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いらっしゃいませジャングルへ
いらっしゃいませジャングルへ 5
しおりを挟む今の寒い季節、食事をするのはやはり屋根の下の方がいいに決まっていると、家に入る流れになったのは当然の事だろう。
傍野に渡された家の鍵束は、玄関の鍵に使われているキーリングと扉のシリンダーが同じ材質の様で分かりやすかったのだが、緊張のあまりそれを鍵穴に差し込むのに少々手間取った家主の姿はご愛嬌だった。
そうやって玉生がぎこちなくも両開きのどっしりとした木造の玄関扉を片側だけ押すと、それは予想よりもスムーズに開いていく。
その先は玄関と言うよりエントランスと呼びたくなる様な吹き抜けで、大きな天窓からは採光がふんだんに取り入れられた、とても開放的な空間だった。
その白い空間に向かい、ほぼ左の壁一面を占める不透明なガラス越しに溢れるガーデンルームからの光と緑の色彩が、まるでスクリーンの映像に入り込んだかの様に玄関ホールを彩っているのだった。
もう片側の扉を押し開けた駆も芸術家としての魂をつかまれた様で、扉を抑える手もそのままに瞬きもせずに見入っている。
開いた扉の間からは、自然を愛する翠星や知的好奇心の強い詠も目を細めて小春日和を形にした様な光景に目を奪われていた。
「……ぅわー」
「外も相当だけど、中もすっごいなー」
思わず声がもれた自分の口がポカンと開いているのに、この一帯の主になった玉生はしばらく気が付いていなかった。
うみゅぅ……
そんな玉生の隣で、感嘆の声を上げた寿尚も鮮やかな視界に意識を奪われかけていたのを、ちいたまから漏れた鳴き声で我に返る。
手元を見るとおそらくまだハッキリと物の見えていないクリンとした黒い瞳の子猫が小さな口を開けて寿尚を見上げていた。
そしてその目線の先に、子猫と似た表情で開いたままの口を見付けて苦笑し、掌に乗せたちいたまの小さな手を借りると唇を挟んでそっと閉じてやる。
そのぷにぷにとした柔らかい肉球の感触で白日夢じみた感覚から覚めた玉生は、何度か瞬きをし自分が入り口を塞いでいたのに気付くと慌てて室内へと足を踏み入れた。
それを合図に動きの止まっていたほかの三人も、ハッとして我に返ると家の内側へと歩を進めるのだった。
そこでやはり緑の光の先が気になった玉生がそこに近寄ってよく見ると、そのガラスは百九十cmに僅かに足りない駆が手を伸ばしても指先が触れない高さに枠があり、そこが扉になって出入りできる作りになっていた。
何の素材でできているのかは不明だが、曇りひとつないドアノブのレバーを玉生がそっと押し下げてみると、ガッチャっという音と共に内側に扉が開いた。
その流れで内側を覗き込もうとした玉生を、しかし寿尚の空いた方の手が素早く引き戻す。
「たまはちょっと待て。この中を見たいならまずはこの体力バカに様子見させてからにしな」
「え!? でも……」
「この男のいざという時の瞬発力は、以前に暴走運転の自動二輪から君と僕を両脇に抱えて避けた事からも証明済み」
戸惑う玉生に、詠も同意見だと寿尚に賛成した。
家の中という事から危険性という方向に頭が回らなかった玉生がワタワタとしている間に、寿尚の「GO!」に従って「おう!」と躊躇いも見せずに扉に手を掛ける犬気質の駆である。
そんな彼には、直立したラブラドールレトリーバーという異名があるのもむべなるかな。
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