ぼくは帰って来た男

東坂臨里

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ぼくは帰って来た男 6

ビー玉の小山と水晶玉

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「ボクもまずはこちらで何か変化するかと、空の魔石を出して観察してみたんだけどね?」
「それ! ゆう君に力の戻りが遅いって聞いて自分で実行する勇気がまだ無かったんですけど、それで少しは反応とかありました?!」

 さっきまではビクビクしていた美玖みくだが、気になっていた話題なだけにクルミ時代の研究者気質が顔を出す。
『こういうところだよなあ』と勇者は思い、美玖がこのままサインの助手として扱き使われる未来を幻視してしまった。
六歳児の方は「そっかあ、使って空になった石でも実験に使えるんだもんね」とマイペースである。

 そこで、この車にも外からは覗き込めない術が掛かっているだろうと確信している勇は、次元倉庫から地の属性の魔石を取り出した。
小さすぎて攻撃に使えないために、次元倉庫に放り込まれたままで山になっているのだが、手慰み程度に使うには問題無いだろう。
これだけ小さい石なら多少制御を誤っても、結界を張るなりしてすぐに対応できる分、慣れるまでは重宝するに違いない。
 まずは中を空にするのと力を使ってみるのと一石二鳥という事で、想像しやすいビー玉をイメージして集中する。
ガラスの元も地面の下から産出されるので理屈上いけると、右手に握った魔石の力をガラス球に変えて左の手のひらへと出現させてみた。
しかし思ったよりもザラッと勢い良くガラス玉が出るのに、「わわっ」と慌てて魔石からそちらへと意識が向く。
手のひらから零れそうなガラスに向けた意識は、咄嗟の反応でその小山を一つの大きな玉に変質させてしまったのだった。

「あ、静かだと思ったら、勇君ってば実験してたんだ。地の魔石で鉱物作るのはいい考え……って、コレって水晶?!」
「途中まではガラス玉だったけど、最後に数を抑えようとして『配分間違えた』と思ったんじゃないかい? そこで変換された様だね」

 美玖が横から覗き込んで驚くのに、サインはバックミラーでは無く気配で流れが分かったらしい。

「ビー玉だといっぱい出たから、占いの人の大きい玉ならいっぱい力使うかなって思ったんだもん」
「なるほど。実際に見て記憶にあれば、鉱物なんて単純な物なら咄嗟にでも反応できるんだね」

 もうすっかり大技がデフォルトで、そういう戦闘の役に立たない術とは関わる機会が無かった勇者の方も、『なるほど』と感心した。
勇の“占いの人の大きい玉”というのも、あちらで王室占術師が媒体として使用していた物だろうとの見当が付く。
それと術に関しては、咄嗟に勇者の意思で零れそうなのビー玉を停止させたので、おそらく中の勇者と本体の勇はそれぞれが別のアプローチで、同時に術を起動できる。
ただ、今はまだ不確定要素が多いので、安易に試すべきではないだろう。
何といっても未発達な六歳児の脳の限界で、勇者の知識は理解できない事も多く、その疑問を分かり易く噛み砕いて伝えている状態だ。
つまり感覚的に通じ合っている勇者の方は、リアルタイムに進む勇に関わる事は常に見守っているのだが、六歳児にとって勇者の異世界での経験は幼児期の不確かな記憶の様に朧気なものでしかないのである。
決して全てを忘れたわけではないが、裏の事情や暗黙の了解など六歳児には複雑な難解部分は、意識を素通りしているのだ。
 身体も六歳児本人に動きを任せているが、その気になればこちらが強引に主導権を奪えなくもない程には、互換してはいる。
ただ中の本人にその気は無く、余程の必要が無ければ自分の意志で自由に身体を動かす気は無いので、膝を擦り剥く程度は甘んじて受けるままなのだ。
 
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