるのである。
「まあ、この部屋で生活するのはアレだけど、具合いが悪い時にはいいかもね」
お腹に乗せたちいたまが熟睡しているからか大人しい茶トラをいい事に、ずっと連れて歩いている寿尚が達観したように言うと、「ああ、保健室的な。昼寝が捗るな」と駆が妙に納得している。
「……水の気配がするから、多分こっちに浴室と手洗いがあるはずだぜ」
屋内の壁の造りを見回していた翠星がそう言ってベッドのある方向とは逆の壁側に向かって進むと、短い廊下の両側に扉があった。
裏玄関と居室の間にある"きちんと囲まれた”部屋であり、廊下と隔てる壁になっているのはこの場所だ。
“日”か“B”の文字の形に当て嵌めて、三本線の真ん中を廊下に見立てると分かりやすいだろうか。
翠星はその右側の扉を開いて足を踏み入れると、「洗濯機もあって結構広い浴室だ。洗面所と脱衣場も湯船と分かれてるから出掛ける時間が被る時とかいいな」とタイルに反響する声で知らせて来た。
そして、トコトコとやって来た詠は左側の扉を覗くと「厠だった」と言ってパタリと閉じた。
「お? こっちの廊下進むと左の扉はキッチンとつながってるんだが……あ~、さっきは全く気付かなかったぞ」
リビングの右側を確認に行った翠星とは反対の、モニターと壁代わりの箪笥の間を進んで行った駆が声を上げて知らせてきた。
水場に気を取られていた玉生たちがそちらへ向かうとその先は普通の廊下で、位置的に向こうはキッチンだろうという左の壁に、二つ並んだ窪みの中にそれぞれ扉があった。
この辺りには天窓は無いが、足元のセンサーライトと角の向こうからカーテン越しのぼんやりとした光がかろうじて届くので、照明を灯さないでも歩くのに不自由はない。
ちなみに扉部分が窪んでいるのは、扉が手前側に開くので通行人とぶつかるのを防ぐ対策と、すれ違う時の安全地帯なのだと後に生活するようになってから玉生は気付いたのだった。
閑話休題。
まず駆が手前の扉を開けるとさっきのキッチンの奥に出たらしいのだが、こちら側では窪んでいる分はあちら側では飛び出して、戸棚などとキレイな並びになっていたので周囲の壁に馴染んでいたため気が付かなかった様だ。
「こっちはタイルで、スリッパと洗面台にまた扉――って」
もう一つの扉を開き、薄暗い中でタイルの床をそこにあるゴム素材のスリッパを引っ掛けて覗き込んだ駆が「ああ、御手洗」と拍子抜けした様子でアナウンスしつつ今度は見逃しのない様に辺りを確認する。
その時パチンと音がして明るくなり、目をシパシパさせる駆に向かって「電気点ければいいだろ」と呆れた目付きで詠が壁のスイッチに指を掛けていた。
それに苦笑して、「だな。なんか気分は山川口探検隊の秘境探検になってたかもしれん」とゴムでハーフアップにしていたうねる天然の髪を一つに括り、気を取り直してから駆は探検を再開した。
そしてふと何気なく右手で壁に触れるとレバーの取っ手に当たり、偶然にもさっきは気付かなかった玄関のホール側に続く扉があるのを発見したのだった。
位置関係で考えれば、おそらくこのお手洗いの向こうは壁を隔てて、中二階への階段部分になるだろう。
「そこが玄関につながっているなら、その先は温室の縁側になるはずだね」
寿尚の指摘に「うん、ぐる~って回って来たから……」と記憶を思い出すように、玉生が空中に指で通り道を辿ってみると、たしかにそんな構造になると思われた。
「そうするとこの廊下を進めば、さっきの縁側のあった和室の廊下になるよね」
その予想通りに、右へ曲がるとたしかに見覚えのあるカウチソファーの置かれた廊下に出た。
一同はようやく目的の、少し開いた障子の隙間から覗く畳の部屋と、それに続く温室の縁側に戻って来たのだった。
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