ぼくは帰って来た男

東坂臨里

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ぼくは帰って来た男 4

使いたいときに使いたい

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 正直、美玖みくとしては神隠しの一年があったとしても、こうしてゆうに再開していなければ「長い夢だった」で終わっていたかもしれないとさえ思う。

「え~? でも使いたいときになっても使えないと、がっかりしちゃうよ?」

 そんな日和見な美玖は、「車とかぶつかって来たら大変でしょ!」と六歳児に正論をぶつけられた。

「確かに、できると思っていた事が、いざ必要とした時にできないと、折れちゃう……」
「でしょー? できるのとできないのも分かんないと、どうしていいかも分かんないもん」
「うあーっ、正論すぎる」

 美玖は、痛恨! といった感じでクッションを抱えたままゴロンとなった。
その姿を勇者は、六歳児の中から生温い視線を向けている。
『それにあのヒトは来る……いや、もう来てるかも? それでそのうち巻き込まれるに違いない』
でも、いつ来るか分からないっていうのも恐怖だから、本人が気付くまで黙っていよう、と口にしなかった。
こっちの世界に繋がる召喚陣研究の成果を、あのヒトが手にした結果なんて、その可能性にクルミは気付いていなかった筈も無いのに。
美玖の事だから、『わざわざ自分の世界からこっち来ないよねー』とか浅はかにも楽観視しているのかもしれないが。
しかし、実際にやって来た場合、六歳児はともかく美玖は放置してもらえるのかどうか。


「ん、とね“いろいろライト”」

 とりあえず勇は、できる事を美玖に見せたらいいかな、と思って光る玉を出した。
図画の時間に水彩絵の具で色を混ぜて、虹の七つの色を作ったのでそれを真似たのだ。

「赤いろと青いろで、むらさき。で、青いろに黒であいいろ。つぎは青いろ。で、緑いろは青いろと黄いろ――」

 その後、さらに黄色・黄色に赤・赤と七色の光の玉を頭上に浮かせて、満足そうに笑った。

「うわぁ……勇君ってば、すっっっごいよっ」

 途中から目を見開いていた美玖が、部屋の中をぐるぐると回って七色に照らす光に感嘆の声を上げた。

「あとは、コップにお水出せるし、りんごジュースにできたよ。でも、火はあぶないから実験してないの」
「ふぁ~、そっかー。私も何か練習した方がいいかな? いや、この場合覚えている事をメモるのが鉄板?」
「あ、でもねぇ、少ないからもうちょっとって、いっぱい力いれたらあぶないんだよ?」
「えっ、勇君ってば、何か危ない術とか使っちゃったりしたの?!」
「お部屋の中で水がどぱ~って。あったかい風でがんばってかわかしたんだもん」
「あ~、日常では地味に困るやつぅ~」

 そんな、あちらの世界に比べたら脱力しそうな会話をしつつ、美玖も少しやる気が出てきた。
おそらくは、六歳児の中の人の発した危険信号を受け取ったせいではないと思われるが……


 ただ、人それを虫の知らせと言う。



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