ぼくは帰って来た男

東坂臨里

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ぼくは帰って来た男 6

お高い水晶玉の記憶

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 ゆうは呑気に「占いの玉だから中になんにもないけど、ほんとーはビー玉みたいにいろいろ入ってるのがいいのにな」などと言っている。
おそらく占術師が「泡も傷も無いクリアな玉はすっごくお高いのよ」と、手に入れた水晶を勇者に自慢した記憶からの知識だろう。
こうやって勇者の記憶を咄嗟に引き出せるなら、やはり余程の事がなければ本人の判断に任せても問題は無いだろう。
なおその保険としてエリクサーだけは、次元倉庫のどこに仕舞われているのかをこっそりと確認済みでもある。

「この石は空になったけど、ひかりにあてたり地面にうめたりしたらなにか変わるかな?」
「ああ、一通り試してみたけどね、結局は空の魔石を属性の強そうな場所に置いただけでは何の変化も無かったんだよね」
「こっちでは、溜まりにくいんだろうとは思ってたけど……空の石に少し力入れたら自然にその属性が誘導されるとかは?」
「それがね、それを試すのに放置したら石が空になっていたよ。向こうと比べて大気に力は乏しい様なんだ」
「っていうと、勇君の力が溜まるのが遅いっていう現象は……」
「それは身体が適応して、自己回復した分が増えてるだけだろう。通常、新陳代謝に使える程のエネルギーしか吸収できるものではないよ」

 それまで「クルミ時代はなぜこれに対抗できたのか」とビビっていたというのに、研究心を刺激されれば当時の学者馬鹿さが甦る様だ。
しかしそんな彼らの話を聞いていると、『チカラうんとためても使うコトってあるかなぁ?』と勇などは思うのだが。
なので「魔法陣の術が発動する程の力って集まる……?」と悩んでいる彼女に、「ミクお姉ちゃん、今はそんなに大きなマホーっていらないでしょお?」と六歳児は諭してしまうのだった。
勇者の方も多少は、『ただでさえ勘が戻ってないのに、不足分は工夫がいるな』という考えがあったので、その指摘には思わず苦笑いだ。
確かに向こうで必要とされた大規模な術を基準で考えたら、力を使った後の微々たる回復量は大問題になったが、温度を保ったり重量を軽減したりという程度の術にそう大した力は必要としない。

「とにかく水分が蒸発する様に、力も大気に吸い出されるのは確認したから。迂闊に物を出したまま、放置しない事だよ」

 そういう段階を乗り越えたらしきサインにそんなアドバイスをされ、美玖みくは疑問に思った事をスルーできなかったらしい。

「ず、随分とこちらに馴染んでいるご様子で。もしかしてあの後、帰還の陣を……?」

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