ぼくは帰って来た男

東坂臨里

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ぼくは帰って来た男 6

年相応とは

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 自分たちの状況を見るに、肉体が若返るという事は精神も確実に影響される点も大いに関わっているだろう。

 美玖みくが「あっちとこっちとで人生六十年位? いい加減に私も年相応に落ち着かないと」などと抜かした時は、勇者ジャッジで六歳児が突っ込んだ。
小学校を卒業してさらに六年通っても、中学高校の六年には匹敵しないので、どちらも学校に十二年通ったには違いないが一緒では無い。
普通の大人でも幼稚園に通い、周りの園児と共に園児の扱いを受け続ければ、むしろ言動は子供染みてくるのではないか。
人は基本的に年相応に扱われないと、年相応に育ってそれを保つのは難しいだろう。
そして現在の美玖はどう見ても、変わった知識を持っただけの年相応の十五歳である。
六歳児フィルターを掛けてその様な内容を物申された美玖は、「未熟者が大口叩きました」と案の定、言い負かされたのだった。

 しかしその後はむしろリラックスして、母親にも甘えたりしている様なので、美玖にとってその見解は正解だったのだろう。

 そもそもクルミとして生きる上での選択は、基本部分に美玖としての情報が絶対的に不足していた。
それだけで美玖本人の判断として認められるかというと、それは実に疑わしいものだろう。
しかもクルミとは、おそらくは美玖が無意識に母の人格を模倣した姿である。
つまり母親なら選びそうな選択肢を無意識に選び続けた結果、母親の分身が育ったと言えるのではなかろうか。
 美玖本人の実感としても、最後の記憶が神社で、気付いたら神社に戻っていたという感じでしかないだろう。
本人の記憶不在の召喚は、今はせいぜい長い映画を大画面で、感情移入して観ていた感が強そうだ。
クルミの記憶から来る感情の影響などは、いつか思い返した美玖が消化して後、これから先の問題だろう。


 そんな美玖に比べたら、ゆうの方は父親の危険回避をした成功体験もあって、物怖じしない六歳児である。
しかも勇者の頃は、同時にいくつも判断しないと間に合わないというギリギリの戦闘をこなすうちに、並行思考も身に着けた。
おそらくそのおかげで六歳児の中には、常に状況を見守る勇者の意識が並行して存在できているのだろう。

 その勇者の意識は、この問題のある兄弟子がこちらに来るのを、実は予想していた。
しかし、「あっちにおうちがあるのに」と思う六歳児や、「師匠も引退してもう完全に先輩の天下、残ろうなんて過ちを起こさないで正解だった~」と自分を褒め讃えた美玖は、そうではなかった。
クルミでさえ、金には困らず好きに生きる地位もある上に、勇者関係の問題も解決してこれからは完全に無敵時間だと思ったから、多少の心配はあっても召喚についての研究結果を任せた位だ。

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