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ぼくは帰って来た男 9
勇君は時々スキップしている
しおりを挟むどうも地元では美玖が行方不明の間、彼女の父親が「娘は家出した」と断言していたそうで、それを間に受けて「親もそう言ってるし」という判断になっているのかも知れない。
警察が聞き込みに回ったのも、大雑把に話を聞いた父親が「未成年者略取じゃないのか」と物申した結果だという可能性が高いそうだ。
娘を思う父親なら当然の行動の様にも思えるが、実際にはその娘と会いに来るどころか電話一つも寄越そうとしない父親なのである。
歳三などは「ずっと『あのお気楽な娘は、高校行くのが面倒で家出したんだろう』なんて言っていたから、そうじゃない理由があるのはメンツが潰された気になるんでしょうね」と呆れた様子だった。
なお歳三がその父親を放置状態なのは、行方不明が判明した当初に「義務教育が終わったから、大人になったつもりで家出でもしたんだろう」と言い出したので、彼女が「適当なコト、言わないで」と返した事で意固地になった様にその説を曲げなくなった事もある。
どうも妻や娘といった立場にある者が、自分に対して反抗的で従順じゃないのが馬鹿にされていると感じ我慢ならないタイプらしいと、結婚してから判明したそうだ。
そんな彼の所業は、その後も来見家込みで少しクセのある子供たちと交流しているサインを、誘拐犯呼ばわりしたも同然である。
美玖は自分が「家出娘」と言われる事では怒らなかったが、「先輩相手にもやらかしそうで怖いから、一生顔を合わせる機会が無いといいんだけど」と彼女にしては陰鬱に呟き、取りようによっては父親を見限った様子だ。
実のところ彼女は、周囲が思うより父親の「未成年者略取」発言に腹を立てているらしい。
そんな基本的にのほほんとした美玖の珍しい姿を見た勇者は、『こんな時にはクルミさんの面影あるなぁ』としみじみしたのだった。
そして思い返してみれば、「まじめ~」とか揶揄う同級生だかがいると美玖本人からチラリと聞いた覚えがある。
学園生活をエンジョイしそうなあの美玖が、改めて高校に入学しようとしないのも、その感じの悪い元クラスメートが無関係ではないと見るのは穿ちすぎだろうか?
そんなわけで今さら「家出オンナ」などと話題にする理由としては、最近その相手がどこかで美玖を見掛けたのではないかと思ったのだ。
しかも貶めたい様な印象があるとなると、羨むような理由が――「あ!」思い当たった勇の口から思わずそんな声が出た。
「どーした? ゆー」
「今日は用事があるから、そろそろ帰らないとダメだった」
「あー、そういえばおれっちもいそいで帰らないと、ハンディモンとくばん間にあわないや」
「じゃ、今日はもうかいさーん。バイバイまたあしたー」
集団の中でもせっかちな小僧が音頭を取ると、一斉に「バイバーイ」とコールして三々五々に別れて行く。
適当に誤魔化せた勇も、予定より少し早いがみんなに手を振って待ち合わせの場所に向かって駆け出した。
最近は動きが身体に慣れてきて、意識しないとうっかりスピードを上げてしまうので気を付けているのだが、意識しすぎて時々スキップになってしまうのはご愛嬌である。
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