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いらっしゃいませジャングルへ
いらっしゃいませジャングルへ 7
しおりを挟む「しかし、いつの間にか翠星まで視界から消えてるんだけど?」
タオルの海でごろごろうごうごしているちいたまに目尻を下げながら卵サンドを食べていた寿尚は、一息吐いてからふと気付くと想定内の駆はともかく翠星まで姿が見えないのに気が付いた。
すると、モソモソとスープでカツサンドを流し込んでいる詠が「奥側から三見塚が声をかけていたが」と、今さらの目撃情報を口にするので、「いや、そこで止めなよ」と寿尚ともあろうものが思わず素でツッコミを入れてしまった。
「きっとお昼休みくらいの感覚なんだよ。もう少し待てば戻って来るんじゃない、かな?」
二人をフォローする玉生は、自分で選んで買って来たサンドセットなのに半分も食べられずにもう限界だった。
情報を教えてくれたバイト先の同僚はたしかに「学生向けでボリューム満点だぜ」と言っていたが、自分の分だけでも単品にするんだったと少し後悔してしまうのだった。
そんな会話をする頃には、寿尚もすっかりいつものペースに戻っていた。
「縁側と猫、至福だね」
縁側に腰を下ろした寿尚が、またうとうとしてもう目が開けないらしいちいたまを緩く撫でていると、デザートのフルーツサンドまで食べ終わった詠がゴミをまとめながら、先ほどから視線を向けていた家の材質に興味があるらしくじっくりと観察しだした。
夢中になると寝食を忘れるタイプではあるが玉生のように少食というわけでもなく、運動神経が鈍いというわけでもないらしい詠は、案外と周りが思うよりも学者としてはアウトドアタイプであるのかもしれない。
「この枠は木目だけど、木目サッシか樹脂サッシ? 玄関の吹き抜けといい、玉生の叔父はこだわり派」
マイペースに家のチェックを続ける詠の言葉に、興味を掻き立てられた玉生もスニーカーを脱いで縁側に上がった。
詠の隣から覗き込み、何気なくサッシに右手を掛けると……
「あ、開いた」
玉生がそのままサッシを右に押し開くと、微かにカララ……と音を立てて開いていく。
「ちょっとたま、そこから入ったら玄関の方が後回しになって締まらないだろう。どうせのんびりペースになっているんだから、そこは内側からぐるっと順に回ろう」
小さくピクピクと動くちいたまの耳の先に気を取られながらも、しっかりとこちらに釘を刺してくる寿尚にビクッとなった玉生は、チラリと見えた畳にたしかにここに入ると動くのが億劫になりそうな危険性に「だね、はーい」と踏み出した足を戻した。
詠の方は相変わらずマイペースに今度はサッシの作りに気が行っているようだ。
「引き分け? いや、外側も動くから引き違い――あ! 戸袋があるから引き込み戸だ」
見れば左側のサッシが全て消えていて「ここ」と詠の示す場所に収納されているらしいのが分かるのだった。
縁側の向こうは正面だけに4枚の障子が並んでいて、床に敷かれた畳はそこのわずかに開いた隙間から見えているのだ。
「あ、この部分が小さい障子になっているって事は、これがそこだけ開くという猫間障子」
「猫ってにゃんこ?」
確かに指差す先は障子の桟が二重になっている部分があって、内側の枠だけスライドできそうだ。
「そう、にゃんこの間。なるほど、雪見障子のガラス部分の小障子を左右にって実際はこうか」
ふんふん頷きながら「ちなみに開いた所から猫が出入りするとか」と由来の情報も追加した。
「ハハ、ちいたま用の出入り口付きとは気が利いてるね」
機嫌良さ気な寿尚に「このヒトその障子の部屋に常駐しそう」と詠はやれやれといった感じだったが、『そうしてくれると、いつでもすぐ会いに来れるから寂しくなくていいな』と玉生は小さく微笑んだ。
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